本気でチャンピオンを目指すためにハードワークしている

高校日本代表時代にU19アイルランド代表を撃破した経験を持つHOが、横浜キヤノンイーグルスの門を叩いた。日野レッドドルフィンズ、東京サントリーサンゴリアスで研鑽してきたHO土一海人だ。
一切飾り気のない朴訥とした語り口で、移籍した今の思い、ラグビー遍歴、今シーズンにかける意気込みなどを余すことなく聞かせてくれた。
■練習帰りはヘトヘトでもそれこそが成長の証
── レッドドルフィンズで1シーズン、サンゴリアスで2シーズンを過ごし、イーグルスに移籍しました。まずはその理由からお願いします。
「自分が一番成長できる環境はどこなのかと考えた結果、イーグルスだという結論にたどり着いて移籍させていただきました。これはたまたまですが、南大沢の実家から一番近いチームで、もともとキヤノンスポーツパークの周辺のことはほとんど知っています」
── 実際に移籍した今、どう感じていますか?

「チームの雰囲気がとてもいいですね。練習もハードで、本気でチャンピオンを目指すためにハードワークしていることがはっきりとわかります。毎日少しずつ成長しているなと実感できています。7月末くらいから個人練習をして、9月から全体練習に入りましたが、本当に強度が高いです。帰りはヘトヘトですが、それも成長の証だと思っています。他の選手も懸命に取り組んでいるからこそ自分もそれができています。一人ではここまでハードワークできないと思います。」
── HOのレベルも高いと思います。

「本当にすごい選手ばかりですが、そのメンバーを(スクラムで)押せば(自身もチームも)選択肢が広がる、という気持ちでやっています。スクラムとラインアウトのスローイングの精度が自分の強みだと思っています」
── サンゴリアス時代にイーグルスと対戦したことはありますか?
「はい。練習試合ですが、スクラムでは体が硬いと感じるほど鍛えられていて、相当タフなチームだなと思いました。常に攻めてくるようなイメージを持っていました」
■高校日本代表としてU19アイルランド代表に勝利
── ポジションは初めからHOですか?
「ラグビーを始めたのが東海大相模中学校1年時で、最初はWTBをやっていたのですが足が遅いのがバレて(笑)、LOを経て、以後ずっとHOをやっています。その前は野球をやっていたのですが飽きてしまい、ラグビーをやっていた幼なじみと一緒に中学でラグビー部に入る約束をしました。彼は中学受験で落ちてしまいましたが、東海大相模高校から受験で入ってきて、ラグビー部で合流することになりました」
── 実際にラグビーを始めてみてどうでしたか?
「なんだか楽しくて、ハマりました。附属校なので中学生も高校生と一緒になってトータル100人くらいでラグビーしていたのですが、特に中学時代は高校生と練習していたからか、上達するのが早かったです」
── 複数のポジションを経験したということですが、そのなかでもHOに一番適性を感じたのでしょうか?
「そうですね。ボールを投げ入れて、スクラムを組んで、とにかく楽しかったです。スクラムはまだ押し合いがないのでただ頭を入れるだけでしたが」
── スローイングはビギナーには難しいイメージがあります。
「はい。ただ、自分はあまりラグビーを知らなかったので、言われるがままやっていました。それによってスキルを吸収できたのがよかったのかもしれません」
── レギュラーになれたのはいつごろですか?
「中2からです。人数が少なくて合同チームだった、という事情もあると思いますが、レギュラーにはなれました」
── そのまま高校でもラグビーを続けました。
「高校に上がるころには『このままずっとラグビーを続けよう』と決心していました。中3のときに神奈川県選抜に選ばれたのですが、そのAチーム(トップチーム)に入ることができず、Bチーム止まりだったのが悔しくて仕方なかったんです。ずっと一緒に行動していた友達がAチームで、彼の試合を見に行ったときは本当に悔しかったですね。その悔しさを胸に高校へ進みました」
── 高校3年間の手応えはいかがでしたか? その悔しさを晴らすことはできたのでしょうか?
「そうですね。高3でキャプテンをやっていたのですがヘルニアで花園予選までの半年ほどチームから抜けていました。その後悔は今もありますが、結果的には高校日本代表に選ばれてU19アイルランド代表に勝つことができたので(2試合を行い1勝1敗)、それはよかったと思います」
── アイルランドに勝った経験は貴重ですね。
「遠征1戦目がU19レンスター戦で(31-38で敗戦)、『これはいける』と感じました。相手は大きかったですが『同じ人間なんだから』と思えたんです。ジャパンがディフェンスで間合いを詰めて、相手に刺さりまくったことで相手が逃げ出したり不用意なパスをするようになって、最後は接戦になりました。それによって自信がついたことがU19アイルランド戦の勝利につながったのだと思います」
── その後のキャリアにも大きい勝利でしたか?
「そうですね。身長2mの大きい選手もいたので、日本の高校生が勝てたことはかなりうれしかったです」
── 自信を引っ提げて東海大学に進学します。
「ラグビーで就職したい、と意気込んで入ったのですが、入学当初はレベルの差に圧倒されてしまいました。スクラムひとつをとっても、高校生まではスクラムを押さないですからスキルも全然身についていらず、上級生とは大きな差がありました」
── また一から鍛え直して、スキルを叩き込んだわけですね。
「はい。朝練がない日でもフロントローだけ朝練をやっていました。当時のコーチが徹底的に鍛え上げてくれたので、今では本当に感謝しています」
── イーグルスには東海大学時代のチームメイトがいますね。
「何人かいますが、なかでも(SO武藤)ゆらぎとはロッカーも近く、飲みに行ったこともあって仲がいいですね」
■スクラム&ラインアウトで優位に立てばチームは楽にボールを運べる
── 大学卒業後はレッドドルフィンズに入ることになりました。
「ベテランのHO木津武士さん(元日本代表。現AZ-COM丸和MOMOTARO'S)にいろいろ教えていただきました。僕は社員選手だったので通常業務をやりながら過ごし、その後サンゴリアスから声をかけていただいて移籍することになりました」
── そのオファーについてはどう感じましたか?
「びっくりしました。青木佑輔アシスタントコーチ(元日本代表HO)がずっと見てくれていたそうで、HOとしてのスキルを評価していただいたようです。サンゴリアスではプロ選手になりましたが、直前まで会社員だったので変化が急激すぎて、すべてが驚きでした。入ってからは練習についていくのが精いっぱいで、あまりにもキツくて大変でした。何かを考える余裕もなく、ただ自分に任せられた役割をやるだけでした」
── サンゴリアスで影響を受けた選手はいますか?
「PR小林賢太です。同世代なのですが、彼は本当に日本代表だけを目指していて、まるでクラブハウスに住んでいるかのようにずっとトレーニングしているんです。『ここまでやっているヤツがいるんだ』と、刺激になりましたね」
── 練習で小林選手とスクラムを組んだ感触はいかがでしたか?
「普通です。彼はメンバー、僕はノンメンバーで、相手として組むことが多かったのですが、ノンメンバーは『絶対に押してやろう』を思いながら組んでいましたので。スクラムは負けていなかったです」
── 小林選手は8月30日のカナダ代表戦で念願の日本代表デビューを果たしました。
「本当にうれしかったです。思わず連絡しました」
── 残念ながら土一選手はサンゴリアスでは公式戦に出ることができませんでした。
「(スタンドから)試合を見ていましたが、どのチームも強いなと感じていました。どちらが勝つかわからない試合が多かったですね」
── 新天地での公式戦出場と活躍をサポーターのみなさんも願っているはずです。

「スクラムとラインアウトのスローイングには自信があります。そこで優位に立てばチームが楽にボールを運べるようになるので、勝敗に大きく関わるところだと思っています。ぜひ注目していただきたいです」
スクラムとラインアウトに対するこだわりの強さに、HOとしての矜持を感じた。おとなしい印象ながら言葉の端々にはたしかな熱意があり、それが今シーズンにかける思いであると容易に想像することができた。
土一海人。その名前が公式戦のメンバー表に記される日が来ることを願っている。
(取材・文/齋藤龍太郎)