夢は母国で開催されるワールドカップの大舞台でのプレー
レッドハリケーンズ大阪での2シーズンのプレーを経て、次なる活躍の場に選んだのは、ディビジョン1優勝を目指す横浜キヤノンイーグルスだった。
LOトム・ジェフリーズ選手。203cmの長身を活かしたラインアウトなどでの活躍がチームにとっての、そして彼自身の望みでもある。
ラグビー強豪国である母国オーストラリアを飛び出し、日本で成長を続ける25歳の青年がイーグルスで活躍するためには何が必要なのか。そしてその目に映っている目標とは。9月19日の熱のこもった公開練習後に話を聞いた。
■レベルの高いチームでプレーすることが次のステップだった
──日本国内での移籍となりました。まずはそれを決断した理由からお願いします。
「レッドハリケーンズ大阪でのシーズンが終わり、イーグルスからオファーをいただきました。日本の名門クラブに行くという判断はとても簡単なものでした。よりレベルの高いチームでプレーすることが自分にとっての次のステップでした」
──ディビジョンは違いましたが、イーグルスのラグビーは映像で見ていたと思います。どのように感じていましたか?
「スキルが高く、速く、強度の高いハイレベルなラグビーだと感じていました。その中でプレーできることをとても楽しみにしています」
──ハイレベルなチームの中で、ジェフリーズ選手はどのように貢献をしていきたいと考えていますか?
「まずラインアウトでチームに貢献したいです。そして運動量と強度の高さを見せたいと思っています」
──イーグルスは昨シーズン、ラインアウト成功率が90.2%でリーグ1位でした。練習でもラインアウトの精度の手応えは感じていますか?
「はい。まだまだ改善の余地はあると思いますので、今まさに練習で取り組んでいます。アタックだけではなくディフェンスの方でもラインアウトで一番になることが優勝の鍵になると考えています。やはりディフェンスでゲームの流れが変わると思いますので」
──アタックとディフェンスではどちらに自信を持っていますか?
「ディフェンスの方ですね。タックルが武器と自負しています。ディビジョン1にはワールドクラスの選手がたくさんいますが、自分のタックルで止めたいです」
■開幕戦出場のためにはチームのストラクチャーにはまること
──沢木敬介監督とは一対一のミーティングでどのような話をしたのでしょうか?
「まだそこまで深い話はしていません。『イーグルスはどう?』『東京はどう?』といったことを話しました。ただ、パウリアシ・タウモエぺアウコーチからは『ラインアウトでしっかりチームを引っ張ってほしい』と言われています」
──今日は公開練習でイーグルスのファンが大勢集まりました。
「初めての経験です。来てもらってうれしかったです。みなさん熱心で、非常にあたたかいと感じています。おかげさまでスムーズにチームに溶け込むことができました」
──今日のラインアウト練習では同じLOのマシュー・フィリップ選手が声を出し、積極的にリードしていたように見えました。
「ワラビーズ(オーストラリア代表)を経験した素晴らしいインターナショナルプレイヤーで、彼から得られる学びは自分の身になっています。彼や素晴らしいコーチがいることも移籍の決め手の一つになりました」
──実際こうしてイーグルスのグラウンドで練習し始めて、成長している実感はありますか?
「このチームのレベルに達するためには大きなステップを踏まないといけないと思いますが、間違いなく成長していると感じています」
──リーグワン開幕まで約3カ月(取材日時点)となりました。
「当然、開幕戦先発出場が目標です。そのためにはチームのストラクチャーにはまることです。そしてラインアウトの精度の向上に貢献することが大事だと考えています」
■ワールドチャンピオンの2人のようになりたい
──ご出身はオーストラリアのブリスベンということですが、ブリスベンを本拠地とするスーパーラグビーのレッズが身近な存在だったわけですね。
「そうですね。地元の身近なチームです。ただ、兄のサムが日本に行ったことで自分のフォーカスも(スーパーラグビーではなく)日本に変わりました。すべてが兄の影響ではありませんが、右肩上がりの日本でプレーすることによって得られるものが大きいと考えるようになったのです」
──今シーズンはお兄さんのサムさん(花園近鉄ライナーズLOサム・ジェフリーズ選手)との公式戦での対戦は残念ながらなさそうです。
「でも、ライナーズとはプレシーズンマッチで対戦します(11月10日・大分)。それに昨シーズンは公式戦で対戦がありました(3月10日・NECグリーンロケッツ大阪東葛vsレッドハリケーンズ大阪)。やはり兄弟の対戦は特別ですし、いつか一緒にプレーできれば、という夢も持っています。仲がいいので、今週末は大阪に会いに行きます」
──日本で兄弟揃ってプレーしていると、オーストラリアのご両親や親族のみなさんはテレビや動画での観戦になると思います。
「特に、90年代初頭のオープン化される前のレッズでLOとしてプレーしていた父が熱心で、我々の試合を全試合見てくれています。いつも正直なコメントをもらっていて、自分の成長につながっています」
──そのような積み重ねもあり、日本のトップディビジョンのチームにやって来ました。イーグルスで勝ち続けること、そして優勝が一番の目標になると思います。
「1シーズン通していいラグビーをする必要があります。長きにわたるので、昨シーズンのようにケガ人を出すことなく過ごすことも大事です。そして何よりチャンピオンになるための努力が不可欠です」
──チームの勝利に貢献する一方で、ジェフリーズ選手自身のキャリアとして、日本代表はターゲットにされているのでしょうか?
「そうですね。日本という国を代表してプレーしたいと考えています。それが大きな目標です」
──今の日本代表についてはどのように感じていますか?
「エディーさん(エディー・ジョーンズ日本代表ヘッドコーチ)は功労者です。これからもいいものを作り上げてほしいと思いますし、この先何年かで(ワールドカップ連覇中の)南アフリカと互角に戦えるようなトップチームなると信じています。強豪になれるポテンシャルがあると思います」
──2027年にはジェフリーズ選手の母国オーストラリアでラグビーワールドカップが開催されます。
「できれば母国で、ワールドカップという大舞台でプレーしたいですね。オーストラリア人の前で日本代表としてプレーするのは素敵なことです。 もしかしたら地元ブリスベンのサンコープスタジアム(レッズの本拠地)で試合ができるかもしれません」
──そんなワールドカップの連覇に貢献した南アフリカ代表のSHファフ・デクラーク選手、CTBジェシー・クリエル選手が開幕直前に合流する予定です。ポジションは違いますが、やはり彼らから学ぶことはあるでしょうか?
「ワールドチャンピオンの2人と一緒にプレーできることは非現実的と言えるような状況ですが、極めてレベルの高い選手たちですし、彼らがイーグルスでプレーするのはチームにとって非常に大きなことだと思います。リーダーシップやトレーニングの姿勢、さらにはフィールド外の面も参考にして、彼らのようになりたいと思います」
夢は日本代表。そして2027年に母国で開催されるラグビーワールドカップ出場と断言したトム・ジェフリーズ選手。まずそのためにはイーグルスの勝利への貢献が必要不可欠で、すでに並々ならぬ意欲を燃やしている。
同じオーストラリアのLOの名手マシュー・フィリップ選手らから多くのことを吸収しながら成長し、公式戦でラインアウトを制圧する姿が見られれば、その夢に一歩、また一歩と近づいていくことができるだろう。
(取材・文/齋藤龍太郎)