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キヤノン イーグルス 公式サイト|スタッフレポート

スタッフインタビュー

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スタッフインタビュー vol.2 アシスタントコーチ チャールズ・ロウ2010年4月30日

キヤノン ラグビー フットボール クラブ スタッフインタビュー
vol.2 チャールズ・ロウ(Charles Louw)『日本の選手は世界を引っ張っていけるだけのポテンシャルがある』


◆昨シーズンの振り返りと今シーズンへ向けて

――昨シーズンを振り返ってみてどうでしたか?

チームを作り上げていくという面では、非常に大きな一歩を踏み出せたと思います。今年はそれを更にもう一段階上げていきたいと考えています。

――いろいろなチームから選手が集まってきていた状況で、チームを作り上げていくということは難しかったと思いますが、どういうことを考えてチームを作り上げていったのですか?

チャールズ・ロウコーチ

まず、作り上げる上で一番大事なことは、"チームとしての結束力"、"選手同士の絆"を高め合うことなんですが、その作業は多くの時間を必要とします。新しいチームだったので、全員が同じ方向を向いて、キヤノンのやり方でプレーしていくようにしなければいけませんでした。最初はかなりの時間がかかってしまったのですが、最後の4試合くらいは"チームとしての結束力"、"選手同士の絆"が高まっていたと思います。

――昨シーズンは初戦で勝利しましたが、その後に負けが続き、終盤に来て1点差2点差での負けもあり、最後の試合は勝利で終えました。目標としていたレベルまで、チームを作り上げることは出来ましたか?

昨シーズンはそのよう結果で進みましたが、こういう環境で、初めてのチーム、初めてのトップイーストとしては、良くやったと思います。理想の形というのはありますが、選手の怪我などもありますし、ずっとその形でプレーするということは難しかったですね。コーチの役割は、どの選手も育成させ、グラウンドでパフォーマンス出来るようにすることが役目なので、そのパフォーマンスのクオリティを見ていました。勝敗ではなく、どれだけ質の高いパフォーマンスが見せられたかというところだと思います。もちろん勝ちたいですけどね(笑)。

――昨シーズンを振り返ってみて、今のチーム状況はいかがですか?

昨年の6月からチームに参加したので、今のチームと昨年のこの時期のチームとを比べることは出来ないのですが、今何に一番フォーカスしているかというと、個々のスキルを磨きあげて、試合で自信を持ってプレー出来るようにするというところを意識しています。

――今の時期に選手に求めていたレベルと、実際の選手の状況を比べて、どう感じますか?

チャールズ・ロウコーチ

多くの選手は、期待以上の成長を見せてくれています。まだまだ練習が必要な選手も多いので、もっとプロ意識を高める必要があります。期待以上の成長を見せてくれている選手は何が違うかと言うと、貪欲に新しいスキルを身につけたいと練習を行っています。プロ意識という面で話をさせてもらうと、まだまだ努力が必要な選手は、会社での仕事が終わってから練習に来るのですが、仕事とラグビーをまったく別のものとして捉えてしまっているんです。会社で働くことが仕事で、ラグビーは楽しいからやっているという意識が取れていない選手が多いです。会社の仕事もラグビーも同じ仕事と意識しなければいけないですね。

――全選手がプロ意識を持つためにはどうすればいいですか?

まずはプロのアスリートとは何なのかを説くのですが、トップレベルでのラグビーをするためには何が必要なのかを選手にじっくりと話していかなければいけません。それとコーチの役割として、ラグビーで人間性や性格、取り組む態度も築き上げていかなければいけません。なぜならば、ラグビーを引退したら、多くの選手がキヤノンの社員として、会社の仕事を全うするわけなので、会社にとって少しでもいい人材にしていかなければいけません。

――グラウンドが新しくなり、練習環境はどう感じていますか?

非常に良い環境です。環境が良いということは、コーチにとってというよりは、選手たちにとって非常に良いことだと思います。ラグビーを練習する環境で、練習をしているという意識が高まれば高まるほど、集中力は上がると思います。もちろん試合でのパフォーマンスを上げるための練習なので、ゴールポストが立っていたり、コートのラインがしっかりと引いてあるということは、ラグビーのフィールドでプレーをするという感覚が非常に養いやすいですね。

――キヤノンに入った時のチームの雰囲気はどうでしたか?

強化を始めた年だったので、全員の期待度、興奮度は高かったです。ただ、いろんなチームから選手が来ていて、初対面同士の選手が多かったので、お互いの感覚やプレーを探り合っている感じでしたね。これからどうなるかという不安もどこかにあったと思います。けれども、洋司さん(永友)が非常に優れたコーチで、全員を正しい方向へ導いてくれていました。そのおかげで、チームの結束力は高まりました。

チャールズ・ロウコーチ

――元々強いチームと、これから作り上げていくチームでは、どちらがやり易いですか?

楽なのは強いチームです。ただ強いチームはチャレンジ精神に欠けてしまいます。これから作っていくチームはいろいろなことにチャレンジ出来るので、どちらにも利点と欠点があります。われわれの今のチャレンジは、この先5年でどういうチームにしていくか、どういうところまで持っていけるかというところだと思います。ただラグビー選手は面白いもので、どんなチームにいても、ラグビー選手はラグビー選手です。コーチングでも選手に対して、どんどんチャレンジをしていって、それを受けて成長してくれるかどうかというところです。そして、選手たちがそれをプレーする勇気があれば、チーム力に繋がりますし、キヤノンの成功に導いてくれると思います。

――永友ヘッドコーチが、今シーズンのスタート前のミーティングで「トップリーグでも勝っていけるチームにしていく」とおっしゃっていましたが、そういうチームにしていくためには、どこをもっと強化しなければいけないと思いますか?

(日本語で)むずかしい(笑)。まず1つ目は体格、パワーです。もちろんそれを確立するためには時間がかかります。トップリーグでは非常にフィジカルの強い試合が行われていますからね。その激しい試合を、毎週毎週耐えられる体を作っていかなければいけません。もうひとつはスキルですね。トップリーグでは今よりももっとプレッシャーがかかる試合が多いです。素早いですし、タックルも強いです。なので、プレッシャーがかかっていて、素早い展開の中で、しっかりとしたスキルを使いこなせることが必要で、当たっても負けないことが必要になります。マイボールの時はそれを奪われないこと、そして相手ボールの時は、それを奪いに行くところの強さがなくてはいけません。まずはフィジカル、その次がスキルと状況判断、そしてブレイクダウンでのフィジカルの強さ、激しさです。この先2、3年かけて、意識して指導していかなければいけないところですね。

――では今のチーム状況で、トップリーグのチームと対抗出来る部分はどこですか?

実際にトップリーグのチームと戦ったことがないので、比べることは難しいですが、逆に足りないという部分は、先ほど言ったようなところですね。

◆早稲田大学とシャークス

――日本に来るきっかけは何だったのですか?

まず日本には何度か来ていました。そこで日本にいた友達から早稲田大学でコーチをしてみないかと声がかかりました。そして、キヤノンがコーチを探している時に、早稲田に見学に来て、幸い自分のコーチングスタイルを気に入ってもらえたので、キヤノンのコーチとしてチームに入りました。

――早稲田大学の前はシャークス(※1)でコーチをされていましたが、プロの選手と大学生をコーチングする違いや難しさはありましたか?

さほど苦労したことも、難しかったこともありませんでした。それは、プロだろうが大学生だろうが、ラグビー選手はラグビー選手なんです。何が違うかと言うと、選手が学びたい気持ちがあるかどうかだけです。早稲田大学の選手は全員が意欲的で、学ぶことに貪欲に取り組んでくれたので良かったです。

――その時教えていた清水直志選手が、今シーズン加入してきます。清水選手はどんな選手ですか?

彼は2008年に留学生として、シャークス・アカデミーに来ていたので、かなり長い間知っています。人間的にもラグビーに取り込む姿勢も素晴らしいものがありました。非常に良い人材なので、キヤノンにとって必要な選手になると思います。

――シャークス・アカデミーとはどういうシステムですか?

プロ選手や他の国のいろいろな選手を呼んで、大学と同じようなカリキュラムをやりながら、ラグビーも教えていくシステムです。その中から選ばれた選手が、U21やシャークスのBチームやAチームに上がっていくんです。

――日本から参加するというのは珍しいのですか?

非常に珍しいですね。インターナショナルキャンプといって、6月~7月の間の2週間だけ、いろいろな国から選手が集まってキャンプをするのですが、その集まった選手の中の1人でした。ドイツ、アメリカ、イギリスなどから選手が来ていました。

――今シーズン、シャークスからアルベルト・ヴァンデンベルグ選手が加入しますが、アルベルト選手も教えていたのですか?

彼が怪我から復帰してBチームに入った時に、私がBチームを見ていた時だったので、その時コーチングしました。チームにとって非常に重要な人物です。

――どんなプレーヤーですか?

ラック等の密集地帯(ブレイクダウン)からオープンスペースに走って行ける選手です。あとラインアウトでもいい選手です。それと非常に素早い選手ですね。

――キヤノンにフィット出来ると思いますか?

もちろんフィットすると思いますし、キヤノンが求めている人物だと思います。

◆日本が大好き

――香取神道流(※2)をやられているそうですが、南アフリカにいる時からされていたのですか?

そうです。1988年から武術を始めました。その時は大学生で、軍隊を卒業して、大学に入った時でした。空手を4年間、合気道を2年間、それから居合道、居合術を始めました。ちゃんとした先生がいなかったので、ほぼ独学で始めたんです。初めて先生に教えてもらった時はオランダでトレーニングをしていました。オランダでいろいろと学び、その学んだことを持ち帰って、南アフリカで指導するということをしていました。そして、オランダの先生が、香取神道流の師範である大竹先生(利典/第20代宗家)を紹介してくれて、2005年に血判をしました。それからは毎年日本に訪れていましたね。

チャールズ・ロウコーチ

――武術を始めようとするきっかけはあったのですか?

自分の中にある何かがやりたいと叫んでいました。

――もともと空手などの武術は知っていたのですか?

知っていました。日本の文化に非常に魅力を感じていたので、日本のことをもっと知りたいという思いが、武術にはまるきっかけだったと思います。

――ラグビーはいつからやっていたのですか?

もう生まれた時からです(笑)。歩けるようになってからは、ラグビーをやっている感じでした。兄もラグビーをやっていましたし、父がラグビークラブの会長だったので、ラグビーをやる環境でした。

――ラグビーと剣術はどちらが面白いですか?

ラグビーは自分の仕事で、自分の人間性を築いてくれたものです。ラグビーを始めるきっかけはラグビーが好きというだけではなくて、人間として成長したいという気持ちから始める人もいると思います。そして、同じく武術も人間性を築き上げてくれます。武術だけじゃなく、書道でも、茶道でも同じです。これらは人間性を築き上げるものですが、ラグビーはあくまでも仕事で、選手たちが人間性を築き上げるために指導しています。そして、自分の人間性を築き上げるために武術をしています。もうラグビーは身体的にプレーは出来ないですからね。

――今も剣術はやられているのですか?

やっています。居合術、抜刀術は真剣で、型の場合は切られてしまうので、木刀でやっています。

――香取神道流とは2人で型をやり合うもの何ですか?

そうですね。日本でもっとも古くから行われている剣術のスタイルです。

――他に好きな日本の文化はありますか?

全てです。書道や茶道、真言宗、古い建物、庭園、城、その他全てです。

――書道や茶道も経験をされたのですか?

経験しましたが、書道はもっとやってみたいです。

――いろいろなところへ旅行に行きましたか?

茨城や千葉の佐原、東京の東側と北側、千葉周辺ですね。時間がなかなか作れないので、あまり旅行には行けていないですね。仕事が忙しいです(笑)。

――田舎の雰囲気が好きなのですね

美しくて大好きですね。瓦屋根の家など凄く好きです。今は神奈川県の菊名に住んでいるので、できれば田舎に住みたいです。

――ご家族は一緒に住んでいるのですか?

そうです。時間があれば家族と、大阪、京都、長野、名古屋に行きたいですね。長野にスキーに行きたいです。それと日光東照宮にも行きたいです(笑)。諸江さん(昭彦/部長)に教えてもらったのですが、日光東照宮には凄い門(陽明門)があるそうで、それを見に行きたいです。家族を連れて回りたいところがたくさんあります。ただ時間がないんです(笑)。

――奥さんも同じように興味を持っているのですか?

非常に理解してくれていて、とても素晴らしい妻です。

チャールズ・ロウコーチ

――日本の食事はどうですか?

世界中の食べ物を食べましたが、日本食が一番です。その次がタイ料理、韓国料理、中国料理です。洋食はビリですね(笑)。南アフリカの料理は好きじゃないです(笑)。

――南アフリカではどのような料理があるのですか?

なかなか消化してくれないようなヘビーな料理です。600~700gくらいのステーキや、なかなか噛み切れない肉料理ばかりです。太いソーセージやバーベキューが多いんです。少しだったら美味しいのですが。因みに南アフリカの人は全部食べるんです。

――日本食では何が好きですか?

全部大好きです。刺身や寿司、親子丼、焼き肉、かつ丼、そば、焼きそば、焼き鳥、ラーメン、キムチ鍋(日本食?)は特に大好きです。洋食とは比べ物にならないですね(笑)。だからこそ日本が大好きです。

――日本語は難しいですか?

(日本語で)少しは話します。書きます、聞きますは大丈夫です。話しますはちょっと難しい。

――何年ぐらい日本にいるのですか?

(日本語で)1年です。キヤノンの前は6回日本に来ました。

――日本のラグビー環境について、どう思われていますか?

日本の選手は世界を引っ張っていけるだけのポテンシャルはあると思います。ただそこまで持っていけるだけのプロセスがまだないので、発展させるためには何が必要で、それを実際に行動に移すところまでいっていないですね。なので、日本にとってラグビーワールドカップが開催される2019年は、とても重要な1年になると思います。その時までには、日本代表が世界でもトップレベルのパフォーマンスをしなければいけないと思いますし、そうなるためにはどうしていかなければいけないかを考えなければいけないと思います。日本には良い選手が揃っています。選手たちの体格を大きくさせたり、強くさせたり、スキル面でも、どのように強化していくのかという部分の構成が、まだ出来ていないと見受けられるので、やっぱりそこを考えていかなければいけないですね。ラグビー協会はその部分を試行錯誤してやっていると思います。

――後々は日本ラグビーの発展に関わりたいという思いはありますか?

(日本語で)はい(笑)。自分はコーチとして選手を育成していくことで、日本のラグビー界に何かしらの貢献が出来るのであれば、続けていきたいと思います。絶対出来るはずです。

――では最後にファンへメッセージをお願いします

ファンからのサポート、熱い応援に非常に感謝しています。このチームはファンのチームです。そして、ファンの皆さんが誇りに思えるようなチームになっていきます。試合ではみなさんの応援が必要です。もちろんキヤノンという会社があった上でのチームなのですが、全てが1つになって戦っていかなければいけないと思っています。ファンのみなさんがいなければ、私たちは戦うことが出来ないのです。

チャールズ・ロウコーチ

※1:スーパー14に参加している南アフリカのダーバンを拠点としたラグビーチーム

※2:香取郡飯笹村(現在の多古町)に生まれた武将、飯篠長威斎家直(いいざさちょういさいいえなお/1387~1488)が室町時代中期に興した武術。その内容は多彩で、剣術、居合術、槍術、薙刀術、手裏剣術、棒術、築城術などいわゆる武芸十八般と呼ぶべき総合武術