「チャンスを逃さないようにすべてを注ぎ込む」
10月に来日したLOサム・ケアードは、グラウンドのどこにいても目立つ長身と金髪で早くも存在感を放っている。もちらん203センチという身長だけではなく、元U20ニュージーランド代表、スーパーラグビープレーヤーという点でも経験、実績ともに十分と言える新戦力だ。
LOにライバルの多い横浜キヤノンイーグルスにおいて、ケアードにはどのようなことが求められており、それを彼自身はどのようにとらえているのか。これまでの経歴も交えながら、今シーズンにかける意気込みを聞いた。
■みんな優しくてケアしてくれるの助かっている
──最初にイーグルスに来たのはいつ頃ですか?
「10月中旬に来ましたので、6週間ほど経ちました(11月27日現在)。毎日すごく楽しくて、もう仲間を作ることができました」
──花園近鉄ライナーズでも一時プレーしていましたが、日本に行きたいと思うようになったきっかけがあったのでしょうか?
「プレーさせてもらえる機会があったので日本に来ました。私自身、ニュージーランドから海外に出るチャンスをうかがっていたのですが、文化も言語も異なる環境でプレーすることは大きなチャレンジでした。引退した後に振り返って『いいチャレンジだった』と思えるような新しいことをしたい、と考えたのです。ちなみにPRネスタ・マヒナとチームメイトでした」
──そして今シーズン、イーグルスの一員として再来日されたわけですが、すでに日本を経験しているという意味では環境には慣れていますか?
「前(初来日時)よりは慣れていますが、また細かいところで慣れきっていません。ラグビーに関しては(日本特有の)スピードがあり、近鉄ですでにそれを経験していますが、イーグルスはよりプロフェッショナルなチームだと感じています。ラグビー以外の面では言語が大きい課題になっていますので。もう少し適応する時間が必要かなと思っています」
──レオン・マクドナルド新ヘッドコーチにはスーパーラグビーの名門、ブルーズでも薫陶を受けたそうですね。
「1シーズンだけですが、レオンの指導を受けました。また、デーブ(・ディロン アシスタントコーチ)はU18のチーフスのコーチでしたから、旧知の仲です。知っている顔がいるのはすごくいいことなのですが、求められているレベルが非常に高いので、同時に厳しさも感じています。ちなみにビリー(FLビリー・ハーモン)も元々の知り合いです」
──初めての選手も多いですが、旧知の仲の選手やコーチもいるとチームに溶け込みやすいのではないでしょうか?
「もちろん自分から慣れていかないといけないのですが、他の選手たちもみんな優しくてケアしてくれているので、すごく助かっています」
■スーパーラグビーでの経験が今も自分の糧になっている
──ワイカトやノースランド、そして前述のブルーズを経て、隣国オーストラリアのワラターズに移籍し活躍されました。
「ブルーズでの競争は非常にタフで、公式戦出場は果たせませんでしたが、その後ワラターズでプレーする機会をいただいたので、これは大きなチャンスだと考えました。そしてワラターズでスーパーラグビーデビューすることができました」
──オーストラリアで一気に開花したわけですね。
「ゲームタイムが多く与えられ、スーパーラグビーの公式戦14試合に出場することができたことは大きかったですね。そしてワラターズとしてニュージーランドのチームと戦うことは特別で、自分のなかでも大きなマッチアップでした。ニュージーランドではチャンスを掴めませんでしたが、今ではそんな時期も含めて自分の糧になっています」
──その後はニュージーランドに戻りハイランダーズに移籍されました。
「南(南島の南部)の文化があるチームで個人的にはすごく楽しかったのですし、人とのつながりという点でも非常によかったのですが、チームとしてはあまりうまくいかなかったのでその点は残念でした」
──そこで一旦スーパーラグビーに区切りをつけて近鉄に移籍されましたが、それまでのスーパーラグビーの経験はケアード選手にどういうものをもたらしましたか?
「ラグビーの面ではFWとして多くのことを学びました。強いプレッシャーのかかる環境下で自分がやっていることに対しての本気度をみんなが理解し合っていましたし、人間関係の面でも素晴らしい経験になりました」
──前述の近鉄の後は、アメリカのメジャーリーグラグビー、ニューイングランド・フリージャックスで活躍されました。
「アメリカはラグビーだけでなくNBAやNFLなどもエンターテインメント性の高さを感じさせる国で、刺激になりました。メジャーリーグラグビーに行く選手たちはキャリアの終盤を迎えているケースが多いのですが、思っていたよりもいいレベルだった点もよかったです」
──ユース時代にさかのぼると、U20ニュージーランド代表としても活躍し、2017年のワールドラグビーU20チャンピオンシップでは優勝に貢献しました。
「もう昔の話になりましたが、それも素晴らしい経験でした。選手たちのグループも素晴らしく、長い時間を一緒に過ごすことができたので、すごく楽しかったです。最後に優勝できたのも収穫でした。やっていることに楽しさを見出す、ということを学んだ時間でした」
──当時、オールブラックスを目標に据えていたのでしょうか?
「若いときの一番の夢でした。でもプロラグビーを続けて何年か経ったとき、特にオーストラリアを経験した後に『これからはラグビーを楽しむためにやる。そして家族のために続ける』と決めました」
──ちなみにオールブラックスに関連して、憧れの選手として現代表FL/NO.8のサイモン・パーカー選手の名前を挙げていましたが、何か理由があるのでしょうか?
「人として尊敬できる友達です。ニュージーランドのノースランドでも一緒にプレーして、毎日一緒に練習に行っていました。オールブラックスに入れば絶対に成功する選手だと思っていたので、今の活躍を見てうれしく感じています」
■最大の役割はラインアウトで勝ちにいくこと
──リーグワンのディビジョン1についてはどういうイメージをお持ちですか?
「ハードで速いラグビーが展開されています。そしてスター選手が多いリーグですね」
──近鉄時代に一度イーグルスと対戦しました(リーグワン2022-23シーズン第4節。73-7でイーグルスが勝利)。当時、イーグルスに対してどんな印象を受けましたか?
「イーグルスのラグビーはすごく速くて、近鉄よりも断然よかったと思います」
──実際にイーグルスでタフな練習を続けてみて、この6週間で成長を感じていますか?
「すごく感じていますし、動きに関しては特に手応えがあります。ニュージーランドではLOにとにかく大きい選手が入る傾向がありますが、日本ではLOであっても動きが優れていなければなりません。その点で成長し適応できていると感じています」
──身長203センチの長身LOとして、マクドナルド ヘッドコーチやチームからどんなことを求められていますか?
「最大の役割はラインアウトで勝ちにいくことです。フィールド内でも(チームで)一番大きいので、同じく大きい相手に対抗します」
──ワールドクラスのLOディノ・ラム選手も入りましたが、彼から感じていることはありますか?
「最近はコンディションの問題でそこまで一緒に練習できていないのですが、やはりラインアウトでチームをドライブし、大きな違いを見せてくれる選手だなと感じています。ディノやビリーとは(練習の行き帰りなど)よく一緒に行動していますね」
──彼らと一緒に食事に行くこともあるのでしょうか?
「合宿などもあって行く機会をあまり作れていないのですが、他の選手が行っていると聞く焼肉屋さんにはぜひ行ってみたいですね」
──チームとしてはもちろん優勝を目指していますが、ケアード選手自身の個人的な目標があればお願いします。
「このチャンスを少しも逃さないように、すべてを注ぎ込むことです。そして新たな文化を学び、新しいチームメイトと親交を深めることもターゲットに据えています」
──サポーターのみなさんとの交流も楽しみですね。
「みなさんからはすでに『サム』と呼んでもらっていますが、これからもそう声をかけてもらえるとうれしいです」
マクドナルド ヘッドコーチの下でブルーズでは公式戦に出場できなかったが、その経験が糧となりワラターズなどでの活躍につなげたLOサム・ケアード。すでにリーグワンを経験していることも大きなアドバンテージとなるだろう。
イーグルスですべてを注ぎ込む──その宣言がパフォーマンスとして表れる日を待ちたい。
(取材・文/齋藤龍太郎)