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イーグルスマンスリーコラム

イーグルスマンスリーコラム

イーグルスマンスリーコラム第2回

田村一博(ラグビーマガジン編集長)

すでに3つ負けている。4試合で1勝。喜べぬシーズン序盤戦も、みっともない敗戦はひとつもない。
2016-2017シーズンが始まって約1か月。イーグルスのプレーヤー、ファンが笑顔で試合終了のホイッスルを聞いたのは1度きりだ。4月に大地震に見舞われた熊本にて、コカ・コーラを31-14で破ったのは8月27日のこと。復興を目指す地元の人々の前で3トライを奪い、簡単でない初戦勝利を手にした。しかしそれ以降、試合中にファンの頬が緩むことはあっても、最後は...の結末が続いている。
残暑厳しい中で開幕したシーズンは、1か月が過ぎて秋口になった。イーグルスはいまリーグ順位表の11位にいる(16チーム中)。そこは混迷の真ん中なのか、それとも上昇の入り口か。それはこの先に残す結果により、後に振り返って分かることかもしれないけれど、ここまでの戦いぶりで判断するなら、チームはいつも勝利と隣り合わせだった。

9月10日、東芝の冨岡鉄平ヘッドコーチは言った。21-19とイーグルスに逆転勝ちした試合の直後だった。
前半を終えて10-6と東芝がリード。後半20分でも13-9だった。イーグルスは積み上げてきたセットプレーで対抗し、後半23分に好機をつかむ。相手反則からSOジャンクロード・ルースのキックで東芝陣深くに入ると、ラインアウトからモールを組みトライ。16-13とした後、後半30分にはPGで差を広げた(19-13)。
しかし、勝敗はそこから覆った。残り7分、東芝はスクラからの右展開をWTB豊島翔平が仕上げて1点差に詰める。そして後半38分だった。イーグルスボールのスクラムに力を結集させてターンオーバー。波状攻撃を続けてPGを得た。SH小川高廣が逆転のキックを決めて逆転勝利を決める。そんな激戦後のことだった。
「80分間集中力が途切れることはなかった。キヤノンは上位チームの仲間入りをしていると思う」
事前に分析を進め、実際に戦った敵将の体感だった。詰めかけた1万人超のファンを興奮させる展開は、ピッチの上の両軍の充実がないと実現できないことだ。勝者にはそれが分かったし、多くの人に知ってほしかった。対戦相手をリスペクトする気持ちが、その言葉には詰まっていた。

第4節(9月16日)のリコーとの試合でも最後の最後までスタジアムを熱狂させた。
20-25のスコアで迎えたラストシーン。イーグルスはリコー陣深くでラインアウトを得る。残り1分弱。後半39分過ぎからの攻撃は4分以上続いた。ラインアウトから全員でモールを組み、押した。トライラインに届かないと判断すると、ボールを左右に小刻みに動かし、短く何度も前に出た。インゴールは、もう目の前だった。
それでも届かなかった。試合開始のキックオフから83分46秒経ってフルタイムの笛が鳴ったとき、最後の最後にラックからボールを持ち出した菅原崇聖は敵味方入り乱れた大勢の男たちの下敷きになっていた。自身の決死の前進がトライラインに届かなかったと分かると、しばらくその場に座り込んだまま動けなかった。
この試合、20-18とリードしていたイーグルスが逆転を許したのは後半34分だった。リコーボールのスクラムを完全に押し込み、粉砕したのに、かろうじてボールを展開した相手は、その攻撃をトライに結びつけて勝利をたぐり寄せた。ラグビーってそんなものだと理解していても、押したPRの無念さを思うとやるせない。ラストシーンの当事者になった者の背負う気持ちを思い浮かべるときも、同様の感情が湧く。誰も責めないのに、もっと上手くできなかったかと自問自答を繰り返す。
菅原はこの日、その両方をいっぺんに味わった。試合終了後ぼう然としていた29歳のPRの傍らには、脱げた白いスパイクの片方が落ちていた。
次の試合は、すぐにやって来る。もうひとつ上の自分と出会うにはそれをもう一度履き、次の一歩を踏み出すしかない。残り試合は、まだ11試合もある。

4節を終えた時点で、これほど濃密な時間を過ごしたシーズンがかつてあっただろうか。3節、4節についてはスコアからも激戦の模様が伝わるだろう。しかし、今季もっとも力の差を示されたといっていい第2節、35-16と完敗した80分こそ、他の試合よりさらに濃い時間を過ごした。

9月2日、町田市立陸上競技場。「Beat Panasonic」の看板を掲げて臨んだシーズンの第2戦は、自分たちのターゲットを開幕戦でやっつけたヤマハ発動機だった。
4トライを奪われたこの試合。それでもイーグルスはだらしなくなかった。序盤、3つのスクラムを押されて主導権を握られて点差をつけられたが、途中からスクラムをコントロールしたのは自分たちだった。ブレイクダウンの圧力を受け、スコアをひっくり返すことこそできなかったが、勝者は決して楽な戦いでなかったと言った。 ジュビロの清宮克幸監督は試合後に話した。
「キヤノンはトップリーグの中でスクラムの強さをウリにしているチーム。(ヤマハとの)こだわり合いに注目していたし、(終始パナソニックを圧倒し続けた)前節のような試合にはならないと思っていた」
イーグルスのHO庭井祐輔主将は、「ブレイクダウンで強烈なプレッシャーをかけられて手にボールがつかず、自分たちのラグビーができなかった」と敗因を明確に語ったけれど、こだわってきたスクラムについてはフロントローとしての矜持を示した。
「前半はセットプレーでやられましたが、後半は互角以上にやれた。相手の3番は組み合った後に伸びてくるので、それに対してしっかり押そう、と周囲と話し合いました。内に入ってくるので、(こちらは)1番と2番(の自分)でロックする、ふたりで壁を作って前へ出た」

3番を背負った今季10年目の山路泰生はチーム最古参の生え抜き選手だ。そのベテランは、この試合に並々ならぬ思いがあった。ヤマハでスクラムを鍛える長谷川慎コーチは、実はかつての師匠だったからだ。
現職に就く前年のことだ。同コーチは半年間、イーグルスのFW強化に力を注いだことがある。山路は長谷川コーチから手紙をもらった。秋田ノーザンブレッツ戦への出場が決まったときだった。細かなテクニックではなく、スクラムを支えるスピリットについて書いてあった。
コーチ陣、仲間からの信頼を得ることがPRにはいちばん大切だ。
それらを得て試合に出るからには、信頼してくれている人たちを絶対に裏切ってはいけない。
「慎さん(長谷川コーチ)から指導を受けたことがあるのは、チームで自分だけになりました。きょうは勝って恩返しをしたかったのですが、それができなくて残念でした」
試合には負けた。でも、3番を背負う者としてこだわる部分は譲らなかった。
「スクラムでは、最初から負けている気はしませんでした。(自分たちがコラプシングをとられても)落としているのは相手だと感じていたので、『相手を持ち上げてでも押そう』と声を掛け合って組んだ」
外からでは分からぬことがピッチの上では無数に起きている。それらが多ければ多いほど選手たちは刺激を受け、チームは成長する。この1か月のイーグルスはまさに、そんな時間を過ごした。

押し、押されて、ラグビーとスクラムの奥深さを観る人に伝えたヤマハ戦。
東芝戦では、自信のあったスクラムで最後の最後にボールを奪い取られ、逆転された。
押し込んだスクラムからリコーに走られた、事務機ダービーの夜。
夏の終わりに生まれたスクラムにまつわる3つの悔しい物語は、果たして秋の収穫を呼ぶだろうか。
永友洋司監督は僅かな点差で敗れた試合のあと、必ず言った。
「この点差を乗り越えられるかどうかがチャンピオンチームか、そうじゃないかの違い。超えさせてあげられない自分が不甲斐ない」
そして続ける。
「よほどの覚悟をもってやらないと(何度やっても)同じ結果になる」
1勝3敗の序盤戦で分かったのは、トップリーグには楽して勝てる試合なんかひとつもないということだ。そんな中で、自分たちはいつも勝利と隣り合わせにいる。
勝利と敗戦の間にある壁を破れるか、弾き返されるか。
それを決めるのは自分たちだ。


田村一博
田村一博(たむら・かずひろ)

◎プロフィール

1964年10月21日生まれ。89年4月、株式会社ベースボール・マガジン社入社。ラグビーマガジン編集部勤務=4年、週刊ベースボール編集部勤務=4年を経て、1997年からラグビーマガジン編集長。

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