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イーグルスマンスリーコラム

イーグルスマンスリーコラム

イーグルスマンスリーコラム第2回

田村一博

どきどきが1年前の夏なら、今年はわくわくなのである。

 開幕戦で快勝し、初年度ながら3勝。東芝や神戸製鋼に迫った2012年の記憶がある。そんな昨季の陣容に、才能豊かなルーキーが加わった。輝かしい栄光を携える外国人選手も仲間に。どうかお願いと神に祈るしかなかった1年前と比べると、期待感は段違い。ファンの胸は高鳴る。

 ただ応援者の心は躍ろうと、闘争の場に挑む当事者たちにしてみれば、今年だって1年前とそう変わらない。

 開幕戦を目前にして、永友洋司監督がいろんな表情を見せた。

「手探りだった昨年とは違う。1シーズン経験したことは大きいですね。選手たちも本当によくやっている。体のサイズアップは、ひと目で分かるぐらいに実現できている」

 そう言った後、緩んだ頬が締まる。

「でも、周囲がこちらを見る視線が違います。2年目の難しさというのはあると思います。昨年できたことが、なかなかできないこともあるでしょう。1年前のそれとは質が違うけど、不安はいつもある。これを乗り越えることがチームの文化を作ることになると思っています」


 経験豊富な指揮官は知っている。自分たちの成長と結果は、そう簡単には直結しない。だから勝負師は、いつも不安と隣り合わせに生きている。

 8月30日のサントリー×NTTコミュニケーションズから始まる2013-2014シーズンのトップリーグ。キヤノンイーグルスは8月31日の東芝ブレイブルーパス戦から3節続けて、秩父宮ラグビー場を舞台に戦う(対パナソニック、対リコーと続く)。

 今季から2グループ、2ステージ制となった新しいトップリーグは、セカンドステージで上位グループ、下位グループに分かれるため、シーズン序盤からの激戦が予想される。どのチームにも、スタートダッシュは上昇に不可欠な材料だ。

 イーグルスにとって昨季最大の武器だった若さは、今年も健在だ。入社3年目の和田拓キャプテン。同期の城彰FWリーダー。BKリーダーの橋野皓介も、まだ4年目。チームを束ねる者たちは、どこより若い。しかし恐いもの知らずの強さでなく、前向きな姿勢と可能性を信じ切れる男たちだから、3人は戦う集団の先頭に立っている。

 不安を口にしながらも、しっかりと前を向いているのは和田キャプテンだった。監督同様、ここ、あそこに気を配らなければならない立場としての宿命だろう。やり切った準備には自信があるけれど、勝負は別物と覚悟する。

「みんな一生懸命練習して、スキルも体もレベルアップしたのは間違いありません。そういう意味では、堂々とシーズンに入っていけます。昨年は開幕戦に勝っていい方向に進めたところがあったけど、不安は常にある。鼻高々でいたら絶対ダメ。いつもチャレンジャーでいないと」


 全部員平均で4キロ増のサイズアップを実現できたこと。それでも昨年以上に走れること。部員たちのラグビーとの向き合い方も変わったと和田キャプテンは嬉しそうに語る。「FWはコミュニケーションがすごく密になった。大きくなったけど走れるし」と言う城、「チームの経験値は確かに上がっています。去年のトップリーグで受けたプレッシャーをもとに準備できているのは大きな違い」と語る橋野の言葉にも大きく頷く。

 でも、それでもキャプテンは安堵しない。最高の準備を全試合繰り返し、持てる力を出し切ったところで、どうせ次の試合にはまた、自信と不安のはざまで気持ちは揺れる。リーダーは、戦いの場に身を置く限り、常にそんな状態であることを覚悟している。

 チームの進化に足並みを揃えるように、3人は多くの経験を得て成長を続けている。

 和田と城は、春シーズンの多くをオーストラリアの名門、シドニー大学クラブで過ごした。そこでやったこと、見たもの、吸った空気。すべてがリーダーとして、あるいは一人のプレーヤーとして生きていくためのものとなった。


「WTBの選手たちの、ボールを持ったときの積極性とどん欲さ。リーダーの存在。チームの一体感。どれも、『本物』を見てすごく刺激になりました」(和田)

「スイッチを入れ方。試合を楽しむ姿勢。その中に身を置いて、チームになることの大切さを改めて知った」(城)


 それらをイーグルスに還元したい。本物の戦闘集団になるために。

 橋野は7人制日本代表として6月末にモスクワで開催されたワールドカップに出場。世界の戦い、一流のアスリートたちを目の当たりにした。

「何かひとつ飛び抜けたものを持っている人たちが大勢いました。武器を持つ。大切なことだな、と。そして7人制は14分で決着がつきます。だから高い集中力の中に身を置きながらも、ミスをしてもすぐに切り替えることが大切。これは15人制でも同じだな、と」

 今季はFBでの出場が多くなりそうな男は、最後尾で図太く生きることを宣言する。

 永友監督は、「私と同じ判断基準でピッチに立ってくれる拓(和田)。城は体で引っ張り、橋野は声で周囲を動かす」とリーダーたちを評した。つまり3人はチームの頭脳であり、肉体、意志。「城は本当にラグビーが好きな男。怪我もないし、スクラムも強く、それでいて器用。いろんな場面で顔を出してくれる」とキャプテンが同期を称えれば、城はBKの中心にいる橋野を「うちの理想とするアウトサイドでトライを取ってくれる人」と信頼を寄せた。


 橋野は、年下のキャプテンを最上級の言葉で評価した。

「拓は、すごくまじめ。キャプテンの役割をまっとうしようとする姿勢が伝わってくる男です。信頼できるリーダー」

 GPS(全地球測位システム)を装着して試合に臨むイーグルス。橋野はデータが示すキャプテンの価値を自分のことのように喜ぶ。

「ボールを持っていないときの動き。無駄走りをたくさんして味方を助けてくれているんですよ」(橋野)

 イーグルスはそんな男を先頭に立てる、独自のチームカルチャーを築く集団になりつつある。

 シーズン前に公約を--。そんな要求に、真っ先に手を挙げたのは橋野だった。

「全試合でトライ。そのためには、まず全試合に出なければ。そして、誰かが空けた穴に、積極的に入っていって『顔を出したい』(ボールをもらえる位置に出ること)。そうやってボールにたくさん触れる姿勢を強めたいですね」

 城も和田も「トライ」と言った。

「大学(明治大学)時代の大学選手権1回戦以来、公式戦で一度もトライをしていないんです。スクラムトライも盛り上がるでしょうが、自分でインゴールに押さえたい」(城)

「チームでいちばん多くトライを取りたい。WTBに何が求められているかを考えれば、そこですから。ガツガツいきます。キャプテンとしてピッチに立ち続けることは当然です」(和田)

 3人とも同じテーマで声が揃ったのは、攻め抜く姿勢を誰もが持っている証拠だろう。キャプテンは、「チームの公約としては、ファーストステージで上位4チームに入ること」とシーズン序盤からの全開を誓った。



 永友監督は、昨季を振り返り、22-32の敗戦も、スコア以上に相手を追い詰めた神戸製鋼戦をもっともイーグルスらしい戦いだったと振り返る。

「決して勝負を諦めず、最後の最後、ティム・ベネットが相手ゴールに迫り、あと数センチというところまでいきました。走りきるチームのスタイルをやり切ったと思います。その一方で、一流のチームがどこも乗り越えてきた、その数センチをうちは乗り越えられなかった」

 現在地を示してくれた80分を胸に刻み、今年の進化を証明したいと言った。

「プレーヤーズ・ファースト」

 永友監督の口にした公約は、これだった。

 選手のことを第一に考える。若者たちが、輝かしい未来へと続く道を歩めるように導きたいのだと語気を強めた。

「いつだって日本一を目指しています。そして、いつかみんなと日本一になってほしい。人生が変わりますから」

 人生のすべてを懸けてチャレンジしないとたどり着けない場所だから、到達できたら、そこにいるのは以前とは違う自分。日本ラグビーのてっぺんから見える景色が、これまで見たこともない絶景だと知る指揮官には、プレーヤー、ファンとの長い旅を楽しむ覚悟がある。

 2013-2014シーズン開幕。いま山の何合目にいるかは分からない。だけど数か月後、昨年より高いところに立っているのは約束できる。



田村一博
田村一博(たむら・かずひろ)

◎プロフィール

1964年10月21日生まれ。89年4月、株式会社ベースボール・マガジン社入社。ラグビーマガジン編集部勤務=4年、週刊ベースボール編集部勤務=4年を経て、1997年からラグビーマガジン編集長。

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