強みのフィジカルやボールキャリーで負けない

トンガから来日し、日本の複数の名門で腕を磨いた末に、日本代表にまで上り詰めた屈強なバックロー、FL/NO.8シオネ・ラベマイが横浜キヤノンイーグルスを新天地に選んだ。
東芝ブレイブルーパス東京、浦安D-Rocks、東京サントリーサンゴリスと渡り歩いてきた彼にとって、イーグルスはどのように見えていたのか。実際に身を置いてみてどんなことを感じたのか。数々の問いに正直に打ち明けてくれた。
■すでに素晴らしいプラットフォームがあるチーム
── サンゴリアスから移籍してきたラベマイ選手から見て、イーグルスの練習はいかがですか?
「プレシーズンの練習はサンゴリアスと似ていて、どちらもタフですが楽しんでいます。ただ、私はいつも新しい環境に溶け込むのが苦手なので、最初は緊張することもありました」
── そんなラベマイ選手がイーグルスへの移籍を決めたのはなぜでしょうか?
「リーグワンのなかでもイーグルスはトップに位置するチームです。そういうレベルでラグビーができるチャンスをいただいたので、移籍を決めました」
── これまでは主にFLですが、イーグルスでも変わらずFLですか? また、ご自身の強みはどこにあると考えていますか?
「イーグルスでもルースFWをやっています。ボールキャリーとコンタクト回りのプレーが強みで、フィジカルには自信を持っていますし、狭いスペースでもフィジカルの強さを生かすことができます」
── 全体練習は9月からですが、ラベマイ選手自身はいつからイーグルスで活動し始めたのでしょうか?

「8月からキヤノンスポーツパークに来て個人練習していました。最近になってようやくフィジカルトレーニングの効果が出てきたと感じています」
── フィジカルが強みのラベマイ選手にから見て、対戦していたときのイーグルスはどんなチームだと感じていましたか?
「リーグの中でもフィジカルの強いチームだと思っていました。実際に入ってみて、あらためてそう感じたのですが、このチームにはすでに素晴らしいプラットフォーム(基盤)があります。私にとってはアジャストしやすい環境なので、日々取り組んでいきたいと考えています」
── イーグルスはトンガ出身の選手がいますが、彼らとのコミュニケーションはいかがですか?
「日本に来てからずっと知っている選手ばかりなので、とてもいい関係性を築いています」
── 今、特に仲がいい選手はどなたですか?
「ジェイ(FL/NO.8シオネ・ハラシリ)とは仲良しです。トンガ人の選手たちとはカヴァ(トンガの嗜好飲料)を楽しんでいます。日本人選手ではブレイブルーパスで一緒にやっていたPR知念雄と仲がいいですね。家族の話などもしますし、冗談も言い合います」
── ご家族といえば、ラベマイ選手の奥様も有名な選手でしたが(ラベマイ まことさん。元女子日本代表PR)、やはり心強い存在ですか?
「はい。彼女には全面的にサポートしてもらっています。 ラグビー以外のことは全部やってくれていますので、本当に感謝しています。今回の移籍も喜んでくれました」
── 東京都府中市を拠点とする古巣のブレイブルーパスやサンゴリアスとは距離的に近いですが、その選手たちとの交流は続いていますか?
「移籍してもみんな友達なので、府中などでよく合流して一緒に過ごしています。ラグビーをしていないときはなるべく長い時間ともに過ごすようにしていますね。特にブレイブルーパスのWTBジョネ・ナイカブラとは仲良くしています」
■日本代表選出はとてもハッピーで興奮したもののナーバスに
── トンガ出身で、ニュージーランドの名門セントビーズカレッジでラグビーを学びました。
「トンガはラグビーで活躍できる機会が限られているので、将来を考えてニュージーランドに行くことにしました。そこから家族のこともサポートしたいと考えていました」
── その後は来日し拓殖大学に入ることになりますが、もともと日本にも興味があったのでしょうか?
「実は私と友達がそれを希望していて、その友達は優秀な人材として日本行きの切符を掴んだのですが、私は選ばれなかったのでニュージーランドに行くことになったのです。当時、トンガで通っていた学校は日本と強いコネクションがあるので、その友達の前にも何人かの選手が日本でプレーしていました」
── 拓殖大学では最終的にキャプテンと務めることになりますが、来日当初は苦労もありましたか?
「そうですね。最初に日本に来たときは言語や文化などすべてが新しい経験で、ハードな環境ではありましたがみんなにサポートしてもらいました。ケガもあって(留年の形で)プラス1年間在学していたのですが、そんなときも手厚いサポートがありました」
── そのころには日本でラグビーを続けたいと考えていたのでしょうか?
「はい。日本でプレーするために1年留年しました。その時点ではどこからも声がかかっていなかったのですが、大学のシーズン終了後にブレイブルーパスから電話があり『ケガ人がたくさんいるのでトレーニングに来てほしい』と言われたのです」
── その後、正式に契約できたときはうれしかったですか?
「はい、とても。その後ブレイブルーパスでいいプレーができるようになり、『日本代表になりたい』と考えるようになりました。なお、トンガ代表になることはあまり考えていませんでした」
── ブレイブルーパスで過ごした時間は、ラベマイ選手にとってどのような意味がありましたか?
「私にとって初めてのプロのステージであり、初めてトップレベルでラグビーができた貴重な時間でした。チームには日本代表選手も、代表以外にもいい選手がたくさんいて、強いプライドを感じるチームでした。そしてたくさんサポートしてもらいました」
── 活躍の甲斐あって、2022年には日本代表に選ばれました。
「とてもハッピーで興奮しました。ただ、やはり(日本代表という)新しい環境に身を置く怖さがあり、ナーバスになっていました。それでもウルグアイ戦(2022年6月18日の第1戦)で初キャップを獲得できました」
■今は日本人選手もフィジカルが強くなりリーグ全体がタフに
── 日本代表デビューを実現する直前、リーグワン2022シーズン終了後にブレイブルーパスからD-Rocksへ、その後はサンゴリアスへと移籍しました。日本のトップレベルのラグビーを長く経験しています。
「ブレイブルーパスに来たときから日本のラグビーはテンポが早いと感じていました。そして当時は、日本人選手と外国人選手のフィジカルには差があるなと思っていたのですが、今は日本人選手もフィジカルが強くなってきて、リーグ全体がよりタフになってきています」
── イーグルスの選手についてもそう感じていますか?
「まだプレシーズンなのでコンディションを上げていかないといけない選手もいますが、とてもレベルが高いですね」
── チームにもよりますが、練習自体の質やレベルも変わってきているのでしょうか?

「そう思います。昔は長時間の練習が多かったのですが、最近は(時間が長くなり過ぎず)効率的になってきました。強化のために何が必要なのかを決めて、それにフォーカスして練習しているあたりに日本ラグビーの変化を感じています」
── そういう練習の方がラベマイ選手にも合っていますか?
「実際の試合は(前半)40分間ハードワークして、休憩してからまた(後半)40分間ハードワークする、というものですから、自分には(長丁場の練習よりも)その方が合っていますね」
── 練習メニューひとつをとってもポリシーのあるレオン・マクドナルド ヘッドコーチからは、どのようなことを期待されているのでしょうか?
「まだそこまでまだ深い話はできていないのですが、自分がベストなスタートを切れず、プレシーズン最初のテストの結果もあまりよくなかったので、コンディションを上げなければならない、という話はしました。自分の状態をよくしたうえで、強みであるフィジカルやボールキャリーで負けないようにしたいと考えています」
── やはり前に出たい、いうことですね。

「もちろんです。前に出ることがチームのモメンタムに関わってきますので、とても大事なことだと思います」
── 最後に、サポーターのみなさんにメッセージをお願いします。
「ベストを尽くしたいので、ぜひサポートしてほしいです。愛称は『ラべ』でお願いします。『シオネ』は他にも何人かいますので、ぜひ『ラべ』と呼んで応援してください」
フィジカルを前面に押し出した豪快なプレーとは対照的に、シャイでナイーブなキャラクターが垣間見えたインタビューとなった。それでもFL/NO.8シオネ・ラベマイは静かに闘志を燃やし、どこか自信を漂わせていた。
日本のトップチームでの実績、そして日本代表の経験は嘘をつかない。新たな環境への順応さえうまくいけば、間違いなくイーグルスのモメンタムの発生源になることだろう。
(取材・文/齋藤龍太郎)