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選手インタビュー

2021年6月11日 | HO金子大介選手 退団インタビュー

「自分の人生に感動をもたらしてくれた10年間」

イーグルス一筋10年。自身のキャリアの節目であると同時に、トップリーグのラストイヤーという節目にもなった今シーズンをもって、HO金子大介選手はラグビーキャリアを終える決断を下した。

ヒザなどのケガと付き合いながらも生え抜きの同期の中では最も長くプレーし、今季もホワイトカンファレンス第4節のヤマハ発動機ジュビロ戦で途中出場。14人となっていた苦しい時間帯にピッチに立ち、耐え抜き、見事にチームの勝利に貢献した。

ベスト8となった今季を含め、長いキャリアの中で金子選手が感じてきたイーグルスへの思い、特に仲がよかったベテラン勢との思い出などをじっくりとうかがった。
(取材日:2021年5月27日)


── 金子選手にとって最後のシーズンとなった今季は、どのような1年でしたか?

「昨年6月ごろ手術して11月に復帰しましたので、スタートを切ったのはその時期になりましたが、今シーズンで区切ってラグビー人生の集大成にしようと考えていました。個人的にはすごく充実した、そしてやり切ったシーズンだったと思っています」

── 今季で引退すると決断されたのはいつでしょうか?

「シーズン前から辞めようと思っていたわけではないのですが、その手術の2年前にもヒザを手術していたこともあり、自分としては6、7割ぐらいのパフォーマンスしかできていないと感じていましたので、昨年11月の大分合宿あたりから悩んでいました。ヒザが完全に元の状態に戻らず、リハビリを続けながら『そろそろ潮時かな。今シーズンで終わらせるべきかな』と考えるようになりました。今季が最後のトップリーグだったこと、また自分自身が10年目という節目だったこともあります」

── トップリーグやキャリアの節目だったとはいえ、決断の一番の理由はご自身のコンディションだったわけですね。

「はい。100%の状態でグラウンドに立つことができず、自分が100%だと思っているところまで上げきれなかったのが一番の理由です。果たして一人のラグビー選手としてイーグルスに貢献できているのか、オンフィールドでは出場試合数も含め貢献できていないのではないのか、と自問自答し、そろそろかなと思うに至りました」

── そのようなお気持ちの中、今季の開幕を迎えました。開幕3連敗スタートとなりましたが、途中出場した第4節のヤマハ発動機戦で今季チーム初勝利に貢献しました。

「勝っている時はチーム全員がいい方向に向かいますが、負け続けてしまったり負けを一度経験すると粗探しをしてしまい、一体感を持って活動することができなくなるものです。多少なりとも不満が出たり、選手がチームの目指す方向とは違う方を向いてしまったりすることもありますが、あのヤマハ発動機戦はメンバーもノンメンバーも関係なく、チームとして同じベクトルを向いて『勝利に向かおう』という姿勢をみんなで体現した試合になりました。もしかしたら、そうなれたのはチームが開幕3連敗したからだったのかもしれません。開幕2連敗した後に第3節でパナソニックにもやられましたが、そこで振り切れて『やってきたことを信じ切るしかない』というマインドになりました。また、例年以上に『勝ちたい』という意欲が強くなっていたと思います。開幕から第2節、第3節にかけてはスキルの面ではほとんど変わっていませんが、シーズン中はラグビーの技術よりも『チームとして同じベクトルを向いているか』『同じメンタリティーでプレーできるか』ということの方が大事だと思いますので、むしろ第3節でパナソニックに見事にやられたことで、みんなが『沢木さん(沢木敬介監督)についていこう』と同じ方向に向いたことがヤマハ発動機戦の勝利につながったと思っています」

── 例年以上に一体感のあるシーズンになったわけですね。

「そうですね。選手の意識が変わりました。意識は誰かに言われて簡単に変えられるものではありません。沢木さんの指導を通じて、受動的にではなく自分たちで能動的に考えることが選手たちに浸透し、また三友良平選手や橋野皓介選手らベテラン選手たちの声がけの効果もあって、選手たちがそのような方向に向かっていったのだろうと思っています」

── そのヤマハ発動機戦ですが、金子選手は後半35分からの出場でした。33-32と1点差でリードしていましたが、その直前のPR船木頌介選手のシンビンにより14人という苦しい状況になっていました。残り5分、どのようなことを心掛けましたか?

「ボールをキープし続けることしか意識していませんでした。最後にピッチに出た僕が一番フレッシュな状態でしたが、自分が出たからといって戦況をガラッと変えられるようなプレイヤーではありませんので、とにかくペナルティをせずにいつもやってきた基本的なことを忠実にやるだけでした。僕がしたことを強いて挙げるとしたら、みんなに声をかけながらそのように意識づけることぐらいでしたね」

(2021年3月14日 ヤマハ発動機ジュビロ戦)
(2021年3月14日 ヤマハ発動機ジュビロ戦)

── おそらくメンバー23人だけの勝利だけではなかったと思います。この一戦も含め、今季のノンメンバーの貢献についてどう感じていますか?

「本当に素晴らしかったと思います。特に若手ではルーキーのWTB山本雄貴選手、中堅ではSH天野寿紀選手らがよく声を出していました。ラグビーは他のチームスポーツと比べても人数が多く、トップリーグは1チーム50人ぐらい在籍しています。半数以上が試合に出られないわけです。そのような状況で、出場できない半数のノンメンバーのベクトルが違う方に向いてしまうと、チーム力が出し切れないどころか半減してしまいます。いくら有能な選手を揃えていたとしても、練習相手となるノンメンバーが手を抜いたり対戦チームを模したプレーをしなかったりすると、チーム力がどんどん下がっていってしまいます。10年の選手生活で、それを肌で感じてきました。もちろんそうならないようにベテランから声をかけていくのですが、今季は若い世代からチームを変えようという動きが出たことで、逆に僕たちベテランが心を動かされました。そのような点でも今季は昨季以前と比べてもチームとしてしっかりまとまっていたと思います」

── ルーキーの世代はまだ遠慮があるイメージもありますが、山本選手はむしろ積極的にチームに貢献しようとしたわけですね。

「もちろん山本選手に限りませんが、特に彼は積極的でした。彼は『勝ち顔』というワードを作り、笑顔でいれば気分も上がりフィールド上でのプレーもよくなっていく、とみんなの前でプレゼンしました。心を打たれましたね。自然とがんばろうという気持ちになりました。その後『勝ち顔』はピッチ上でもイーグルスのキーワードになっていました」

── メンバーの練習相手となっていたノンメンバーにもスキルレベルの高さやフィジカルの強さが今まで以上に求められたのではないでしょうか。

「沢木監督はフィールド内では厳しい方なので、スキルが必要なレベルに達していなければ試合に勝てないと常々厳しく言われていました。スキルが十分なレベルに達していないからノンメンバーはメンバーになれなかったわけですが、その中でもノンメンバーが相手を模倣して、たとえばパナソニックとの試合の週はパナソニックになり切って練習していました。まさにノンメンバーが鍵となったシーズンでしたし、ノンメンバーのスキルが底上げされたことによってチーム全体のスキル、戦力そのものが底上げされたと感じています。来季も沢木監督の体制が続きますので、いちファンとして非常に楽しみですね」

── 長年イーグルスを支えてきた三友選手や橋野選手らベテランの貢献が目立ったシーズンでもありました。そのお二人とは特に仲がよかったそうですね。

「トップリーグに昇格する前のトップイーストリーグを経験している、イーグルス歴10年以上の選手は数少なくなってしまいました。それが三友さん、橋野さんと僕で、本当に気心が知れた仲です。僕がここまでラグビーを続けられたのは、昨季で引退した山路泰生さんや城彰さん、湯澤奨平といった近い世代の選手がいて、特に年上の選手たちががんばっていた姿を見ていたからです。『自分もがんばらねば』という気持ちになりましたし、常にエネルギーをもらっていました。練習が終わってからも話す機会が多く、今季も公式戦のメンバーに絡むことが多かった三友さん、橋野さんのお二人には特に感謝しています。彼らがいなければここまで長くラグビーを続けることはできていなかったと思います」

── 同時に引退される三友選手はどんな存在でしたか?

「プレーで、つまり背中で語る選手でした。フィジカルが特別強いわけでもサイズが際立って大きいわけでもないのに、正確なプレースキックや必ずゲインする強さを武器にされていました。シーズン最終戦まで出場されていましたが、そのこと自体に勇気をもらい『自分もがんばろう』と思っていました。頼れる存在で経験もある、まさに『ミスターイーグルス』で、イーグルスに様々な影響を与えてきた中にネガティブなものは一つもありません。練習後にも淡々とキックの練習をするといった行動面、日頃の姿勢には若手も感じるものがあったと思います。それを日々当たり前のようにやり続けることがいかに難しいかみんなわかっていますので、それを体現し続けて我々に見せてくれた選手だと思います」

── 橋野選手についてはいかがでしょうか?

「プレーでも言葉でも語れる選手でした。僕はどちらかというとネガティブな方で悩んでしまうこともあり、プライベートでもよく話をしていた橋野さんにはたびたび相談していました。セブンズで不在にされていることも多かったですが、誰からも愛されるキャラで、ポジティブでスキルもあり、できれば『セブンズよりもイーグルスで長くプレーしてほしい』と陰ながら思っていました。一緒にトップリーグに昇格した年(2012-2013シーズン)の試合など、本当に思い出があり過ぎてここでは話し切れません」

── そのお二人とは偶然にも同じタイミングで引退となりました。

「うれしくもありますが、お二人にはもう少し続けてほしかったという寂しさもあります。イーグルスの遺伝子を引き継いできた生え抜きの選手は大事な存在です。トップイーストリーグからの昇格をはじめ、生え抜きが築き上げてきたものがあるからこそ今のイーグルスがあると思っていますので、今季も活躍していた三友さんや橋野さんは来年開幕の新リーグでも続けてほしかったです。寂しいですが一緒に現役を終えて、今後はラグビーのスケジュールにとらわれることなくプライベートで交流できる日を楽しみにしています」

── そのお二人に匹敵するほど金子選手も長くキャリアを続けられました。10シーズン戦い抜いての実感はいかがでしょうか?

「こんなに長く続けられるとは思わなかった、というのが正直な感想です。先に引退した同期の和田拓、城彰らは1、2年目から試合に出ていましたし、まさか僕が入社同期の中で一番長く現役を続けられるとは思っていませんでした。僕も一緒に出場してはいましたが彼らのようなリーダーシップは持っていなかったですし、『5年ぐらい選手としてできれば幸せかな』と当時は考えていました。ありがたいことに毎年毎年出場させてもらい、10年間現役を続けさせていただきましたので、チームを離れる寂しさはありますが悔いはまったくありません。やり切りました」

── 今季のことは冒頭でうかがいましたが、昨季以前で特に思い出に残った瞬間があればお教えください。

「一番はトップリーグ昇格初年度(2012-2013シーズン)の開幕戦、快勝したNTTドコモ戦ですね(〇38-14)。他には、秩父宮ラグビー場で雨の中戦ったヤマハ発動機戦(2013-2014シーズンの1stステージ第7節。〇28-18)、あとは町田でトヨタ自動車に勝った試合(2015-2016シーズンのリーグ戦第6節。〇26-10)、そしてやはり今季のヤマハ発動機戦(〇40-32)ですね。区切りのシーズンで唯一勝利に貢献できた試合でした。ラグビーをやってきてよかったと思える試合はこのようにほぼ毎年ありましたし、よく覚えています」

(2012年9月1日 NTTドコモレッドハリケーンズ戦)
(2012年9月1日 NTTドコモレッドハリケーンズ戦)
(2013年10月26日 ヤマハ発動機ジュビロ戦)
(2013年10月26日 ヤマハ発動機ジュビロ戦)
(2015年10月26日 トヨタ自動車ヴェルブリッツ戦)
(2015年10月26日 トヨタ自動車ヴェルブリッツ戦)
(2021年3月14日 ヤマハ発動機ジュビロ戦)
(2021年3月14日 ヤマハ発動機ジュビロ戦)

── やはりトップリーグ昇格1年目は思い出深いですか?

「特別なシーズンでした。緊張感があふれていましたし、ラインアウトでのファーストスローの緊張は忘れられません。FB和田拓のドロップゴール(前半29分)など、すべて覚えています。トップリーグへの昇格を目標にチームとしてやってきて、開幕前の練習試合でヤマハ発動機に大敗してしまい不安が残ったのですが、昇格早々NTTドコモに快勝したので、その勝利の味は今でも覚えています」

(2012年9月1日 NTTドコモレッドハリケーンズ戦)
(2012年9月1日 NTTドコモレッドハリケーンズ戦)

── 今季の納会で引退のご挨拶をされたと思います。他の選手たちにどんなことを伝えましたか?

「ケガをしている時も多くの方に支えてもらいましたので、仲間への感謝を伝えました。三友さんからも橋野さんからも『ヒザ、大丈夫か?』といつも気にかけていただきました。みんながいたからこそ10シーズンも現役を続けられましたし、今季のヤマハ発動機で勝てたのもみんなのおかげでした。感謝と仲間の大切さを伝えさせてもらいました」

── イーグルスの10年は金子選手の人生においてどのような意味があったと考えていますか?

「人間として成長させてくれたことと、様々な人々と出会えたこと、ですね。9歳も下の世代とラグビーをするとは思ってもいなかったですし、こうしてラグビーをしていなかったら出会うことのなかった人とたくさん出会えました。ですからラグビーは出会い、そして感動を与えてくれたものだと思っています。ラグビーをしていなければ大人になって泣くこともなかったでしょう。イーグルスOBの菊谷崇さん、小野澤宏時さん(ともに元日本代表)といった世界で戦ってきた方々の意見や考え方に触れることもできましたし、長くやってきたからこそいろいろな人と出会い、また時間を共有し、同じベクトルに向かって目標を達成するためにやってきたことは、たとえ最後の結果が負けであっても決して無駄ではありません。自分の人生に感動をもたらしてくれた、いい10年間だったと思っています」

── 今後は社業に専念されるそうですね。

「はい。プリンター事業を担当しており、オペレーション業務でOEM先の企業と連絡を取り合いながら在庫の管理などをしています」

── 社業の傍ら、来季の新リーグ以降はイーグルスを外から見る形になります。

「僕のように去った選手が何か口を出すことはありませんが、OBなので時々顔を出したいです。もし相談に乗れることがあれば、共に戦った仲間であることに変わりはありませんので、プレー以外の面でサポートしていきながらラグビーに対して恩返ししたいと思っています。また、子どもたちを含めいろいろな人にラグビーを教えていきたいという思いもあります」

── イーグルスの試合は見に行かれますか?

「もちろんです。コロナがいつ終息するかわかりませんが、他のOBと一緒に見に行きたいですね。日産スタジアムでの試合が増えると思いますので、新横浜まで行きたいと思っています」


ラグビーがもたらした出会いと感動の数々。イーグルスでの10年間で多くのものを得た一方で、ファンに対しても多くの感動をもたらした金子大介選手の言葉には、ラグビーの世界に留まらない大事な人生訓が含まれているのではないだろうか。

心から仲間を思い、組織を思い、一線を退いてもその愛が変わることは決してないだろう。そんな金子選手のセカンドキャリアの成功を願わずにはいられない。

(インタビュー&構成:齋藤 龍太郎)

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