「最終目標はワールドカップ」
ラグビーの本場、ニュージーランドから23歳の若き逸材が横浜キヤノンイーグルスにやってきた。ゲージ・ジャクソン。194cm109kgという恵まれたサイズや、FW第2列から第3列までプレーできる対応力、そして何より期待に胸を膨らませている様子がひしひしと伝わってくる言葉と表情からは、大きな可能性が感じられる。
今回、イーグルスでプレーすることになったのはレオン・マクドナルド ヘッドコーチとのつながりが深く関わっているそうだが、実は日本そのものと強い縁で結ばれていることも若き逸材の来日の決め手になったという。運命的な加入の経緯や今後の目標についてインタビューした。
(取材日/9月7日)
日本で生まれ、日本を懐かしむ若きキウイ
── 今回、日本に来てどれくらい経ちましたか?
「来日して3週間目です。1週間目のトレーニングは(ハードで)肺が燃えているような感覚でしたが、イーグルスのプレースタイルを理解してきましたので、今はとてもわくわくしています。NPC(ニュージーランド州代表選手権。ジャクソン選手はノースハーバーでプレー)はオフシーズンが短いのですが、日本のリーグワンはオフが長く、その間に非常に強度の高いトレーニングをしていると感じています」
── こうして日本に来て、今の実感はいかがでしょうか?
「実は私は東京の二子玉川で生まれ、親も10年ほど暮らしていました(※父はリコ―ブラックラムズなどで活躍した元選手、元コーチのブランドン・ジャクソン氏)。私自身も日本の文化を味わい、箸も使えるようになり、白米の味も知っています。今では日本食が一番好きですし、日本語も少し話せますので、こうして久しぶりに来日しても、食事や文化はまったく問題ないと感じています」
── その当時、何か覚えていることはありますか?
「2歳のときまでしか生活していなかったので、日本のことをすべてはっきりと記憶しているわけではないのですが、日本のいろいろなものを見ると不思議と懐かしい気持ちになります。ですから、潜在的には思い出が残っているのかもしれません」
── そういう意味でも日本に戻ってこられたことはうれしいのではないでしょうか?
「そうですね、とてもポジティブな気持ちですし、これから慣れていくのが楽しみです。今は部屋に何もない状態なので、これから家具を揃えていくことも楽しみですね(笑)」
── レオン・マクドナルド ヘッドコーチとはもともと接点があったのでしょうか?
「レオン ヘッドコーチはブルーズ(スーパーラグビー)を指揮していたので、当時U18のブルーズだった私も関わりがあり、その縁から今回イーグルスに来ることになりました。今、レオンから求められていることは、とにかくアグレッシブなプレー、そしてワークレート(仕事量)です。その点は、来日前から想像していたとおりでした」
── マクドナルド ヘッドコーチが率いていた当時も含め、やはりブルーズのラグビーをよく見てきたのでしょうか?
「そうですね。スーパーラグビー トランス・タスマン(2021年)の決勝をライブで見ていて、優勝した瞬間は部屋で飛び上がって喜びました」
── 他にも以前から関係性のあるコーチや選手はいますか?
「LO/FLランダル・ベイカー選手もチームメイトでした。また、LOリアキマタギ・モリ選手は私の父がコーチングをしていました。テレビでは、FL/NO.8ビリー・ハーモン選手やCTBリーバイ・アウムア選手をよく見ていました。そんな選手たちと一緒にプレーできるのが本当に楽しみですし、実際に練習の仕方やプロとしての生き方を間近で見ることが大きな学びになっています」
── イーグルスからのオファーがあったとき、どう感じましたか?
「日本生まれという自分の経歴と縁も含め、本当にわくわくしました。オークランドの選手やコーチがたくさんいることも楽しみでした」
── それもジャクソン選手にとって大きなアドバンテージになりそうですね。
「はい。まだ言葉の壁があって深い話まではできないのですが、オークランド大学でも日本語を専攻しましたし、今は日本語のレッスンも受けています。そもそも、イーグルスは英語を話せる人が多いので、不便さを感じることはないですね」
ベストな選手になってチームに貢献し、優勝する
── 幼いころからラグビー選手を夢見ていたのでしょうか?
「ラグビーは4歳からやっていましたが、ラグビーは一生できるわけではないので、父からは『大学はしっかりと出るように』といつも言われていました。そして、無事に大学を卒業して、こうしてラグビーとともに人生を歩んでいます」
── 現時点で、イーグルスはどんなチームだと感じていますか?
「同じラグビーチームですから、ノースハーバーとそこまで大きな違いはないと感じていますが、みんな本当に温かくて、すぐに受け入れてくれたところにチームカルチャーを感じました。そしてそのために、みんながいろいろなことを考えてくれていると感じています」
── 南アフリカ代表のCTBジェシー・クリエル選手はリーグワン開幕前の合流となりそうです。初めて会うことになりますね。
「ただただ楽しみです。他の選手から聞いた話では本当にプロフェッショナルな選手ということなので、会える日を待ちわびています」
── 元ニュージーランド代表のLO/FL/NO.8サミペニ・フィナウ選手、SO/FBスティーブン・ペロフェタ選手らもじきに合流します。
「もちろん楽しみです。(前ブルーズの)ペロフェタ選手とは、1回か2回くらい一緒にトレーニングしたことはあるのですが、当時の私はまだまだ下積みの選手だったのでそこまで関わりはないのですが、一緒にプレーできる日が待ち切れません」
── 日本のラグビー、リーグワン全体についてはどんな印象を持っていますか?
「スキルのレベルが本当に高いですし、テンポも速く、見ていて楽しいラグビーです。そして、ニュージーランドの選手が多いので、彼らと対戦できるのが楽しみですね。私はNPCの選手だったので、ニュージーランドではスーパーラグビーのレベルの選手と対戦する機会があまりなく、ここ日本でそういう選手たちと対戦できるのはすごく楽しみです」
── ぜひ対戦したいと考えているチームはありますか?
「ラグビーでも企業としてもライバルのリコーブラックラムズ東京です。TJ・ペレナラ選手(元ニュージーランド代表SH)のことは一方的に知っているだけですが、もし対戦が実現したら素晴らしいと思っています」
── ジャクソン選手が憧れていた、またはお手本にしていた選手はいましたか?
「キアラン・リード選手(元ニュージーランド代表キャプテンでNO.8)です。ワークレートが高く、ラインアウトリーダーという点でも私にとってのロールモデルです。トヨタヴェルブリッツでもプレーされていましたね」
── 今シーズンも活躍が期待されるLO/FLランダル・ベイカー選手も昨シーズンからプレーして大きく成長しました。やはり刺激になっていますか?
「そうですね。彼の活躍は本当にうれしいです。ランダルは、フルタイムのプロ選手としてプレーし、今は(NPCの)オークランドに戻ってプレーしていますが、それを見ていても本当に日本のラグビーのレベルは高い(がゆえに今も結果を残している)という印象を受けています」
── ジャクソン選手自身は、日本ではなくスーパーラグビーを目指すことも考えていたのでしょうか?
「私の最終的な目標は、ラグビーワールドカップに出場することです。ニュージーランド、オーストラリア、日本の3カ国の代表資格を満たしています。もちろん、どのチームの代表選手になれるかはわかりませんが、いつかワールドカップに出場することと、幼少期から夢見ていたスーパーラグビーでプレーしたいという思いを強く持っています」
── ご自身の強みは何でしょうか?
「バックロー、特に7番(オープンサイドFL)として体格が大きいこと、そして6番(ブラインドサイドFL)やNO.8だけでなく、LOもカバーできる対応力が私の強みです。今、練習では6番に入っています。そして、ワークレートと、オフロードのスキルも武器だと思っています」
── そんなジャクソン選手の直近の目標を聞かせてください。
「個人としては、ベストな選手になることが目標です。そして、このチームに貢献して、優勝することを目指しています」
見せたいのは、ワークレート・オフロードパス・ラインブレイク
── オークランド・グラマースクールに通っていた高校時代、U18ニュージーランド代表に選ばれたそうですね。
「はい。コロナ(新型コロナウイルス感染症)の影響でプレーはできなかったのですが、私のラグビー人生において最も光栄に感じた経験でした。高校のベストの15人に選ばれたことがすごくうれしかったですし、その経験を経てNPCでプレーした結果、こうしてイーグルスに来られたことも幸運でした」
── 難しい時期だったと思いますが、どのように乗り越えたのでしょうか?
「たしかにパンデミックによる制限はありましたが、友達とオンラインゲームをしながら勉強もしていたので、ストレスはそこまでなく楽しい時期でした」
── ラグビーのプレー感覚はどのように取り戻していきましたか?
「コロナの最中は、家でウエートトレーニングができる環境があったので、個人でトレーニングを行い、スキルについては自分の動画を高校のチームに送って見てもらっていました。そういうことが、ラグビー選手としての成長につながると考えています。そして、私にとって大事なのはたくさん食べることです。体重が増えにくい体質なので、できるだけ食べるようにしています。日本食は健康にいいですし、クラブハウスの食事も本当においしくてヘルシーな食生活を送れています。うなぎだけは自分の口にはちょっと合わないですけどね(笑)。外では好きなラーメンや焼肉を少し抑えるようにしています」
── スムーズにチームに溶け込めたようですね。
「はい。先日はUBKティアーン・ファルコン選手とハウスディナーをして、パスタを作ってもらいました。また、みんなとチェスやカードゲームをすることにハマっていますし、本当にびっくりするほどスムーズにチームに溶け込めました。スムーズではないのは気に入って買ったソファーがまだ届かないことぐらいです(笑)」
── 先日は公開練習が行われ、イーグルスのサポーターのみなさんと初めて触れ合う機会があったと思います。どう感じましたか?
「驚くほど素晴らしい経験でした。平日の朝、しかも雨のなかを来てくれた多くのサポーターのみなさんの情熱に圧倒されました。いっぱい自撮りしてもらいました(笑)」
── ジャクソン選手には定番の愛称などはあるのでしょうか?
「友達からはジャクソンにちなんで、"ジャコ"と呼ばれています。色白なので"イエティ"とも呼ばれていますが、もしサポーターのみなさんから呼んでいただくとしたら"ジャコ"の方がうれしいです」
── サポーターのみなさんも含め、温かい雰囲気を感じているのではないでしょうか?
「そうですね。イーグルスの一員になったことを幸せに感じています。情熱的なサポーターのみなさんの存在も大きいです」
── そんなみなさんにどのようなプレーを見せたいですか?
「やはりまずは、ワークレート、そしてオフロードパス、ラインブレイクですね。また、クラブラグビーのレベルでしか披露できていないのですが、キックしたボールを自ら追う "チップアンドチェイス"はちょっとした秘密兵器にしています。そのあたりをお見せできればと考えています」
日本で生まれ、日本の風景や文化を懐かしく思う感覚を持ち、大学でも現在も日本語の上達に勤しむ23歳は、日本に来る運命にあったのかもしれない。しかし、それは断じて他力ではなく、自身がニュージーランドの地でユース時代から着実に成長してきたからこそつかんだチャンスに他ならない。
夢はワールドカップ出場。そして、その前にベストな選手となり、イーグルスで優勝することを目標に据えたLO/FL/NO.8ゲージ・ジャクソン選手の非凡なプレーに期待したい。
(インタビュー・文/齋藤龍太郎)