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2023.12.06
INTERVIEW

沢木敬介監督インタビュー

沢木敬介監督インタビュー

「我々のラグビーをしっかり極めていく」

5位タイ(8強)、6位、そしてチーム史上最高位の3位。沢木敬介監督就任後、着実にステップアップしてきた横浜キヤノンイーグルスの過去3シーズンの順位だ。

昨シーズン、かねてから目標に掲げてきたトップ4の壁を破るだけでなく3位の座を掴み取るまでに押し上げた沢木監督にとって就任4年目となる今季は、さらなる高みを目指すシーズンとなる。つまり、目指すはファイナルの舞台への進出、そして初優勝だ。

そのために新たに掲げたスローガン「MASTER OUR BELIEF」に込めた思いとは。そしてラグビーワールドカップを通じて感じたという勝利に必要な要素とは。開幕を目前に控えた沢木監督は静かに語った。


■ポジションは与えられるものではなく奪い取るもの

──11月18日の静岡ブルーレヴズ戦(〇33-19)までプレシーズンマッチは全勝できています。チーム状態はいかがですか?

「プレシーズンマッチはもちろん勝つことも大事ですが、自分たちがどのレベルにいるか、つまり今の自分たちの力を知ることが一番大事だと思っています。その意味では、ブルーレヴズ戦は納得できるレベルの部分とそうでない部分がはっきりと分かれた試合になりました。
  自分たちが目標を達成するためにこれから伸ばしていかないといけないところがまだまだたくさんあると感じています」

──その前週、11月11日のコベルコ神戸スティーラーズ戦(〇38-12)も含め、プレシーズンは総じてそのような評価でしょうか。

「そうですね。昨シーズンからディフェンスコーチ(前スクラムコーチのシージェイ・ファンデル・リンデコーチ)もスクラムコーチ(新任の名嘉翔伍コーチ)も代わって、新しいことに取り組んでいます。新鮮さもあってどちらも成果が出ていますし、逆に課題も明確になっていますので、いい状況だと思っています」

──アタックについてはいかがでしょうか?

「自分たちのラグビースタイルをどこまで進化させるか、というところに引き続きこだわって取り組んでいます」

──アタックもディフェンスもセットピースも、練習のクオリティは昨シーズン以上に向上しているという感触をお持ちでしょうか?

「はい。ただ、選手たちのポジションは与えられるものではなく奪いにいくもの、奪い取るものだと思っていますので、言うなれば『ガツガツさ』がもう少し欲しいところですね」

──もっと闘志をむき出しにせよ、ということしょうか?

「やはり練習でそういうところがないといけません。海外のプロチームはその点すごくハングリーですし、特に強いチームは誰しもハングリーです。イーグルスの選手ももう少し貪欲さが出てもいいのかなと思います。
  もちろんプロ選手と社員選手が共存している難しさはありますが、今の選手たちはそれを言い訳にしていません。例えばPR岡部(崇人)は社員選手ですが今すごく成長できていますし、SH荒井(康植)も今シーズンは調子がいい。ですから、もはやその区分けは関係ないわけで、むしろ『プロ選手になりたい』と言ってプロになった選手たちがもっと危機感を持たないといけないと感じています。特に若いプロ選手ですね」

──若手選手からの突き上げがチームの向上には欠かせないわけですね。

「プロは厳しい世界だと理解しないでプロになった選手もいると思うんです。でもプロになってからも気持ちの持ちようがそれまでと変わらなかったら、意味がありません。そのあたりをもう少し真剣に考えてやらないといけないんじゃないかと考えています」

──そんな中、東京サントリーサンゴリアスからHO中村駿太選手、PR祝原涼介選手といった経験値の高い選手が移籍してきました。特に中村選手は沢木監督がU20日本代表とサンゴリアスの両方で指導した選手です。加入の効果は出ていますか?

「やっぱり、いいですよ。駿太が入ってきたことでHOの庭井(祐輔)も慎(川村)もよくなってきましたし、すごくプラスに作用していると思います。イワ(祝原)のところ(タイトヘッドPR)も達郎(杉本)、ツカ(津嘉山廉人)、松岡(将大)、いずれも互いを高め合っていて、すごくいい状況だと思います」

──フロントローの選手を補強したのは永友洋司GMの意向でしょうか?

「FW第1列の選手層が薄いと感じていたので、僕からお願いしました。やはりラグビーはスクラムが大事なので、まずセットピースをしっかりと安定させる選手、そして僕が今やろうとしているラグビーを理解できる選手を獲得しました」

──東海大学から来たルーキーのレキマ・ナサミラ選手はプレシーズンマッチから主にLOで先発し、スティーラーズ戦ではハットトリックを決めるなど活躍しました。

「まだまだ荒削りな部分もありますが、試合でどんどん使っていってその中で学ばせています。フィットネスも試合に出ることでつけていくタイプだと思うので、今は失敗してもいいからどんどん使っていきたいですし、これからもっとよくなってくると思います」

──オーストラリア代表LOマシュー・フィリップ選手はコンディション調整中で、まだプレシーズンマッチで出場機会がありません。

「本人も早く試合に出たがっていて少し焦っているようですが、間違いなく力のある選手ですし、シーズンは長いので今は我慢してもらっています」

■強いチームは自分たちのスタイルを確立している

──新たに掲げたチームスローガン「MASTER OUR BELIEF」についてうかがいます。「信念を極める」という意味合いになるでしょうか。

「そうですね。自分たちをお互いに信じる。チームを信じる。スタイルを信じる。我々のラグビーをしっかり極めていく、といった意味を込めました」

──「勝者の心構え」を意味する「WINNERS MINDSET」も昨シーズンから引き継がれていますが、そのスローガンの下、昨シーズンは3位というチーム最高成績を収めました。その更新を目指すシーズンとなります。

「焦らずしっかりと自分たちの力を発揮できるようなチームにならないといけません。ですから、まずはもう一回足元を見ながら取り組み、ちょっとずつでもいいので勝てるチームに近づくことです。僕はそれが大事だと思っています」

──昨シーズンに続いてCTB梶村祐介選手をキャプテンに指名しました。どんなことを期待してのキャプテン留任でしょうか?

「カジ(梶村)は昨シーズン1年間キャプテンをやりましたが、チームが成長するためにはキャプテンこそが成長しなければならないと考えています。彼だけではなくリーダー陣がいかにチームをドライブしていけるか、例えばチームが苦しい時間帯に自分たちの力を発揮するためにはどうしたらいいのか、といったことが試されるシーズンになりますので、彼にとってはキャプテンとしてさらに難しい1年になるのではないでしょうか。
  昨シーズンはキャプテン1年目でしたから、自身のパフォーマンスにある程度フォーカスできたでしょう。2年目はそれだけではいけません。日本代表でリーチ(マイケル。東芝ブレイブルーパス東京)や流(大。東京サントリーサンゴリアス)などいろいろなリーダー像を見てきたカジにとっては、自分なりのリーダー像、スタイルを作っていかないといけないシーズンです。周りもそれを求めているでしょう。もちろんパフォーマンスにもこだわりながら、強いリーダーシップを発揮する。そんな大きなチャレンジの年になるのではないでしょうか。もちろん周りはサポートしますが、彼がもう一つ上のレベルの選手になるためにもすごくいい経験になるはずです」

──ラグビーワールドカップで日本代表に選出されたSO/FB小倉順平選手とNO.8/PRシオネ・ハラシリ選手が戻ってきました。

「彼らはワールドカップで出場機会を得られませんでしたが、その分『試合に出たい』という意欲が強いと思いますし、そのエナジーをすごく感じています」

──沢木監督はワールドカップの一部の試合を開催地フランスで直にご覧になりましたが、大会全体から感じたことがあればお願いします。

「やはり強いチームは自分たちのスタイルを確立しており、信念を持ってラグビーをしているということですね。いろいろなチームがニュージーランドなどのラグビーを模倣していますが、もちろん真似するのはいいとしても、僕はやはりチームとしてオリジナルのものを持っていないと勝てないと思っています。
  今のイーグルスの選手たちは『イーグルスのラグビーと言ったらこれだ』というプライドを持っています。そのためにはしんどいトレーニングしなければなりません。だからこそ『MASTER』、つまり究めていかなければならないのです。
  先日の大分合宿では大分キヤノンのカメラ製造工場を見学させていただきました。キヤノンが世界に誇るカメラの製造過程を目にし、また実機に触れたことで、技術や品質を『究める』ことの大事さをあらためて実感しました」

──ワールドカップを制したのは2019年の日本大会に続き南アフリカでした。決勝では12-11でニュージーランドから勝利を収めました。

「南アフリカは自分たちがやろうとしていたことをやり切りましたね。だから強いのです。でもそれはニュージーランドも然りでした。ただ、そのような試合ではミスした方が負けるので、その勝負に南アフリカが勝ったということです」

──南アフリカの大会連覇に貢献したSHファフ・デクラーク選手とCTBジェシー・クリエル選手がイーグルスに戻ってきます(取材時点では未合流)。

「ファフはやはりビッグゲームに強いと再認識しました。ジェシーもよかったので一層自信をつけて日本に帰ってくるでしょう。ただ、ワールドカップの決勝まで戦い抜くのは魂を抜かれるようなものでしょうから、今はしっかり休んでもらっています。イーグルスへの合流は11月の終わりになりますが、彼らは加入1年目の選手ではないので開幕までの時間が短くても特に心配していません」

──開幕戦でベストメンバーが揃うのを楽しみにしています。


優勝というイーグルスにとって未知の領域を目指すために、チームに必要な戦力を補強しつつ、世界最高クラスの戦いから得たものを還元して一層の強化を図る沢木監督。その目に迷いはなく、基本方針はこれまでと変わらず一貫している。あらためてそう感じたインタビューとなった。

あらゆる面で「MASTER」、つまり突き詰め、究めることを目指す今シーズンのイーグルス。さらに飛躍するための大きな翼を、獲物を捕らえる鋭い爪を、まもなく見せることになる。

(インタビュー:齋藤龍太郎)

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