「チームファーストの精神で動ける選手になりたい」
スクラムこそがチームの象徴である京都産業大学から、左右両方に対応できる貴重なPRが横浜キヤノンイーグルスにやってきた。大学は京都だが高校は相模原、地元は川崎。神奈川県がホームタウンのPR栗崎和樹は、アーリーエントリーからのリーグワンデビューを目指して練習で汗を流している。
大学までは左PRがメインだった栗崎は、イーグルスに入ってからは右PRとして練習に入っている。まさにチャレンジの毎日であり、公式戦デビューへの壁は厚い。
それでも前を向いて邁進する姿勢が、言葉の端々に表れていた。
(取材日:3月10日)
■相応の実力をつけてイーグルスのジャージーを着たい
── イーグルスに入り、実際に練習して感じていることがあればお願いします。
「2月9日の初日から約1カ月練習していますが、最初に感じたのはフィジカルやプレーの質の差があることです。練習2日目からセットプレーに入らせてもらったところ、スクラムの強度はもちろん細部まで突き詰める姿勢についても質が高く、大学とはレベルが違うなと感じました」
── 選手の臨み方、取り組み方も違いますか?
「みなさんストイックで、レベルが高く、勝ちたいという思いが全員から伝わってきます。チームが本当にまとまっていると感じますし、その点でも大学とは雰囲気が違います。みなさん目指しているところも一緒だからこそ連帯感が強いのだと思います」
── そんなイーグルスで3番、右PRという言わばスクラムの要のポジションにチャレンジ中です。
「大学では1番に入ることが多かったのでまだまだ成長段階です。3番としてやっていくならもっと体を大きくしてほしい、とコーチ陣から言われています。もちろんサイズだけでなく首や体幹の強さといった根本的な部分の強化についても指導をされていますので、そのようなトレーニングをしているところです」
── フィジカルのトレーニングも大学までとは違いますか?
「そうですね。たとえば首のトレーニング一つをとっても経験値の高い先輩方からより実践的で自分のためになる方法を教えてもらっています。『自分も入りたてのころはまだまだだったけど、こういうトレーニングをしていれば強くなるよ』とみなさん惜しみなく教えてくださいますし、スクラムを組んだ直後にも『今のはここがあかんかったな』とすぐにアドバイスをいただけます。特に加入当初は杉本達郎さんと松岡将大さんによく指導していただき、今日は練習後に知念雄さんと一緒に首のトレーニングをやってきました。チームとして本当にいい雰囲気です」
── アーリーエントリーされた以上、公式戦に早く出場したいという思いはありますか?
「気持ちとしては早く試合に出たいです。ただ、しっかりと自分を磨ききってからイーグルスのジャージーを着られるように、相応の実力をつけて出場したいと思っています」
■大学でもラグビーを続けていくならPRで
── ラグビーを始めたのは5歳ということですね。
「はい。生まれた大阪府豊中市でラグビーを始めて、親の転勤で愛知県名古屋市に引っ越し小2から小6まで名古屋ラグビースクールでプレーしていました。中1で神奈川県川崎市に移ってからは田園ラグビースクールに通っていました。小さいころから体が大きかったのでFWでした。中1のころは170cm80kgくらいでしたが中学の3年間で一気に大きくなり高2まではLO、高3でPRに転向しました」
── ポジションの転向はコーチからの進言ですか?
「そうですね。新型コロナウイルス感染症による自粛期間に体をかなり大きくすることができたので、その過程で当時の先生から『大学でもラグビーを続けていくならPRをやってみないか』と言っていただきました」
── 東海大相模高校が花園に出るためには、同じ神奈川県の強豪・桐蔭学園を倒す必要がありました。
「個人的には戦術能力ではどこにも負けないという自信がありました。チームとして『全国制覇』を目標に掲げるなかで、一番の高い壁は県内の桐蔭学園さんでした」
── 東海大相模は全国高校ラグビーの第100回大会に関東のブロック代表として出場しました。同大会の神奈川県代表は桐蔭学園でした。
「当時2年生でした。花園はずっと出場したいと思っていた舞台で、試合に出ている最中も実感が湧きませんでしたが、やはり『すごいところに来たんだな』と感動しました。3回戦で(御所実業高校に)負けてベスト16に終わりましたが、チームとしても全国大会に出た経験が多くなかったので『全国で勝ち続けられる強さというのはまた別物だな』と花園常連校の試合を見ていて思いました」
── 昨年末から今年1月にかけての花園にも東海大相模が出場しました。
「また花園に出てくれてとてもうれしかったです(結果は準々決勝で東福岡に敗れて8強)。桐蔭学園さんが3連覇したので、あらためて質の高さを感じました」
── そして伝統的にスクラムが強い京都産業大学に進学されますが、この時点ではトッププレーヤーを目指す意欲はあったのでしょうか?
「大学2年生のころにはそのつもりでした。入学した当時は『新学期はチャレンジ。京産で後悔しないようにやっていこう』と考えていたのですが、京産の高いレベルでやっていくなかで『一度挑戦した以上もっと上のレベルに挑戦したい』と思うようになりました。その時期に一番上のチームの試合に出られるようになったので、さらにそういう思いが芽生えてきました」
── 4年間でそれだけ鍛え上げられたわけですね。
「最初は厳しい練習についていけなかったのですが、これまでの京産のスクラムが強かったのはこういうことをしてきたからなのか、と感じました。練習でも試合でもスクラムで負けることは絶対に許されない、という『京産プライド』を教え込まれました。プライドの面でも本当に鍛えられましたね」
── 1月の全国大学選手権では初の決勝進出と優勝を目指して国立に乗り込みました。
「『全国制覇』、『歴史を変える』というキーワードを掲げていました。毎年ベスト4で止まっていたので、自分たちが絶対に歴史を変えようと意気込んでいました。セットピースから流れを掴んでいこうと毎試合意識していましたが、準決勝では明治大学さんにスクラムでプレッシャーをかけられてしまいました。自分はその試合には出ていなかったのですが、FWとして取り組みが足りなかったのかなと感じています。それでもすごく楽しい4年間でした」
■体を鍛えないことにはフィールドで効果的な働きはできない
── SH土永旭選手は大学の1つ上の先輩ですね。
「旭さんは大学時代からストイックでした。FWとBKなので話す機会はあまりなかったのですが、正確なキックやアグレッシブなタックルなどでチームを勢いづかせる選手で、すごく憧れていました」
── イーグルスにはワールドクラスのプレーヤーが揃っていますが、ポジションを問わず特に刺激を受けている選手はいますか?
「FL/NO.8ビリー・ハーモン選手です。練習中はもちろん試合でも極めてストイックで、チームファーストの姿勢を崩さずに動いています。フィジカル面でもずっと体を張り続けていて、ディフェンスでもアタックでも非常にアグレッシブにプレーする姿に憧れています。ポジションは違いますが、チームのために戦うということを体現している選手です」
── ハーモン選手は攻守ともにプレーのレベルも貢献度も高い選手ですが、栗崎選手のアタックとディフェンスのそれぞれに対する意識はいかがでしょうか?
「たとえばボールキャリーに関してはあまり得意とはいえません。あくまでアタックではセットピースにこだわりを持ってやっていきたいと考えています。一方、ディフェンスに関しては右PRではありますが他の選手以上に動いて貢献したいという思いがあります。タックル精度にこだわりたいですが、大学時代よりも相手が強くなったことで通用していたはずのタックルスキルでは不十分になりました。自分の足りない部分だと感じていますので、そういった課題を克服しようと取り組んでいます」
── 今シーズン、イーグルスは厳しい戦いが続いていますが、スクラムに関しては全体的に高いクオリティを維持していると思います。栗崎選手は試合を見ていてどう感じていますか?
「自分もそう思います。フロントローのミーティングではその週の相手への対策を話し合って決めているのですが、そこにフォーカスして結果を出しています。FWのミーティングにも出ているのですが、ミーティングの効果を感じています」
── 試合には出ていなくてもミーティングからFW戦の一員として貢献されているわけですね。
「実際に試合に出るには、PRの先輩方よりもまだまだ体が薄くて弱いので、とにかく体を大きくして鍛えないことにはフィールドで効果的な働きはできないと思います。今まで以上に戦術理解を深めて、チームファーストの精神で動ける選手にならないといけません」
── ラインアウトに関してはいかがでしょうか?
「大学時代よりもジャンパーの選手の体が大きいので、リフターとしてジャンパーをしっかり上げきれないケースが出てきました。そういう面のパワーや精度も必要だと日々の練習で感じています」
── モールに関しては特にラインアウトからのオプションになることが多いですが、感触はいかがでしょうか?
「イーグルスはモールにもこだわっています。3番なのでリフトした後にモールの核の選手を支える役割があるのですが、先輩方のプレーを見ているとやはり自分から前に出ていかないといけないなと感じています。リフトした後にただ(モールの核となる選手に)ついたり押したりするだけではなく、自分がある意味ジャンパー以上にしっかりと前に出てトライを獲る、そういうプレーに貢献したいと思っています」
── 現在の主力のPRには複数の日本代表候補選手がいます。ご自身もそうなりたいという思いはありますか?
「はい。もちろんイーグルスの主力になることが先決ですが、代表を目指していきたいという思いはあります。特にPR岡部崇人さんは試合中もずっと走り続けてハードワークしていて、自分が思い描くPR像そのものです。自分もそういう選手になりたいと思っています」
── 他にもロールモデルにしている選手はいますか?
「別のチームなのですが、清水建設江東ブルーシャークスのPR野村三四郎選手です。京産の先輩なのですが、やはり試合中にハードワークしていて、今も(ディビジョン2の)試合で活躍されていますが、大学時代からそういう姿を見て憧れていました」
── PRの理想像を追求している栗崎選手ですが、サポーターのみなさんから声をかけられる機会も増えてきたと思います。どのように感じていますか?
「ニッパツ三ツ沢球技場でサポーターのみなさんに挨拶させていただいたとき、おそらく自分が田園ラグビースクール出身だと知ってくれていたお客さんから『がんばって!』と声をかけていただきました。やはり(地元である川崎市の隣の)横浜でプレーしたいですし、それも自分の大事な目標です」
地元である神奈川県での公式戦出場という目標が大きなモチベーションになっているPR栗崎和樹。そのためには百戦錬磨の先輩PRを超える必要があり、それは決して簡単なことではない。しかしその視線と強い言葉からは十分に実現の可能性を感じられた。
スクラムで相手を押し切って雄叫びを上げる姿が、いつの日か見られるはずだ。
(取材・文/齋藤龍太郎)