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2020.08.18
INTERVIEW

田村優選手 新キャプテン就任インタビュー

■「責任は全員に一律にある」

田村優選手
キヤノンイーグルスを牽引してきた司令塔が、名実ともにチームの扇の要になろうとしている。

SO、田村優。イーグルスのみならず日本代表のゲームも常に組み立ててきた不動の「10番」は、沢木敬介新監督から指名される形でイーグルスのキャプテンに就任した。トップリーグ10年目という節目を迎えた田村がキャプテンを務めるのは、高校時代の一時期を除けば初めてのこととなる。

就任発表時、田村はこのようにコメントし強い決意を示している。

「大変光栄に思います。新しい監督、新しいキャプテンになり、何か変えてくれると期待していると思いますが、2人だけで変えることはできません。チーム全体でスタンダードをあげて、みんなで筋の通ったチームを作っていきたいと思います」

2人だけで変えることはできない。筋の通ったチーム──こうしたいくつかのフレーズに、新キャプテンとしての強い意志が垣間見える。その真意と、チームとして目指すべきものを聞いた。
(取材日:2020年7月27日)


■「これがスタンダードだ」と見せ続けていく

田村優選手

──沢木敬介新監督からキャプテンに指名されました。その時の心境を教えてください。

「僕はやる気がある人についていきたいと考えていたので、敬介さんがその気なら僕もがんばろう、という気持ちになりました。エディー・ジャパン(2012年~2015年当時のエディー・ジョーンズ ヘッドコーチ率いる日本代表。沢木監督はコーチング・コーディネーターを務めていた)以外では実際にコーチングを受けたことがないのですが、敬介さんは敬介さんなりの意志をしっかり持っていますし、ブレることがありません。僕がイーグルスに来てから指導者が頻繁に変わっているので、筋の通っている人が指導してくれることは僕としては助かります」

──これまで共同主将を務めてきた庭井祐輔新バイスキャプテンとのコンビとなります。

「庭井は僕が選ばせてもらいました。もちろん彼とはコミュニケーションを取っていますし、他にも僕が選んだリーダーたちがいますので、彼らにも任せています」

──沢木監督は田村選手を「キャプテンというポジションをプレッシャーに感じないタイプ」と評していました。

「キャプテンになったからといって自分を変えるつもりはまったくありません。それに、僕は頼りがいがあるわけではないので、逆にみんなががんばろうとしてくれる。それでいいと思っています」

──沢木監督のコーチングについてこの数週間で感じたことはありますか?

「コミュニケーションを取ろうとしてくれています。ただ、敬介さんもまだまだ様子をうかがいながらだと思います。僕はスキルなどで『これがスタンダードだ』と見せ続けていくだけですね」

──キャプテン就任時に発表された決意表明に「筋の通ったチーム」という表現がありました。どのような意味を込めた表現でしょうか?

「たとえば、いい補強ができていない、誰それに原因がある、といったようにイーグルスは逃げ道を作るチームでした。ですから僕ら選手、スタッフ、マネジメントサイドがやると言ったこと、自分で決めたことについて責任を持って遂行する、しんどくなっても難しくなってもそこから逃げない、そういう意味を込めました。チームというよりも人としての部分だと僕は思っています」

──つらい状況でも回避せず、やり抜くことですね。

「自分たちの準備はコントロールできますので、みんなでがんばってやると決めた練習をやり抜いて結果を出す、それでいいと考えています。イーグルスというチームでもっとラグビーにフォーカスする、ということです」

──決意表明のコメントには「変える」という表現も複数回出てきました。具体的にはどのあたりを変えていきたいですか?

「敬介さんからは『全部変える』ことを依頼され、『インターナショナルのスタンダードに持っていきたい』と言われました。そのためにはマインドセット(心構え)を変えることが大事だと思います。具体的には、なぜ自分たちがラグビーをしているか、何のためにプレーするか、どうやって試合に臨むか、この3点を変えないといけません。ただラグビーをして試合に勝ったり負けたり、ではなく、もっと本質を追求したいと考えています。ラグビーはいいスポーツですからね」

■仲間としての愛情がないと試合には勝てない

田村優選手

──これまでキャプテンのご経験は?

「はい。高校時代に。ただ、すぐに他の選手に代わりました」

──NEC時代は2シーズン副将を務めましたが、キャプテンは経験されていません。つまり、トップリーグでは初のキャプテンということになります。気負いはありませんか?

「まったくありません。責任は全員に一律にあると思っていますので。今までは主要選手の何人かに負担がかかったり責任が生じたりしていたのですが、これからは選手みんなでいろいろなことに取り組んでいきますので、僕一人がどうこうするということではありません。みんなフラットな状態からスタートして、発言したことには責任を取らせます」

──田村選手一人で変えるのではなく「みんなで変えていこう」という意志表明と受け取れます。

「そうですね。選手も含めてマネジメントもコーチングもみんなで変えていこう、むしろ変わらないといけないよ、ということです」

──これまでに影響を受けた、または印象に残ったキャプテンはいますか?

「たくさんいますので挙げたらきりがないのですが、みんな記憶に残っています。ただ、キャプテン以上にチームメイトからの影響が大きいですね。いいチームに所属させてもらってきたので、たくさんのチームメイトにいい影響を与えてもらいました」

──誰か特定の選手を参考にするというよりは、田村選手独自のスタイルを貫きつつチームとしてみんなで取り組んでいく、というイメージでしょうか?

「はい。今まで成功したチームの中でキャプテンが目立っているチームはあまり見られません。ほぼ全員がみんなで協力しているチームが多いです。僕は『キャプテン』という肩書きがついているだけで、僕自身は変わらなければならないとは感じていません」

──昨年のラグビーワールドカップで成功を収めた日本代表では「リーダーグループ」の一員でした。このスタイルは一種のロールモデルになったと思いますが、その一員として過ごした経験はやはり大きかったですか?

「そうですね。リーチ マイケル(東芝ブレイブルーパス)がキャプテンとして働いていましたが、それ以外のリーダーの選手が働くことも多く、さらにリーダーグループに入っていない選手もサポートしてくれていたので、いい経験になりました」

──田村選手は「仲間を大事にすること」をポリシーにされているそうですが、やはりそのような面がキャプテンとして活きてくると考えていますか?

「はい。もちろん普段からみんなと仲良くしていますけど、ラグビーをしている時はズバッと言います。僕は相手に何も言わないでうやむやにするよりも、嫌に思われることでもはっきり言って伝える方が優しさだと思っていますので。そういった仲間としての愛情がないと試合には勝てません。こうして口で言うのは簡単ですが、関係を構築していくのはなかなか難しく、時間はかかるだろうと思っています」

──率直に伝えるのも愛情ということですね。

「なんでもかんでもそうするわけではありませんが、いい時はいい、悪い時は悪いと伝えて、改善策などを渡すことができています。『どっちでもいいよ』というグレーな伝え方をしてしまうと、その人がどう評価されているか明確でなくなってしまいますので」

■自分たちがやろうと決めたこと、スタイルを貫ければそれでいい

田村優選手

──チームが始動してひと月近く経ちますが、キャプテンとしての心境やチームの状況に変化はありましたか?

「僕自身は何も変わっていません。チームも今は準備段階で、ここからです。新しいことが始まる時はみんな頑張れますし、当分試合がなくプレッシャーがない中だからこそキツい練習を頑張れているのだと思います。これからもっといろいろな試練が待っているでしょうから、そこからが勝負です」

──来季のレギュレーションが正式にアナウンスされていない中、モチベーションの維持が難しいという面はないでしょうか?

「僕は日本代表招集があるかもしれない、ということもありますし、体の状態がいいに越したことはないので個人的に準備しています。ですから特に難しさなどは感じていません。ただ、試合がなくそのプレッシャーもない代わりに、試合がしたくてもできないというストレスはあります」

──イーグルスには今季も様々な選手が移籍してきましたが、同じSOの小倉順平選手の加入はやはり刺激になっていますか?

「SOが2人だけだったので、一緒に切磋琢磨できる選手が1人増えてさらにみんなでがんばれると思っています。いろいろな意見を出し合っていけるという意味では僕にとってもチームにとってもプラスだと思うので、楽しみです」

──練習ではキックゲームを行うなどボールを使い始めています。スキルで高いスタンダードを見せたい、ということですが、スキルの精度はだいぶ戻ってきましたか?

「僕個人はトレーニングを始めて8週目から9週目に入るところですが、実感としてはまだまだです。体のバランスもこれからですね」

──スキル以外にもフィジカルやフィットネス、様々な要素があると思いますが、特に課題と感じているのはどのあたりでしょうか?

「課題は全部ですね。でもチームが始動してまだ1か月ですから、悲観的になることではありません」

──チームとしての目標はレギュレーションがはっきりしてからの設定になると思いますが、田村選手が最終的に目指すチーム像はどのようなものでしょうか?

「極端な言い方をすれば、僕は勝ち負けはあまり気にしません。自分たちがやろうと決めたこと、スタイルを貫ければそれでいいと思っています」

──勝敗の前にチームとしての結束が第一ということですね。

「そうですね。チームとしてブレることなく戦い、それでも勝てなければ相手が強いだけです。結果は仕方のないことですので」

──ブレないチームを作るための、挑戦のシーズンとなりそうですね。

「はい。僕らは強いチームではありませんので、自分たちで強くなれるようにするしかないと思っています」


いかにも田村らしい率直な言葉の数々には、たしかな熱がこもっていた。立場は変わっても自身が確立してきたスタイルを変に崩すことはせず、全員で変えていこうという強い意志は、言葉自体だけでなくその間の黙考からも強く感じ取ることができた、そんなインタビューだった。

田村のキャプテン就任コメントには続きがある。

「新たなスタート地点に立って、ゼロからのスタートになります。皆さんの応援が力になります。いいチームをつくりましょう」

いいチームを「つくります」ではなく「つくりましょう」という表現は、牽引というよりも共闘を呼び掛ける言葉ととれる。

田村をはじめとするチーム全員による変革は、今まさに始まったばかりだ。

(インタビュー&構成:齋藤 龍太郎)

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