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イーグルスマンスリーコラム

イーグルスマンスリーコラム

イーグルスマンスリーコラム第1回

村上晃一

日本一への階段を駆け上がるキヤノンイーグルスにとって、大切なシーズンが始まる。初昇格の2012年度が11位、昨年度は7位、いよいよ4位以内に入り、優勝を争うプレーオフトーナメントの舞台に立つときだ。昨季までヘッドコーチだったアンディ・フレンド氏はサントリーに移ったが、永友洋司監督を軸にした指導方針は変わらない。目指すのは、日本一であり、スピーディーに攻める「アタッキング・ラグビー」である。

昨季のイーグルスは日本一になる過程で必要な苦しみを味わった。昨年の開幕前、本コラムにイーグルスのプレースタイルについて書いたことがある。趣旨は次のようなものだった。「キヤノンのプレーは、ラグビーが球技であることを再認識させた。ファンが外から見ていて感じる通りにパスを回す攻撃的ラグビーだから、イーグルスは多くのファンの支持を得たのだ」。初昇格のシーズンはたしかにそうだった。だが、2年目は少しばかり様子が違っていた。

昨季、初めて採用された「2ステージ制」は、各チームの底力をより強調する結果になった。2ステージ制とは、参加16チームを2つに分け、実力を均等分けしたファーストステージ(1S)と、その上位、下位に分かれるセカンドステージで戦うシステムである。そして、上位4チームがプレーオフトーナメントに進む。イーグルスは、1stステージでパナソニックワイルドナイツを下し、東芝ブレイブルーパスと2点差の接戦を繰り広げるなど健闘して4位に入った。しかし、上位陣が集う2ndステージの「グループA」では、初戦のNECグリーンロケッツに勝ったのみで、その後6連敗。身も心も力尽きた感があった。当然、華麗な攻撃スタイルは影を潜めた。一方で、優勝したパナソニックや東芝は、シーズンの深まりとともにチーム力を上げた。

永友監督は「ピーキングを計算できるチームではなかった」と認める。トップリーグ初昇格時に入社2年目でキャプテンになった和田拓はじめ、2年目、3年目の若い選手を中心に戦ってきたチームには、足りないものがあったのだ。「勢いだけでは突き破れない壁にぶつかった。ここを一気に乗り越えるには相当な努力と覚悟がいりますが、もう一つ、『経験』という我々に足りないものが必要でした」。

小野澤宏時(前サントリー)、菊谷崇(前トヨタ自動車)を迎えた理由である。日本代表で長らく活躍し、トップリーグが発足した2003年から戦い続けてきた2人の経験は何ものにも代え難い。常に張りつめた緊張の中で戦ってきた若手選手達は、2人から試合に対する準備、オンとオフの切り替えなどを学ぶだろう。

小野澤選手、菊谷選手

長いシーズンを戦い抜くには選手層の厚さも不可欠だ。その点、今季の新加入選手は頼もしい。開幕前の最後の対外試合となったNTTコミュニケーションズとの一戦には、先発メンバーに4名の新戦力が名を連ねていた。197㎝の長身LO宇佐美和彦、運動量豊富なFL嶋田直人の立命館大コンビ、ハードタックラーのCTB藤近紘二郎(早稲田大)らのルーキーに、ベテランNO8菊谷崇である。リザーブ(控え)メンバーには、法政大卒のWTB森谷直貴、新外国人選手カール・ロウ、マイケル・ボンドの名前もあった。

オープンサイドFLのカール・ロウは、ニュージーランドの州代表ホークスベイで10年間プレーし、100試合以上に出場したハードワーカー。スーパーラグビーのハリケーンズでもプレーした。CTBマイケル・ボンドは、21歳までオーストラリアのラグビーリーグ(13人制ラグビー)でプロとしてプレー、その後、15人制に転向。フランスのクラブなどでプレー後、日本にやってきた。爆発的な突進力があり、試合の流れを変えるインパクトプレーヤーとして期待される。 この他、宇佐美、藤近らと同じく20歳以下日本代表でプレーしたHO庭井祐輔(立命館大学)、LO芦谷勇帆(早稲田大学)もいる。庭井は、174㎝、98㎏とさほど大きなサイズではないが、ベンチプレスで175㎏というチームで一番の重さを差し上げる怪力の持ち主。永友監督が大学時代から惚れ込んだ逸材だ。ベテランと若手のバランスがとれ、選手層も厚くなったことで永友監督のチーム作りにも少し余裕が出てきそうだ。

トップリーグのデータ分析を担当する「データ・スタジアム」が集計した数字で気になることがあった。イーグルスは、昨季のトップリーグでペナルティーゴール(PG)を決められた数が「31」と極端に多いのだ。これは、リーグ平均の「18.9」を大きく上回っている。自陣でディフェンスをしているときに反則をしてしまっているのである。もちろん、わざと反則をしているわけではない。なんとか食い止めようとボール争奪戦に激しく突っ込み、「勢い余って」オフサイドになってしまうようなものがほとんどだ。

今季、イーグルスが再び輝きを取り戻すために必要なのは、規律(ディシプリン)を守って反則を減らすこと、そして、スピーディーな攻撃的ラグビーというチームカラーを鮮明にすることだろう。肉体改造が進み、個人技も優れた選手が揃ってくる段階で、多くのチームが特色を失う。選手の質は上がっているはずなのに勝てなくなる時がある。安定した力を発揮する強豪チームは、そうした過程を経て一言で表せる特色を持つに至る。チーム名を聞いただけで、イメージできる「何か」は、日本一になるために必要なものなのだ。

8月22日に開幕するトップリーグ1stステージ、イーグルスは、プールBに入る。サントリーサンゴリアス、神戸製鋼コベルコスティーラーズ、トヨタ自動車ヴェルブリッツら実力派が揃い、4位入りは簡単ではない。特にイーグルスは開幕からの3連戦が厳しい日程だ。

8月24日(日)対トヨタ自動車、8月30日(土)対リコー、9月5日(金曜日)対サントリー。曜日から分かるように、中5日ずつしかない。この3戦をどう乗り切るかが、その後の成績を左右する。しかし、これは日本一になるための試練である。全力で楽しむべきだ。さあ、思い切ったアタッキング・ラグビーで活路を切り開こう。


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村上晃一

◎プロフィール

ラグビージャーナリスト。京都府立鴨沂高校→大阪体育大学。現役時代のポジションは、CTB/FB。86年度西日本学生代表として東西対抗に出場。87年4月ベースボール・マガジン社入社、ラグビーマガジン編集部に勤務。90年6月より97年2月まで同誌編集長。出版局を経て98年6月退社し、フリーランスの編集者、記者として活動。ラグビーマガジン、ナンバー(文藝春秋)などにラグビーについて寄稿。J SPORTSのラグビー解説も98年より継続中。99年、03年、07年、11年のワールドカップでは現地よりコメンテーターを務めた。著書に、「ラグビー愛好日記トークライブ集」(ベースボール・マガジン社)3巻、「仲間を信じて」(岩波ジュニア新書)などがある。

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