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2023.12.03
INTERVIEW

HO 中村駿太選手 インタビュー

HO 中村駿太選手 インタビュー

「今動かないと現状維持か衰退のどちらか」

今季のリーグワンでも屈指の、注目の移籍となった。東京サントリーサンゴリアスで活躍してきたHO中村駿太選手が、横浜キヤノンイーグルスへの移籍を決断。有能なHOが揃うイーグルスの選手層が、この移籍によりさらに厚くなった。

今年9月から10月にかけては、数々の強豪国から世界的選手を招き選抜チームを編成する伝統あるクラブチーム「バーバリアンズ」の一員として活躍し、ラグビーワールドカップで戦う日本代表のバックアップメンバーとして準備を進めていた。

トップリーグ連覇に貢献したサンゴリアスとU20日本代表で薫陶を受けた沢木敬介監督の下で再び指導を受けている中村選手。見据えるのは自身の成長と、近年掴めなかった日本の頂点だ。


■居心地のいい環境では自分の成長スピードは上がらない

──東京サントリーサンゴリアスから移籍されましたが、その前にバーバリアンズに選出され、ラグビーワールドカップの日本代表のバックアップメンバーを兼ねる形で9月、10月は連戦に臨んでいました。

「5試合に出場しましたが、あれだけのスタープレーヤー(主にオーストラリア代表バックアップメンバーとの混成チーム)と一緒にプレーできたことは自分にとって大きな財産になりました。リーグワンのオフに当たる時期に高強度の試合を重ねたことは、今シーズンを迎えるうえでも大きなプラスになったと思っています」

──日本代表にはいつでも行けるように、という意識はありましたか?

「はい。練習の映像も試合の映像も、全部ではありませんがしっかり見ながら、いつ呼ばれてもいいように準備していました」

──ワールドカップの日本代表の試合はどういう思いで見ていましたか?

「純粋に勝ってほしい、という心境でした。ベスト4の壁を越えるという目標を達成してほしい、という思いで見ていましたね」

──FB山中亮平選手がバーバリアンズから日本代表に追加招集されました。みなさんで快く送り出したのでしょうか?

「そうですね。日本代表FBセミシ・マシレワ選手がケガをした試合(イングランド戦)をみんなで見ていたのですが、山中さんが呼ばれることはだいたい予想がついていたので、次の日の朝にみんなで気持ちよく送り出しました」

──そんなバーバリアンズでの貴重な経験を経て、サンゴリアスからイーグルスへの移籍を果たされました。移籍は初めての経験ですが、大きな決断だったのではないでしょうか?

「はい。7年間同じチームでプレーして、自分の中ですごく居心地のいい環境になっていました。ただ、それでは自分の成長スピードは上がっていきません。もっと成長したいという気持ちから移籍を決意しました。残りのラグビーキャリアを考えると、たぶん今動かないとこのまま現状維持、または衰退のどちらかだろうと考え、自分にとって居心地の悪い新たな環境にあえて身を置いて、もう一度成長したいという思いで移籍しました」

──沢木敬介監督にはサンゴリアスの時だけでなく、学生時代のU20日本代表でも薫陶を受けています。沢木監督の下でもう一度、という思いはあったのでしょうか?

「そのとおりです。自分をラグビー選手として大きく成長させてもらったのは敬介さんの指導を初めて受けたU20日本代表の時です。あの経験がなかったら、たぶんトップレベルではプレーできていなかったと思います。これから自分を一番成長させてくれる環境を考えた時、やはり敬介さんが率いるイーグルスだろうと考えました」

──サンゴリアスでも沢木監督の下で厳しい練習を重ね、トップリーグ2連覇を成し遂げました。

「本当にきつい練習をやってきましたし、最新のトレーニングをしてきました。ただ、やはり7年も同じ環境にいると、もちろんその環境が悪いわけではないのですが自分の中でどこかマンネリ化してしまい、新しい刺激を欲するようになりました。そういう時にあえて居心地の悪い環境に入っていくのはすごく大事なことだと思います」

──久しぶりに沢木監督の指導を受けて、あらためて何か感じていることがあれば教えてください。

「サンゴリアス時代より優しくなったと思います。個人的にはもっと厳しくしてほしいのですが(笑)、やはり言葉に力があり、その都度的確な指摘をいただいています」

■日本で一番いいHOに

──サンゴリアスのみならずイーグルスにも優秀かつ経験値の高いHOの選手が多数所属しており、そういう状況下での競争となりますね。

「今回のようにチームを選ぶ時、自分のポジションにどんな選手がいるかは気になることだと思いますが、もしいいライバルがいなかったら自分の成長は限定的なものになってしまいます。イーグルスには庭井祐輔さんもいますし、川村慎さんも明治大学の後輩の三好優作もいます。みんな自分が持ってないものをたくさん持っている選手なので、日々学んで成長しています」

──慣れない環境に身を置くうえで、元サンゴリアスの選手やスタッフがたくさんいる点はメリットと言えるのではないでしょうか?

「最初、チームに入ったばかりの時はコミュニケーションが取りやすかったですし、いろいろ助けてもらいました。今はもう合流してから時間が経っているので、そこはあまり関係なく適応しています」

──祝原選手とは同じタイミングで同じチームへの移籍となりました。

「高校、大学、社会人も一緒で、サンゴリアスでもずっと2番と3番の関係でしたから、また移籍するタイミングも一緒でまた同じチームになり、すごく縁を感じています」

──今回イーグルスに移籍してきて、サンゴリアスとの練習内容の違いなど何か変化を感じていますか?

「ゲームシチュエーション、つまり試合形式の練習が多い印象です。また、今のラグビーのトレンドが取り入れられた練習内容で、すごく計算された最新のことをやっている感じがします」

──新たな環境で成長中の中村選手ですが、やはり開幕戦で2番のジャージーを着たいという思いは強いですか?

「そうですね。もちろん先発出場したいですし、そのためにもトライアルのゲームで周りの選手やスタッフから認めてもらえるように一層努力したいと考えています」

──監督、コーチからはどういう仕事、役割を期待されているのでしょうか?

「HOなのでセットピースはもちろんなのですが、それ以外の自分の強みの部分で他のHOの選手と差をつけ、そこでチームに貢献してほしい、という期待はいただいています」

──昨シーズンのプレーオフトーナメント3位決定戦でイーグルスと対戦しましたが、その時のイーグルスの印象はいかがでしたか?

「やはりセットピースが堅くて、そこからのアタックのバリエーションが多いなという印象でした。アタッキングチーム同士でしたが、イーグルスもおもしろいアタックをするなと感じていました。自分がサンゴリアスに入団してから、優勝か準優勝しかしていなかったので、結果はすごく残念で、勝って終わりたかったです」

──イーグルスでは最高成績となった3位よりも上を目指すシーズンになりますが、ここで活躍して再び日本代表入りが狙える位置に行きたいという思いはありますか?

「もちろんです。ラグビーをやっている以上一番の目標は日本代表ですから、そこを目指してがんばりたいですが、まずイーグルスでいいパフォーマンスをして、日本で一番いいHOだ、というところを見せられるようにしたいですね」

──サンゴリアスとの対戦もありますが、やはり意識する相手になりそうですね。

「まだ実感がないのですが、古巣で7年やってきたので、対戦する時はそういう感情が芽生えてくるのではないかと思います」

──その試合のトイメンは日本代表HOの堀越康介選手になりそうですね。

「一緒に切磋琢磨してきたので、お互いベストを尽くせればいいと考えています」


古巣ではしばらく遠ざかった日本一の座を、中村選手は新天地で目指すことになる。イーグルスの勝利に貢献しながら、自身も日本一のHOになることを誓っている。

そのためにもさらに成長し、ハイレベルなイーグルスの「2番」争いに勝つことが当面の目標となる。それが自ずとチームを前へと突き動かす推進力となるだろう。

開幕から2番のジャージーを背負えるか。中村選手の挑戦に期待したい。

(インタビュー:齋藤龍太郎)

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