「全員が成長しようと努力していた毎日こそが大事だった」
キャプテン1年目のシーズン、新たなスタートを切ったチームを見事にまとめ上げた。
SO田村優。キヤノンイーグルスのみならず日本代表でも長年10番を背負ってきた稀代のプレーメーカーは、これまで以上に常にイーグルスの中心にい続けた。高いスキル、的確な状況判断はもちろんだが、プレーや言葉でチームメイトに伝えるべきことをはっきりと伝え、キャプテン未経験であったことを感じさせないスキッパーぶりを見せた。その献身ぶりは8強という結果にもダイレクトに結び付いていると言えるだろう。
開幕当初は波に乗れないながらも、徐々にチーム状態が上向き白星を重ねていった今シーズンを、独自の視点で振り返ってもらった。
(取材日:2021年5月18日)
── イーグルスは準々決勝でパナソニック ワイルドナイツに17-32で敗れましたが、ホワイトカンファレンス第4節からプレーオフトーナメント2回戦まで4連勝と快進撃を見せました。
「最後は負けて終わってしまいましたが、強い相手にチャレンジする姿勢が全員出ていました。そこは成長した部分ですし、そういうところが見えことはよかったと思っています」
── 例年以上に充実感のあるシーズンだったのではないでしょうか?
「本当にみんなでがんばってチャレンジし続けたシーズンでしたが、力及ばず終わりました。相手の方が強く、力負けしたというのが実感です。またがんばって力をつけるだけだと思っていますので、特にやり残したことなどはなく、後悔もありません」
── チームとして「エフォート(努力)」という言葉が掲げられましたが、ご自身を含め選手たちのエフォートを感じるシーズンとなったでしょうか?
「僕は何か特別なことをした、という実感はないのですが、チームとしていいプランがあり、やることが明確になりました。そこに尽きます。それによって自分は力を出すことができました」
── 8強という結果についてはどのように受け止めていますか?
「もちろん勝ちたかったですが、僕たちもしっかり準備したうえで、それでも相手(パナソニック)の方が強かったので、負けてしまったことは仕方ないと思っています」
── パナソニックとは第3節(●0-47)も対戦しましたが、準々決勝で再戦した時と比べてイーグルスの成長を感じましたか?
「はい。やはりパナソニックを相手に勝負しにいくことができたのは大きな変化だったと思います。準々決勝の週の頭から全員で『パナソニックに勝とう』としっかり準備したので、そこはよかったですね。シーズンを追うごとにいい準備ができるようになってきて、徐々にいいチームになっていきました」
── パナソニックとはどのあたりに違いがあると感じましたか?
「全力で戦いましたが、相手はまだ余裕があるように見えました。やはり大一番の場数を多く踏んでいますし、チームとしての経験の差が出たのかなという印象です」
── 準々決勝でイーグルスはそのパナソニックを相手に2トライを決めました。後半7分の田村選手自身のトライに加え、後半28分のCTB南橋直哉選手のトライは相手ディフェンスが対応できない素晴らしいトライでした。
「チームとして準備してきたことでした。それを試合で発揮できるかどうかは極めて大事なことだと思うので、みんなが自分たちのやってきたことを信じるきっかけになったのではないかと思います」
── 準決勝で4強のチームの強さをご覧になったと思います。そのレベルを目指すうえで必要なことは何でしょうか?
「正直なところ、その域にたどり着くにはまだ時間がかかると思います。特に決勝に進出した2チーム(サントリー、パナソニック)は何十年もの間、強いチームです。僕たちがすぐに準決勝のような場に安定して立つことができるかまだわからないですが、やはり何回もあのような経験ができるだけの安定したチーム力をつけることが大事だと考えています」
── 安定していい結果が残せるチームになるためにも、今季は意味のあるシーズンになったと思います。キャプテンとしても一つの成果になったでしょうか?
「僕自身は特に何も変えることなく、自分のパフォーマンスをしっかりとできるように、ということだけしか考えていませんでした」
── バイスキャプテンの庭井祐輔選手はじめリーダーグループの存在も大きかったでしょうか?
「そうですね。彼らがサポートしてくれて助かりました。ただ、彼らだけではなくチームのみんなにサポートしてもらっていましたので、むしろ僕以外のみんなががんばってくれた結果だと思っています」
── 沢木敬介監督は田村選手の今季のパフォーマンスを褒め称えていました。ご自身でも好調であると実感していたのでしょうか?
「いえ、自分のよさというよりも、チームとしてのプランがありましたので、コーチからの要求に対して自分の持っている力を出していくことだけを考えていました」
── チームに貢献することに注力しきれたわけですね。
「もちろん自分自身のことも考えてきましたが、昨季以前はチームのプランが浸透しきれていなかったこともあり、自分の力を出すことができませんでした。今季は敬介さん(沢木監督)がリードしてくれて、僕はそれに対して自分の引き出しの中でやるべきことをやっていくというシーズンになりました。昨季までは『周りに合わせるように』と言われていたのですが、敬介さんからは、むしろ『周りを引き上げるようにしてほしい』と言われ、用意されたプランを遂行したことが結果として表れたと言えると思います」
── 今季の総トライ数は33トライで全体9位でした。あらためてアタックの出来はいかがでしたか?
「まだまだこれからだと思っています。みんながしっかり勇気を持って、どんな相手に対してもしっかり攻める意志を持てたことはよかったと思います」
── そのアタックの中心は田村選手とSH荒井康植選手のハーフ団でした。田中史朗選手から先発SHの座を奪い、田村選手と長くプレーした荒井選手の成長をどう感じていますか?
「僕としては非常にやりやすかったです。今、日本で一番いいSHだと思います。もともと素晴らしい能力を持っていて、今季それが開花しパフォーマンスが安定したのだと思います。もちろんフミさん(田中史朗選手)にも助けられましたが、コーキ(荒井康植選手)にも助けてもらっています。日本代表にも選ばれるべくして選ばれたと思います」
── BKから見て、今季のFWの活躍についてはどう感じましたか?
「非常によくがんばってくれました。タレントが揃っているBKに向けていいボールを供給しようとしてくれて、すごく助かりました」
── 今シーズンのスクラム成功率は79%で、ラインアウト成功率は86.7%でした。
「僕はセットピースについては正直何もわからないのですが、結果なので受け入れるしかないですし、あまり気にしていません。ただ、ラインアウトからのアタックに関しては全体的によかったと思います」
── 今季は開幕戦で惜敗し、そこから3連敗となりましたが、それ以降は連勝しチームとして波に乗っていきました。ターニングポイントになった試合、瞬間はいつでしたか?
「やはり勝ったことですね」
── 今季初勝利となった第4節のヤマハ発動機ジュビロ戦ですね。
「はい。ただ、その試合に限らず勝った試合は全て印象的でした」
── 第5節のリコーブラックラムズ戦は3点差で逆転勝利を飾りました。接戦を勝ち切ることができた要因はどこにあったと考えていますか?
「みんなで自分たちのことを信じてプレーできたことが勝因です。昨シーズンまでは自分たちに自信がなかったのですが、今シーズンはいい練習、いい準備をし続けたことで自信を付けていくことができました」
── その「いい準備」にはプレースキックも含まれていると思います。今季はプレースキック成功率87%でベストキッカーの個人タイトルを初受賞されましたが、どう感じていますか?
「みんながいい位置でトライを決めてくれて、またいい位置で相手のペナルティーを誘ってくれたおかげだと思っています。決めやすい位置から蹴ることができました」
── キック以外のパフォーマンスも高く評価されたシーズンだったと思います。ご自身はそのような実感はありますか?
「自分のことだけに集中できればさらに力を出せると思っています。ただ、今はチームがいい方向に向かっていることもあり、自分を抑え過ぎず本来の力を少しずつ出せるようになってきていると思います」
── 第2節の神戸製鋼コベルコスティーラーズ戦以外は出場され、大きなケガなくシーズン終了を迎えました。コンディション面はいかがでしたか?
「ケガなくシーズンを終えることができて安心しています。試合の欠場はありましたが、練習には全部参加できたのでよかったです」
── 心に残った場面が多かったシーズンだったと思いますが、勝った試合のみならず練習などの日常も含め、今季最も印象的だった瞬間を教えてください。
「全員が毎日成長しようと努力していましたので、『あの瞬間だけがよかった』ということではなく、毎日が大事だったと僕は思います」
── また、毎年のことではありますが、今シーズンも退団選手が発表されました。
「みんなそれぞれ仲よくしてくれて、それぞれに思い出がありますので、寂しいですね。みんなチームのためにがんばってくれた選手ばかりです」
── 新リーグ元年となる来シーズンもイーグルスがさらに成長するために必要なこと、求められるものは何だと考えていますか?
「今シーズンは勝てなかったチームに勝てるように練習するのみです。もちろんパナソニックのような強いチームがターゲットになってくると思います」
── 日本代表でもハードな日々が続きます。イーグルスのファンに向けて意気込みをお願いします。
「コンディションはいい状態で、気持ちの面はこれから整えていくところです。ここからは全く違うレベルのラグビーが始まるので、対応できるようにがんばりたいと思います」
キャプテンとして奮闘したシーズンも自身のスタイルを大きく変えることなく、チームをベスト8という位置にまで引き上げた田村優の功績は大きい。それにより、田村に負けず劣らず勝利への意欲を燃やすようになり、「チームのために」と意識を変えていったイーグルス全員がどれだけ翼を大きくし、どこまで高く飛躍していくのか、今後がますます楽しみだ。
(インタビュー&構成:齋藤 龍太郎)