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2025.10.10
INTERVIEW

古川 新一 アシスタントコーチ インタビュー

声を掛け合う姿や歓喜する瞬間を見てほしい

ヤマハ発動機ジュビロ(現・静岡ブルーレヴズ)の元HOで、アシスタントコーチとして同チームや豊田自動織機シャトルズ愛知を指導するなど豊富なキャリアを持つ古川新一アシスタントコーチは、横浜キヤノンイーグルスのアシスタントコーチとして着任早々、多種多彩な仕事に奔走している。

現役時代にチームメイトだったレオン・マクドナルド ヘッドコーチと密に連携し、彼からのリクエストを楽しむようにコーチングする姿は、新任コーチとは思えないほどの溶け込みようだ。実際の担当分野など、現在の仕事ぶりを聞いた。


■スローイングはスキルとメンタル

── イーグルスで新たにコーチングキャリアをスタートさせるに至った経緯からうかがいます。

「まず『新しいチームでチャレンジしたい』という気持ちがありました。それが(イーグルスからの声と)偶然一致したことで、就任することになりました。レオンとは現役時代にヤマハ発動機ジュビロで一緒にプレーしていましたので、コミュニケーションが取りやすいという点も大きかったです」

── 現役当時のマクドナルド ヘッドコーチは、一緒にプレーしていてどうでしたか?

「バリバリのオールブラックスで、それもワールドカップに出た選手ですから、それはもうすごかったですよ。彼が来る前のシーズン(トップリーグ2003-2004)は3位だったのですが、やって来たシーズン(同2004-2005)は決勝まで行きました。結果は準優勝でしたが強くなりましたので、彼の功績は大きかったです。とてもストイックで、酒を飲まずにプロテインを飲んでいるような意識の高い選手でした。尊敬していました」

── 古川コーチの現役時代はHOでした。

「本格的にHOを始めたのは高3からです。チームのケガ人の状況でNO.8として出ることもありましたが、それからはずっとHOでした」

── 肩書きはアシスタントコーチですが、担当はどの分野でしょうか?

「4つほどあります。一つは、選手もコーチも含めてチームを円滑に進めるコーディネーターという仕事です。そのなかに『ミニチーム活動』というものがあって、ラグビーを一生懸命やるためにラグビー以外のことを思い切り楽しむ、いい環境作りのための活動のリーダーシップをとっています。二つ目はディフェンスのブレイクダウンで、デーブ・ディロン アシスタントコーチとともに取り組んでいます。三つ目がHOのスキルセットで、四つ目がデベロップメント選手の育成です」

── 多岐にわたりますが、それはマクドナルド ヘッドコーチからのリクエストだったのでしょうか?

「最初のオンラインミーティングで『ミニチーム活動などを担当してほしい』という話をもらいました。彼も(以前に別のチームで)受け持ったことがあるそうで、すごく大事にしているんだそうです。ではやってみましょう、と受け入れたところ、後日監督室に呼ばれて『デーブ(・ディロン アシスタントコーチ)と一緒にディフェンスのブレイクダウンをやってくれないか』と言われて、そちらもやることになりました」

── その「ミニチーム活動」について、まずは詳しくお願いします。

「チームボンド(結束、絆)を深める目的で行っているもので、新しく来た選手も早くチームに溶け込めるようになるミニゲームです。具体的には選手たちを6チームに分けて、得点を競いながら1位を目指す、というもので、水風船を使ったドッジボールなどいろいろなゲームを行いました。コンペティションがあるもの、勝ち負けがあるもの、楽しめるもの、という三つの原則のもとゲームを作っています」

(公式インスタグラムより)

── 次の「ディフェンスのブレイクダウン」とは、具体的にはスティール、旧称ジャッカルの練習でしょうか?

「そうですね。ジャッカルの指導経験もありますので担当することになりましたが、大事なのはデーブと連携し、うまくコミュニケーションを取りながらやることです。自分のやりたいことだけでなく彼の意見も聞きながらアジャストしています」

── HOのスキルセットについては、やはりメインはスローイングのスキルでしょうか?

「他にもいろいろありますが、一番はスローイングですね」

── リーグワンのレベルでも、大事な場面のラインアウトでノットストレートとなるケースがよく見受けられます。スキルやメンタル、要因は様々だと思いますが、古川コーチはどのように考えていますか?

「要因はその両方です。メンタルに関しては『プレッシャーを感じるか、感じないか』の問題なのですが、ほとんどの選手がプレッシャーを感じます。そのとき、そのプレッシャーに気を取られてしまうのか、それとも自分のスローイングのスキルにフォーカスできるのか、その違いで結果が大きく変わります。スローイングのスキルが自分のなかで確立されていて、意識がクリアになっていればプレッシャーはあまり気になりません。そうすれば集中して投げることができるようになるので、コーチとしてはその方向に導きたいと考えています」

■アジアラグビープロジェクトで人生が豊かに

── 昨シーズンまではシャトルズのアシスタントコーチでした。

「FWのセットプレー全般と、ディフェンスを担当していました」

── 2シーズン前まではPR南友紀選手を指導されていました。

「一緒にやっていましたね。あと、SH天野寿紀選手のお父さん(天野寛之さん。大阪府ラグビーフットボール協会会長)にはとてもお世話になっていたので、彼のことも知っていました」

── トップリーグ、リーグワンでのコーチングに加えて、2013年には日本ラグビーフットボール協会とJICA(国際協力機構)によるアジアラグビーへの貢献活動「アジアスクラムプロジェクト」で海外に派遣され、現地で指導されたということですね。

「アジアでラグビーを指導する活動で、私はプロジェクトの第1回の隊員としてスリランカに行きました。そのようなスポーツの支援を通じて社会的に豊かになってもらうのが目的で、現地には3か月滞在していました。クルネーガラという都市のチームを中心に回っていき、ラグビーの普及活動を行いました」

── その経験は、その後のコーチングにも生きましたか?

「ものすごく生きました。まず、人生が豊かになりましたね。こういう人生の過ごし方もあるんだな、と知ることができました。先進国は多くの人がせかせかしていますが、スリランカにはそういうものがまったくないので、自分もおおらかになりました。また、その活動を知った清宮克幸さん(当時ヤマハ発動機ジュビロ監督。現・日本ラグビーフットボール協会副会長)が『お前、おもしろいな。一緒にやろう』と言ってくれて、再びヤマハのコーチに戻ったという後日談もあります」

■みんなチームのことが好きだという思いが伝わってくる

── 外から見ていたイーグルスはどんなチームだと感じていましたか?

「ヤマハのコーチ時代はトップリーグでよく対戦していたのですが、当時は素晴らしい外国人選手と数名のいい日本人選手がいてオーソドックスなラグビーをしているイメージでした。でも、昨シーズンまでの沢木敬介監督体制のイーグルスはアタックにこだわりのあるチームだなと感じていました。勝利に対する執念を感じるチームになっていましたね」

── 今のイーグルスの選手と実際に触れ合ってみて、どう感じましたか?

「思っていた以上にチームの結束力を感じています。みんなチームのことが好きだという思いが伝わってきますね。しんどい練習をしていても『顔を上げよう』と声を掛け合っていますし、私に『自分たちのことを知ってもらおう』とアプローチしてくる選手が多いことからも、強いチーム愛を感じます。ミニチーム活動でも『菅平合宿でこういうアクティビティをやりたい』というオーダーを出してくれるなど、積極的です」

── HOの選手たちについてはいかがでしょうか?

「みんな、めっちゃうまいですよ。すごくいい選手ばかりです。スローイングも今までコーチングしてきたチームのなかで一番上手でした。ポジション争いのレベルも高いですね」

── これはアタックの領域にはなりますが、HOはボールキャリーを得意とする選手が多いイメージがあります。やはりそのあたりもHOの仕事として求めたいですか?

「そうですね。レオンもHOのボールキャリーを重視していますので、HOの役割が大きくなると思います」

── モールについてはいかがでしょうか?

「取り組んでいく必要があります。HOはモールの一番後ろについてボールを持ちトライを決めるスコアラーでもありますが、スペースを見てボールをうまくデリバリーする役割もありますので、そういうスキルセットが必要です。ラインアウトモールに関してはパウリ(パウリアシ・タウモエペアウ アシスタントコーチ)がメインの担当ですが、彼も私と同じ認識です」

── 今シーズン、コーチ陣全体として特に重視していきたいことは何でしょうか?

「しっかりと計画されたトレーニングにフォーカスしています。すべてにおいてコーチ陣が話し合い、選手と連携しながら、細かいところまで練ったプランを提供していきます。いい準備ができてそれが実際にうまくいった日の練習はすごくクオリティが高いので、これからも準備を重視してやっていきます」

── 最後に、ファンにぜひ見てほしいポイントをお願いします。

「今後のチームの仕上がり具合にもよりますが、このままいけばトライした後やいいプレーをした後、あるいはしんどい場面などで、みんなで声を掛け合うことができるチームになると思います。そういう姿や全員で歓喜する瞬間をぜひ見ていただきたいですね」


言葉の裏側に、豊富な経験と自信が感じられた古川新一アシスタントコーチ。1年目にして簡単ではない様々な仕事を任される理由を垣間見た気がした。歓喜の瞬間が予告通りに訪れるよう期待したい。

(取材・文/齋藤龍太郎)

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