さらにプレータイムを増やすために新たな環境へ

東芝ブレイブルーパス東京での連覇の経験、そしてチャンピオンチームで得た教訓は、必ずやイーグルスでも生きてくるだろう。
UBK※森勇登。リーグワン2シーズン連続で、決勝でトライを決めた高い決定力の持ち主だ。さらなる成長を目指しての移籍ということだが、自身のみならず周りの選手にも好影響をもたらす移籍となりそうだ。
※ スタンドオフ、ウイング、フルバックなど複数のバックスポジションを担うことができる選手。
インタビュー中の表情からは、たしかな自信と決意が感じられた。
■自分のベストポジションはどこなのか
──森選手の移籍を知って驚いたラグビーファンも多かったと思います。まずは移籍を決めた理由から聞かせてください。
「以前は社員選手だったのですが、昨シーズンからプロ選手になる決断をしました。ここ1,2年最近は出場機会をいただいていたのですが、複数のポジションができるからかリザーブに回ることもあったので、プロとしてさらにプレータイムを増やしたいと考えた結果、新しい環境でチャレンジすることにしました」
──移籍の発表に対する反響はどうでしたか?
「昨シーズンの優勝後のファン感謝祭で『これからもがんばって』といったたくさんのメッセージをいただきました。そのときは退団だけ先にアナウンスがあって、移籍先はまだ発表されていなかったのですが、みなさんからの温かいメッセージは本当にありがたかったです」
──ブレイブルーパスの連覇に大きく貢献した森選手ですが、最終的に出場機会が増えた要因はどのあたりにあったのでしょうか?
「初期はノンメンバーとして練習することが多く、SOやCTBなどいろいろなポジションをやっていました。その週の対戦チームをコピーしてAチーム(メンバー側)と相対する役目を担っていたのですが、そのシチュエーションでAチームをどう崩していくか、という取り組みがアピールにつながり、自分にとってもいい練習になりました。それによって、公式戦出場のチャンスをもらったときに余裕を持ってプレーできたのです。それが大きかったですね」
──連覇を果たした2023-24、2024-25シーズンの決勝ではいずれも大事な場面でトライを決めて、優勝を大きく手繰り寄せました。
「最終的にはWTBでトライを決めましたが、試合のなかでインサイドCTBに回ることもありました。自分のベストポジションがどこなのか、実はよくわかっていません。ただ、インサイドCTBに回ってボールタッチを増やし、スペースを見たうえでボールをそのスペースへ運びチャンスがあればフィニッシュまで持っていく、というのが自分の理想とするプレーなので、WTBよりもインサイドCTBの方がベターなのかなと思っています。実際にそれがいいアタックにつながったケースもあったので、そこに自分の強みがあると考えています」
──イーグルスではインサイドCTBで練習しているのでしょうか?

「そうですね。もちろんどのポジションであってもチャンスがあったら最後まで走り切りたい、という思いは変わらないので、イーグルスでもそのあたりを意識しています。どれだけ大きくゲインをしてもトライなど得点につなげられなければ意味がないので、もし(トライまで)行けそうなら自分で行きたいです。今もトライにこだわって練習しています」
──インサイドCTBには明治大学の先輩でもあるCTB梶村祐介選手がいます。
「カジさんとはこれから一緒に高め合っていきたいです。プレースタイルが少し違うと思うので、僕としてはランなどの自分の強みを出していきたいと考えています」
──これまでは対戦相手として見てきたイーグルスはどんなチームだと感じていましたか?

「日本人選手が多いチームで、キックやパスを使ってスペースにアタックするのがうまいチームだなと思っていました。昨シーズンの開幕戦(イーグルス21-28ブレイブルーパス)のように接戦になったこともあり、あととき最後まで攻められ続けて撮り切られていたらどうなったかわからない、そう感じさせるチームだと思います。最後はブレイブルーパスがディフェンスで止めて勝つことができましたが、まったく安心できませんでした」
■優勝できるチームでプレーできていたことが自信に
──福岡県福岡市のご出身で、かしいヤングラガーズがラグビーキャリアの第一歩だったそうですね。
「はい。父の勧めで小1から始めました。それからは気づかないうちにずっとラグビーを続けていた感じです。小5のときに(スクールが出場する)県大会があったのですが、一つ年上の小6のカテゴリーに僕だけ入れてもらい、その結果、優勝することができたんです。それを機に一段とラグビーにのめり込んでいきました」
──スクール、東福岡高校、明治大学、ブレイブルーパスと、これまでのすべてのカテゴリーで優勝していることになります。
「たまたま優勝できるチームに所属していて、環境に恵まれていた、ということだと思っていますが、そういうチームでプレーできていたことが自信につながり、今の自分があるのだと考えています」
──東福岡高校では春の選抜大会、夏の全国7人制、冬の花園でいずれも優勝する「高校三冠」を2度にわたり果たしました。この3年間、森選手はどのあたりが成長したと感じていますか?
「3年時ではないのですが、僕らが1年生のときはほとんど3年生の代が試合に出ていて三冠を達成しました。上のチームを誰も経験していない状態で次の年度が始まるとどうしても出来が悪く、かなり厳しく評価されていました。そこから選手主体で成長していったことが、3年時の三冠につながったのかなと思っています」
──明治では2年で全国大学選手権優勝に貢献しました。
「ヒガシ(東福岡高校)で学んだことを自分のなかでベースとして持っておきつつ、大学はスピードやコンタクトのレベルが高校とはかなり違うので、そのギャップを練習で感じながら自分を高めていきました」
──そのころまでに当時のトップリーグ、現リーグワンに行くと決意していたのでしょうか?
「そうですね。ただ、僕はトップカテゴリーの試合を見る方ではなかったので、どのチームのどの選手に憧れていた、というのがありませんでした。ですからトップリーグにどんなチームがあるかもは知らずに過ごしていたんです。ワールドカップはそれなりに見てはいたので、後にブレイブルーパスで一緒になるSOリッチー(・モウンガ。当時ニュージーランド代表)のプレーは参考にしていました」
──そのモウンガ選手とプレーした経験も含め、ブレイブルーパスで得たものは何だと考えていますか?
「誰もが練習を100%でやっていたこと、そして全体練習終了後の個人練習もリッチーをはじめみんながしっかり取り組んでいたので、意識が違うなと感じました。その経験は大きかったと思います」
■夏の個人練習は自分一人ではできなかった
──東福岡高校ではFL古川聖人選手がチームメイトでしたね。
「僕が1年時の3年生なので、1年間だけですが一緒でした。明治大学でもカジさんやWTB石田吉平などチームメイトだった選手が多いので、イーグルスにはすんなり溶け込むことができました。7月からの個人練習で他の選手たちと一緒にトレーニングしていたこともあって、全体練習の前からすでにコミュニケーションが取れていました」
──かなり暑い時期から個人練習に励んでいました。

「やってやる、という気持ちでした。もちろんトレーニングしないとコンディションが落ちてしまう、というのもありましたが、6月にシーズンが終わってからひと月くらいはほぼ完全にオフで、少し走ったら『コンディションが落ちているな』と感じたので、それを取り戻すために自分を追い込みました。みんなでフィットネスをやりましたが、たぶん自分一人ではできなかったと思います」
──ブレイブルーパスの選手とは今でも付き合いがあるのでしょうか?
「もちろんです。特に同期の選手とはよく集まっていて、仲がいいですね。みんなでいろいろな話をするのですが、やはり最終的にはラグビーの話になります」
──ブレイブルーパスで経験したことのなかでも、何をイーグルスに還元していきたいですか?
「僕はチームの『雰囲気』が大事だと考えています。雰囲気を変えられるような立場ではないのですが、なるべくいい雰囲気にしていきたいです。あとは海外の選手と日本人のギャップをなくしていきたいですね。そうすればよりいいチームになると思っています」
──ブレイブルーパスでは精神的支柱のFL/NO.8リーチマイケル選手がそのような役割を果たしていると聞きます。
「僕にそこまでの影響力があるとは思いませんが、まずは自分からどんどん海外の選手とコミュニケーションをとっていきたいです。もちろん海外の選手だけではなく、BKの選手と比べるとコミュニケーションがやや少ないFWの選手とも積極的に話していきたいですね」
──UBKはどうしてもリザーブに置かれがちですが、やはり今取り組んでいるインサイドCTBでは先発にこだわりたいですか?

「そうですね。もちろんどのポジションに入ったとしても、そのポジションの仕事はしっかりとやりたいと思っています。たとえばインサイドCTBで先発しながらも試合の流れによってはSOに入る、というケースもあるかもしれないので、その可能性は練習の段階から意識しておきたいです」
──最後に、今シーズンの目標をお願いします。
「もちろん一番の目標は優勝で、1試合1試合に集中して勝っていきたいです。ブレイブルーパスで連覇したときも先のことを考えず目の前の試合に集中していたので、とにかく目の前のことにフォーカスして100%の力を出すことを意識して、最後までやり抜きます」
百戦錬磨のUBK森勇登の高い能力をもってしても、ポジションを争うライバルには簡単には勝てないかもしれない。イーグルスの選手層が年々厚みを増しているからだ。
それでも彼が築き上げたスタンスとマインドセットを持って取り組み、最後までやり抜くことが大事だろう。それがいずれはライバル選手も含めた全員の成長につながるはずだ。
(取材・文/齋藤龍太郎)