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2025.03.28
INTERVIEW

SH土永旭選手インタビュー

「アーリーエントリーであっても優勝に絡めるような選手に」

大学ナンバーワンとの呼び声が高く、実際にU20日本代表や日本代表候補の合宿に招集されるなど常に高く評価されてきたSHが、このほど横浜キヤノンイーグルスの一員となった。土永旭。「どえい・あさひ」と読み、自身も「珍しい苗字」と認識している「どえい」がそのままチーム内での愛称になっている。

京都産業大学では全国大学選手権ベスト4の壁を破れなかったものの、強豪チームへの飛躍に貢献。4年生のシーズンを終えた今年2月にアーリーエントリー制度(大学チームの最終学年で所定の手続きと一定の条件を満たした選手が当該年度の全国大学選手権決勝後に所属内定チームの公式戦にエントリーできる制度)のもと、正式にイーグルスの選手として登録された。

2月から新たなステージでの活動を始めた土永がイーグルスに入ることを決めた最大の理由は何だったのか。そしていずれはどんなSHになりたいのか。加入から1か月が経った土永に率直な思いを聞いた。
(取材日/3月20日)


■イーグルスは短時間で高い集中力を持って練習に取り組んでいる

──今年1月2日の全国大学選手権準決勝からまだ3か月も経っていません。悔しい敗戦だったと思いますが、気持ちの切り替えはうまくいきましたか?

「そうですね。目標にしていた優勝はできませんでしたが、終わったことなのでそこまで引きずることはありませんでした。後輩たちがやってくれるだろうという気持ちが強かったですし、次のステージへの切り替えはすぐにできました」

──イーグルスに合流してひと月が経ちましたが、新鮮に感じていることや新たな発見などがあればお願いします。

「大学の練習と比べると短い時間で集中してやっているなと感じています。実際、選手はみんな相当高い集中力を持って取り組んでいて、そこに大きな違いを感じています」

──レベルの高い京都産業大学で9番の座を守り続けることができた要因、自身の武器を教えてください。

「僕の強みはキックです。ボックスキックでもしっかり高さを出して、他の選手がいい形で追ってマイボールにできるように意識してきました。ペナルティのタッチキックでもチームを前に出すような(距離と精度のある)キックを強みとしてきたので、それが9番としてやってこられた理由だと思っています」

──特にスクラムやラックから最小限のモーションで放つ高さのあるボックスキックは土永選手のトレードマークです。

「京都産業大学のアタックはまずFWを前に出して、空いているスペースをBKが突くというスタイルだったので、ボールを、そしてチームを前に出すためには、まずキックで敵陣に入り、そこから強いFWが前に出て敵陣のスペースでBK勝負、という形が有効でした。ですからペナルティキックに関しても『あと1mでも前に出そう』という意識で練習をしていました」

■加入の決め手はファフ・デクラークの存在

──イーグルスには世界屈指のSHファフ・デクラーク選手がいます。

「イーグルスに入った理由として一番大きかったのはファフがいることです。ファフは僕と同じ左足で自分から仕掛けて、ディフェンスでも体を張ります。彼から盗めることは多く、自分の成長にもつながっていくと思いました。実際、左足でのボックスキックの蹴り方や回転のかけ方などを教わりました」

──練習だけでなく、試合を見ていてもデクラーク選手から学ぶことは多いですか?

「はい。僕は左奥のスペースを先に見るのですがファフは右奥のスペースも見ていて、そのスペースを左足(のキック)で突きます。自分の前も裏のスペースも見えていますし、プレーに余裕がある感じがしますので、そういったプレーから多くのことを学んでいます」

──デクラーク選手に限らずイーグルスのSHの選手たちは結束して互いに高め合っていると聞きます。

「全体練習が終わった後にCTB陣から『パス放って』と言われることもあり、そういう時は日本人SH全員でパスをしたり、その後でボックスキックなどの練習をしながら先輩方がいろいろなことを教えてくれます。みんなレベルが高いですし、自分も吸収できることはどんどん吸収していきたいと考えています」

──沢木敬介監督からはどういったことを期待されているのでしょうか?

「『チームメイトから信頼されるような選手になれ』と言われています。そのためにも自分の強みであるキックを積極的に活かしてイーグルスを前に出していきたです。また、ディフェンスについても指摘がありました。大学時代はそこまで自分からディフェンスしにいくことはなかったのですが、イーグルスではSHも積極的に前に出てディフェンスするので、まず体作りが不可欠ですし、ディフェンスでもシステムを理解しながらチームにコミットしていく必要があります」

──その成果を早く公式戦でプレーしたいですね。

「アーリーエントリーされているので出場機会をつかみたいという思いはありますが、やはりチームが勝つことが最優先ですし、自分にはまだチームに貢献できるだけのものがないのかなと感じています。ですから『いち早く試合に出たい』というよりも、チームに必要とされるプレイヤーになってから試合に出て、自信を持ってプレーしたいという思いの方が強いです」

──今はライザーズ(メンバー外)の一員として研鑽中です。

「ライザーズも含め勝ちたいという意識が練習中から伝わってきますし、みんな優勝を目標に取り組んでいます。僕は合流してまだ1か月ですが、アーリーエントリーであっても優勝に絡めるような選手になりたいです。チームとしてもいい練習ができていますので、今はすごくポジティブな要素が多いと感じています」

■試合に出ても笑顔で楽しみたい

──SH歴はいつ頃からでしょうか?

「ラグビーは兄(土永雷。三重ホンダヒートSH)の影響で中1から始めましたが、SHは(滋賀県の光泉→光泉カトリック)高校に入ってからですね、キックはFBだった中学時代から蹴っていて、高校に入ってからもディフェンスの局面になったら僕が後ろに下がってキック処理などをしていました」

──よりボールタッチが多いポジションをやりたかった、ということでしょうか?

「というよりも、中学時代から体が小さくて、高校に上がるタイミングで『この体ではFBは厳しいな』と感じていたので、自分で『SHでいこう』と決めました。適性を感じ始めたのは高2ぐらいからですね。相手にとって嫌なSHになることが自分の目標だったので、自分からどんどん仕掛けてスペースがあれば(そこを狙って)蹴ることを意識してやっていました」

──2年時、3年時に花園(全国高校ラグビー大会)に出場していますが、その頃からSHとしての自信を深めていったわけですね。

「そうですね。ただ、全国的に見ればそこまで強い高校ではなかったので当時の実力でも9番でプレーできたのですが、大学に入るとレベルの高いSHがたくさんいて、1年の時はずっとリザーブでした。2年になってから9番をつけるようになり、強いFWが前に出ることで自分も見えるスペースが増えてきました。そういう意味では自分のプレースタイルが見えてきたのは大学2年からですね」

──大学3年のシーズンを終えた直後の昨年2月、日本代表候補にあたる男子15人制トレーニングスコッドの福岡合宿に招集され、日本代表のエディー・ジョーンズ ヘッドコーチの指導を初めて受けました。

「日本代表の合宿に参加したのは初めてのことでしたが、僕は友人から教えてもらいネットの記事を見て招集を知りました。その後で(京都産業大学の)廣瀬佳司監督から連絡をいただいたのですが、とにかくそのリストに自分の名前があることにびっくりしました。大学はオフに入っていて落ち着いていたのですが、招集から合宿まであまり日がなかったので急いで準備しました」

──合宿は2日間でしたが、実際に参加してみてどうでしたか?

「SHは僕だけになりそうだったのですが、一緒にプレーしてきた後輩の髙木城治(京都産業大学)が追加招集されたので、そこまで緊張することなく参加できました。周りはリーグワンで活躍している選手がほとんどでしたが、そのようなトップ選手からどんどん声をかけていただき、やりやすい環境を作っていただきました」

──エディー・ジョーンズ ヘッドコーチの指導はどうでしたか?

「京都産業大学のアタックはFWを前に出すためにもそこまでテンポを上げることはなかったのですが、エディーさんは『超速ラグビー』というコンセプトを掲げていたので、合宿に参加してハイテンポでボールを出し続けることを学びました。SHとしては(体力的に)しんどいラグビーでしたがプロの選手はそのような練習にもついていっていましたし、大変だった一方で楽しい部分もあった合宿でした」

──その前年、2023年にはU20日本代表として「ワールドラグビーU20チャンピオンシップ」に参戦し、マヌマ・サモア、フィジー・ウォリアーズ、U20アルゼンチン代表、U20イタリア代表と対戦しました。初めての世界のラグビーはどうでしたか?

「やはり相手には個々の技術やチームとしての技術の高さがありました。それ以上に一番強く感じたのはフィジカルの強さで、そこには大きな差がありました。自分たちのアタックが通用した部分もありましたが、世代の近い世界の選手、特にSHは(視野が広く)見えているところが違い、それを練習で意識するとプレーが大きく変わってくると感じたので、より積極的に取り組んでいこうと考えるようになりました」

──世界という視点で、土永選手とタイプやプレースタイルが似ていて、この人を目指したいという選手としては誰が挙げられますか?

「一番近いタイプで言うと、フランスのSHアントワーヌ・デュポン選手ですね。キックは両足で蹴りますし、彼のようにキックのバリエーションや選択肢が増えると(チームも自身も)さらに有利になります。スペースがあれば自らどんどん仕掛けて(トライやチャンスの拡大を)狙っていくという点でも、最も理想に近い選手です」

──昨年は、将来の日本代表の育成を加速するためのプロジェクト「JAPAN TALENT SQUADプログラム」にも選出され、参加されました。

「こうした合宿に参加するようになって、代表が自分の手に届く位置にあるのかなと少し自信がついてきました。でも今はイーグルスで試合に出ないといけないので、そのファーストキャップを直近の目標に据えています」

──それを目指して前向きに取り組む土永選手の好きな言葉は「楽しむ」だそうですね。

「試合は楽しむことを第一に考えてプレーしています。"楽しんだ者勝ち"という意識があって、やはり楽しくないと成長しないと思っているので、いつも楽しいことに意識を向けて、もちろんしんどい練習もありますがそのなかで楽しい練習を自分なりに考えつつ、試合に出ても笑顔で楽しもうと考えています」


将来的に目指す舞台は世界であり、そのトップクラスの強豪と戦う日本代表の9番だ。しかし土永にはその前にやるべきことがある。イーグルスの一員としてリーグワンで公式戦デビューを飾り、チームの勝利に貢献することだ。

イーグルス入りの決断の決め手となったSHデクラークは負傷により戦列を離れることが今回のインタビュー後に正式発表された。チーム内の9番争いはなおも熾烈だが、土永の新たな第一歩が近づいたことは間違いないだろう。

大舞台でもモットーの「楽しむ」を貫き、自慢のキックでイーグルスを勝利に導いてほしい。

(取材・文/齋藤龍太郎)

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