「楽しんでラグビーをしているところをぜひ見てほしい」
ニュージーランドで生まれ、サモアとフィジーにルーツを持ち、オーストラリアで育った後に母国やフランス、日本でラグビー選手として成長してきた、国際色豊かな選手が横浜キヤノンイーグルスの仲間入りを果たした。リーバイ・アウムア。主にCTBとして、またWTBも高い次元で兼務するパワフルなボールキャリアだ。
スーパーラグビーの名門クルセイダーズで優勝に貢献し、活躍の舞台を日本のリーグワンに移した理由とは。そして彼自身の強みはどこにあるのか。レオン・マクドナルド新ヘッドコーチとのつながりなど、これまでの遍歴と併せてインタビューした。
11月27日の公開練習後、まずはその実感から聞いた。
■チームに必要とされるポジションでプレーしたい
──多くのサポーターの前での練習はいかがでしたか?
「とても温かくて優しいみなさんですね。旗などを持って応援してくれて、すごくいい気持ちで練習できました」
──チーム内の雰囲気はどうでしょうか?
「すごいグループです。以前に一緒に仕事した選手もいれば新しい顔もいますが、みんな温かくて、またハードワークする選手が多いので、私にとっていい環境だと思っています」
──レオン・マクドナルド新ヘッドコーチとは、プルーズやオールブラックスXV(ニュージーランドの準代表)でも指導を受けた関係ですね。
「実はレオンと最初に会ったのはNPC(ニュージーランド州代表選手権)のタスマンです。3年間ともに過ごし、その後ブルーズで再び一緒になりました」
──すでにマクドナルド ヘッドコーチがやりたいラグビーを、ある程度理解しているわけですね。
「はい。レオンと一緒に働いてきましたので、もちろん細かい変化はありますが大枠は理解できています。特にゲームの知識の部分を活用できると思っています。ディフェンスではタックル、アタックではボールキャリー、ラインブレイクといった自分の強みを生かせると思いますし、みんなにも自分の見識をシェアして、私もみんなから日本のラグビーを学ぶ、そういった役割を果たせればと考えています」
──登録ポジションはCTBとWTBとなっていますが、実際はどうなりそうですか?
「どのポジションでもプレーできる自信はありますが、他にもいい選手がたくさんいますので、先発を勝ち取るのはすごく難しいことです。そんななかでも12番(インサイドCTB)、13番(アウトサイドCTB)というボールをもらえるポジションで出られれば、自分の強みを生かせると思っています。クルセイダーズでは12番、13番でプレーしていましたので、チームに必要とされるポジションでプレーしたいと思っています」
──スーパーラグビーでの経歴についてうかがう前に、日本でも日野レッドドルフィンズと豊田自動織機シャトルズ(愛知)でプレーしていましたが、そういう意味ではすでに日本の環境には適応できていますか?
「そうですね。日本は大好きで、できるだけ長くいたいという気持ちが強いです。人も文化も食べ物も全部好きですね。特に和牛が好きで、今はシーズン前で体重を気にしているので外食で和牛を楽しめていませんが、絶対に食べに行きたいです(笑)」
■新しい経験を積むために日本に戻ってきた
──これまでプレーしたのは母国ニュージーランドに加え、フランス、オーストラリア、日本と実にワールドワイドです。それには何か理由があるのでしょうか?
「シンプルにプレーする機会があるところに赴いた結果です。すごく若いときにボルドー・べグル(フランス・TOP14)に行きましたが、それもまさしくそういう機会があったからです。成功も失敗もありましたが、いろいろな世界を見られるのがラグビーの好きな一面ですし、学びがあったという意味でも素晴らしい経験でした」
──その後、チーフスやブルーズといったスーパーラグビーのトップチームでプレーすることになります。やはりそれも特別な経験だったのではないでしょうか?
「はい。ニュージーランドで生まれ、9歳から10年間オーストラリア(パース)で育ち、ニュージーランドに帰ってスーパーラグビーでプレーすることは私にとって大きな夢でした。連れ戻してくれたのはレオンでしたから、今でも感謝しています。やはり私にとってのベストチームはニュージーランドのスーパーラグビーであり、多くのことを学んできました」
──その後は一度、日本でプレーすることを選択しました。
「スーパーラグビーから他の環境に移って新しい経験をしたくなり、日本でキャリアを始めようと考えました。ただ、日野や豊田自動織機でプレーして振り返ったとき『まだスーパーラグビーでやり切っていない』と未練があることに気づき(2022年にスーパーラグビーのチームとして参入した)モアナ・パシフィカに戻ることにしたのです」
──日本ではどんなことを学びましたか?
「スピードですね。ニュージーランドと日本のラグビーは違いが多く、特に違うと感じたのはスピードでした。スピード感のあるプレーをするために日本でメンタル、フィットネスを鍛え、アタックするマインドセットを身につけて、ニュージーランドに戻ってからもそれを自分のプレーに生かせたと思います」
──モアナ・パシフィカはニュージーランドのオークランドが拠点ですが、サモアやトンガなどの選手を中心に構成されているチームです。サモア人の父を持つアウムア選手としては、誇らしい移籍だったのではないでしょうか?
「はい。自分の父と母(フィジー人)の両方を代表できるパシフィカ・リージョン(ポリネシアなどのオセアニアの島々)のすべてを代表できるという経験は本当に特別で誇らしい経験でした。そこから離れるのはすごく難しかったです」
──そこから名門中の名門、クルセイダーズに招かれて移籍しました。難しい決断だったということですが、率直にどんな気持ちでしたか?
「世界的に見ても最も成功してきたチームですから、そこでプレーできる機会を得られたことは特別でした。自分が一番成長できる環境だと思いましたし、オールブラックスにつながる道でもあると考えたので、移籍を決断しました。子どものころから憧れてきたチームで、もうそんなチャンスには恵まれないだろうと思っていました」
──移籍2年目の昨シーズン、クルセイダーズはスーパーラグビー・パシフィックの王者に返り咲きました。
「移籍1年目(2024年)は誰もが驚くほど厳しいシーズンでしたが(9位)、2年目(2025年)は優勝でき言葉では表せないほどうれしくて、今でもそういう気持ちです。それと同時に、最初に日本に来たときと同じように、スーパーラグビーで得られるものはすべて得たという気持ちになり、新しい経験を積むために日本に戻ってきました」
──スーパーラグビーの王者になって、また日本で一からのスタートとなります。
「どのチームに行ってもルーキーのような気持ちになれますし、プレーだけでなく、チームメイトとのコネクションなども、言葉の面を努力して磨いていきたいですね」
■みんな温かいので非常に溶け込みやすかった
──リーグワンのディビジョン1には初参戦となります。日本のラグビーには変化を感じていますか?
「日本にいたのはしばらく前のことですが、明らかに違いがあります。イーグルスの一員としてとしてベストを尽くせるようにがんばりたいですし、今を楽しんでいます。幸い、日野ではWTB竹澤正祥選手と、豊田自動織機ではPR南友紀選手と一緒でしたし、レオンなど以前から知っているコーチもいて、みんな温かいので非常に溶け込みやすかったです」
──さらにSHファフ・デクラーク選手、LOディノ・ラム選手などワールドクラスの選手もいます。彼らに影響を受けていることなどはありますか?
「やはりミーティングでもトレーニングでも。知識や経験を感じますね。これからシーズンをともに過ごすなかで多くのことを学ぶと思います。すごい選手が集まっていますから、優勝を狙えるチームだと胸を張って言えます」
──南アフリカ代表として長く活躍しているCTBジェシー・クリエル新キャプテンはこれから合流しますが(11月27日時点)、同じポジションを争う、あるいはCTBとしてコンビを組む可能性があります。
「今でもスプリングボクスで試合に出続け、こうして世界トップのCTBであり続ける理由は、本当にトップクラスの能力を持っているからだと思います。でも、私だけではなく、江藤良選手や田畑凌選手、梶村祐介選手、森勇登選手など、いい選手たちがみんなでポジションを争っていますので。大いに成長できるチャンスです。チームとしていいことだと思っていますし、そのような状況でもジェシーと私がコンビを組むことができると考えています。私も学びながら、自分の知識をみんなにシェアしていきたいです。そのためにはまず日本語の上達が必要なので、その勉強もがんばりたいと思っています」
──日本語の習得は、やはりラグビーはもちろん日本での生活を楽しむうえでも必要でしょうか?
「その通りですね。ラグビーはチームスポーツなので、コミュニケーションがすごく大事です。その点で妨げがあるとチームに影響が出ると思っています。日常の買い物や旅行などでも日本語を使えたら素晴らしいと思っています」
──サポーターのみなさんに注目してほしいところがあればお願いします。
「やはりコリジョン、フィジカル、ボールキャリーですが、その一方で自分がラグビーを楽しめている選手であること、楽しんでラグビーをしているところにぜひ注目してほしいです」
──どんなニックネームで呼んでほしいですか?
「みんな『リーバイ』や『リー』と呼んでくれていますので、ぜひお願いします」
活躍の場を再び日本に移し、クルセイダーズなどでの経験を生かしながら他の選手にもシェアしていく。その姿勢にイーグルスに対するコミットの本気度を感じた。
世界で得た知見を、そしてスーパーラグビーを制した経験を、必ずやリーグワンの舞台で生かしてくれるだろう。
(取材・文/齋藤龍太郎)