「いい選手がいるイーグルスでビッグゲームでデビューできるのは誇らしいこと」

生まれはフィジー、育ちはシンガポール。U20フィジー代表として故郷に錦を飾り、大阪の地で4年間研鑽した青年は、摂南大学在学中の今年1月に横浜キヤノンイーグルスの一員となった。
大学チームの最終学年で所定の手続きと一定の条件を満たした選手が当該年度の全国大学選手権決勝後に所属内定チームの公式戦にエントリーできる「アーリーエントリー制度」のもと、いち早くリーグワンへ活躍の舞台を移した期待のバックロー、アミニアシ・ショーは、ワールドワイドな経験と自慢のフィジカルを武器に3月22日の第12節で待望のリーグワン公式戦デビューを飾った。
チームにとっても大事な一戦の2日前というタイミングで快くインタビューに応じた25歳のルーキーが、実際にイーグルスに来て感じたこととは。そしてこれからの展望は。明るい未来に目を輝かせながら語ってくれた。
(取材日/3月20日)
■力強いボールキャリーだけでなくセットピースにも注力

──イーグルスに来て約2か月が経ちましたが、気持ちはもう切り替わっていますか?
「はい。イーグルスでも大学時代と同じくみんなに"ショー"と呼んでもらっていることだけは変わりませんが、練習では(大学でのラグビー生活との)違いを毎日のように感じています。イーグルスにはいい選手が揃っていて、実際にここ(キヤノンスポーツパーク)に来た時は強い選手がたくさんいるなと実感しました」
──イーグルスでもFW第3列を中心にプレーすることになりそうですね。
「バックロー、主にFLです。今週(第12節のクボタスピアーズ船橋・東京ベイ戦)はNO.8でリザーブから出ることになったので、それが今の自分に任されたポジションということになります」
──パワーを活かして前に出ることが求められがちなポジションですが、もともとそのようなプレーは得意ですか?
「そうですね。NO.8としてボールキャリーなどで力強くプレーをしたいですが、もちろんそれだけではなくラインアウトではジャンパーとしても機能しなければなりません。その点はパウリ(パウリアシ・タウモエペアウ アシスタントコーチ)とも話をしていて、ラインアウトジャンパーの仕事も重視しながらLOとしても機能していく必要があると考えています」
──スクラムの練習でもリーグワンのトップチームらしい重圧を受けていますか?
「ライザーズ(メンバー外の選手。練習ではその週の仮想敵の役割を果たす)に回った時はメンバーからのプレッシャーをさほど感じないのですが、逆に彼らにプレッシャーをかけることにフォーカスしています」
──ちなみにアタックとディフェンスでは、どちらが得意なタイプでしょうか?
「自分ではアタック重視のプレイヤーだと思っていますが、ディフェンスでは特にブレイクダウン(における仕事)が得意なので、試合でもそのあたりを見せていきたいです」
■「ナキ」の背中を見ながらそのレベルに到達したい
──スピアーズ戦(第12節)のメンバーに選ばれ、リーグワンデビューを果たす見込みとなりました。
「正直に言うと、メンバー入りを告げられた時はプレッシャーがありました。特にスピアーズ戦はビッグゲームなので心理的に圧を感じていましたが、イーグルスにもいい選手がいるなかでこの試合でデビューできるのはとても誇らしいことだと今は思っています。周りの選手も助けてくれると信じています」
──メンバー入りはこれまでライザーズの一員としてメンバーにプレッシャーをかけてきたことの成果とも言えそうです。
「そうですね。いつもライザーズとしてメンバーにプレッシャーを与えてきたことが今回のファーストキャップにつながったと実感していますし、それが自分の基盤作りにもなったと思っています」
──沢木敬介監督からは何か具体的な要求を受けているのでしょうか?
「ボールキャリーなどハードにプレーする、そして自分が元々持っているフィジカルをピッチ上で活かしベストを尽くして強くプレーする、といったリクエストを受けています。それが(自身のデビュー戦で)重要になってきまし、今週だけでなく毎週、沢木さんの言葉が自分を奮い立たせてくれます。周りの選手もみんな素晴らしいので、切磋琢磨して自分個人の能力を上げていくうえで大きな助けになっています」
──今週のポジションであるNO.8として、アマナキ・レレイ・マフィ選手のプレーからどのような影響を受けていますか?
「ナキ(マフィ)はストロングランナーで、フィジカルプレイヤーでもあり(結果を残している選手の)好例だと思います。ですから、自分も彼の背中を見ながらそのレベルに到達したいですし、彼もそれを後押してくれています。それが自分のモチベーションにつながっており、もっともっとレベルを向上させたいと自分に思わせてくれるシンボルになっています」
──沢木監督は「今、ライザーズの選手たちがいい状態なので、チームとしてポジティブな方向に向かうだろう」と発言していました。
「沢木監督のそのコメントの背景には、メンバーに対していいマインドセットを与えたいという背景があると思います。ライザーズがメンバーにプレッシャーをかけることによってチームにエナジーがもたらされるので、そのような意図があると考えています」
──今後も強いチームとの対戦が続きます。
「スピアーズをはじめとする強豪チームに対抗するには、とにかく我々のラグビーを遂行することです。相手がフィジカルに来るのであれば我々もフィジカルにプレーしないといけません。そしてどのチームに対してもリスペクトは必要ですが、リスペクトし過ぎないことも大事です。目の前の相手が有名な選手であってもそうでなくても、そのようなマインドセットで太刀打ちしないといけないと思っています」
■摂南大学から日本代表へステップアップしたフィジアンの先達との対戦が楽しみ

──ご出身はフィジーですね。
「はい。(首都の)スバで生まれ、4歳までフィジーで過ごした後はシンガポールで育ちました。ラグビー好きの父とラグビー経験者のおじの影響で、9歳の時にシンガポールでラグビーを始めて、主にセブンズ(7人制ラグビー)をよく見ていました」
──当時、ロールモデルと言える憧れの選手はいましたか?
「(時期によって)よく変わったのですが、最初に印象に残ったのはジョー・ロコゾコ(元ニュージーランド代表WTB)でした。その後、FLに転向した時はジェローム・カイノ(元ニュージーランド代表FL)、CTBになった時はソニービル・ウィリアムズ(元ニュージーランド代表CTB)で、最後に影響を受けたのはアーディ・サベア(現ニュージーランド代表FL/NO.8)ですね」
──その後、U20フィジー代表に選出されるまでに成長しました。
「ごく自然に選ばれました。生まれた国の代表としてプレーするのは自分にとって誇りだったので、いい機会になりました。2019年に日本で開催されたワールドカップの際にフィジー代表のトレーニングを見て感銘を受け、フィジー代表になりたいと思うようになりました」
──長く日本でプレーしていますが、今も目標はフィジー代表ですか?
「日本での滞在期間もすごく長いですし、そのようなことも考慮したうえで、日本代表でプレーしたいという気持ちになっています。日本代表チームの成長具合も肌で感じていますので、そんな思いが日に日に強さを増しています」
──他のチームにもフィジー出身で、摂南大学を経て日本代表になった選手がいます。
「その代表格がジョネ・ナイカブラ(東芝ブレイブルーパス東京・日本代表WTB)です。私が大学1年生の時に聞いた話によると、彼は大学時代にすごく努力していたそうです。その努力が実って代表になったという話に感銘を受けて、今に至っています。ヴィリアメ・ツイドラキ(トヨタヴェルブリッツWTB。昨年日本代表招集)もハードワークして自分のポジションを確立したそうです。そんな逸話が自分のモチベーションにつながっています」
──ブレイブルーパスとはリーグ戦最後の第18節で対戦します。
「ジョネが所属しているブレイブルーパスと最終節で対戦できることは大きなモチベーションになっていますし、日本代表でプレーしている彼のレベルはどんなものかが体感できる試合になると思います」
──そのためにも試合に出て、ファンのみなさんにいいパフォーマンスを見せたいですね。
「はい。"ショー"と呼んで応援していただきたいです」

インタビューから2日後、NO.8アミニアシ・ショーはスピアーズとの一戦で後半24分から出場し、新たなステージでその第一歩を踏み出しだ。試合には敗れたものの、チーム一体となって猛追したラスト16分間を戦い終えたショーの顔には、自身の仕事をやり遂げたという満足感が漂っていた。
「今日はチャンスを与えてもらって本当に感謝しています。いい気分ですし、もう一度(試合に)出る準備ができているくらいです。今後ももっとチャンスをもらいたいですね。まだまだ課題はありますが、これからもチームのためにベストを尽くします。(相手のFWについて)大きくて強かったですが、個人的には互角にわたり合えたと感じています。(勝利という)結果は得られませんでしたが、フィジカルの面やセットプレーなどポジティブな要素もありました。今後も一貫性を持って取り組んでいく必要があります。(武器である)フィジカルもさらにレベルアップさせていきたいです」
たぎるような向上心を胸に引き続き腕を磨いていけば、彼が思い描いている未来はそう遠くないうちに現実となるだろう。
(取材・文/齋藤龍太郎)