「強いイーグルス愛でどんな形でも貢献したい」
横浜キヤノンイーグルスから移籍して早4シーズン。リコーブラックラムズ東京での3シーズン、九州電力キューデンヴォルテクスでの1シーズンを経て、LO/FL/NO.8田中真一が慣れ親しんだキヤノンスポーツパークに戻ってきた。
ボールキャリーとフィジカルの強さが光るバックローのイメージが強いが、移籍先ではLOとしてもプレーするなど、さらに経験を積んで古巣に復帰した形になる。
5シーズン活躍したイーグルスに再び戻る決断を下した理由は、どのようなものだったのか。そして他チームでの4シーズンで経験したものとは。32歳で迎える2度目のイーグルスでのシーズンを前に、現在の心境を聞いた。
(取材日/9月7日)
みんなからの「おかえり」がうれしかった
── リーグワンが産声を上げた2022シーズン以来、4シーズンぶりのイーグルス復帰となりました。まずは、キューデンヴォルテクスからの移籍を決めた理由からうかがいます。
「イーグルスから声をかけていただきました。4シーズン前にブラックラムズへ移籍して、昨シーズンにディビジョン2のキューデンヴォルテクスに行ってからはコンスタントに公式戦に出場することができました。それによって『もう一度ディビジョン1のレベルにチャレンジしたい』という思いが募り、そんなタイミングでイーグルスからオファーをいただいたので、チャレンジしたいと考えて再びここへやってきました」
── イーグルスには5シーズン所属し、主にバックローとしてボールキャリーとフィジカルの強さを武器に活躍されていました。その点は今も変わらず田中選手の強みでしょうか?
「そう思っています。付け加えると、複数のチームを渡り歩いてきた過程で6番、7番(以上FL)、8番(NO.8)のバックローに加えてLOも経験し、どのチームでも複数のポジションでプレーしてきたことも新たな強みになっていると考えています。イーグルスの全体練習はまだ始まったばかりですが、今は7番に入っています」
── 旧知のチームメイトが数多くいるイーグルスでいよいよ全体練習が始まりました。
「選手、スタッフには懐かしい顔が多く、覚えているサポーターのみなさんもたくさんいて、みんなから『おかえり』と言ってもらいました。在籍年数が一番長いのはイーグルスなので、やはりうれしかったです」
── 特に関係性の強い選手はどなたでしょうか?
「1つ年上のSH荒井康植さんは、前に在籍していたときから親しくさせてもらっています。同期も仲がよかったのですがみんな引退、または退団をしてしまいました。それでも知っている関係者がたくさんいるので、とてもなじみやすかったです。もちろん、新しく加わった選手も含め、みんなに助けてもらっています」
── 外側から見たイーグルスにはどんな印象を持っていましたか?
「ブラックラムズに移籍した当初は、イーグルスの方が上位につけていましたが、ここ2シーズンは『どこかうまくいっていないのかな』と思いながら見ていました」
── イーグルスに戻ってきて感じたチーム内の変化は何かありますか?
「チームとしての変化については正直わかりませんが、こうして歳を取って帰ってきた今、自分が若かった当時と比べて感じているのは、準備のしかたです。若いときは、練習開始直前にグラウンドに来て、終わったら帰るというパターンでも特に問題なかったのですが、今はそうはいきません。早く来てしっかりと準備してから練習に臨み、練習後も十分にケアしてから帰らないと翌日の練習に影響します。家族の協力を得ながら、引き続きコンディション管理をしていきたいです」
── 移籍後、コーチ陣とはどんな話をしましたか?
「レオン・マクドナルド ヘッドコーチとは1対1でミーティングしました。まだ、お互いに知らないことが多いので、このプレシーズンで密にコミュニケーションを取って、僕はゲームで自分らしさを見せていきながら、互いを理解していけたらいいですね。といった話をしました」
── スクラム担当の岡崎匡秀 アシスタントコーチはブラックラムズでも指導を受けた仲です。
「そうですね。ブラックラムズ時代は負傷離脱が多かったにもかかわらず、岡崎さんには評価していただいていたので、イーグルスでもがんばりたいと思っています」
元チームメイトのパフォーマンスが自分のモチベーションに
── ブラックラムズから移籍した昨シーズンは、ブラックラムズにとっては飛躍のシーズンとなりました(シーズン5位)。
「イーグルスと同じように、ブラックラムズのことも移籍した後も外から見ていました。チームをチェックしていたというより、よく知る元チームメイトの活躍が気になって『あぁ、彼はがんばっているな』と感じることが自分のモチベーションにもつながっていました」
── 昨シーズン、キューデンヴォルテクスでは、イーグルス時代にも薫陶を受けた今村友基さんがヘッドコーチとしてチームを指揮していました。
「イーグルスでもお世話になった友基さんは僕のことを気にかけてくださいました。もちろん、ポジション争いについては厳しくフラットに見ていただき、その結果、高く評価してもらって多くの出場機会をいただき、試合に出ることで多くのものを得ることができました。やはり成長できるのは何よりも試合だと思っています。もちろん、イーグルスでもブラックラムズでも試合には出ていましたが、継続的に先発したことはあまりなかったので、やはり昨シーズンの経験は大きな糧になりました」
── それ以前は、負傷離脱が長引いた時期もあれば、万全の状態でも思うように出場機会を得られない時期もあったと思います。そんなときは何をモチベーションにして乗り越えてきたのでしょうか?
「自分のパフォーマンスを上げてキープすることに集中していました。チームのために、という意識に加えて、個人としてのスキルアップに努めながら次に備えていました。ケガに関して付け加えると、ブラックラムズに移籍した2022-23シーズンの開幕戦(先発出場)の次の週にひざの前十字靭帯が切れてしまい、悔しい思いをしました。とても体の調子がよく、まさにこれからというタイミングだったので先行きが不安になりましたが、あらためて自分の実力を示せれば評価してもらえると考えて『再びチームの力になれるように』という思いで復帰を目指しました。ちなみに、大学時代にも反対の前十字靭帯が切れたので、両ひざの前十字靭帯を切ったことになります」
年齢は関係なく、あくまでもフラットな意識で取り組む
── 地元は東京で、國學院久我山高校、明治大学、イーグルス、ブラックラムズと比較的近いエリアでプレーされ、キューデンヴォルテクスで初めて地方都市でプレーしました。
「そうですね。ただ、転勤の多い家庭だったので、最初にラグビーを始めたのは兵庫県です。4歳のときに、幼稚園の友達に誘われて西宮甲東ジュニアラグビークラブに入ったのが始まりでした。ただ、すぐにラグビーに夢中になったわけではありません。その友達と仲がよかったので、一緒にラグビーをするのが楽しかった、という感覚でした。『このままラグビーを続けていこう』と考えるようになったのは、西東京ラグビースクールでプレーしていた中学3年時に國學院久我山から声をかけていただいたころのことです。当時、すでに体が大きく、ボールを持って走ればある程度トライが獲れたので、それが楽しいと感じていました」
── その後、明治大学に進学して活躍しました。早明戦への出場がラグビー人生で一番うれしいと感じたことだそうですね。
「明治での4年間は寮生活をしながら友達もでき、本当に濃密でした。今でも早明戦に限らず明治の勝ち負けは気になりますし、昨年度の全国大学選手権の優勝はうれしかったです。国立競技場(MUFGスタジアム)での早稲田大学と決勝だったので、なおさら喜びましたね」
── トップリーグ(現リーグワン)でもラグビーを続けていこう、と決意したのも大学時代でしょうか?
「はい。3年時から4年時にかけてよく試合に出させてもらい、何チームか声をかけていただきました」
── そのひとつがイーグルスだったことになりますが、イーグルス加入の決め手は何だったのでしょうか?
「東京出身なので在京チームでプレーしたかったのと、歴史が(他チームと比べて)そこまで長くなく、そういうチームで歴史を積み重ねていく過程に自分も加われればと考えてイーグルスに入ることにしました。トップリーグを観戦するタイプではなかったので、特定の選手を目標にしていたわけではないのですが、当時一緒にプレーした菊谷崇さん(元日本代表キャプテン)は、体の面でもラグビーIQの面でもすごいな、と感じていました」
── 4シーズン前と比べてイーグルスのバックローには新たな選手、若い選手が多数加わっています。
「僕個人としては、若手とかベテランといったカテゴライズは特に意識していません。それぞれ自分のプレースタイルがあり、それをみんなで共有して練習することで、多くのことが学べますし、僕自身も移籍のたびに様々さまざまなことを学んでいます。たとえば、僕と同じく7番の聖人(FL古川聖人)はリーダーシップのある選手で、そういう面を彼から学ぶことができています。年齢は関係ありません。あくまでもフラットな意識で取り組んでいます」
── 最初にイーグルスに加入してから9年が経ち、10シーズン目を迎えた今、当時と比べてリーグワンのラグビーにどのような変化を感じていますか?
「明治大学からイーグルスに入ったときよりも、外国人選手の数が増えたことに伴って、コンタクトレベルが上がり、フィットネスもさらに求められるようになりました。だからこそ、先ほども言ったようにコンディション管理には気を付けていきたいです」
── ラグビーの質や強度が変わってきたなかで、田中選手はどんなプレーでディビジョン1の戦いに臨んでいきたいですか?
「実は『このプレーが僕の武器』というものは特になく、得意なプレーを聞かれてもパッと出てくるものがないんです。ですから、どのプレーも平均レベルよりも高い水準でできるように心掛けています。バックロー、特にNO.8は攻守の要と言われていますので、ビッグタックルで相手を仕留めないといけないですし、アタックではトライにつながるプレーをしないといけないと思っていますので、そういったことは練習でも試合でも意識してやっていきます」
── 日々ハードなトレーニングを続けるなか、お子さんの存在が癒しになっているそうですね。
「はい。まだ1歳半の子で、一緒に遊ぶ時間は特別です。練習も遅くまであるわけではないので、練習後や休みの日はできるだけ遊ぶようにしています」
── 充実した時間を過ごしている田中選手の、今シーズンの個人的な目標を教えてください。
「もちろん公式戦に絡むことが一番のターゲットと考えています。その一方で、年齢を重ねてきたこともありますので、僕がイーグルス、ブラックラムズ、キューデンヴォルテクスの3チームで得てきたラグビーの知識を後輩たちに共有していければいいなと考えています。そして、やはり最初に入ったチームですからイーグルス愛も強いので、どんな形であってもチームに貢献していきたいと思っています」
── 最後にサポーターのみなさんに今シーズンの決意をお願いします。
「4シーズンぶりにイーグルスに帰ってきました。うれしいと同時に、今シーズンが本当に楽しみです。自分のいいところを出しながら、イーグルスのラグビーに貢献できるよう、これからも精一杯がんばります」
移籍前からよく知るチームメイトたちとの旧交を深めつつ、新たにチームメイトになった若い選手たちから学ぶことも怠らない32歳のベテランの目は、ルーキーのように輝いていた。古巣で再びプレーできる喜びはもちろんのこと、まだまだできるという前向きな気持ちの表れでもあるのだろう。
FWの選手層が一段と厚くなったイーグルスでのポジション争いは熾烈を極めるが、再びディビジョン1の公式戦の舞台で縦横無尽に駆け回る元気な姿を、多くのサポーターに見せてくれるはずだ。
(インタビュー・文/齋藤龍太郎)