日本一を叶えるために強い意欲を持ってやってきた

リーグワンや日本代表で今や貴重な存在になりつつある日本人LO。そのトッププレイヤーが横浜キヤノンイーグルスへの移籍を決断した。日本代表経験者、LO秋山大地だ。
帝京大学やトヨタヴェルブリッツで活躍し現在の地位を築いた秋山だが、自身のパフォーマンスに満足することはなかった。むしろ、さらに向上させるにはどうすればいいのか。その結論が今回の移籍だった。
インタビュー中の真剣な眼差しから、強い覚悟が伝わってきた。
■自分をもっと伸ばすためには何が大事なのか
── ヴェルブリッツから移籍を決断した理由をお願いします。
「昨シーズンを振り返ると、納得のいくプレーができていませんでした。成長できていないな、と伸び悩みを感じていたのです。(その解消のために)自分で努力することに加えて『環境を変えてラグビーしたい』という思いが湧き上がり、移籍を決意しました」
── さらなる成長を目指しての移籍ですね。
「これまでは同じチームでプレーし続けることが大事だと考えていました。もちろんヴェルブリッツに問題があったわけではなく、ラグビー選手として自分をもっと伸ばすためには何が大事なのか、と考えたときに、新しい環境に飛び込んで刺激と成長を求める必要があるという結論にたどり着きました」
── 28歳という年齢を踏まえた決断でしょうか?
「年齢的にも移籍を決めるなら今しかないですし、このタイミングを逃すとずっと動けなくなるかもしれないので、ベストなタイミングは今だと思いました。この先『やっぱり移籍しておけばよかった』といった後悔をしないための決断でもありました」
── もともとイーグルスにはどのようなイメージを持っていたのでしょうか?
「機動力があって、展開のスピードがすごく速いチームだと感じていました。スキルの高い選手が多く的を絞りづらい、かつ勝利に対する強い意欲があるチームだと思っていました」
── そんなイーグルスで、どのように貢献していきたいですか?

「自分の強みはブレイクダウンやタックルで体を当てるところなので、そこを生かしていきたいです。ただ、様々なスキルを使いながらしっかり走るのがイーグルスのラグビースタイルなので、自分もスキルや体力面を補いながら体を当て続けて勝利に貢献できればと考えています」
── レオン・マクドナルド ヘッドコーチやコーチ陣からはどんなことを期待されていますか?
「面談したときに『君の強みは何だ』と聞かれ、そのように答えました。コーチ陣からも『そこが君の強みだからしっかりやってほしい』と言っていただきました」
■プレーや練習の姿勢でチームを引っ張ることを意識
── 小中学生時代は野球少年だったそうですね。
「5歳上の兄が野球をやっていたのを見て自分も始めました。その兄が高校に入るタイミングでラグビーを始めたので、自分も興味を持って高校からラグビーを始めることになりました。野球もラグビーも兄がきっかけです」
── 貞光工業高校(現つるぎ高校。秋山選手3年時に校名変更)のラグビー部の活動はやはり新鮮でしたか?
「そうですね。ラグビーを最初に教えてくれた場所です。周りも未経験者がほとんどで、ほぼみんな横一線のスタートで基礎的なところからしっかり教わりました。すでに当時から『トップリーグ(現リーグワン)でプレーしたい』という人生設計を描いていました」
── 当時からLOだったのでしょうか?
「最初にFWかBKのどちらをやりたいか聞かれるのですが、兄もFWだったので僕もFWを選び、1年からLOでした。2年になって少しだけNO.8をやったのですが足が遅かったのでLOに戻されて、それ以降はずっとLOです」
── 1年で花園出場、3年時はキャプテンと貴重な経験を積みましたが、高校ではどのあたりが一番成長したと感じていますか?
「タックルやブレイクダウンなどで強く、かつ安全にプレーするための基礎的なスキルを学びました。マインドセットの面でも学んだことが多く、よく言われたのが『ラグビーは人と人との戦い。私生活でズルしたらラグビーでしんどいときにも絶対にズルするから、人間性をちゃんと磨きなさい』ということでした。プレー以上にそういう考え方が身について、今でも『自分はどうあるべきか』と生活のなかでも考えています』
── 進学した帝京大学にも通ずる部分はあったのではないでしょうか?
「はい。生活態度という面では帝京はそれ以上でした。グラウンド外のことにも力を入れて、上級生が下級生を助けながら下級生は自分のことをやるという文化など、ラグビー以外の部分もすごく考えられていて、それを『次の代につなげていこう』という姿勢が鮮明でした」
── 全国大学選手権で9連覇していた名門で4年時にキャプテンを務めました。
「責任を感じました。僕だけでなく4年生全員がプレッシャーを感じながら『前年度をどう超えていくか』ということに取り組んでいたのですが、そのなかでもキャプテンとして、プレーや練習の姿勢で今まで以上にチームを引っ張ることを意識しました。言葉で伝えることには苦手意識がありましたが、そこから逃げちゃダメだと考え直して、言いづらいこともしっかり伝えるようにしました」
── 10連覇を目指したシーズンでしたが、9連覇でストップとなりました。当時の思いを聞かせてください。
「悔しい気持ちでいっぱいでしたし、試合に出られないメンバーに申し訳ないと思いました。バトンをつないできてくれた先輩方の顔も浮かびました。1年間、毎日ベストを尽くしてがんばってくれた選手たちにはプライドを持っていましたが、キャプテンとして覚悟は持っていたつもりでも自分にどこかに甘さがあったのかもしれないと考えていました」
■苦手なことを苦手のままにしない
── 大学卒業後はヴェルブリッツに入りましたが、好きなチームなどはあったのでしょうか?
「正直あまりなかったのですが、東芝ブレイブルーパス(東京)は伝統的にFWが強いチームで、レジェンドのLO大野均さん(元日本代表)もいらっしゃるので好きでした。ヴェルブリッツではLO北川俊澄さん(元日本代表)をよく見ていました」
── そんな名選手たちの背中を追うように活躍した秋山選手が、ヴェルブリッツで学んだことは何でしょうか?
「試合に対して準備をすることの大切さですね。相手チームの分析はもちろん、試合の週の1週間、日々の練習のレビューをみんなでやっていましたので、一つのターゲットに向けての準備のしかた、取り組み方を学びました。苦手なことを苦手のままにしないことも大事です。僕はパスに対して苦手意識があり、ボールを持ったら毎回(パスをせず)突っ込んでしまっていたのですが改善して、弱みから強みに変えることができました」
── 特に仲のいい選手はどなたですか?
「PR木津悠輔さん(元日本代表)ですね。週末になると家に泊まりに行ったり、キャンプに連れていってもらったりして、よく遊んでいました。楽しかったです」
── プレーの面で影響を受けた選手はいますか?
「ポジションは違うのですが、FBウィリー・ルルー(南アフリカ代表。元イーグルス。元ヴェルブリッツ)です。すごく負けず嫌いで、試合はもちろん練習も、練習後のミニゲームでも自分がミスしたら怒っていて、遊びでも何でも全部のことに真剣になって勝ちにこだわっていました。そういうマインドセットは僕にとって新鮮でしたし、だからこそ世界ランキング1位の国で代表に入り続けているのだと思います」
── 昨シーズン、ヴェルブリッツの同期のFL古川聖人選手がイーグルスへ移籍しました。どんな話をされましたか?

「聖人とはもともと仲がよく、いつも話していました。1年早くイーグルスに来ていたので、どんなチームなのか、どんな文化があってどういう取り組みをしているのか、といったことを聞いていました 自分が伸び悩んでいるときに聖人がイーグルスで活躍して力を伸ばしている姿を見ていたので、僕にとってはいいモデルになりました。僕の気持ちをイーグルスに向けてくれた、そしてチームのいろはを教えてくれた選手です」
── 帝京大学で一緒にプレーした選手もいます。
「先輩のSH荒井康植さんと、後輩のLO久保克斗ですね。とても心強いです。久保は同じポジションなのでわからないことがあってもすぐに教えてくれます」
── チームにもスムーズに溶け込めていますか?
「はい。もともと知っていた選手もいますし、話しかけてくれる選手も多いので、不安はありません。チーム自体に温かい雰囲気があるのでありがたいです」
── 新たな仲間と目指すのは頂点ですね。
「日本一を叶えるために強い意欲を持ってやってきました。自分の成長も目指しますが、チームの結果が一番大事なので、そこにはこだわっていきたいです」
── さらにその先には、日本代表もあります。昨年も選出されて2キャップ目を獲得しましたが、ジャパンへの思いはどうでしょうか?
「もちろんチャンスがあればいつでもチャレンジしたいですが、今は移籍してきたこのイーグルスでしっかりと結果を出すことが大事です。代表に呼ばれていない今はそれを一番に考えています。自分がここでがんばることで、結果としてジャパンに呼ばれれば、そのときは自分の持っている力を発揮してベストを尽くしたい、という意欲は持っています」
── サポーターのみなさんも活躍を期待しています。

「イーグルスの一員として応援していただきながらプレーするのがすごく楽しみです。みなさんに認めてもらえるようなプレーをしたいと思います」
新天地で旧友と再会し、新たな仲間と出会ったLO秋山大地にとって、さらなる成長のための環境は整った。日本人LOのトップ選手としての真の見せ場は、ここからだ。
(取材・文/齋藤龍太郎)