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2022.12.13
INTERVIEW

SHファフ・デクラーク選手インタビュー

SHファフ・デクラーク選手インタビュー

「勝負事はなんでも100%で臨み、勝ちたい」

今季のリーグワンで特に注目を集めている世界的名手が、開幕直前に横浜キヤノンイーグルスに合流した。SHファフ・デクラーク。南アフリカ代表の現役SHであり、2019年のラグビーワールドカップ日本大会でCTBジェシー・クリエルとともに世界の頂点に立ったトッププレイヤーだ。日本代表とも対戦し、闘志あふれるプレーを見せたことで日本のファンにとってもおなじみの存在となった。

今年6月にイーグルスへの加入が正式に発表され、7月にはラグビーワールドカップ決勝の舞台となった日産スタジアムで入団会見イベントに参加。約700人のファンの歓迎を受けた。以後、11月まで南アフリカ代表としてタフなテストマッチを戦い抜き、このほどついにイーグルスへ合流した。

コンディションの面でテストマッチの影響が残る中、12月1日のメディア合同取材では開幕戦から出場する意欲を見せたデクラーク。今回はその翌週に単独インタビューし、あらためて現況やモチベーション、そしてこれまでの歩み、強気なプレーの原点などについて直撃した。

(取材日:2022年12月7日)


■アグレッシブにプレーしないと二番手の選手になってしまう

── イーグルスのファン、ひいては日本のラグビーファンにとって待望の来日となりました。

「ありがとうございます。7月、日産スタジアムで歓迎していただいて以来ファンの方々とは直接お会いできてはいませんが、SNSなどを通じてたくさんメッセージをいただいています。チームからも大いに歓迎され期待されていると感じていますので、これからのイーグルスの一員としての活動を非常に楽しみにしています」

── まだ1週間ほどではありますが、日本の生活はいかがでしょうか?

「今のところ最高ですね。最初は一人暮らしのような形でしたが、後から日本にやって来た妻が部屋の整理をしてくれて、身の回りがようやく落ち着いてきました。ジェシー(・クリエル選手)やスタッフのみんながいろいろ手伝ってくれるのでとても助かっていますし、何かあれば電話1本ですぐにサポートしてくれるのでありがたいです。プライベートでは渋谷に行きましたし、今日はこれから横浜に行く予定です。最高に楽しんでいます」

── 外食する機会もあるのではないかと思いますが、日本に来てから美味しいと感じた食べ物はありますか?

「肉文化で育ってきたので和牛はやはり美味しいですね。焼肉、ラーメンも好きです。また、スーパーに買い物に行くと南アフリカにはない野菜や果物が並んでいるので、妻と手に取りながら『これ、何だろうね』などと話しながらいろいろな食材を試しているところです」

── 12月1日にはメディアによる合同取材の機会があり、どのメディアもデクラーク選手のコンディションを気にしていました。

「まだ完全に治るのを待っているところですが、先週末に3日間のオフがあり、しっかりと休息をとりました。今日ユニット練習に初めて参加しましたが感触はよかったので、あと何日かで万全の状態に戻るのではないかと思います」

── 11月のテストマッチの影響が尾を引いてはいますが、8月のザ・ラグビーチャンピオンシップの開幕戦、ニュージーランド戦でもキックオフ早々、タックルした際に相手のひざが頭部に接触し脳震盪で交代するというアクシデントに見舞われました。

「15歳まで過ごした地元であり、5年間プレーしたスタジアム(ネルスプロイトのムボンベラ・スタジアム)だったので、いいパフォーマンスをしたいと意気込んで臨んだ試合でした。そのためちょっと気負い過ぎていたかもしれませんが、私は体が小さいので常にアグレッシブにプレーをしないといけません。そうしないと二番手の選手になってしまいます」

── アグレッシブなプレーこそがデクラーク選手の信条だと思いますが、そのようなアクシデントがあるとタックルに入るのが怖くなるのではないでしょうか?

「いえ、恐怖心は一切ありません。妻は心配していましたが、ラグビーですからそういうことはありますし、私はすぐに復帰したいと考えていました」

── そんな持ち前の強気さ、負けん気はいつ頃からどのように備わっていったのでしょうか?

「両親が元々スポーツをやっていて、私も小さい時からスポーツをやっていましたが、その頃から常に負けず嫌いでした。祖父からの『常にチャレンジしろ。臆することなく自信を持って思い切りプレーしろ』という教えも大きく影響していると思います。褒めて伸ばしてくれて、自信をつけさせてくれながら育ちましたので、自然と負けず嫌いになっていきました。南アフリカ人にはそういう精神や文化があると感じています」

── 様々なスポーツ経験がある中で、ラグビーは幼い頃から始めていたそうですね。

「父が地元のラグビークラブを率いるコーチだったこともあり、私は小学1年生、6歳の時に遊び程度にラグビーを始めました。実はラグビーではなくクリケットを本格的にやっていこうと考えていたのですが、16歳でプレトリアに引っ越した際、その環境下ではラグビーの方がいいだろうと感じてラグビーに絞ることにしました。その後、17歳でライオンズのジュニア(育成部門)に入りました」

── ラグビーだけでなくクリケットでも有望な選手だったのですね。

「クリケットに加えて陸上、体操、テニス、ゴルフなどもしていました。クリケットでのハイボールの扱いは今でもラグビーのプレーに生きていると思います」

■ワールドカップ優勝、年間最優秀選手ノミネート...数々の誇らしい瞬間

── こうして本格的にラグビーのキャリアをスタートされたわけですが、やはり当時から南アフリカ代表になりたいと考えていましたか?

「はい。常にスプリングボクス(南アフリカ代表の愛称)でプレーすることを目標にしていました。ですから初キャップ(2016年6月11日のアイルランド戦で代表デビュー)の瞬間は特に思い出深いですね。元スプリングボクスの大先輩から『初キャップの試合は一日があっという間に過ぎてしまう。後で何も覚えていないということになりかねないから、一瞬一瞬をじっくりと噛み締めろよ』と言われたので、落ち着いてすべての出来事を見て記憶しながら過ごしました。国歌を歌う時にスタンドを見たら両親がいて、とても感動したのを覚えています」

── 初キャップ直前の2016年2月には当時スーパーラグビーのライオンズの一員として来日し、日本のサンウルブズと秩父宮ラグビー場で対戦しました。

「それが私にとって初めての日本でした。わずか4日間の滞在でしたが、東京は大都市で活気にあふれているなと感じましたし、印象はとてもよかったです」

── その後、プレミアシップのセール・シャークスでも活躍されましたが、そこでの経験は今も生きていますか?

「はい。かなり大きな影響を受けました。多くの対戦相手といろいろなコンディションや天候のもと試合する必要があり、その中で大きく成長したと感じていますし、今の自分の経験値につながっています」

── 南アフリカ代表やセール・シャークスでの活躍が認められ、2018年にはワールドラグビーの年間最優秀選手賞候補にノミネートされました。

「予想外でした。世界のトップ5(候補の5選手)に選ばれるなんて想像もしていなかったので、ノミネートされただけでもこの上なくうれしかったです。非現実的で特別な経験でした」

── さらにその翌年、2019年のラグビーワールドカップ日本大会で南アフリカ代表の一員として優勝に大きく貢献しました。

「誇らしい瞬間でした。前年は苦戦していましたが、チームとしてハードワークして盛り返し、最後にウェブ・エリス・カップ(優勝杯)を獲得できたので感慨深かったです。南アフリカに帰国してパレードをした時は国民のみなさんがものすごく喜んでくれたので、あらためてすごいことを成し遂げたのだなと感じました」

■チーム全体のパフォーマンスを上げるためにできることは何でもやりたい

── そして7月のイーグルス入団会見イベントで、まさに優勝を成し遂げた場所である日産スタジアムに戻って来られました。ファンの歓迎はいかがでしたか?

「最高でした。ロッカールームに入って『ああ、ここでトロフィーを掲げたな』と思い出しましたし、また日本のファンがここまで歓迎してくれるとは思っていませんでしたので、感慨深いものがありました」

── 沢木敬介監督から期待されていること、直接話したことなどがあればお願いします。

「敬介さんだけではなく、コーチ陣全員から『もし何か考えていることがあればいつでも我々にインプットしてほしい』と言われています。選手としていつでも意見を言いに行けるのはうれしいことですね。私としても当然チームに貢献したいですし、チーム全体のパフォーマンスを上げるためにできることは何でもやりたいと思っています」

── イーグルスには代表のチームメイトであるCTBジェシー・クリエル選手以外にも南アフリカ出身の選手がいます。元々接点があった選手はいますか?

「エスピー(・マレー選手)とは何度か会ったことがあり、対戦したこともあります。コーバス(・ファンダイク選手)は初対面ですが、昨シーズンのパフォーマンスを映像で見ました。リーグワンのベストフィフティーンに選ばれたのもうなずけるいい選手です。他の選手たちも含め、これから一緒にプレーするのが楽しみです」

── 日本人選手とのコミュニケーション、関係性はいかがでしょうか?

「まだ全員とは話せていないのでこれからではありますが、ロッカーが近い同じポジションのアマノ(SH天野寿紀選手)、カジ(CTB梶村祐介キャプテン)、アン(PR安昌豪選手)、ニワイ(HO庭井祐輔選手)らはがんばって英語で話しかけてくれるので、そこまで問題なくコミュニケーションが取れています」

── 合流間もない中ですが、いよいよリーグワンが開幕します。第1節からデクラーク選手の出場を期待しているファンが多いですが、コンディション含め見通しはいかがでしょうか?

「私としては初戦から出場したいですが、メディカルとコーチの判断次第です。まずはしっかり治して、試合の週の練習には全部参加できればと思っています」

── 南アフリカ代表とは違うスタイルのラグビーに適応する必要がありそうです。

「ベストを尽くすこと自体は代表と何ら変わりません。勝負事はなんでも100%で臨みたいですし、勝ちたいです」

── そういう意味では、テストマッチで世界に見せてきたようなパフォーマンスを日本のファンも直に見ることができそうでしょうか?

「そうなるといいですね。すべてが計画通りにいくわけではありませんが、ファンのために最善を尽くしていいプレーを見せられるようにがんばります」

── 最後に、そんなファンの皆さんへのメッセージをお願いします。

「いつも応援のメッセージ、ありがとうございます。ファンの皆さんの存在は大切で、私たちの力になります。大一番で接戦を制するためにはみなさんの声援が欠かせませんので、ぜひ会場にお越しください。そして引き続きイーグルスのサポートをお願いします」


サイズには決して恵まれてはいないが負けん気は誰よりも強い。フィジカルの強さもワールドクラスだ。世界のラグビーファンを魅了してきた闘志むき出しの全力プレーを、まもなくリーグワンという新たな舞台でも見せてくれるだろう。

ピッチの中央でトレードマークの長い金髪を振り乱し、アグレッシブなパフォーマンスでイーグルスの勝利に貢献する「ファフ」の雄姿を一日でも早く目に焼き付けたい。

(インタビュー&撮影:齋藤龍太郎)

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