このページは2012年以前の情報です。最新シーズンの情報はこちらでご覧いただけます。

キヤノン イーグルス 公式サイト|スタッフレポート

選手インタビュー

一覧に戻る

選手インタビュー vol.14 アルベルト・ヴァンデンベルグ2010年4月30日

キヤノン ラグビー フットボール クラブ 選手インタビュー
vol.14 アルベルト・ヴァンデンベルグ(Albert Van Den Berg)『学ぶことに貪欲な良いチーム』


◆自己紹介

――ファンの皆さんに自己紹介をお願いします

南アフリカからきた、アルベルト・ヴァンデンベルグです。シャークスで10年間プレーしていました。誕生日は1974年1月26日、今年36歳になりました。生まれたところは南アフリカのフープスタッドという小さな町です。

――自分のプレーの特徴はどんなところですか?

アルベルト・ヴァンデンベルグ選手

背が高いのでラインアウトで活かせることと、背があまり高くない選手に対してもアドバンテージがあります。それと体重も重く、スクラムで押すことが出来ます。あと、運動量に自信があります。2007年のスーパー14のチーフス戦で、ノーサイドまで2分というところで2点差で勝っていたんです。そこで相手チームのウィングに走られた時に、私が追いかけてゴールラインの10m手前でタックルしました。その時、スクラムのすぐ後だったのですが、その状況で「スクラムを頑張ったし、自分の仕事ではないから他の人に任せよう」と思って止まっていたら、それで終わっていたと思います。そういう状況の中でも、私は最後の最後まで頑張れます。

――最後まで頑張れるということは、普段の練習から意識しているのですか?

もちろん練習でも、試合でも意識しています。その他に意識していることは、自分がボールを持っていない時に何が出来るかということです。選手の中には、自分がボールを持っている時だけ本領を発揮したいという選手がいると思いますが、自分がボールを持っていない時にどれだけ仕事が出来るかというところが大事だと思います。

――いつ頃からそのような考え方になったのですか?

競争心が非常に強い子どもでした。遊びでゴルフをやっていても絶対に勝ちたいですし(笑)、やはり受身であってはいけないです。自分から積極的に取り組んでいかなければいけないと思っています。

――子どもの頃から足は速かったのですか?

足も速かったのですが、体も同学年の子どもたちと比べて大きかったので、一緒に遊ぶ時はいじめっ子のような感じになっていました(笑)。

――負けず嫌いの子どもだったのですね

負けず嫌いですけど、負けを認められる負けず嫌いです。ベストを尽くせたと思えれば、負けを認めます。

◆シャークス

――シャークスでは何年間プレーされたのですか?

10年間プレーしました。ずっとロックでした。

――シャークスの前はどこでプレーしていたのですか?

南アフリカのカリーカップに所属しているグリーコランドウェストというチームで4年間プレーしていました。その前は、高校を卒業して、イースコという鉄鋼関係の工場で働いていました。

アルベルト・ヴァンデンベルグ選手

その働いている時に、バルトライアングルというチームで3年間プレーしていました。南アフリカでは1996年から初めてプロ制度が出来て、その時にグリーコランドウェストからオファーがあり、移籍しました。そこでのプレーが認められ、1999年にスプリングボクス(南アフリカ代表の愛称)に選ばれました。そして、代表でのプレーを見たシャークスからオファーがありました。

――シャークスでの練習環境はどうでしたか?

世界でも有数の優れた施設があります。メディカルやプール、ジムなどすべてがクラブハウスにあります。シャークスは全員がプロ選手なので、午前と午後に練習をしていました。ただプロ制度が整ってから、そういう練習環境になりました。プロ制度が始まった当初は、いまのキヤノンと同じような環境でした。その中で私も成長してきたので、キヤノンの選手もこれから成長していけると思います。それにチームは露出が必要なので、1日でも早くトップリーグに昇格して、そこで強いチームと試合をしてより多くの人にキヤノンの名前を知ってもらえると良いと思います。

――成長していく上で、どういう気持ちが必要ですか?

自制心をしっかり持つことです。環境や施設というものは後からついてくるものですので、まずは自分に厳しくないと、いくら良い施設があっても成長はできないと思います。選手のタイプとして2パターンあると思いますが、努力して自分からアピールをするタイプと、その逆で認めてもらうのを待っている受身のタイプです。成功する選手とは前者の自分から努力をしてアピールしていく選手です。

――キヤノンのアシスタントコーチであるチャールズ・ローコーチが、シャークスでコーチをしていた時に、何か指導を受けましたか?

2003年に少しだけ指導してもらいました。ただチャーリー(チャールズ・ロー)がメインで指導していたのは、アカデミーから上がってくる選手たちですね。トップチームの選手たちは、パスのスキルを見てほしいなど、ポイントでの指導を求めに行っていました。素晴らしいコーチなので、プロの選手も再指導を求めて、チャーリーのところへ行っていましたね。自分の力を引き出してくれて、基本的なところを見直させてくれるコーチです。赤ちゃんが歩く前にハイハイするのと一緒で、立ち上がるまでのプロセスをしっかりと指導してくれます。

◆南アフリカ代表

――どのくらいの期間、南アフリカ代表だったのですか?

1999年のイタリア戦で初めて代表に入りました。そして最後が2007年のウェールズ戦になるので、8年間南アフリカ代表でした。

――最も印象的な試合は何ですか?

初めて代表に入ったイタリア戦ですね。これは言葉では表現出来ません。あと2007年のワールドカップ優勝の時も印象的でした。

アルベルト・ヴァンデンベルグ選手

――2007年のラグビーワールドカップでは、グループラウンドで大勝したイングランドと、決勝の舞台で再び対戦しましたね。どう思われましたか?

グループラウンドで戦った時はイングランドの主力選手がいなかったのですが、その選手が決勝では復帰していたので、確実にチーム力は上がっていると思っていました。それとイングランドはワールドカップが進むにつれて、どんどん良いチームになっていたので、決勝は厳しい試合になると感じました。

――実際に対戦してみて、グループラウンドで対戦したイングランドとは違いましたか?

もちろんイングランドのチーム力も上がっていましたが、南アフリカもワールドカップを戦ってきてチーム力は上がっていました。グループラウンドは一度負けても次がありますが、決勝は負ければ終わりなので、全員がそこにフォーカスして戦いました。

――優勝が決まった瞬間はどうでした?

信じられませんでした。ワールドカップで優勝するということは、その次のワールドカップまでの4年間チャンピオンでいられるので、リーグ戦で優勝するのとは全く違いました。

――まだチャンピオンですね

来年までチャンピオンです(笑)。次のワールドカップでは南アフリカか日本に頑張ってほしいです。

――代表を経験したことで、成長した部分はどんなことですか?

他のチームの優れた選手が集まってくるので、凄く学ぶことが多いですね。魚を小さい池に放してしまえば、そこの中でしか泳がないですが、海に放せば波や潮の流れに鍛えられるのと同じように、いろいろな波に揉まれながら成長しました。キヤノンも1日も早くトップリーグに昇格し、そういう優れた選手と試合をする経験が必要だと思います。

――いろいろなチームを経験されてきて、強いチームの条件とは何ですか?

結束力があることですね。選手たちが全員お互いを家族のように思える絆があります。そして全員が一丸となって、成功への道を歩いていけるチームです。南アフリカのチームでも、チーム内で派閥が出来てしまうことがあります。そういうチームになってしまうと、どんどん坂道を転がり落ちていってしまいます。キヤノンではプロ選手と社員選手がいますか、一緒にグラウンドで練習をしていると、お互いに声を掛け合っていて、コーチ陣も非常に素晴らしいので、良いチームだと思います。キヤノンというチームは、練習でも本当にお互いを尊重していますし、助け合う心、気遣う心があります。

――今までのチームで、そういう派閥に分かれてしまった経験はありますか?

シャークスの1年目で経験しました。その時には新人と中間層、ベテランの3つの派閥に分かれていました。私は新人グループにいたのですが、その年のリーグ戦ではニューサウスウェルズのチーム以外には、すべて負けてしまいました。グラウンドの中でも外でも、チームの結束力は必要だと思います。

――2年目からは改善されたのですか?

そうですね。問題とされていたベテラン選手が何人か引退をして、そしてチームにいい影響を与えていない選手も全員解雇されました。本当にチームにとって必要な人材だけが残り、その年には決勝までいきました。核になる選手が、どのチームにも15人はいると思うのですが、そういう主力選手が、チームとしてお手本になるように、チームの環境や空気を作って、新人が入ってきたら、その空気にフィットさせるようにすることが必要ですね。 選手として優れているスーパースターだとしても、チームの中で問題となれば、チームとして必要のない選手になります。15人の中の1人が良いパフォーマンスをするけれども、トラブルを起こしてチームに悪い影響を与えるチームよりも、他の14人が良い環境で練習が出来るチームの方が良いですね。

――南アフリカでは今年、サッカーワールドカップが開催されますね。せっかく南アフリカで開催されるのに、見ることが出来ないですね

別に見られなくても構いません(笑)。南アフリカ人として、南アフリカで開催されるからといって、特別な感情はないですね。ワールドカップでは日本を応援します(笑)。

――南アフリカの治安はどうですか?

貧困が激しいので、食べ物を得るためには何でもするという人がいます。その南アフリカ人として共通の考えとしてあるのは、あえて自分から危険なところへ行ったり、夜遅くに出歩いたりしたりしない限りは、そこまで危険ではないということです。それとワールドカップに向けて、警察官も4万5千人増員するということを言っていて、他国からも応援が来るらしいので、それだけしっかりしていれば、ホテル周りや、選手、ファン、サポーターも安全だと思います。日本で素晴らしいところは、トレーニングが終わって夜歩いていても安全なところですね。無事に家に帰れますからね(笑)。

◆日本

――日本に来られたのは初めてですか?

昨年の12月にキヤノンのマネジメントグループと一緒にミーティングをするために来たのが初めてでした。

――日本の印象はどうですか?

日本人は礼儀正しいですし、フレンドリーです。交通システムも優れています。非常に感心しました。

アルベルト・ヴァンデンベルグ選手

――日本の観光はしましたか?

トレーニングがキツすぎて、そんな余裕はないです(笑)。でも合宿で温泉に入りました。

――温泉には初めて入りましたか?

そうですね。南アフリカではジャグジーのお風呂に水着を着けて入ってましたが、裸で入ったことはありませんでした(笑)。気持ちよかったですね。

――日本の文化で他に好きなものはありますか?

日本人のお互いを尊重する心、礼儀正しさは素晴らしいと思います。日本人にお酒を注ごうとすると、グラスを両手で持ったりしますよね。南アフリカではそういう習慣はないです。親しき中にも礼儀ありというところが素晴らしいです。

――日本には四季がありますが、そういう気候の変化を経験されたことはありますか?

南アフリカでは東海岸の方で、気候も暖かいところで、寒くなっても20℃くらいのところにいました。暑さには慣れていますが、寒さには慣れなければいけません。雪が降っている中での練習は初体験でした。その時は何かがおかしいと思いましたよ(笑)。

――日本では試合中に雪が降ることもありますよ

その時はじゃんけんで試合に出る人を決めましょう(笑)。

――日本のラグビーについては、何か情報は持っていたのですか?

日本代表の試合を見ていました。あと、ヤコ(ファン・デル・ヴェストハイゼン/元NEC)など日本で活躍している南アフリカの選手から話を聞いていました。それと、昨年の12月に来て、大学の試合を見に行きました。日本は大学の方が観客が入ると聞いていましたが、3万人くらい観客がいたので、とても熱気がありました。ファンの応援が凄かったことと、エンターテイメント性のあるラグビーをしていたという印象があります。

――日本代表の印象はどうですか?

ランニングラグビーですね。もの凄く走っていますが、フィジカル面で少し弱いと感じました。接戦になった時に、どうしても体格が小さいので、なぎ倒されてしまいますね。密集した試合では体格の大きい選手に当たり負けしてしまいます。ただセブンスなどのスペースがたくさんある試合では、走り込んでいけますね。日本代表が世界で勝つためには、速いだけではなくて、もっと筋量を上げて当たり負けしない体を作らなければいけないと思います。

――日本食は食べましたか?

寿司が好きです。奥さんと南アフリカでも寿司を食べていました。2年前にケープタウンのフィッシュマーケットで初めて食べて以来、寿司は気に入っています。いまは日本で本場の寿司を食べたので、ケープタウンのフィッシュマーケットではもう寿司は食べられないかもしれません(笑)。

――他に日本食で気に入ったものはありますか?

白米は死ぬほど食べました(笑)。あとしゃぶしゃぶですね。

――日本と南アフリカではまったく食文化は違いますか?

食材ももちろん違いますが、食材の買い方も違います。日本では1週間ごととか、少しずつ食材を買いますが、南アフリカでは1か月分の食材を買います。

――そういう食事の環境には慣れてきましたか?

最初の1、2週間は、朝起きて牛乳がないとか卵がないということがありましたが、やっと慣れてきましたね(笑)。

◆家族

――奥さんは日本に来られなかったのですか?

南アフリカに残っています。6月に日本に来る予定です。6月まで待てないです(笑)。子どもと一緒に6週間だけ来ます。寂しいですが、学校の休みの時だけなので仕方ないですね。

――将来的には一緒に日本で住むことは考えていますか?

今は考えていません。日本代表のラインアウトコーチになれたら、日本に住みたいと思います(笑)。

――お子さんは?

男の子と女の子の双子です。今10歳ですね。息子はユークレストというところにいるのですが、そこの学校は12歳以上にならなければラグビーは出来ないところなんです。なので、息子は今クリケットをやっています。

――息子さんも将来はラグビー選手になって欲しいですか?

そうなって欲しい思いもありますが、ゴルファーになって欲しいですね(笑)。南アフリカではゴルフが、学校対抗で試合があるくらいメジャースポーツなんです。

――娘さんは何かスポーツをやっているのですか?

ネットボールをやっています。ネットボールはドリブルをしないバスケットボールみたいなスポーツです。

――アルベルト選手は何歳からラグビーを始めたのですか?

7歳です。小学生の95%がラグビーをやっていました。小学校にちゃんとした設備があり、学校対抗で試合をすることもありました。今では4、5歳でラグビーを始めるのが普通になっています。

――その時から背は大きかったのですか?

15歳くらいからいきなり伸び始めました。小学校の時はフランカーかNo.8をやっていました。ウィングをやっている子の方が背は大きかったですね(笑)。

――その時から周りの子よりも上手だったのですか?

ラグビーをやっている子どもが600人くらいいて、その中で真剣にやっている子は100人くらいいました。周りに上手な子が多かったので、試合に出られないことも多々ありました。

――ご両親は何かスポーツをやっていたんですか?

両親ともスポーツはやっていなかったですね。けど私はスポーツが大好きで、ラグビーやクリケット、陸上をやっていました。

――これだけラグビーを続けている、ラグビーの魅力は何ですか?

単純にラグビーをするということへの喜びがあることと、これまで幸いなことに重い怪我もなく続けて来られました。

◆教育

――動体視力を鍛えるPCのソフトを販売しているそうですが、アルベルト選手が考えたのですか?

2004年にスプリングボクスで使い始めました。スポーツをしている時の注意力や動体視力を鍛えるためのオンラインのソフトです。アラン・バーマンという方が、スポーツヴィジョンでの専門家でアメリカにいるのですが、彼らの研究で、人間は目の筋肉を十分に使い切れていないと証明され、その人が動体視力を鍛えるソフトを開発しました。

アルベルト・ヴァンデンベルグ選手

――それをキヤノンの練習に取り入れても面白いですよね

いま、南アフリカでは2700人の子どもたちが、そのソフトでトレーニングしていますが、そのHPを日本語用に作っている途中なので、それが完成したらヘッドコーチに話をして、チームの練習にも取り入れられればと思っています。オンラインなので、PCさえあればどこででも出来るんですよ。

――どんなスポーツでも効果があるのですか?

ボールを使うスポーツであれば、どんなスポーツでも効果があります。集中力を鍛えるので、教育にも効果的です。文字を読むことが苦手な子どもたちにも、集中力と目の筋肉が鍛えられるので、読む力も養えます。日本語用のHPが出来れば、日本開催の2019年のラグビーワールドカップは成功すると思います(笑)。

――それで成功したら、その事業一本でいけますね

王様になります(笑)。

――南アフリカでは、保育園の経営もされているのですよね?

私はただの管理人で、妻が園長として経営しています。

――ラグビーの他に、子どもたちへの教育にも力を入れているのですね

問題を起こす子どもは、大概ちゃんとした教育が受けられない子どもだと思います。なので、正しい教育をしてあげれば、正しい人間になれると思っています。

◆キヤノン

――キヤノンに決めた動機は何ですか?

シャークスの契約が昨年で終わったんです。イタリアかフランスか日本でプレーする選択がありましたが、南アフリカ代表として、イタリアやフランスには何度も行っていたので、どんな感じかは知っていたんです。ただチームを決める時は、人の意見を求めたりはしないで家族だけで決めるので、それで妻と相談した時に、日本にはまだ行ったことがなく、新たな世界の扉を開こうと話し合って決めました。日本は世界の中でも、長く深い歴史があります。非常に貴重な経験が出来ると思いキヤノンに決めました。

アルベルト・ヴァンデンベルグ選手

――まだ走るトレーニングがメインだと思いますが、キヤノンはどうですか?

チームが昨年を振り返って、さっそく走り込みやフィットネス強化の練習をやっているので、今後が非常に楽しみです。学ぶことに貪欲なので、非常に良いチームだと思います。

――素晴らしいキャリアを積んできて、これからキヤノンをどう導いていきたいと思いますか?

まずは仕事をしてから3時間のトレーニングをするというのは、身体的にも精神的にもキツいと思います。そこが改善出来れば、私が考える成長する方法と一番近くなりますが、社会人ラグビーなので、その環境はどうにも出来ません。ただその環境の中でも、基盤だけでも作っていきたいです。私はラインアウトが担当なので、まずはそのラインアウトの基盤を選手たちが理解できて遂行できるようなシステムを作っていくことです。

――キヤノンでの目標は何ですか?

全勝です。内面のことで言えば、選手全員がプロの意識を持てる環境作りをしていきたいです。しっかりと食べて、しっかりと睡眠を取り、常にラグビーのことを考えられるような選手がたくさんいれば、必ず成功します。南アフリカでもそうですが、ラグビーはとても情熱的なスポーツです。キヤノンの選手もラグビーに情熱を持ってトレーニングをしているので、あと少しの調整で上手くいくと思います。最終的な目標は今シーズンのリーグ戦で勝つということです。

――有難うございました。頑張って下さい。