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2026.04.09
INTERVIEW

FB武藤航生選手 インタビュー

「知識が積み重なったことで今この舞台に立てている」

2月にアーリーエントリーで横浜キヤノンイーグルスに加入したルーキーのなかでも一早くチームに適応しチャンスを掴んだFB武藤航生が、早くも存在感を放っている。高校日本代表は候補に留まったものの、花園の舞台で活躍。関西学院大学時代はU20日本代表にも選ばれた同世代きっての逸材だ。

今回のインタビューの翌週にリーグワン公式戦デビューを飾ることになる武藤航生は、2月の練習開始からどのようなことを考え、どのように日々成長してきたのか。そのマインドセット、ひいてはラグビーそのものに対する姿勢が見えてくる取材となった。

(取材日:3月10日)


■ニュージーランド留学がラグビーへの向き合い方を大きく変える転換点に

── 2月9日からチームに加わったそうですが、もともと知り合いだった選手はいたのでしょうか?

「旭さん(SH土永旭)ですね。お互いの母校の話からラグビーとは全然関係ない話までよく雑談しています。同期では弦己(WTB生田弦己)とは一緒にやっていました(U20日本代表のチームメイト)。他の同期ともみんなでよく話しています」

── 実際に練習してみての感触はいかがでしょうか?

「最初はサインコールやシステムを学ぶ必要があり吸収すべきことが多かったので、それらを習得するのに時間がかかってしまったのですが、今は(加入から)1カ月が経ってチームの雰囲気に慣れてきましたしコールも頭に入ってきたので、 少しずつ自分らしさを出せるようになってきたかなと思います」

── 自分らしさとはどのようなところでしょうか?

「アタックのランの部分です。そして欲しいタイミングでボールをもらうこと、裏のスペースをしっかり見てチップキックを上げることなども徐々にできてきて、今後そのようなプレーをもっとたくさん見せられると思っています」

── ラグビーを始めたきっかけをお教えください。

(写真:本人提供)

「小3でラグビーを始めたのは、高校(御影高校)と大学(日本体育大学)でラグビーをして今は監督としている父(灘中学・高校ラグビー部の武藤暢生監督)から『やってみないか』と言われたのがきっかけです。僕自身はもともと外で遊ぶことや体を動かすのが好きで、足が速かったですね。小5のときは100m走で神戸市1位になりました」

── イーグルスにはHO庭井祐輔選手やCTB梶村祐介選手、田畑凌選手など兵庫県出身の選手がいますね。

「小、中学生のころにテレビで見ていた選手たちと今一緒にプレーできているのはうれしいですね」

── 今このレベルまでラグビーを続けようと決意したのはいつごろのことでしょうか?

「実は小学生のころはそこまでラグビーが好きではなかったのですが、中学生時代(神戸市立住吉中学校在学中)に父の勧めで半年間ニュージーランドに留学することになり、それがラグビーへの向き合い方を大きく変える転換点になりました。中1の2月から中2の8月までの半年間の留学で、価値観がガラッと変わりました」

── ニュージーランド留学がその後のラグビー人生を決定づけたのですね。

「留学先のクライストチャーチでは誰もが心からラグビーを楽しんでいて、いろいろな場所にグラウンドがあり、そこにたまたま集まってきた人たちがラグビーをしていました。自分にとってラグビーが身近にある環境は初めてでした。ホームステイ先では言語の壁がありましたが親切に接してくれたり同級生に助けてもらうなど、よくしていただきました。そういう環境でラグビーをしたことは大きな自信になりました」

── 憧れであり目標だというニュージーランド代表WTB/FBセヴ・リース選手は、クライストチャーチのクルセイダーズ所属ですね。武藤選手が留学されていたころはまだクルセイダーズにはいなかったようですが。

「小、中学校当時はそこまでラグビー自体を見ていなかったので、セヴ・リース選手は後にラグビーワールドカップやスーパーラグビーで知ることになります。キレのあるランやステップはもちろんですが、僕(175cm)も彼と同じく身長が低め(179cm)にもかかわらずフィジカルが強いんです。その点は自分の強みでもあるのですが、ただ待っているだけではボールも回ってこないしいいプレーもできません。セヴ・リース選手のようにハードワークしながらボールを欲しいところで顔を出す、というスタイルを真似できたらと考えています」

■悔しいからといって腐ってしまうことなくやり通せた

── 転機となった中学生時代を経て、関西学院高等部に入学します。

(写真:本人提供)

「僕たちが入る前の関西学院高等部はラグビー経験者が少なかったのですが、それでも花園(全国高校ラグビー大会)ベスト4に入ったこともあり、そのときの全員のハードワークとひたむきさが好きでした。僕も関西学院高等部でラグビーしたいと思い入学させていただきました」

── 花園への思いは強かったですか?

「もちろん出たいと思っていましたし、当時のチームは報徳学園(兵庫県の強豪で花園常連校)に負ける気がしなかったです。相手に対してというよりは、自分たちがやってきたことを信じていました。これだけやってきたから勝てる、というマインドですね。とにかく自信がありました」

── 実際に花園の舞台に立つことができました。

「2年生のときにFBで出場しました。ただ大会中は悩むことも多く、自分自身のプレーには納得していませんでした。それでも新チームになったときにどうやっていったらうまくいくかと考えながらラグビーができた、という感触はありました」

── その後、関西学院大学にはどんな決意で入学したのでしょうか?

「高校3年間はパフォーマンスがよくなく当時の中学生たちを『高等部に行きたい』と思わせることができなかったので、大学4年間こそは自分たちにフォーカスしてもう一回がんばろうと考えていました。ただ、入学前に高校日本代表候補に選ばれて(新型コロナウイルスの世界的感染拡大により遠征は中止)行われたエキシビジョンマッチに呼ばれなかった悔しさをずっと抱えていました。大学1年生は春から試合に出場でき、秋にはU20日本代表に選ばれたので、思い描いていた結果にはつながりました」

── 悔しさをバネにして成長したわけですね。

「はい。悔しいからといって腐ってしまうことなくやり通せたのがよかったと思います」

── 当時はリーグワンという次のステージをどう見ていましたか?

「大学1年生から試合に出ていましたので『リーグワンに行ける可能性はある』と考えていました。その可能性を潰さないためにも毎日しっかりラグビーと向き合い続けました」

── ベストポジションは大学でもFBだったのでしょうか。

「そうですね。1、2年はFBでした。3、4年はチーム事情でWTBでしたが、自分が一番好きなのはFBです」

■細かいことを徹底するように言われたおかげでしっかり集中して練習できている

── つい先日まで大学生選手でしたが、大学の4年間ではどんなことを得たのでしょうか?

「ラグビーの知識が増えました。高校まではそこまで知識がなかったのでその場しのぎのラグビーになってしまっていたのですが、大学でいろいろな指導者の方と知り合ってラグビーを教えてもらい、それによって余裕を持ってラグビーできるようになったことが大きいです。スペースを見つけたりすることが少し早くできるようになり、それを頭に入れてどう動くか、ということを考えながら常に冷静にプレーしてきました。慌てずにポジショニングできるようになりましたね。そういう知識が積み重なったことで今この舞台に立てていると考えています」

── アタックで持ち味を出したい一方で、ディフェンスについてはいかがでしょうか?

「イーグルスではまだ試合に出ておらずディフェンスしていないのですが、ディフェンスシステムが大学とは少し違うので、もう少しチームディフェンスを学んでもっとコミュニケーションをとっていかないといけないなと思っています」

── FBに求められるキックのスキルについてはいかがでしょうか?

「キックはまだまだ伸ばしていかないといけないと思っていますが、大学でかなり成長しました。ロングキックというよりは短いキックのスキルが特に伸びています。先日のトレーニングマッチ(2月15日の浦安D-Rocks戦)でもそこはうまくいったので、練習したぶんうまくなるんだなという実感を持っています。相手はディビジョン1のチームでいい選手が揃ってしたが、そのなかで自分が劣っているという感覚はなかったですね。もっと成長すればそのレベルを超えていけると思っています」

── ハイボールキャッチもスキルとして求められるところかと思います。

「どの選手もうまいです。イーグルスに来てからはインディビジュアル(個人)の練習に力を入れていて、特にハイボールの練習は毎日やっています」

── 練習以外も含めて、チームの雰囲気をどう感じていますか?

「みなさん優しいです。実際に入ってみてチームのあたたかさを感じていますし。チームファーストの文化を自分も大切にしていきたいと考えています」

── 先輩とのコミュニケーションはいかがですか?

「練習中は順平さん(FB小倉順平)にいろいろ聞いて、教えてもらうことが多いですね。プレーしながらいただける指示が的確なので、助かっています」

── FBに入るときはWTBの、WTBに入るときはFBの経験がそれぞれ役に立っている面はありますか?

「そうですね。大学時代はあまりWTBをやりたくなかったのですが、WTBの経験があってよかったと今は感じています」

── 日々成長中の今現在、武藤選手の最大の武器は何でしょうか?

「やはりアタックのボールキャリーのところだと思っています。コーチ陣からもしっかりまっすぐ走ること、そしてしっかりハイボールを再獲得することなど、そういった細かいことを徹底するように言われていますし、そのおかげでしっかり集中して練習できています」

── まずは公式戦出場が今のターゲットかと思いますが、その先の将来的な目標をお聞かせください。

「日本代表を目指したいです。ただ、今はまずこのチームで試合に出ることにフォーカスしてやっています。もし出られるなら早く出たいですし、もしセレクトされたらチームに必要とされているということなので、早めに出場できるように成長していきたいです」


インタビューの翌週末、武藤航生は3月20日(金・祝)の第12節、コベルコ神戸スティーラーズ戦で初めてリザーブ入りし、後半5分から途中出場。リーグワン公式戦デビューを果たし、今シーズンのベストゲームといえる試合内容での勝利(○38-29)に貢献した。地元・神戸でのデビューとなったが、試合後は至って冷静に自己分析していた。

「いい意味での緊張感もありつつリラックスした状態で試合を迎えました。先輩たちにいろいろなことを聞いて不安要素をなくして試合に臨むことができました。(出場した際に)ユウさん(SO田村優)やカジさん(CTB梶村祐介)に声をかけてもらい、パニックに陥ることなく一つひとつ丁寧にプレーできました。ディフェンスではミスなくタックルでき、転がったボールのセービングなども含め基本に忠実にプレーできたと思います」

準備の段階から試合中に至るまで自分を客観視しながら強みを存分に発揮する様は、これまで積み重ねてきた経験とインテリジェンスの賜物だろう。武藤航生はその後も第13節のトヨタヴェルブリッツ戦でリザーブ入りし途中出場。第14節の埼玉パナソニックワイルドナイツ戦では15番で初先発した。

望んでいた一早い公式戦デビューと、チームファーストの徹底による勝利への貢献──。今後のさらなる成長が楽しみで仕方ない。

(取材・文/齋藤龍太郎)

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