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2020.08.25
INTERVIEW

安井龍太選手 入団インタビュー

■「チームの力になれることを考えながら毎日過ごしたい」

安井龍太選手

トップリーグ優勝。一握りの選手しか経験することのできない、その価値あるタイトルを手にしたFW第3列の名手が、キヤノンイーグルスで新たなスタートを切っている。

安井龍太。15人制と7人制、両方の日本代表として活躍した実績を持つ機動力に長けたバックローだ。日本代表のエディー・ジョーンズ前ヘッドコーチに高く評価され、2013年には花園ラグビー場で行われたウェールズ代表戦に出場。神戸製鋼コベルコスティーラーズでは今年2月をもって打ち切られた昨季を含め8シーズンもの間中心選手として活躍し、2018-2019シーズンは優勝に大きく貢献している。

30歳という節目を迎えた安井は、なぜイーグルスを新天地として選んだのか。移籍発表時に「まだ自分のピークはこれからだと思っている」とコメントしていたが、そこにどのような思いを込めたのか。そして目指す高みとは。

7月下旬の練習終了後、安井は終始誠実にインタビューに応じた。
(取材日:2020年7月27日)


■このまま終わりたくない。もう一回チャレンジしたい

安井龍太選手

──神戸製鋼での8シーズンは、優勝も含めて振り返るとどのような年月でしたか?

「1年目から運よく試合に多く出させていただき、大きく成長できた8シーズンでした。僕が入ってから6シーズンぐらいは優勝できそうでできない状態が続いていましたが、指導者もチームの中身も変わり、急激に強くなりました。優勝するチームというのはこういう集団なんだ、と強く感じました」

──そこからイーグルスへの移籍を決断した理由をお聞かせください。

「今年で31歳になります。ラグビー選手はあまり長く現役生活を続けられませんので、30歳は一つの転機だと考えていました。神戸製鋼も自分を成長させてくれる環境でしたが、もう一つ何か自分を変えたい、さらに成長してピークに持っていきたい、という思いが強くなり、環境を変えてもう一回勝負しようとイーグルスへの移籍を決めました」

──関西から関東への移籍は、ご家族のことも考えると覚悟が必要だったと思います。

「単身赴任で東京に来ていますので家族には負担をかけていますが、妻に『このまま終わりたくない。もう一回チャレンジしたい』という話をしたところ、心から応援してくれました。だからこそ東京にいる間はイーグルスにコミットして、選手としてもっともっと成長していきたいと考えています」

──移籍発表時のコメントに「自分のピークはこれから」という一文がありました。そのための環境としてイーグルスが最適な移籍先だと考えたのでしょうか?

「はい。もっと上に行くポテンシャルを持っている、これからのチームだと感じました。今年1月12日のトップリーグ開幕戦で対戦した時も要所要所に怖い選手がいて、決して楽に勝てる相手ではないと思っていました。今季は監督も代わり、経験豊富な選手はもちろん若くポテンシャルのある選手もたくさんいます。非常に可能性のあるチームなので、ここでもう一回チャレンジすることは自分の成長につながると、入ってみて強く感じています」

──イーグルスには7人制、15人制日本代表でともにプレーした選手や、神戸製鋼でチームメイトだった南橋直哉選手もいます。

「みなさん温かく迎えてくださいました。神戸製鋼同期入社の南橋とは6シーズン一緒にプレーしていたので、僕のイーグルスへの移籍が決まった時も密にコミュニケーションをとっていました。日本代表にいた時は(田村)優さんとよく行動していましたし、セブンズでは橋野(皓介)さんと一緒だったので、知っている人が多くて溶け込みやすかったですね。同い年や同郷(京都府出身)など共通項がある選手もいて、仲良くさせてもらっています」

■好きなアタックで違いを見せたい

安井龍太選手

──移籍のタイミングと新型コロナウイルスの流行が重なってしまいました。影響は決して小さくなかったと思いますが、いかがでしたか?

「家族と過ごす時間が増えました。2人の子どもたちと触れ合うことができ、むしろ充実していました。トレーニングについては、グラウンドを使うことができなかったので『できることをやっていこう』と考え、ウエイトや山登り、砂浜や坂道でのダッシュなど、普段はできないことをやっていました。移籍後にグラウンドで練習し始めてからも『状態はそんなに落ちていないな』と実感していますので、しっかりトレーニングできていたと思います」

──入念に準備した上で移籍し、早くもチームにフィットしている安井選手ですが、これからアピールしていきたい強みはどのあたりでしょうか?

「僕個人としてはアタックが好きで、そこで違いを見せられればと考えています。ずっとそれを売りにしてやってきました。また、スピードや運動能力でも若い選手に負けないようがんばらないと、と思っています」

──登録上のポジションはLO、FL、NO.8です。どのポジションで勝負したいですか?

「このサイズで2列(LO)として出場するのは厳しいと思いますので、基本的には3列(FL、NO.8)を考えています。ただ、やれと言われればどこでもやりますし、3列はもちろん2列でもプレーできる準備はしています。イーグルスにはいいオープンサイドFLがたくさんいるのですが、僕はみんなとは違うタイプのFLだと思っていますので、そういう意味でいいアクセントになれればと考えています」

──名FLだった佐々木隆道FWコーチから学びたいことはありますか?

「隆道さんも元オープンサイドFLでラインアウトのジャンパーもされていたので、ブレイクダウンやタックル、そしてラインアウトのスキルをしっかり学びたいと思っています」

──沢木敬介監督の指導についてはいかがですか?

「僕が日本代表に入った時にコーチング・コーディネーターをされていたのが最初の出会いです。高いスタンダードを求めているワールドクラスのコーチですが、それを求められるのは当たり前のことだと考えながら取り組んでいます。練習中も選手のことを細かく見て、厳しい中でも気配りしながら指導されている、そんな印象を受けています」

──まだメニューが限られている中ですが、FW全体としての課題はありますか?

「フィジカルやフィットネスはもちろんですが、今はボールゲームやラインアウトの基礎的なスキル、スクラムのコアの部分の底上げに注力しています。そういったベースの部分が向上しないことには今後も積み上げていくことができないので、FW全員でベースの底上げにフォーカスしているところです」

■自分がやってきたことを少しでも還元できれば

安井龍太選手

──チーム始動からまだ数週間という段階ですが、個人的に成長、向上を実感している部分はありますか?

「ラグビーから離れていた期間が長かったので、ラグビーをしながら走るという点については向上したというより『戻ってきたな』という感じですね。元の状態に戻すのに時間がかかってはいますが、いい感じにはなってきています。まだ胸を張って『成長しました』と言えるレベルではありませんが、体の状態としてはいいと思います」

──移籍直後からすでに確固たる視野をお持ちですが、それもこれまで積み重ねてきた経験の賜物かと思います。その経験を周りに伝えていきたいという思いはありますか?

「イーグルスに入ってみると年下の選手が多く、僕もベテランの域に入りましたので、自分が今までやってきたことをできるだけアウトプットしていけたらという思いはあります。ただ、僕はコーチではないのであくまでできる範囲で伝えていきたいです。全体練習終了後にFW、特にバックローの選手を中心にハンドリングスキルなどの練習をやっていますので、そういうところで自分がやってきたことを少しでも還元できればと考えています」

──そのような取り組みからも、すでにチームとしての一体感を感じて始めていますか?

「はい、強く感じています。今は日本人選手中心ですので言葉の壁もありませんし、なじみやすく非常にいい雰囲気で練習できていると思います。そのような状況下でも厳しくお互いを高め合っているので、一体感はすごくありますね。他のチームより始動が早いこともプラスになっていると思います」

──チームとして、また個人として目指していることをお教えください。

「まずはトップ4に入ってしっかり優勝争いをしていけるようなチームになることです。そこに向けて自分もしっかりコミットして、チームが勝つためにできること、チームの力になれることを考えながら毎日過ごしていきたいと思っています」

──選手としてさらなるピークを目指す上で、再び日本代表に選ばれたいという思いはありますか?

「はい。ただ、日本代表は後からついてくるものだと思っています。僕は新参者ですし、今はイーグルスに100%コミットして、このチームで信頼を得なければなりません。とにかくいいパフォーマンスができるかどうか、試合で信頼を勝ち取りイーグルスの中心選手になっていけるかどうか、今はそこにフォーカスしています」


新天地でフレッシュなスタートを切り、貪欲な姿勢でさらなる高みを目指す。それだけでなく、これまで積み重ねてきた経験から得たものを周りに還元していく姿勢も忘れない。

安井を中心にFWで自主的に取り組んでいるという細かいスキル練習は間違いなく試合で活きてくるだろう。同時にこうした取り組みは安井が実感しているようにチーム、とりわけFWの一体感につながっていくはずだ。

自身の成長を誓いながら「チームの力になれることを考えながら毎日過ごしたい」と力強く語ったチームマン、安井龍太。彼の今後の成長曲線は自ずとイーグルスの進化とリンクしていくはずだ。

(インタビュー&構成:齋藤 龍太郎)

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