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イーグルスマンスリーコラム

イーグルスマンスリーコラム

イーグルスマンスリーコラム第4回

村上晃一

三友良平選手
三友良平選手

キヤノンイーグルスには誇るべき数字がある。トップリーグのデータ分析を担当する「データスタジアム」の集計では、キヤノンは、ラインブレイク(防御ラインを突破)される回数が極めて少ないのだ。ファーストステージの7試合で、被ラインブレイクは14回。これはリーグ2位である。密集サイド周辺からタッチライン際まで総じて崩されることが少なく、失トライも、タッチライン際が半数以上ある。最後まであきらめずに追いかけ、相手のトライ後のゴール成功率を低く抑えるなど、粘り強さは際立っている。ちなみに、CTB三友良平の個人タックル数はリーグ2位(84回)だ。

だから、セカンドステージのグループA(ファーストステージ各プール上位4位)に進出するのは当然なのだが、数字が良くても勝てないのがラグビーの面白いところ。トップ4入りを決めるまではピンチの連続だった。10月6日、クボタスピアーズに敗れた時点で2勝3敗と黒星が先行。プール4位以内は風前の灯火となる。残り2試合の相手は、コカ・コーラウエストレッドスパークスと、ヤマハ発動機ジュビロ。キヤノンと勝ち点争いでしのぎを削るクボタは、リコーブラックラムズとコカ・コーラウエストだった。負けなしで走るヤマハ発動機戦を残すキヤノンが、やや不利と見られるのは当然だった。

しかし、追い詰められたキヤノンは逞しかった。コカ・コーラウエストに対しては、原田季郎、アイザイア・トエアバ、和田拓らが次々にゴールラインを駆け抜けて10トライ。30点差(66-36)をつけ、勝ち点で並んだ場合の得失点差争いで優位に立つ。そして、運命の第7節、細かい勝ち点計算は省くが、キヤノンが生き残るためには、4トライ以上のボーナス点を獲って勝ち、勝ち点「5」を積み上げる必要があった。

アイザイア・トエアバ選手
アイザイア・トエアバ選手
和田拓キャプテン
和田拓キャプテン
ティム・ベネット選手
ティム・ベネット選手



対するのは負け無しで首位を走るヤマハ発動機である。キヤノンは凄まじい気迫でヤマハに襲い掛かった。まずは、ラックサイドをしつこく攻めてPR菅原崇聖が先制トライ。ヤマハのSO大田尾にトライを返されたが、17分、ヤマハの連続攻撃に耐え、CTBティム・ベネットがインターセプトから2つめのトライを奪う。スクラムで押し込まれるなど起点では苦戦したが、組織防御は安定していた。なにより、ブレイクダウン(ボール争奪局面)での懸命のプレーは感動的ですらあった。各選手が、「全身の筋肉を総動員して戦っている!」と表現したくなる奮闘だった。

後半13分、ベネットが再びインゴールに躍り込んで3トライ目。しかし、あと一つが奪えなかった。何度も何度も攻め込まれ、必死の守りが続いた。17分、ゴール前のピンチで交代出場のトエアバがトライを防ぐタックルも、直後にSOカラム・ブルースが相手のトライチャンスを奪う反則と判定され、シンビン(10分間の一時退場)を宣告された。20分、ヤマハCTBマレ・サウにトライされ、勝利すらも危うい3点差(21-18)。絶体絶命のピンチである。

だが、ここから躍進の要因「大崩れしない防御」が発揮される。ヤマハの猛攻を全員が足を動かして耐えた。時間は刻々と経過し、残り2分を切ったスクラムもヤマハボール。もう4トライは無理かと誰もが思ったとき、最後の攻防でチャンスが転がり込む。交代出場のヤマハSH曽我部がラックからボールを持ち出そうとした刹那、その腕に限界まで手を伸ばしたLOアストン鷹クロフォードの指先がわずかに届いたのだ。こぼれたボールをFL植松宗之が拾い上げ、すかさず原田につないだ。観客総立ちの中で、164㎝のポケットロケットがバネの効いた走りでインゴールへ滑り込む。歓喜の、そしてグループA行きを決める劇的トライだった。

原田季郎選手
原田季郎選手


永友洋司監督
永友洋司監督

菅原崇聖選手
菅原崇聖選手

ノーサイド直後の永友洋司監督は声を弾ませた。「選手が最後までトライを獲りに行ってくれた。そこに尽きます。ヤマハさんも素晴らしかった。選手の成長を感じる試合でした」

このヤマハ発動機戦だけでキヤノンは6回ものラインブレイクを許している。それまでの6試合で、たった8回だったことを思えばいかに苦しい試合だったかが分かる。第2節でパナソニックワイルドナイツを破った華麗な個人技は見られず、ひたすら我慢の勝利だった。観客を喜ばせる面白いゲームもあれば、僅差勝負をものにする感動の戦いもある。勝ちきる底力もついてきた。ファーストステージ全体を振り返れば、キヤノンは強豪チームになるための階段を着実に上っていたと言えるだろう。

ヤマハ発動機戦のマン・オブ・ザ・マッチ菅原崇聖の「もうひるむことはなくなりました。自信がついてきたと思います」の言葉がいい。セカンドステージは、トップリーグの常勝チームが並ぶが、今のキヤノンならやれるはずだ。臆することなく戦ってもらいたい。



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村上晃一

◎プロフィール

ラグビージャーナリスト。京都府立鴨沂高校→大阪体育大学。現役時代のポジションは、CTB/FB。86年度西日本学生代表として東西対抗に出場。87年4月ベースボール・マガジン社入社、ラグビーマガジン編集部に勤務。90年6月より97年2月まで同誌編集長。出版局を経て98年6月退社し、フリーランスの編集者、記者として活動。ラグビーマガジン、ナンバー(文藝春秋)などにラグビーについて寄稿。J SPORTSのラグビー解説も98年より継続中。99年、03年、07年、11年のワールドカップでは現地よりコメンテーターを務めた。著書に、「ラグビー愛好日記トークライブ集」(ベースボール・マガジン社)3巻、「仲間を信じて」(岩波ジュニア新書)などがある。

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