ハードな練習を一瞬一瞬楽しみながらいずれは日本代表に!
チーム最年少、弱冠20歳の若きルースヘッドPRがオーストラリアから横浜キヤノンイーグルスにやってきた。ゴールディング光士選手。その名前からもわかるように日本にルーツを持つ前途有望なプレイヤーだ。
オーストラリア高校代表の実績を持ち、188cm125kgとサイズに恵まれた有望株は、なぜ日本でのプレーを決断したのか。そしてどのようなビジョンを持って日々練習しているのか。まだあどけなさが残る希望に満ちた目を輝かせながら、ゴールディング選手は語ってくれた。
■日本とサモアの両方のルーツに誇りを持っている
──オーストラリア生まれのゴールディング選手ですが、まずはご両親についてお聞かせください。
「母が日本人で、父はオーストラリア生まれのサモア系ニュージーランド人です。自分自身のことは日本人・サモア人だと思っています。生まれはオーストラリアですが、流れている血は日本人とサモア人なので、その両方のルーツに誇りを持っています」
──ご出身がゴールドコーストで、趣味はボディサーフィンがいうことですね。
「子どものころは好きでした。今はサーフィンができる体格ではなくなってしまいましたが(笑)、仕事や用事がない時はいつもビーチにいました。日本でもいつか空き時間を見つけて海に行きたいですね」
──来日は今回が初めてなのでしょうか?
「日本に住むのは初めてですが、これまで年に1回は西宮(兵庫県)のおじいちゃん、おばあちゃんに会いに来ていました。ですから僕の日本語も関西寄りです。ヒアリングはほとんどできていますが、答える時は日本語と英語が半々、という感じですね。
でもラグビーの話になるとキーポイントやキーワードを使いながらになるので、チーム内ではうまくコミュニケーションをとっています。ですから言葉については問題ありません」
──日本での初めてのシーズンを迎えていますが、今回の来日はいつ頃でしたか?
「8月上旬です。でもイーグルスはランニングラグビーのチームと聞いていたので、日本に来る前から走り込んでフィットネスの準備をしていました。9月から始まった全体練習はもちろんハードですが、一瞬一瞬を楽しんでいます」
■すでに1年くらいチームにいるような感覚
──イーグルス入りの経緯を簡単にお教えください。
「イーグルスからエージェントを通じて『プロ選手として育てたい』という話をもらったので、その契約を断る理由はありませんでした。日本でプレーすることはもちろん、いずれ日本代表になることも自分の夢のひとつです」
──来日前にイーグルスの試合映像を見て感じたことがあればお願いします。
「ものすごく展開の速いチームだなと思いながら見ていました。また、選手の体格はそこまで大きくはないのですが、非常に激しいディフェンスをして勝つチームだ、とも感じました」
──特に仲良くしている選手はいますか?
「(同時に加入した)LOトム・ジェフリーズ選手やLOコルマック・ダリー選手は同じマンションに住んでいるので、自然と仲良くなりました。送り迎えもトムがしてくれています。最初はみんなとの交流に消極的でしたが2日くらいで溶け込み、すでに1年くらいチームにいるような感覚になっています」
──沢木敬介監督と一対一のミーティングではどんな話をしましたか?
「監督からは『イーグルスのマインドセットを持たなければならない』、そして『日々成長し、毎日向上するように』という話がありました。そう言ってもらって本当によかったです。それまでは例えば目標のタイムなどをなかなかクリアできなかったのですが、沢木監督からそのような話をされてからマインドが変わりました」
──周りの選手のマインドについては、見ていてどうですか?
「練習がハードであることは全員わかっていますが、グラウンドに来ると毎朝みんなやる気満々です。自分も周りのサポートに助けられていて、キツい時も他の選手たちが背中を押してくれるので、日々成長できていると感じています」
──実際、イーグルスでPRとしてスクラムを組んでみて発見したこと、新たに感じたことがあればお願いします。
「オーストラリアのスクラムはとにかく体格が物を言いますが、日本は細かいスキル、テクニックを駆使して組んでいるので、本当に自分のためになっています」
──左PR、つまりルースヘッドですね?
「今は1番(ルースヘッドPR)ですが、3番(タイトヘッドPR)でも組めるように左右両方とも練習しています。どちらで組むにしても、いいセットアップができるかどうかが今の自分にとっては大事だと思っています」
──PR以外のポジションの経験はあるのでしょうか?
「もともとはFL/NO.8として長くプレーし、ボールキャリーを得意としてきました。PRはまだここ4年くらいです。PRになってからはボールキャリーの機会が減りましたが、PRとしてはボールを持つ機会が多い方だと思うので、今後もボールキャリーや、今まさに磨いているパスのスキルを見せていきたいと思っています」
■兄にあたるイーサン・デグルートを尊敬
──ゴールディング選手にとっての憧れの存在、ロールモデルの選手は誰でしょうか。
「異母兄弟(兄)のイーサン・デグルート選手(ニュージーランド代表/ハイランダーズ・PR)です。尊敬していますし、昨年のラグビーワールドカップはかなりの時差があって観戦するのが難しかったのですが、彼のほとんどの試合を見ています。今後もオールブラックスでの活躍を心から楽しみにしています」
──出身のオーストラリアでは憧れの選手はいますか?
「マイケル・フーパー選手(元オーストラリア代表キャプテン)です。その激しいプレーにずっと憧れています。また、イーグルスには非常に経験値の高いLOマシュー・フィリップ選手(元オーストラリア代表)がいますが、『ミスしてもいいんだよ』と言ってくれるなど優しく接してくれています」
──ゴールディング選手は高校オーストラリア代表だったと聞いています。
「高校の最終学年で代表になりました。誇らしい時間でしたし、今回日本に来たことも同じように誇りに思っています」
──そこからスーパーラグビーを目指す気持ちもあったのでしょうか?
「個人的にハリケーンズが好きだったので『入りたいな』と思っていましたが、スーパーラグビーは何年か前からあまり見なくなってしまいました。今はテストマッチばかり見ています。もちろん日本代表戦も見ていますし、パシフィックネーションズカップのサモア戦(9月15日・秩父宮ラグビー場)は特にいい試合でした。
中でもディラン・ライリー選手(日本代表/埼玉パナソニックワイルドナイツ・CTB)が日本代表になった経緯について詳しく聞いたので、いつか自分もあのようになりたいな、成長したいなと思いながら見ていました」
──その日本代表には、同じPRの岡部崇人選手がイーグルスから選出されています。
「彼はイーグルスのグラウンドに一回来たのですが、しっかりと話をする時間はありませんでした。同じポジションなので、チームに戻ってきたらいろいろなアドバイスをもらいたいと考えています」
──イーグルスの1番または17番になるためには、岡部選手らと張り合っていく必要があります。
「もちろんポジション争いをしていきますが、それ以前に同じポジションとしていろいろ質問したいと思っています」
──開幕直前に合流予定の南アフリカ代表の2人、SHファフ・デクラーク選手とCTBジェシー・クリエル選手の存在についてはどう思っていますか?
「スターの2人が同じチームにいることに最初は驚くかもしれません。一緒に写真を撮ってもらうことぐらいはお願いするかもしれませんが(笑)、チームメイトとして経験豊富な彼らから多くのことを学びたいと思っています」
尊敬する兄のイーサン・デグルート選手、南アフリカ出身でオーストラリア育ちのディラン・ライリー選手といったインターナショナルプレイヤーの活躍を目にしてきた若きPRは、これからイーグルスで経験を積み重ね、リーグワンで活躍し、そしていずれは日本代表になることを夢見ている。
ビジョンは明確だ。そしてそのために日々ハードなトレーニングに取り組む必要性も十分理解している。将来性の塊とも言える若者が活躍する姿を、ぜひグラウンドで目撃していただきたい。
(取材・文/齋藤龍太郎)