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2025.10.10
INTERVIEW

岡崎匡秀 アシスタントコーチ インタビュー

8人でまっすぐ低いスクラムを組む

横浜キヤノンイーグルスの新アシスタントコーチ、岡崎匡秀。寝ても覚めてもスクラムのことを考え続け、リコーブラックラムズ東京では選手、コーチとして長年スクラムの強化に心血を注いできた、情熱あふれる指導者だ。

ライバルチームからの転身を決意した経緯や、イーグルスの進化に不可欠な強いスクラムへのこだわり、チーム内で共有するスクラムのスタイルなど、強いこだわりを感じるインタビューとなった。


■これまでの自分の経験を伝えていきたい

── ブラックラムズで選手として、コーチとして活躍されました。

「リコーの社員として社業に戻る予定でしたが、コーチとして11年やってきましたので『新たに勝負したい』と思い立ち、3月に会社を退職しました。その後、イーグルスから声をかけていただき今に至ります。ディビジョン1のチームから声をかけていただいてありがたかったです。レオン(・マクドナルド)の下でぜひチャレンジしたいと考えました」

── コーチとしての再出発になります。

「自分ならできる、という自信がありました。これまでの自分の経験を伝えていきたいです。ただ、これまでとは違う環境に飛び込みますので、自分の力がどこまで通用するのか、という私自身のチャレンジでもあります」

── 担当はやはりスクラムでしょうか?

「スクラムを見てほしい、と言われています。今はパウリ(パウリアシ・タウモエペアウ アシスタントコーチ)にサポートしてもらいながら、そして互いの知見をクロスオーバーさせながら一緒に成長しているところです」

── 実際にスクラムの練習をしてみた感触はいかがでしょうか?

「反応はいいですね。(インタビュー時点で)まだ3回しかセッションしていませんが、思ったよりもスピードが早いです。楽しみですね」

── イーグルスのFW、特にHOの選手についてはどのような印象でしょうか?

「やはり庭井(祐輔)選手は経験がありますね。スクラムについて会話していても『ああ、同じページを見ているな』という感じがします。中村駿太選手もそうですね。平石颯選手と土一海人選手はまだまだこれから育てていかないといけない、とデーブ・ディロン アシスタントコーチと話をしています。彼らをどのようにして庭井選手や中村選手にプレッシャーをかけられるような選手に育てていくかが大事です。いつまでも実績のある2人のHOを抜けないままでは、チームの底上げになりません」

── マクドナルド ヘッドコーチからはどのようなリクエストを受けているのでしょうか。

「ドミネート(圧倒)しろ、と言われています(笑)」

── これまで対戦相手だったイーグルスについてどのようなイメージを持っていましたか?

「ハードワークしているチームだなと思っていました。ただ、スクラムに関してはここ2、3年で変わってきて、昔は(組んでいて)も嫌だった印象があります。もっとガツガツきていたははずです。そのガツガツ感って大事なんですよ。どれだけプライドを持ってやっているか、とか、絶対に下がってはダメだ、という思いの表れですからね」

── トップリーグの時代から現在のリーグワンに至るまで、日本のスクラムのレベルは向上していますか?

「上がっていますね。特に2015年のラグビーワールドカップで日本代表が見せたスクラムからではないでしょうか。そのころから各チームにスクラムコーチがつくようになったと思います。スクラムコーチがいないチームもありましたが、今はスクラム専任コーチがいないと勝つのが難しい時代になっています」

■ボールアウトしてスクラムが終わるまで絶対に8人で組む

── リーグワンを見ていても、スクラムのスタイルはチームによって違います。必ずしも「強いチームのスクラムがいいスクラムだ」というわけでもないのでしょうか?

「スクラムコーチを始めてからルールブック片手にいろいろ調べたり、ときにはレフリーに直接掛け合ったりしてきましたが、そのノウハウを持ってニュージーランドに行って話してみると『どんな形のスクラムであっても、すべてがスクラムのひとつだよ』と言われて、すっきりしたんです。いろいろなスクラムがありますが、どれもスクラムだ、ということですね。ですから自分は自分のスクラムを追求しようと考えるようになりました。仮に相手がイリーガルなスクラムを組んできたとしても、それがペナルティになるかどうかはこちらではコントロールできません。それよりも、そんなスクラムにも対応できるスクラムを作り上げてしまえばいいのです。ベクトルを外に向けるのではなく自分の方に向ければ、何のストレスもなくなります。ですからここ数年はすっきりとした気持ちで取り組んでいます」

── 各チームの様々なスタイルのスクラムに対して、イーグルスはそれぞれに対応したスクラムを組むのでしょうか? それともイーグルスのスクラムのスタイルを確立して臨むのでしょうか?

「イーグルスは8人で、まっすぐ低いスクラムを組みます。このフレーズをスクラムのセッションやミーティングで毎回、FW全員で唱えています。このように組めば全員、前に出やすくなります。たとえばFLが顔を上げていたら8人の力にはなりません。ボールアウトしてスクラムが終わるまで絶対に8人で組みます。それくらいスクラムにこだわりたいです。スクラムを楽しみにされている方々は見どころになると思います」

── アタッキングラグビーにも欠かせない要素になりそうです。

「レオンは様々なアタックのノウハウを持っています。それを遂行するためにもスクラム、ラインアウトのボール争奪は非常に大事になりますし、チームの結果にも影響する領域だと考えています」

■「スクラムとはどういうものか」を植え付ける

── 現役時代はスクラムの要、HOでした。

「高校からラグビーを始めて、2年生まではLOでしたが、3年からはずっとHOでした。180cmしか身長がなかったのでLOとしては小さいですよね。自分からHO転向を志願しました」

── 当時からスクラムへのこだわりは強かったのでしょうか?

「はい。やっぱり押されたくないじゃないですか(笑)。高校までは(スクラムで押せる距離として)1.5mを超えなければOKですから、そのなかでボールを獲る爆発力は身につきました。ブラックラムズに入ってあらためてスクラムが大事だと痛感し、よく考えるようになりましたし、いろいろな外国人コーチと出会ってスクラムにまつわる様々なことを見聞きしてきましたので、やはり私はスクラムが好きなんですね」

── スクラムを理論的に考えながら組んでいたのでしょうか?

「現役時代はそこまで深く考えていなかったですね。でもコーチになって俯瞰して見るようになって、スクラムがうまくいった理由、いかなかった理由をそれぞれ突き詰めていくといろいろな細かい要因が出てきます。それを外から見て、伝えて、それを選手が実行して変化を感じる、その積み重ねだと思っています。それをイーグルスに還元したいですね」

── 2007年に選手としてのキャリアを終えました。

「以後6年間、母校の青山学院大学でアシスタントコーチをしていました。その時代は、選手に物事を伝えるのは難しいことなんだな、と感じていました。それと同時に、選手に伝えて(選手自身が)変化していくのを見る楽しさも味わいました」

── そこからコーチとしてステップアップすることになります。

「高校(大阪工大高校。現・常翔学園高校)の同級生でブラックラムズのチームメイトでもあった神鳥裕之(当時ブラックラムズ監督。現明治大学監督)からの要請で、2014年からブラックラムズのコーチに就任しました。トップチームのコーチングをするためにはもっと学ばないといけない、という気持ちになり、ニュージーランドなどで学びました。その後スクラムの領域を任されるようになりました」

── コーチングを重ねそのすべてをぶつけていた今、イーグルスのスクラムの成長スピードは上がっていきそうですか?

「今は『スクラムとはどういうものか』と、その全体像を植え付けているところです。これからのプレシーズンマッチや大分合宿を経て状態を上げていきます。プレシーズンマッチ初戦の東京サントリーサンゴリアス戦(10月11日)に十分間に合うペースで強化を進めています。いいところも悪いところも出てくると思いますので、それを持ち帰って(生かし)その後もプレシーズンマッチを重ねて、12月14日の開幕を迎えられればと考えています」

── サポーターのみなさんもスクラムと、スクラムを起点にしたアタックを楽しみにしているはずです。

「ぜひ生で見ていただいて、マクドナルド ヘッドコーチによるイーグルスの新しいラグビーがどんなものなのか、一緒に楽しんでほしいと思っています」


スクラムとともに人生を歩んできたと表現しても差し支えないほど、その強化に真剣に取り組んできた岡崎匡秀アシスタントコーチ。FWの選手たちはその熱のこもった指導に応えるように、今日も8人でまっすぐ低いスクラムを組み続けている。

(取材・文/齋藤龍太郎)

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