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イーグルスマンスリーコラム

イーグルスマンスリーコラム

イーグルスマンスリーコラム第1回

田村一博(ラグビーマガジン編集長)

晩夏。猛暑が去った後の土曜日の夕暮れ。開幕にうってつけの9月5日だった。
ジャパン ラグビートップリーグ プレシーズンリーグ開幕。いつもと違う『プレ』の付く始まりだけど、待ちに待った日がやって来た。プレーヤーもサポーターも胸が高鳴る。
その豊田自動織機との一戦。イーグルスは14-14と引き分けた。
今季からPRにも挑戦するレイルア マーフィーが最前列で奮闘する。ジャパンのNO8として活躍してきたベテランの菊谷崇がLOに入る。久々にWTB小野澤宏時が駆けた。先発で林大成、途中から東恩納寬太、清水新也、杉永亮太と新人たちがハツラツと動いた。夏の終わりに新風が吹いた感じだった。

 勝敗は問われない試合も、内容は問う。永友洋司監督は「プレッシャーがあるなかで、チームのストラクチャーができなかった。課題を与えられた」と試合を振り返った。
しかし得たものも少なくなかった。
「(LOに転向した)菊谷はチームのためにいまのポジションをやってくれています。今の我々のスタイルだと、(LOの方が)ボールキャリーとしての菊谷の強さが求められるかな、と。痛いプレーをしてくれることを期待しています」
笑顔を見せたのは、次の言葉を発したときだ。
「小野澤に関してはキヤノンに来て初めて80分プレーしたのが大きい」
ルーキーたちを多く起用できたことにも触れ、「チームにとって財産になる」と話した。

 9月18日からイングランドで始まるワールドカップ(アイブス ジャスティンも出場)。そして来年3月に開幕し、日本チームが初めて参加するスーパーラグビー。それらの影響で、2015-2016年シーズンのトップリーグは特殊な開催方式となっている。10月11日まで続くプレシーズンリーグをどうとらえるのか--。ここが今季の成績を左右するものになりそうだが、イーグルスの考えは明確だ。チームは、『プレ』の期間を例年の夏合宿中の試合ととらえている。5試合を戦う中で、競争をうながし、戦力を試し、チームとしてのスタイルを研ぐ。真剣勝負の中に、いくつものフォーカスポイントを持つつもりだ。

 イーグルスは、今季どこよりもはやくチームを仕上げた。7月31日に催された『町田ワールドマッチラグビー』で、南アフリカからやって来た強豪ブルー・ブルズと戦うためだった。生半可な気持ちや準備では戦えぬ相手との対戦を考え、チームは年間スケジュールを練った。
永友監督は研究熱心な人だ。現在日本代表を率いるエディー・ジョーンズとは付き合いも長く、その考えにいつも刺激を受けてきた。そしてその姿勢は、いまも続いている。
7月だった。ジョーンズ ヘッドコーチのコーチングセミナーが催されると永友監督の姿があった。全国から多く集まった様々なカテゴリーのチームの指導者の中で、トップリーグの指揮官はただ一人だけ。そんな中でも、永友監督は質疑応答の時間には手を挙げ、メモを取った。世界的指導者の思想に触れ、自身の指導スタイルに付け加える作業をくり返している。
ジョーンズ ヘッドコーチの指導法の中で多くの人の参考になるのが、最高の準備をすることだ。そのためには、まずスケジューリング。そういった意味でも、特殊日程の今季に対してどうアプローチするかが指導者の腕の見せ所だったが、永友監督の思い切りの良さは見事だった。長年の経験と、継続する『学び』からチームに最も適した道を導き出した。
世界的強豪のブルー・ブルズと対戦する。そう決まったチームは、7月31日にピークを設定し、その後2週間を完全オフにした。そして、ふたたび動き始めてプレシーズンリーグへ。チームはいまゼロからでなく、万全の少し前にいる。積み上げている途中の他チームと比べ、アドバンテージを持っていることは明らかだ。明確にしているチームスタイルの細部を整えている。それを具現化する選手たちは誰なのか、競争が繰り広げられている。そんな状況と思っていいだろう。

『町田ワールドマッチラグビー』がもたらしてくれたものはたくさんあった。まず前述のように、チーム作りの過程で与えてくれた影響は大きい。トップリーグ以上の衝撃の強さへの準備。実際の体感。選手たちは新しい領域を知った。
そして、トップリーグという枠や、ラグビーという枠を超えた活動で得た感覚や知識や実行力。こういうものが、人やチームをさらなる高みに導くのは間違いないだろう。町田市民とともに、開催に向けて走り回った日々の記憶は選手たちに刻み込まれている。用意された舞台で戦うのが当たり前だったのに、自分たちで舞台作りから始めたのだ。ラグビー界以外の人々がラグビーを見つめる目を知って気付いたこともあれば、その人たちに伝えたラグビーの魅力もある。それらは間違いなくチームの財産になった。つまり、シーズン開幕までの日々をどのチームより濃密に過ごしたのはイーグルス。それは間違いない。

 ブルー・ブルズとの一戦には、多くのファンとともにモハウ・ペコ駐日南アフリカ大使の姿もあった。試合当日ずーっと笑顔だった同大使は、多くの人たちがつながって試合が実現したことがたまらなく嬉しいと何度も言った。
「スポーツを通じて両国の人たちがお互いを知り、触れ合う。それもラグビーで。(ラグビー大国の)南アフリカにとっては、特別に嬉しいことですよ。今回のことがあって、私は初めて町田に来ました。町田の人たちもブルー・ブルズの選手たちと触れ合って、同じ感覚になったでしょう。とにかく最高」
キックオフ直前、ファンの前で挨拶をしたペコ大使は、こう話して大きな喝采を浴びた。
「きょうの私は(キヤノンの)赤い服でも、(ブルー・ブルズの)青でもありません。どちらのチームも応援しようと思い、関係ない色の服を着てきました!」

 すっかりイーグルスのファンになったペコ大使は、今度トップリーグの試合に足を運ぶときにはきっと赤い服を着て来てくれる。いや、彼女が赤い服を来てスタジアムに向かいたくなるようなシーズンにしなければ。
12月19日におこなわれる町田市立陸上競技場でのトヨタ自動車戦が、その試合になるのか。それともシーズンのクライマックス、最高峰の試合に招待できるだろうか。いずれにしても、サポーターを笑顔にすることだけは約束したい。


田村一博
田村一博(たむら・かずひろ)

◎プロフィール

1964年10月21日生まれ。89年4月、株式会社ベースボール・マガジン社入社。ラグビーマガジン編集部勤務=4年、週刊ベースボール編集部勤務=4年を経て、1997年からラグビーマガジン編集長。

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