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2022.12.12
INTERVIEW

沢木敬介監督 インタビュー

沢木敬介監督 インタビュー

「プレイヤー個人としては勝てる選手に、チームとしては勝てる組織に」

横浜キヤノンイーグルスにとって真に結果が求められる5か月間が始まろうとしている。一時はチーム史上初の4強をつかみかけながら、終盤の敗戦により6位に終わった昨シーズンの苦い経験はまだ記憶に新しい。ジャパンラグビー リーグワン2シーズン目の今季は、プレーオフトーナメントへの出場権が与えられる4位以上を「掴み取れ!」(シーズンテーマ)を目指す戦いとなる。

就任3シーズン目を迎えた沢木敬介監督が掲げた今季のチームスローガンは「WINNERS MINDSET」(勝者の心構え)だ。キヤノンスポーツパークのゴール裏にはそのスローガンが書かれた巨大な幕が飾られており、選手もコーチも常にそれを意識しながら練習に勤しんできた。

新戦力やコーチの加入など様々な変化がある中で、決してぶれることのない一貫性のある指導を続けてきた沢木監督が今季目指すチーム像とは。そしてターゲットとは。開幕直前の声をお届けする。 

(取材日:2022年12月2日)


■メンバーを固める以前に選手層を厚くすることに注力

── 12月3日に予定されていた開幕前最後のプレシーズンマッチ、リコーブラックラムズ東京戦は残念ながら中止となりましたが、11月26日のトヨタヴェルブリッツ戦(前後半40分に続く20分間のエキストラゲームで逆転され42-43で敗戦)を除くプレシーズンマッチ4試合で勝利を収めました。

「プレシーズンマッチはやってきたことがしっかり出せるかどうかが重要です。私自身はプレシーズンマッチの勝敗にはこだわっていないのですが、今のイーグルスはどんな試合であっても勝利が必要なチームです。ここまでは順調に来ていると思いますが、シーズンが始まってからも引き続きチャレンジしていく必要があります」

── 今季のプレシーズンマッチを見ていますと、できる限り多くの選手を起用しようという意図が見えました。その点は意識されていましたか?

「みんなに出場機会を与えながら、選手層を厚くしていく必要がありました。特に若い選手は試合の経験が大事ですから、そのあたりを考えながらここまでやってきました。練習してきたことを試す場は試合しかありません。そういう意味では全員にチャンスがあると思っています」

── 特に「ライザーズ」、つまりこれからメンバーを目指していく選手たちの底上げに注力されてきたわけですね。

「はい。ただ、いい時と悪い時の差がまだまだあります。プレーにもう少し一貫性が出てくればさらにレベルアップできるはずです。トヨタ戦ではメンタル面も含めて課題が出ましたが、選手個人というよりはチームとしてのメンタル面ですね。ただ、それも含めたものが今のチーム力だと思っています」

── 大半の選手にプレータイムが与えられてきましたが、開幕後の先発15選手、リザーブを含めた全23選手の構成は固まりつつあるでしょうか?

「固めるというよりも、重視してきたのはあくまで層を厚くすることです。昨シーズンはベストの15人をある程度固めることができました。しかし、たとえば終盤にケガ人が出るとレベルが落ちてしまいます。まさにそれが昨シーズンの課題でした。今シーズンはそのようなギャップを埋める必要があります」

── 昨シーズン終盤、苦しい試合が続いたのはそのあたりに要因があったわけですね。

「加えて、しっかりとしたマインドセットも必要です。今シーズンはチームスローガンとして『WINNERS MINDSET』を掲げていますが、これには絶対にこだわらなければならないと思っています。プレイヤー個人としては勝てる選手に、チームとしては勝てる組織にならないといけません。勝者らしくあること、人としての振る舞いも大事です。そのようなマインドセットがイーグルスには一番必要だと考えています」

── 新キャプテンに指名した梶村祐介選手はそのマインドセットを象徴する存在かと思います。

「彼は選手としてもう一つ上のレベルに行かなければならない選手だと思いますので、その上でもいい経験になるはずです。あとはしっかり自分のパフォーマンスでチームを引っ張れるようになってくれればと思っています」

── 昨シーズンはチームとしては残念な結果に終わりましたが、シーズン終了後の6月には多くの選手が日本代表候補に、またその後はNDS(ナショナル・デベロップメント・スコッド)や日本代表に選出されました。選手の成長の表れと言えるのではないでしょうか。

「そうですね。ケガなどで落選した選手もいて、最終的に日本代表に残ったのはカジ(梶村)しかいませんが、今までそのような枠に入れなかった選手が入るようになったのはチームとしてもうれしいことです」

■各自の準備期間をあえて長くしたうえでチーム活動をスタート

── チームをさらに強化していくにあたり、今シーズンから意図的にアプローチを変えたり新たに取り組んでいることがあればお願いします。

「あまりないですね。選手が成長するためのプラン、自分自身がいいパフォーマンスをするための準備といったものは個人個人がしっかりと自分にベクトルを向けて取り組むべきことだと考えています。選手だけではなくスタッフも同じです。そういう責任があってこそチームは成り立ちますし、こうした考え、やり方は今シーズンに始まったことではありません」

── そのような一貫した方針がある中で、今シーズンから遠藤哲アシスタントコーチとクレイグ・スチュワート アシスタントコーチが加わりました。両コーチの働きはいかがでしょうか?

「いいと思います。今季は自分たちのスタイルを作り上げていく過程で、新しいオプションをかなり増やしました。彼らはその中でしっかり働いてくれています」

── 質の高いコーチングを受けている選手たちからも、取り組む姿勢などの変化は感じられますか?

「もちろんです。やはり自分で取り組み方を変えない限りパフォーマンスは変わりません。そういう意味でいうと、LO久保克斗は今すごく伸びています。昨シーズンと比べるとラグビーに取り組む姿勢、覚悟が決まってきて、S&C(ストレングス&コンディショニング)も含めよくなっています。もちろん久保に限らずそういう選手はたくさんいます」

── 大半の選手が夏から長期間ともに練習できていることも大きいでしょうか?

「いえ、今シーズンはそこまで早い時期からスタートしているわけではなく、自分で準備する期間をあえて長くしました。自分自身に責任を持ち各自がしっかり準備したうえで集まることができましたので、非常にいい準備期間になったと思います」

── 今シーズン加入したHO川村慎選手は移籍と同時にチーム最年長選手となりましたが、35歳にしてブロンコテストでパーソナルベストを出したと聞きました。選手の意識の高さを感じるエピソードです。

「やはりチームにそういう雰囲気があったのではないでしょうか。そういう意味ではチームとして大きく変わってきていると思います。彼のようなベテランも、そして若手も問わず、与えられたターゲットをクリアしていくことが大事だと考えています」

■SHファフ・デクラークら新戦力への期待

── 南アフリカ代表SHファフ・デクラーク選手がチームに合流しました。今シーズンのリーグワンの中で最も期待されている選手の一人です。

「質の高いプレーはもちろんですが、僕らが彼に見せてほしいのは闘争心、アグレッシブな面です。それをチーム全体に伝播させてもらいたいですね。イーグルスはまだまだトゥーナイスな(優し過ぎる)選手が多いので、彼には『WINNERS MINDSETの体現を期待している』と話しました」

── デクラーク選手は世界的に見ても貴重と言えるほど闘争心をむき出しにするプレースタイルの持ち主です。

「チームとしてそうでなければいけないと考えています。たとえば、一つのミスで下を向いているようなチームではだめです」

── そのデクラーク選手や、4シーズン目を迎えたCTBジェシー・クリエル選手の今年のテストマッチでのパフォーマンスはいかがでしたか?

「ファフはよかったと思います。ただ、イーグルスと南アフリカのラグビースタイルが極端に違うことから、ジェシーに関しては一概には言えません。まずジェシーにはイーグルスのスタイルを思い出してもらって新たに対応してほしいですが、彼はすごくハングリーな選手なので準備期間が短くてもチームにフィットしてくれると思います」

── デクラーク選手は11月のテストマッチの影響でコンディション調整が続いていますが、本人は開幕戦から出場したいとコメントしていました。万全になれば開幕から起用したいですか?

「もちろんです」

── 先ほど名前が出ましたHO川村慎選手に加え、PR杉本達郎選手、SO喜連航平選手など日本人選手の移籍も目立ちました。彼らについてはいかがでしょうか?

「みんないい感じで溶け込んでいると思います。特に慎(川村)は他の選手とよくしゃべっていますね」

── 一方で、キャプテンを2シーズン務めたSO田村優選手はスキッパーの肩書きこそ外れましたが、これまでと変わらず中心的な働きを果たしていくことになりそうでしょうか?

「そうですね。彼のようなレベルの選手は毎試合パフォーマンスにしっかりこだわってやっていく、そういう自覚を持っています。ただ、私はいいパフォーマンスをする選手を選びます。SOには小倉順平もいますし、彼は10番(SO)、15番(FB)の両方でプレーする可能性がありますので、うまく見極めながら起用していきたいと思っています」

■見てくれるみなさんに何かを感じてもらえるような試合を

── いよいよ開幕が近づいてきました。序盤から4強以上の実績があるチームとの対戦が続きます。まずは第1節、コベルコ神戸スティーラーズと対戦するにあたり重要となるポイントはどのあたりでしょうか?

「我々は常にチャレンジャーです。自分たちが取り組んできたラグビーを、そして自分たちのやり方をしっかりと遂行することです。あとは、見てくれているみなさんに何かを感じてもらえるような試合が毎節できればいいと思っています」

── そのような試合を積み重ねた先にある、シーズンとしてのターゲットをお聞かせください。

「トップ4です」

── さらにその上を期待する声もあります。

「トップ4に入らない限りその先はありません。トップ4に入って初めてその先に進む権利が出てきます。ですから、まずはトップ4に入らなければならず、そのターゲットは変わりません。入るためには、どのチームが相手であろうと全試合100%で臨んで勝ちに行くことが大事だと考えています」



コーチ陣の指導によるものだけでなく、個々の事前準備など各自の自主性にも重きを置きながら選手の成長を促してきた沢木敬介監督。これまで表立って選手を褒めることは少なかったが、今回のインタビューでは選手たちの成長を認めていた。チームとしていい方向への変化、手応えを感じながらシーズンに突入することになりそうだ。

4強入りへの険しい道のりが始まろうとしているが、その厳しい過程が選手を一層成長させ、チームをさらに上のステージへ導くことは間違いないだろう。全16節の真剣勝負、そしてその先の戦いぶりにも大いに期待しながら、イーグルスらしいラグビーを堪能したい。

(インタビュー:齋藤龍太郎)

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