大きく変わるために一つひとつのことを実行しながら成長する

SH以外ならBKのどのポジションでプレー可能。そんな稀有な才能を持つUBK(ユーティリティバックス)が南アフリカからやって来た。ブレンダン・オーウェン。母国のみならずイングランド、オーストラリアなど様々な国でプレーしてきた28歳だ。
スピードあふれる自身のラグビースタイルが日本の速いラグビーにマッチしている。そう考えて興味を示していたところ横浜キヤノンイーグルスとの契約に至ったUBKは、どのようなキャリアを歩んできたのか。そこには、同じくイーグルスに加入したエドワード・ロビンソン アシスタントコーチとのストーリーがあった。
■エドワード・ロビンソン コーチとの縁が紡いだキャリア
──オーウェン選手は今回が初めての来日でしょうか?
「はい、日本は初めてです。来日して2週間ほど経ちました(取材日時点)」
──イーグルスの全体練習が始まった頃ですね。
「オーストラリア・シドニーのクラブチーム、マンリー・マーリンズ(シュートシールド所属)でプレーしていた関係で、イーグルスには少しだけ遅れての合流となりましたが、ほぼ最初のパートから参加することができました」
──イーグルスに加入した経緯をお願いします。
「ジャージー・レッズ(かつてRFUチャンピオンシップに参戦していたイングランドのチーム)でプレーしていた時のコーチで、今回イーグルスに同時に入ったエドワード・ロビンソン アシスタントコーチの働きかけ存在がイーグルス入りのきっかけになりました。私自身スキルやパフォーマンスの向上を目指していたなかで、イーグルスもUBKを欲しがっているという話になり、自分ならチームにフィットできるのではないか、ということで今回の契約に至りました。
日本のレベルは高く、さらにそれが上昇していることは以前から認識していました。自分の強みであるスピードが、素早く展開する日本のラグビーに合うのではないかと興味を持っていましたが、それが最終的に契約につながったと思っています」
──生まれは南アフリカで、イングランドでも生活していたということですね。
「南アフリカで生まれ、3歳の時に渡英して8歳で再び南アフリカに戻りました。ですから生まれ育った意識が強いのは南アフリカです。気候もいいですからね。
ラグビーは高校に入った13、14歳の頃に始めて、それを機にラグビーが好きになりました。もちろん南アフリカ代表をずっと見ていたので憧れはありましたが、自分の体格や能力は周りの人と比べてそこまで優れていないと気づき、クリケットの選手になろうと考えた時期もありました。
ただ、高校生活を終えた時にブルズ(当時スーパーラグビー、現ユナイテッド・ラグビー・チャンピオンシップに属する南アフリカの強豪チーム)でプレーできるチャンスがあり、そこからプロラグビー選手になろうという気持ちが強くなりました。
高校のある試合でブルズのスカウトから声がかかり、まずはカリーカップ(南アフリカ国内リーグ)のジュニア部門で2年間プレーすることになりました。 残念ながら最終的にはブルズとの契約には至りませんでした」
──その後のキャリアについてもお願いします。
「オーストラリア・パースのウェスタン・フォースに行きました。しかし当時、チームはスーパーラグビーから外れてしまっていたので(加入はせず)、その時に(前述の)エドワード・ロビンソン コーチから『ジャージー・レッズでやらないか』と声をかけてもらいました。パフォーマンスの向上にもつながるし、自分がチームにフィットすれば勝利に貢献できるではないかと考え、契約に至りました。 RFUチャンピオンシップで優勝することはできましたが、残念ながら昇格はなりませんでした。とてもいい経験を積めたと思います」
──イングランドのプレミアシップでもプレーされたそうですね。
「短期契約でしたが、バースにも行きました。チームも選手も非常にレベルが高く、すでに次のスコッドが決まっていましたので契約は更新できず、その後はマンリー・マーリンズを経てイーグルスに来た、というのがここまでの経緯です。イーグルスも含め、そのような高いレベルでプレーしてきたことを名誉に思っています」
■沢木監督のインテリジェンスを共有して私が持っているものを向上させたい

──まだ来日から2週間ということですが、イーグルスでの活動も含め日本の生活はいかがですか?
「日本に来たこと自体がいい決断だったと思っています。日本の前にはイタリアにいましたし、これまでも世界各地の異なる環境や文化の中で生きてきました。初めて来た日本は人がフレンドリーで、イーグルスのみなさんもいろいろなことを手伝ってくれるので、ありがたい状況です。チームメイトとも早く打ち解けたいですね」
──オーウェン選手はUBKということですが、ベストポジションはどこだとお考えでしょうか?
「これまではFBやSOをやってきましたが、他にもSH以外のBKはカバーできます。もちろんチームが求めているポジションにフィットしていくつもりです。イーグルスに来てからは12番と13番(CTB)をやることが多いですが、リクエストがあれば他のポジションに入ることも可能です」
──沢木敬介監督とのミーティングではどのような話をしたのでしょうか?
「『期待しているよ』と伝えられました。あとは日本の環境へのフィットなどフィールド外でのことや、選手として自分をどうマネジメントしていくか、といった話に加え、沢木監督が持っているラグビーのインテリジェンスを共有して私が持っているものを向上させていきたい、という話もしました」
■外国人や日本人を問わず一体感があるチーム

──イーグルスは英語圏の選手が多いぶん、言葉の面での溶け込みやすさはあるのではないでしょうか?
「言語はコミュニケーションをとるうえで極めて重要ですが、英語圏の選手が多いことは特に関係なく、イーグルスは外国人や日本人を問わず一体感があるチームだと感じています」
──オーウェン選手が影響を受けた選手として、イーグルスのOBでもある元ニュージーランド代表FBのイズラエル・ダグ選手の名前を挙げています。
「小さい頃にイジー(イズラエル・ダグ選手)のプレーに影響を受けました。相手ディフェンスをかわすスキルが高かったので『彼のような選手になりたい』という憧れがありましたが、イーグルスのOBとは知りませんでした」
──オーウェン選手の座右の銘は「1% better every day!(毎日1%向上!)」ということですが、イーグルスのシーズンスローガンの「PLUS ONE」とリンクする言葉のように感じます。
「いい環境、いい哲学を持っているイーグルスにおいて、一つひとつ成長するという意味合いのテーマはその自分のモットーとマッチしていると感じています。人間、一瞬で激変するものではありません。大きく変わるためには一つひとつのことを実行しながら成長していかないといけないと考えています。
イーグルスもそれを実現しようとしていて、そのために選手、コーチ、スタッフ全員が『PLUS ONE』という言葉を掲げています。そしてそれは自分のモットーと通ずるものがあると思っています」

成長に魔法はなく、チームも選手も短期間で激変することはまずない。日々、一つひとつ積み上げていくことが大きく変わるための唯一の方法と言えるだろう。それを実践してきたブレンダン・オーウェン選手は、彼自身のポリシーとイーグルスのスローガンにシンパシーを感じている。
まだまだ慣れが必要な初めての日本。しかし自身のモットーと共鳴する最高の環境に身を置きながら、国際経験豊かでスキルフルなUBKが今日もピッチを駆ける。
(取材・文/齋藤龍太郎)