アイルランド・オーストラリア・日本──普通とは違うキャリアもいい経験

199cm、120kg。ピッチはもちろんのこと、インタビュールームではさらにそのサイズが際立つ。ラグビー強豪国のアイルランドで生まれ育ったコルマック・ダリーは、母国とオーストラリア、そして日本と世界のチームを渡り歩いてきた巨漢LOだ。
アイルランド代表を数多く輩出している名門レンスターで3年(うち2年はアカデミー所属)、オーストラリアのクラブチームで1年プレーした後レッズへ移籍して1シーズンを過ごした。
ラグビーを含め文化の異なる複数の国で楕円球を追ってきた新戦力はどのようなプロセスで、またどんな思いでイーグルスでのプレーを決めたのか。9月25日の公開練習の後にインタビューした。
■日本に行くことは素晴らしいチャンスでネガティブな感覚はない
──日本のチームへの所属は初めてとなるダリー選手ですが、来日されたのはいつ頃でしょうか?
「最初のチームトレーニングから来ています。日本で生活するのは今回が初めてですが、初来日ではありません。レッズの一員として埼玉パナソニックワイルドナイツと対戦した際に初めて日本に来ました。
ワイルドナイツは自分が経験してきたラグビーとは全く異なるスタイルで、スキルなど全てにおいて高い標準を持っているチームだったので、驚くとともに共感しました。今回もそのような新しい経験、文化、環境にフィットしていくことが大事だと考えています」
──まだ来日間もないダリー選手ですが、日本の環境面、日本人のキャラクターについてはいかがでしょうか?
「やはり自分が生まれ育ったアイルランドとは違う環境にいると感じています。しかし私のまだ拙い日本語に対応してくれるいい人たちもいて、非常に助かっています」
──日本の食事、食文化への順応はいかがでしょうか?
「日本と海外との決定的な違いは(本場の)寿司があることです(笑)。アイルランドには寿司がないので、食文化の異なる国の食べ物を食べることに抵抗があるのでは、と思われるかもしれませんが、私は特に問題はありません。日本の前にオーストラリアにもいた時から寿司も納豆も食べていました。
一番大事なのは何を食べるかを自分で選んで食べることです。それが自分の責任でもあります。もちろんプロテインもしっかり摂って、ブロンコテストのタイムをクリアしていれば何も問題ないと考えています」
──アイルランドから日本にやって来る選手はそう多くはありませんが、今回の決断は難しくはなかったでしょうか?
「私にとってアイルランドから日本に行くことは素晴らしいチャンスで、ネガティブな感覚は一切ありません。自分の持っているものをチームメイトに教え、逆にチームメイトが持っているものを教えてもらえる、そんな絶好の環境にいると感じています。世界のいろいろな国のラグビーを比べると似ている部分もありますが、違っている部分をお互いに教え合っていくことも私の目的のひとつです」
──レンスターやレッズといった名門チームでプレーされてきましたが、イーグルスに来た今感じている練習の質などの違いがあればお願いします。
「これまでプレーしてきたチームと比べても、レベルはまったく変わりません。むしろスキルのレベルに関してはこれまでのチームをはるかに超えています。ひとつだけ強いて挙げるとすればフィジカル面、サイズの小ささは(過去の所属チームと比べて)優位には立っていませんが、とにかくそれ以上にスキルが突出しています」
──U20のアイルランド代表でもあったダリー選手は、やはりアイルランド代表が目標だったのでしょうか?
「日本でプレーしている選手が日本代表になりたいと考えるのと同じように、アイルランドの選手もみんなアイルランド代表になりたいと考えています。ただ、自分のようにオーストラリアを経て日本に来るという、普通とは違ったキャリアもいい経験だと思っています」
──レッズではそれまでとは違う刺激を受けましたか?
「どこかチームに所属したら変わる、というものではありません。レッズはスーパーラグビー・パシフィックで本気で勝ちたいと考えているチームだったので、自分がそこに行って新たなプレイヤーとして何ができるか、ということを常に考えていました。そしてイーグルスに来た今もその姿勢はまったく変わっていません」
■イーグルスOBたちのサポートで完全にコミットすることに

──沢木敬介監督とは1対1でどんな話をしたのでしょうか?
「まずは私の持ち味であるフィジカルを使うように、ということと、毎試合アタックやディフェンスでどのようにプレーをするか、について話しました。そして敬介さんがしたいことと私がしなければいけないことも話し合いました。敬介さんから言われている外国人選手らしい激しさを練習で出すようにしています。そして細かいことを一つ一つ学び、それを練習で実践していくことを心掛けています」
──ラインアウト等を担当しているパウリアシ・タウモエペアウ アシスタントコーチについてはいかがですか?
「私はオーストラリアでレッズに加えてニューサウスウェールズでもプレーしたことがあり、その時に彼から知識を得て、私がレッズで得た知識を彼も得ようとしていますので、非常にいい関係だと思いますし、優れたコーチだと思っています」
──イーグルスのラグビーは移籍前に映像でご覧になりましたか?
「レッズのゼイン・ヒルトン アシスタントコーチ(元イーグルス ヘッドコーチ)やPRセフ・ファアガセ(元イーグルス)がイーグルスの映像を見せてくれて『日本のラグビーはこういうものだ』と教わりました」
──そういった縁があってのイーグルスへの移籍だったわけですね。
「日本でプレーすることにはもともと興味がありました。そういった縁もあり、イーグルスに完全にコミットしようと考えるに至りました。ですから他のチームは考えていませんでした」
■「PLUS ONE」は自分のモットーとリンク

──イーグルスにはマシュー・フィリップ選手をはじめワールドクラスのLOが揃っています。お互いに高め合っている実感はありますか?
「はい。彼らの知識や経験を自分も試合に活かしていくことが今の目的です」
──ダリー選手のLOとしての強みを教えてください。
「自分の強みはまずこの体格です。日本のラグビー界では稀なこの体格をセットピース、モールディフェンスやアタックに生かしていくことが自分の強みだと考えています。また、ボールキャリーとタックルも武器だと思っていますので、そういうものをイーグルスのラグビーに活かしていければと考えています」
──イーグルスは昨シーズンのリーグワンでラインアウト成功率が1位でした。実際に練習でその理由を感じる瞬間はあるでしょうか?
「たしかにアタック時のラインアウトは1位でしたが、ディフェンス時の成功率は7位でした。アタック、ディフェンスの両方で1位のレベルまで上げていかなければなりません。それを遂行するために我々はもっと貪欲に改善していかないといけないわけです。そして日々の練習でそれが向上している実感はあります」
──シーズンのスローガン「PLUS ONE」はそのようなチームの向上、選手個人の成長とリンクする言葉ではないでしょうか?
「『絶対にあきらめない』、『どんどんハードワークしていく』ことが自分のモットーなのですが、まさにリンクしています。それは、たとえばジムでのトレーニング、ブロンコテストのタイム、そして摂っている栄養に至るまで『PLUS ONE』は影響していると思います。もうワンプッシュすることへの後押しになっている言葉です」
──今日はファンの前で練習して、みなさんの反応をどう感じたでしょうか?
「ファンと直に接することができるのは素晴らしいことだと思います。日本のラグビーファンはとても情熱的だと感じましたし、プレイヤーとしてもチームが勝っていく姿をファンに見せることによって、ファンもチームのことをさらにサポートしたいという気持ちになると思いますので、今日はそのような関係性を感じられてよかったです」
──そんなファンのみなさんから、何と呼んでほしいですか?
「アイルランドの名前なので発音が難しいと思いますが、『コルマック』か『コルマッケッシュ』と呼んでいただけたらうれしいです」

かつてイーグルスに在籍していたOBたちがつないだ縁。それは、世界屈指の名門チームでのプレーを経てさらに成長への意欲が増す一方のLOコルマック・ダリー選手にとって極めて大きな契機となった。
自らのポリシーとリンクする「PLUS ONE」のシーズンスローガンのもと、26歳のアイリッシュは初めて暮らす日本で黙々とハードワークし続けている。
(取材・文/齋藤龍太郎)