80分しっかりと試合に出られるようにしたい

全員が日々ハードなトレーニングに取り組む横浜キヤノンイーグルスだが、その練習中に一際目立つ選手がいた。171cm、113kgの体で次のポイントまで猛ダッシュし、誰よりも早くたどり着く。真摯な姿勢が行動に表れていた。
ネスタ・マヒナ。花園近鉄ライナーズから移籍してきたオーストラリア出身のルースヘッドPRだ。彼がディビジョン1のチップチームへと活躍の場を移した理由とは何なのか。そして、イーグルスで目指すターゲットをどこに据えているのか。
練習中の表情とは一転、人懐っこい笑顔を浮かべながら、快くインタビューに応じてくれた。
■一貫性をもって行動していい習慣を作り出す
──まずはイーグルスの第一印象からお願いします。
「このキヤノンスポーツセンターに初めて来たとき、施設が素晴らしく、フィールドコンディションも抜群にいいと感じました」
──イーグルスと契約できたことはうれしかったですか?
「はい。昨シーズンでライナーズとの契約が終わってしまったのですが、そんなときにイーグルスという強いチームから声をかけてもらい、とても驚きました。ライナーズと契約したときもものすごくうれしかったのですが、当時はオーストラリアで仕事していて工事現場で働いていたので、小さいころからの夢だったプロのラグビー選手になれたこと自体がこの上なくうれしいことでした。今回の移籍は選手としてステップアップして次のレベルにたどり着くための行動なので、当時とはシチュエーションが違います。また違った喜びを感じていますね」
──ライナーズの練習強度は高かったと思いますが、イーグルスはいかがですか?
「かなりタフです。イーグルスで求められる基準はもっと高く、それと同時に練習内容も細やかだと感じています。それもあって(全体練習の)最初の週と比べると今の自分はとてもよくなりましたし、改善が見えてきています。(元イーグルス、現ライナーズの)LO/FLミッチェル・ブラウンからも『ハードワークの準備をしておくようにね』と言われましたが、彼の助言のとおりでした(笑)」
──マヒナ選手のどのあたりがイーグルスに評価されたと考えていますか?

「試合で相手をドミネート(圧倒)するなど、アグレッシブなところを評価してもらえたのかなと思っています。特にスクラムはフロントローとして相手をドミネートできる場面なので、しっかりやっていきたいです」
──マヒナ選手が練習する姿を見ていましたが、次のポイントまで誰よりもダッシュで向かう姿が印象的でした。
「その点は強く意識していて、次の仕事に向かうときはできるだけ早く動いてセットするようにしています。GPSでもいい数値を出していきたいですし、一貫性をもってそのように行動をすることで、いい習慣を作り出せると考えています」
──ルースヘッドPRは運動量も求められます。
「個人的には(途中交代せず)80分、または80分以上しっかりと試合に出られるようにしていきたいです。もちろんまだまだ上げていかないといけない部分はありますが、そこをターゲットにしています」
■ファフとジェシーからはすべてのことを学びたい
──地元はオーストラリアのブリスベンということですが、ブリスベンを拠点とするスーパーラグビーのレッズに憧れた時期もあったのでしょうか?
「そうですね。私が地元でラグビーに集中していた当時はレッズがとても強く、オーストラリアの中でもベストなラグビーをしていましたので、憧れはありました。ただ、高校オーストラリア代表には選ばれましたが、そこからプロとしての一歩を踏み出すのがなかなか難しく、その段階でプロになれなければその後もプロとして活動し続けるのは難しい、というのが現実でした」
──そんな状況から一転、プロとしての第一歩となったライナーズには、レッズなどで活躍した元オーストラリア代表のSHウィル・ゲニア選手、SOクウェイド・クーパー選手(当時。いずれも現コーチ)がいました。
「最初のトレーニングでスーパースターの彼らを見て興奮し、フリーズしてしまいました。彼らから学んだのは規律の部分と一貫性、そして人生において大事なことをしっかりやる、ということです。彼らが30代後半までラグビーを続けられた理由もそこにあるのではないかと思っています」
──追って合流予定のSHファフ・デクラーク選手、CTBジェシー・クリエル選手も南アフリカ代表の世界的プレイヤーです。
「彼らもゲニアとクーパーのように長くトップレベルでプレーしている選手なので、すべてのことを学びたいです。特に、毎日どう(目標に)アプローチしていくか、どのようにして高いレベルでプレーし続けるか、といったことを学んでいきたいと考えています」
──その一方で、好きな選手はニュージーランド代表FL/NO.8で、コベルコ神戸スティーラーズに再加入するアーディ・サベア選手だと聞きました。
「彼はフィールド内で傑出した存在であり、まさしくトップレベルの選手なのですが、フィールド外の行動やカルチャーの面でも素晴らしいので好きです。私も彼のようなボールキャリーを見せたいですし、いいコンタクトプレーをしたいと考えています」
■ナキのように日本代表になりたい
──マヒナ選手はオーストラリア国籍で、ルーツはトンガにあるわけですね。
「はい。父も母もトンガ人です。トンガ人の祖父が日本で働いていて、母は日本で生まれました」
──イーグルスにはトンガ出身の選手が多く在籍しています。
「来たばかりの私をみんな手厚くサポートしてくれて、とても仲がいいです。たとえば日本代表になったナキ(FLサウマキ アマナキ)とはいつでもアドバイスを聞ける仲ですし、ナキのように日本代表になりたいと考えています。今は(体を絞る)コンディショニングのグループに入っていますのでそのメンバーと仲良く過ごしていますが、もちろん他のメンバーとも交流していきたいので、菅平合宿はいい機会になると思っています」
──みんなで食事などをして交流を深めているのでしょうか?
「今はダイエット期間なので、ラーメンや寿司を我慢しています。ですから食べ物はあまり楽しめていないのですが、目標体重まで減らしたらおいしいお店に行きたいです(笑)」
──サポーターのみなさんにはどんなところを見てほしいですか?

「まずはやはりセットピースをよくすることですね。そして、もっと早くフィットネスを上げてゲームプランを遂行することです。サイズの大きい選手とのバトルもぜひ見てほしいです。ライナーズにいた期間が長かったので居心地がよくなってしまい、個人的にはもっと成長できたかもしれないと感じています。環境を変えて、パフォーマンスをさらに向上させたいです」
──最後に、サポーターのみなさんから何と呼ばれたいですか?
「『ネスタ』です。本名はアルファネスタ・マヒナで愛称が『ネスタ』なので、みなさんからもそう呼んでもらえるとうれしいですね」
イーグルスへの貢献はもちろん、プロ選手としてのさらなるステップアップへの強い意欲を示したPRネスタ・マヒナ。まずはパフォーマンスを上げてチームの成長に寄与することが当面のターゲットとなるが、その先の「日本代表」という高い目標も忘れない。それこそが彼を突き動かす原動力になっているのだろう。
24歳。未来への希望を描く「ネスタ」の活躍を見届けたい。
(取材・文/齋藤龍太郎)