いいパフォーマンスをするために自分にプレッシャーをかけている

世界に冠たるラグビー王国、ニュージーランド。その強さを支えているスーパーラグビーの名門であるクルセイダーズや、近年はハイランダーズでプレーしてきた「仕事人」、FLビリー・ハーモンがこのほど横浜キヤノンイーグルスの一員となった。
ニュージーランドの準代表にあたるチーム「オールブラックスXV」や、先住民マオリ族の血を引く選手による代表チーム「マオリ・オールブラックス」でも活躍した名FLだ。10月末に来日し、11月10日の花園近鉄ライナーズとのプレシーズンマッチでイーグルスデビューを飾った彼は、愛する故郷のニュージーランドから日本へなぜやって来たのか。
日々の練習とプレシーズンマッチを重ね、イーグルスにすっかりなじんできた12月中旬、リーグワン開幕直前の大事な時期に今の心境や、初めての日本でのシーズンに掛ける思いを聞いた。
■一緒にプレーしてきた選手たちとの対戦が楽しみ

──日本に来て約2か月とまだ間もないですが、イーグルスで過ごしている時間をどう感じていますか?
「非常に楽しく過ごしています。イーグルスの選手みんなとつながることができて、本当に最高の日々ですね。何試合か(プレシーズンマッチで)プレーしながらチームのスタイルになじむためにいろいろ取り組んでいるところで、開幕間近の今現在、非常にいい状態です」
──故郷のニュージーランド、特にスーパーラグビーのクルセイダーズやハイランダーズで長年プレーしてきましたが、日本行きを決断した理由は何でしょうか?
「ニュージーランドでかなり長くプレーをしていたので、この機会に新しい環境で新しいことにチャレンジしようと考えました。自分にとって(海外へ移籍するには)いいタイミングでした。実際、この環境の変化は自分にとって刺激になっており、すごく気に入っています」
──今回こうしてイーグルスに入る前に、2023年にはオールブラックスXVとして、そして2024年はマオリ・オールブラックスとして来日しています。その際に日本への移籍のきっかけになった出来事があったのでしょうか?
「まさにその2つのチームで2度来日ができたことは大きかったですね。特にオールブラックスXVとして来日した時は『日本に行くか行かないか』を決めるべき局面で、その時期に日本を実際に見ることができたのは収穫でした。妻も同行してくれて日本を非常に気に入っていましたので、やはり日本はいいなと確信できた素晴らしい体験でした」
──具体的に大きな決め手になった物事があればお願いします。
「日本の人、食べ物、そしてライフスタイルが特に気に入りました。また、まだ幼い子どもを育てるのに適している国であること、そして治安がよく安全であることも私にとっては大きかったので、来日は簡単な決断でした」
──ハイランダーズでチームメイトだったシャノン・フリゼル選手(東芝ブレイブルーパス東京)やアーロン・スミス選手(トヨタヴェルブリッツ)といった旧知の選手たちからも日本のことを聞いていたのでしょうか?
「そうですね。彼らに加えてライアン・クロッティ(元クボタスピアーズ船橋・東京ベイ)からも日本の話はいろいろ聞いていて、非常に魅力的な国だと感じていました」
──そのハイランダーズでは同じバックローの姫野和樹選手(トヨタヴェルブリッツ)もチームメイトでした。
「姫野とは仲がいいですし、日本のバックローでトップクラスの選手なので、彼との(2月1日の第6節の)対戦は非常に楽しみです。自分の力を試すいい機会になります。ニュージーランドではアーロン・スミスやジョシュ・ディクソンも近所に住んでいたので、ヴェルブリッツとの対戦が待ち切れません」
──他にもニュージーランドで一緒だった選手が様々なチームに在籍しています。
「先日のプレシーズンマッチで対戦し、12月22日の開幕戦でも相見える東芝ブレイブルーパス東京にはフリゼル以外にも元チームメイトのリッチー・モウンガ、ロブ・トンプソン、マイケル・コリンズ、セタ・タマニバルがいます。試合後は彼らと『最近どう?』といった世間話をしました。一緒にプレーしてきた選手たちが数多く在籍しているチームとの対戦が今から楽しみですね」
──ブレイブルーパスの選手たちとはご近所同士になりました。試合以外でも会う機会が増えそうですね。
「今後もたぶん会うことになるでしょう。ニュージーランドではみんな離れた場所に散らばって住んでいましたが、今はお互いに近いエリアに住んでいます。喜ばしいことです」
──イーグルスでもすでにチームメイトと仲よく過ごしているようですね。
「はい。特に同じ地域に住んでいる選手とは一緒に練習へ行き来したり、焼肉を食べたりと行動を共にしています。これからもみんなのことをどんどん知っていくことになるでしょうから、楽しみです」
■様々な文化・特性・人となりが混ざり合って作られているチーム

──そのブレイブルーパスとの12月7日のプレシーズンマッチは24-28で惜しくも敗れました。
「チームにとって非常に意味のある試合で、昨シーズンのチャンピオンに対して自分たちの現時点の力を試すいい機会になりました。残念ながら負けてしまいましたが、改善すべき点は明らかであり簡単に修正できます。引き続き(開幕に向けて)チャレンジしていきたいです」
──その試合でのご自身のパフォーマンスはいかがでしたか?
「勝てませんでしたが、いい状態でした。発生したエラーも非常にシンプルなもので、そこさえしっかり整えればかなり改善できると思います」
──こうして実際に試合を重ねてきた今、あらためてイーグルスはどんなチームだと感じていますか?
「日本人選手たちのスキルが非常に高いですし、若手もどんどん成長しているのでとてもエキサイティングです。イーグルスが体現しようとしているのはどこからでも仕掛けるアタッキングラグビーですから、その点でも素晴らしいチームだと感じています」
──ハーモン選手としてはアタックが得意なチームとディフェンシブなチーム、どちらにアジャストしやすいと感じていますか?
「アタックとディフェンスのどちらかだけではなく、その両方にいいバランスで適応してきましたし、どちらのタイプのラグビーにもフィットできると思っています。ディフェンスに関してはニュージーランドも日本もそこまで大きな違いはありませんので問題ないのですが、アタックに関してはコールを覚える必要があるサインプレー、連係するために周りとのコミュニケーションが不可欠で、そのために必要な言葉の壁が自分にとって大きなハードルになっています。そこも何とか乗り越えてやっていきたいです」
──日本人選手が中心のチームではありますが、その一方で様々な国の選手が集まっています。チーム内の文化の多様さについてはどう感じていますか?
「まさしく多様性に富んだチームです。日本の優れた選手たちが集まっていることに加え、ニュージーランドやオーストラリア、南アフリカなどの国から来た選手たちも一丸となり、それぞれの文化や特性、人となりが混ざり合ってチームを作っているところが特に素晴らしいと感じています」
■アタックとディフェンスのバランスが取れたパフォーマンスを

──イーグルスでともに研鑽しているバックローの選手たちについてはどんな印象を持っていますか?
「バランスが取れている選手が揃っていて、本当に感心しています。例えば古川聖人や嶋田直人はまさしく7番らしい選手で、タックルが強く、ボールに絡んでジャッカルする力もあります。NO.8にも破壊的な突破をする選手が多く、若手にもチャンスを与えられたら伸びる選手がいます。私もフィジカルを活かしながらアタックとディフェンスのバランスが取れたパフォーマンスを見せていきたいと考えています」
──沢木敬介監督やコーチ陣からもそのあたりを期待されているのでしょうか?
「はい。沢木監督からは『フィジカルバトル、接点のところでしっかり引っ張っていってほしい』と言われています。私としてもそのプレースタイルを常に心がけていますし、だからこそ自分の持ち味を出すことを要求されているのだと思います」
──そんなイーグルスでプレシーズンマッチを重ねてきた今、チャンピオンになるだけのポテンシャルを肌で感じていますか?
「もちろんです。タレントも揃っていますし、コーチ陣によるコーチング、マネジメントも非常に優秀です。我々選手がしっかりとパフォーマンスすることによって優勝が見えてくると思っています」
──優勝に向けて「PLUS ONE」というシーズンスローガンが掲げられていますが、ハーモン選手はこれをどのように解釈して、ご自身に活かしていますか?
「私にとっての『PLUS ONE』は、自分がフィールドに立ってプレーする機会を与えられた時に必ずベストを尽くすことです。それをするためには試合までの過ごし方、その次の1週間の過ごし方をしっかりと整え、心身ともにベストな状態に持っていく必要があります。日本にはいいパフォーマンスをするために来ていますので、その意味で自分に強くプレッシャーをかけながら過ごしています」
旧知の選手が多い日本のリーグワンに環境を移し、イーグルスでもよき仲間に恵まれながら日々を過ごしているビリー・ハーモン。新たな環境で友情を育みながら生活を楽しむ一方で、ピッチの上では自分自身に強いプレッシャーをかけながら常にベストパフォーマンスを目指している。その厳しい姿勢こそがスーパーラグビー、オールブラックスXV、マオリ・オールブラックスで活躍を見せてきた理由なのだろう。
選手層がさらに厚みを増したイーグルスのバックローの中でも際立った存在感を見せてくれそうな名FLのプレーに大いに注目したい。
(取材・文/齋藤龍太郎)