「毎週成長して自分のベストを尽くすだけ」
トヨタヴェルブリッツで6シーズンにわたりプレーしてきた実績を持ち、日本のラグビーファンにとってもおなじみの存在となったUBKティアーン・ファルコンが、その活躍の場を横浜キヤノンイーグルスへと移した。
スーパーラグビーのチーフス、U20ニュージーランド代表といった輝かしい経歴を持ち、日本のラグビーにも十分フィットしている脂の乗ったUBKは、今回、なぜ環境を変えようと考えたのか。そこには旧知のコーチとの関係、そして、自身のキャリアをさらによいものにするという強い思いがあった。
(取材日/9月10日)
全員が「成長したい」という意欲に満ちあふれている
── イーグルスへ移籍した今、チームの印象や率直に感じていることを聞かせてください。
「みんなスキルレベルが高く、全員が『成長したい』という意欲に満ちあふれているので、本当に感心しています。チームからフレッシュなエナジーを感じています」
── グラウンドやクラブハウスなどの環境についてはどう感じていますか?
「みんなのコネクション(つながり、関係性)がより深まり、全員がこの場を大事にしているので、いわば我々をファミリーにしてくれている家のような環境です」
── 移籍間もない時期ではありますが、すでに仲のいい選手はいるのでしょうか?
「すでにみんなと楽しく過ごしています。試合をしたことで仲が深まった選手もいますし、ヴェルブリッツで一緒にプレーしたマサト(FL古川聖人)とアキヤマ(LO秋山大地)とは、引き続きいい関係を築いています。また、同時に加入したLO/FL/NO.8ゲージ・ジャクソンは、毎日車に乗せて送迎しています」
── イーグルスで3シーズン目を迎えて、すっかりチームの顔の一人になったFL古川選手は、ポジティブな風をチームに送り込んでくれる選手だと感じています。
「そうですね。グラウンドでは素晴らしいリーダーであり、常に集中して戦っている選手ですが、オフフィールドではよくしゃべりますし、ラテアートを作って披露することもあります。本当におもしろい選手です(笑)」
── ヴェルブリッツも国内屈指の名門チームですが、イーグルスとの違いを感じているところがあればお願いします。
「似ているところが非常に多いのですが、大きな違いを感じたのは先週のウィーク1(第1週)です。合流して初めての練習から強度の高い、また、集中力の必要なトレーニングに取り組んだことです。最初から全開で、決勝を狙っているチームだと感じさせるスタートでした」
イーグルスに移籍することがベストの選択
── ヴェルブリッツからの移籍を決断した理由や経緯について聞かせてください。
「昨季のイーグルスは厳しいシーズンを送っていましたが、外から見ていてポテンシャルの高さを感じていました。その後、コーチ陣とも話をしたのですが、私自身のポテンシャルを発揮できる場所だと感じて移籍を決断しました」
── 6シーズンもの長きにわたりプレーしたヴェルブリッツを離れるのは難しい決断ではなかったでしょうか?
「もちろん長い間所属していましたので寂しい思いはありましたが、私のキャリアにおいてはイーグルスに移籍することがベストの選択でした。他のヴェルブリッツの選手たちも背中を押してくれたので、悔いなく別れを告げることができました。名古屋は近いですから、またいつでも会えると思っています」
── 特にファルコン選手との別れを惜しんでいた仲のいい選手はいましたか?
「FLウィリアム・トゥポウ(元日本代表)は、ヴェルブリッツで長年ともにプレーしてきたこともあってとても仲がよく、私の移籍を知ったとき彼は涙目になっていました。連絡は取り合っていて、昨日も電話しました」
── 現在のイーグルスも、前所属のヴェルブリッツもニュージーランドのコーチが主に指導していますが、ラグビースタイルに違いはありますか?
「どちらもスキルやスピードを駆使した素早いアタックを行い、相手のスペースを見つけて攻めるスタイルで、よく似ています。昨シーズンはお互い1勝1敗で、私は2試合とも欠場していたのですが、本当にいいバトルだなと感じていました。昨シーズンはどちらも下位での対戦となりましたが、今シーズンはできれば上位同士で戦えればと強く願っています」
── 2026-27シーズンはヴェルブリッツとの対戦が少なくとも1回あります(2027年1月23日の第6節。ニッパツ三ツ沢球技場)。
「今から待ち遠しいです。ヴェルブリッツのことはよく理解していますので、私の知識を生かしながら勝ちにいきたいですね。イーグルスは、SOの層が厚いのでその試合に私が10番で出られるかはわかりませんが、あまり先を見過ぎずに1週間1週間を大事にして、できれば10番として自分のベストを尽くしたいと考えています」
── イーグルスのコーチと話をしたということですが、誰かと以前から接点があったのでしょうか?
「チーフス時代にデーブ・ディロン コーチから指導を受けていたので、当時から関係性がありました。彼にイーグルスの話を聞いて、いい場所であることを確信しました。11年ほど前、私の高校生活の終盤に『プロとはこういうものだ』と教わるためにチーフスへ見学しに行ったのですが、そのときデーブは私と私の家族を食事に連れていってくれました。その後も連絡を取り合うことで縁が生まれました。そして今回、再会できたわけです」
── 元々チーフスがお好きだったんですね。
「私の憧れはSOダン・カーター(元ニュージーランド代表)だったので、クルセイダーズのファンでした」
── SOダン・カーター選手は当時、日本の神戸製鋼コベルコ(現 コベルコ神戸)スティーラーズでプレーしていました。
「もちろん知っています。残念ながら今なお会ったことはありませんが、彼はアタック、キック、ディフェンス、タックルなどすべてのことができる万能な選手でした。私もアタックだけにフォーカスすることなくキック、ディフェンスなど、すべてのプレーのバランスがとれた選手を目指してきました」
── スーパーラグビーで過ごした3シーズンは、ファルコン選手にとってどんな時間でしたか?
「ケガが相次いだことで、グラウンドの外から試合を見ることが多いスーパーラグビーのキャリアでしたが、今あらためて振り返ると経験豊富なベテランの選手から多くのことを学び、それが現在のキャリアにつながっているので、とても貴重な経験だったと感じています」
── また、U20ニュージーランド代表にも選ばれました。
「幼いころから黒の代表ジャージーを着ることに憧れていました。それを目標にがんばっていましたので、その夢がかなったときは本当にうれしかったです。今でもオールブラックスを見ると特別な気持ちになります」
── そもそもの話になりますが、チーフスから日本のヴェルブリッツへ移籍しようと考えたきっかけは何だったのでしょうか?
「チーフスでは、ケガの影響で出場機会が限られていたのですが、ヴェルブリッツから声がかかったことで『自分のラグビーをするにはいい機会だ』と考えて来日しました。元々、日本のリーグ(当時トップリーグ)が好きだったこともその動機の一つでした。当初は18カ月の予定でしたが、気づけば6シーズンも過ごしていました」
── 来日した当時は、まだまだ若い選手でした。
「ヴェルブリッツへの移籍が決まったのは22歳のときでしたが、当時は年齢を重ねたニュージーランドの選手が日本に行くケースが多く、私の年齢での移籍は異例でした。それでも、日本に行った選手たちからは『日本はすごくいいところだよ』という話を聞いていました。元ニュージーランド代表ヘッドコーチのスティーブ・ハンセンが指揮を始めたタイミングで(当時はディレクター・オブ・ラグビー。後に監督となり、昨シーズンをもって退任)、彼の下で成長したいと考えたことも移籍の決め手になりました」
個人としての目標は、ラグビーをエンジョイすること
── ヴェルブリッツでは主にFBでした。
「近年はほとんどFBでしたが、その前はSOがメインで、時々12番(CTB)に入っていました。今、イーグルスではSOとして練習しています」
── SOとして取り組んでいる今、感じていることがあればお願いします。
「外側の選手から情報をもらうなど、いいコミュニケーションがとれているので、とてもプレーしやすいですね。イーグルスでは新人なので、CTBリーバイ(・アウムア)やカジ(CTB梶村祐介)からいろいろなアドバイスを受けており、かなり助けられています」
── イーグルスには、さらにこれからニュージーランドの名選手たちが合流します。
「一緒にプレーできるのが楽しみです。日本のラグビーは非常にスピードが速いですが、LO/FL/NO.8サミペニ・フィナウもSO/FBスティーブン・ペロフェタも日本のラグビーに向いていると思いますので、彼らがどう適応していくかを見るのも今から楽しみです」
── イーグルスの近隣には多くのチームがあり、選手たちが垣根を超えて交流していると聞きます。
「そうですね。先日は、SOケイレブ・トラスク(東京サントリーサンゴリアス。元チーフス)と食事に行ったり、NO.8マリノ・ミカエリ=トゥウ(三菱重工相模原ダイナボアーズ)と会ったり、つい最近もヴェルブリッツで一緒だったCTBロブ・トンプソン(東芝ブレイブルーパス東京)ともいい時間を過ごしました。まだ会えていませんがFLサム・ケイン(東京サントリーサンゴリアス。元チーフス)とも仲がいいです。近いエリアにいろいろなチームがあり、さまざまな選手がいる状況を楽しんでいます」
── 公私ともに充実した日々を過ごしているファルコン選手ですが、そんな環境下で今シーズンは何を成し遂げたいか、どういうシーズンにしたいかを聞かせてください。
「ラグビーをエンジョイすることです。新しいチームでラグビーを楽しみながら、ハードにトレーニングをして、ハッピーな気持ちでい続けることを私の個人的な目標にしています。それは今までずっと大事にしてきた私のポリシーですが、ここ1、2シーズンは自分にプレッシャーをかけすぎてしまい、そのポリシーから少し離れたシーズンになってしまいました。今度こそ、自分の信念である『ラグビーを楽しむ』ことにフォーカスします。今回、イーグルスに移籍したことで、そんな原点に立ち返れた、と感じています」
── イーグルスを支え続けている南アフリカ代表のCTBジェシー・クリエル選手はどんな存在だと感じていますか?
「本当に素晴らしい選手です。南アフリカでの活躍ぶりも見ていますが『すごいな』と感心するばかりですね。リーグワンのシーズンも含めて、多忙なスケジュールのなかで常に自分のベストを出し切っており、心から尊敬しています。一緒にプレーできるのが楽しみです」
── CTBクリエル選手の合流は開幕直前になりそうです。
「そうですね。開幕まで短い期間になりますが、彼が合流したら時間を大切にしながら練習します。そこで意思統一を図り、自分たちの見ている方向性を揃えます。長年イーグルスで活躍している選手ですから心配は無用で、むしろ彼を信頼しています。我々の目標は、プレシーズンの間に研鑽してゲームプランを作り上げることです。ジェシーが合流したら我々がジェシーのレベルに上げて合わせるのではなく、ジェシーに我々のゲームプランに合わせてもらうことで我々全体のレベルを上げる、というイメージを持っています」
── 先日は公開練習を行い、サポーターのみなさんが大勢来場しました。
「当日ケガをしてしまったのでみなさんと交流できなかったのですが、試合では私の強みであるロングキックをお見せしたいと思っています。ランニングスピードも見ていただきたいポイントです」
── 開幕からそんなプレーを期待したいです。
「もちろん、メンバーはコーチが決めることですが、私はとにかく毎週成長して自分のベストを尽くすだけだと思っています」
ニュージーランドでも日本でも常に結果を残してきた才能あふれる29歳が約束したのは、開幕からの活躍ではなく、あくまでもベストを尽くすことだった。それが高いパフォーマンスにつながることを確信しているからこその約束だろう。実績と謙虚さを兼ね備えるUBKティアーン・ファルコンの新たなキックオフを見守りたい。
(インタビュー・文/齋藤龍太郎)