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イーグルスマンスリーコラム

イーグルスマンスリーコラム

イーグルスマンスリーコラム第1回

村上晃一

 10年目のトップリーグに新しい風が吹いた。2012年度シーズン序盤の主役は、間違いなくキヤノンイーグルスだった。年を追うごとにレベルアップする同リーグで、初昇格のチームがどこまで戦えるのか。周囲の心配をよそに、イーグルスは開幕戦から躍動した。

 9月1日、大阪・長居陸上競技場でのNTTドコモレッドハリケーンズ戦。入社2年目の和田拓キャプテンを筆頭に、入社3年目までの選手が11名という若いチームは、思いきりのいい攻撃を披露する。トマシ・ソンゲタのトライで先制し、SH福居武が密集サイドをついて追加のトライを奪うと、前半29分には、和田拓がドロップゴールを決めて観客を驚かせた。

 ブレイクダウン(ボール争奪戦)では、全員が立って力強く相手を押し込み、攻めては、素早いテンポでボールをパスし、タックルを受ける直前、あるいはタックルを受けながらも巧みにパスをつないだ。その後も、東芝ブレイブルーパス、神戸製鋼コベルコティーラーズといった優勝経験のある強豪と堂々たる戦いぶり。接戦に持ち込み、最後まで粘り強く戦えるフィットネスの高さも見せた。

 しかし、9月22日のサントリーサンゴリアス戦は完敗。10月6日には、九州電力キューデンヴォルテクスから2勝目をあげたものの、続くNTTコミュニケーションズシャイニングアークス戦では、好ディフェンスの前に屈した。

 和田キャプテンは言った。「どの相手も最初はキヤノンの戦い方に慣れていなかったと思います。NTTコムとの試合では分析されていると感じたし、ここまでがビギナーズラックだったとしたら、もうその時期は終わった。これからの闘いが本番だと思います」。

 キャプテンのコメントは的を射ていた。その後はほとんどの試合で接戦に持ち込んだが、勝負どころでミスが起きるなど勝ちきれない試合が続いた。最終的には3勝10敗で11位。出足の勢いからすれば、ほろ苦いシーズンになった。

 当事者には不満もあるだろう。だが、初昇格では悪くない成績である。なにより、多くのファンが「キヤノンのラグビーは面白い」と口にしたことにこそ価値がある。

 キヤノンの何が観客を楽しませたのか。ひとつ挙げるなら、ラグビーが「球技」であると再認識させたことだろう。格闘技的要素の強いラグビーは、肉弾相打つ激しさが強調されることが多い。実際に、それは勝敗を左右する要素だ。ディフェンダーに真っ向勝負で突進し、連続攻撃の起点を作るチームが大半である。

 だが、キヤノンは少し違っていた。まずはパスを考える。観客席では、チャンスを迎えたひいきチームに「外(そと)! 外(そと)!」と叫ぶ声が聞こえる。「相手に当たらず、外のスペースにボールを運べ」という意味だ。しかし、パスせずクラッシュしてボールが停滞し、「あーっ」のため息がもれるのがお決まりのパターン。だが、キヤノンは観客が感じているとおりにパスすることが多かった。だから、観戦していて気持ちが良かったのである。

 「オフロードパス」。近年よく使われる専門用語だ。ここで使う「ロード」は、「道(Road)」ではなく、「荷(Load)」。タックルされながら、運んでいた荷物を下ろすようにパスをする。防御網が強固になる一方の現代ラグビーでは、突破のための重要なスキルになっている。キヤノンはこれを巧みに使った。相手にぶつかる前のパスも含め、「パスで抜くラグビー」はキヤノンの特徴といっていいだろう。

 永友洋司監督は言う。「今年は体を大きくするトレーニングに取り組んでいますが、ここはまだ時間のかかるところで、ブレイクダウンはできるだけ避けたいです」。身体の大きなパワフルな選手が多ければ肉弾戦に持ち込めばいいが、そうではないキヤノンは、これからも、素早くボールを動かし、スペースを探すのだ。

 キヤノンは「日本一」という高い目標を掲げている。勝手な希望を言わせてもらえれば、「愛される王者」を目指してほしい。かつて、日本選手権7連覇を達成した、新日鉄釜石、神戸製鋼は、強いだけではなく、魅力的だった。共通するのは、パスで抜くラグビーであり、接戦をものにする勝負強さだ。そして、ファンに愛されるチームとは、けっして諦めることなく、ひたむきに体を張り続けるチームである。

 

 11年目のトップリーグは、8月30日に開幕する。今季は、参加16チームを、8チームずつのブロックに分けてファーストステージ(1S)を開催し、それぞれの上位4、下位4チームがセカンドステージ(2S)に分かれて進む仕組みだ。1Sで4位以内に入らなければ、プレーオフ(トップ4による優勝決定戦)には進めない。キヤノンは、東芝ブレイブルーパス、パナソニックワイルドナイツ、ヤマハ発動機ジュビロ、近鉄ライナーズ、リコーブラックラムズらとBブロックに入る。再昇格組のコカ・コーラウエストレッドスパークス、クボタスピアーズもいるが、いずれも戦力は充実しており、大混戦が予想されるブロックだ。

 勝ち抜くためには、セットピース(スクラム、ラインアウト)の安定、粘り強いディフェンス、プレッシャーの中でパスを通すプレーの正確性、そしてチャンスに確実にトライを奪う決定力が求められる。オーストラリアでの武者修行から帰国した和田拓キャプテン、スクラムの要になる城彰、7人制日本代表の橋野皓介ら伸び盛りの選手に期待が高まるが、元オールブラックスのアダム・トムソンの活躍も楽しみだ。196㎝、112㎏のサイズながら、BK並のスピードで駆け抜ける攻撃的FW第三列だ。ラグビーファン必見の選手である。

 昨季のキヤノンは、接戦をことごとく落とした。日本一を目指すには、それをひとつずつ白星に変え、勝ちきる文化を定着させなくてはいけない。この春の日本代表が示した通り、選手個々のレベルアップ、勝つための試合運びは不可欠の要素だ。

 8月31日の初戦の相手は、東芝ブレイブルーパス 。力強く突進してくる「スタンディング・ラグビー」を、華麗な「オフロード・ラグビー」で倒せるか。その対決が待ち遠しい。


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村上晃一

◎プロフィール

ラグビージャーナリスト。京都府立鴨沂高校→大阪体育大学。現役時代のポジションは、CTB/FB。86年度西日本学生代表として東西対抗に出場。87年4月ベースボール・マガジン社入社、ラグビーマガジン編集部に勤務。90年6月より97年2月まで同誌編集長。出版局を経て98年6月退社し、フリーランスの編集者、記者として活動。ラグビーマガジン、ナンバー(文藝春秋)などにラグビーについて寄稿。J SPORTSのラグビー解説も98年より継続中。99年、03年、07年、11年のワールドカップでは現地よりコメンテーターを務めた。著書に、「ラグビー愛好日記トークライブ集」(ベースボール・マガジン社)3巻、「仲間を信じて」(岩波ジュニア新書)などがある。

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