「全員が全力で全部出し切る、というマインドで戦った」
リーグ戦は10勝4敗2分けで初の4強入りを果たし、プレーオフトーナメント準決勝では敗れたものの3位決定戦で見事に勝利を収めた横浜キヤノンイーグルス。6位で惜しくもプレーオフ進出を逃した昨シーズンから大きな躍進を遂げた1年となった。

就任3シーズン目にしてチームを勝てる集団に変え、イーグルス史上最高の3位という結果を残した沢木敬介監督は、今回の結果をどのように評価しているのか。今シーズンの手応え、3位に至る道のり、そしてイーグルスの今後などについて、サポーター感謝祭開催の直前に話をうかがった。
(取材日:2023年5月21日)
大変お疲れ様でした。まずは3位でシーズンを終えた今の率直な心境からお願いします。
「昨日(5月20日)の決勝でクボタスピアーズ船橋・東京ベイの初優勝を見ました。やはりイーグルスと上位とのチーム力の差はそれほどなく、リーグワン全体を見ても差はどんどん縮まってきているのではないかと感じました。自分たちにも十分(決勝進出や優勝の)可能性がある、と考えながら来シーズンもやっていく必要があると考えています」
──リーグ戦は4位という過去最高の結果を収めました。2022シーズンの6位から大きくステップアップした飛躍のシーズンになったのではないでしょうか。
「正直なところ、5位から上のチームの実力はそこまで変わらないと思っています。今後は例えばトヨタヴェルブリッツ(リーグ戦6位)やコベルコ神戸スティーラーズ(同9位)も強化してくると思うので、なおさらです。ただ、わずかな差の中でも3位に入れたことはいい経験になったと思いますし、『むしろこれからが大事』という認識を全員で共有しなければなりません」
──リーグ戦ではトライ数1位タイ(84トライ)、得点2位(588得点)とスコアを重ねるアタッキングラグビーで4位の座をつかみました。チームの成長を感じたのではないでしょうか?

「僕はチームのラグビースタイルが大事だと考えています。強いチームには必ずスタイルがあるものです。イーグルスのスタイルもできつつあるのではないでしょうか。ただ、目指すラグビーには実現度という概念はなく、青天井でてっぺんがないものです。ですから引き続きチームとして努力しなければならないと思っています」
──得点面以外でもペナルティが3番目に少なく、規律の面でも結果を残しました。その点でも成長したシーズンだったのではないでしょうか?
「日頃の心がけの成果です。グラウンド内はもちろんですが、グラウンド外での取り組みも必ずグラウンド内で出るものです。そういうところも徐々によくなってきていると感じています」
──初めて勝ち進んだプレーオフ、準決勝では埼玉パナソニックワイルドナイツに敗れましたが(●20-51)、3位決定戦は東京サントリーサンゴリアスと対戦し公式戦では初めて勝利を収め、3位という結果を掴み取りました。今季はリーグ戦で2戦2敗でしたが、3度目の対戦こそ勝利を、といったモチベーションはチームにあったのでしょうか?
「というよりも、これまで公式戦で勝ったことがなかったサンゴリアスに対して、選手はおそらく苦手意識を持っていたのではないでしょうか。僕自身は特に苦手意識はなかったですが、負けた2試合も自分たちから崩れてしまったものでした。最後はしっかり我慢強く戦えたと思います」
──具体的にはどのあたりが勝因になったでしょうか。
「やはり全員が全力で全部出し切る、というマインドで戦い、試合が終わった後はみんな疲れ切った表情を見せていました。ラグビーではそれがすごく大事だと思うんです。いい勝利だったと思います」

──振り返ればリーグ戦でも厳しい試合はたくさんありました。選手にお話をうかがうとドローに終わった静岡ブルーレヴズ戦が一つのポイントになったという声が多かったのですが、沢木監督はあの試合をどのようにとらえていますか?
「選手はそう思っているかもしれませんが、僕からしたら絶対に勝たなければいけない試合でした。(第2節の)スピアーズ戦(▲27-27)も勝てる試合でしたし、(第6節の)ワイルドナイツ戦(●19-21)もそうでした。勝ちを落としている試合が本当に多かったので、その経験を次につなげられればいいと思います」
──リーグ戦終了時点で「トップ4」というシーズンの目標をまずはクリアしましたが、その後、トップ4に入っただけでは満足しないマインドはどのように生まれていったのでしょうか?
「それはやはり、一人ひとりが『成長したい』と思うことです。そう思わなければチームは成り立ちませんし、現状に満足してしまったら衰退しかありません。個人でも組織でもさらなる成長を遂げていかなければなりません」
──数字、スタッツに表れないマインドセットの面の成長が大きかったわけですね。
「もちろんです。成長するためにはラグビーに対する取り組み、自分に対する投資が必要です。そういうことに取り組む選手が増えてきました」

──各ポジションの競争が激しくなったこと、またシーズンエンドのケガをした選手をカバーできる選手が次々と出てきたことにもそれが表れていると思います。
「選手層に関してはもちろん厚くなってはきましたが、例えばワイルドナイツ、スピアーズ、サンゴリアスに比べるとまだまだだと感じています。やはりその点も引き続きよくしていかなければならないと考えています」
──そんな中キャプテンとして15試合に出場し、チームをまとめ上げたCTB梶村祐介選手についてはどう評価されていますか?
「最後の試合(3位決定戦)が今シーズンで一番パフォーマンスがよかったと思います。リーダーを務めることによっていろいろな経験ができると思いますので、選手としてさらによくなるのではないでしょうか。初のキャプテンでしたが最初からうまくチームをリードできる選手はなかなかいませんし、今後も成長あるのみです」
──その梶村選手が活躍した3位決定戦に話を戻しますが、後半17分のNo.8シオネ・ハラシリ選手のトライの場面、FLコーバス・ファンダイク選手を起点に仕掛ける直前にスタンドがにわかに沸きました。第6節のワイルドナイツ戦、後半7分のトライに至るサインプレーの始まりと似たシチュエーションだったこともあり「イーグルス、仕掛けてくるぞ」とファンが感じた瞬間でした。
「何かやってくれる、と思わせるチームの存在は必要だと僕は考えていますので、いいことだと思います。楽しいラグビーをするチームだな、という値打ちが出てくるのではないでしょうか。(第6節の)ワイルドナイツ戦のサインプレーも含め、楽しんでいただけたならよかったです。今はどのチームも似た部分がある中で、やはり新しいことへの挑戦はわくわくしますし、選手もファンのみなさんもわくわくすることが次のモチベーションにつながると思っています。とにかく楽しまないと、という思いが根底にはあります」
──今シーズンは「ライザーズ」の貢献が光った1年でもありました。HO三好優作選手、LO久保克斗選手、CTB田畑凌選手、CTBルテル・ラウララ選手がここ一番での活躍が光りましたが、彼らを含むライザーズをどう評価されていますか?

「もちろんパフォーマンスがよければ先発に起用しているのですが、それでもケガやアクシデントで出られなくなったメンバーの代わりに入ってくる選手が活躍するのは、彼らが日頃から正しく取り組んでいるからです。その取り組みを見ている選手たちが心から喜べる、それはすごく大事なことだと思います。イーグルスにはそういう文化ができてきているのではないでしょうか。普通であれば試合に出られなければ喜べない選手もいるはずなのですが、何かしらの形で『自分はチームの力になれている』と思えているからこそ、ライザーズも喜んでいたのだと思います。会社も一緒だと思います。社員が会社の力になれていると思うこと、それを評価されることはモチベーションにつながりますすし、仕事にも一層力が入ります。どんな組織にも言えることです」
──その一方で、ベテランのHO庭井祐輔選手、FL嶋田直人選手といった生え抜きのベテラン選手の活躍も光りました。

「今までなぜ勝てなかったのか、彼らもその理由がわかったのではないでしょうか。勝てないことには必ず理由があります。それに気付けたことは彼らの今後につながってくると思います」
──新たに加入したSHファフ・デクラーク選手の活躍も光りました

「やはり3位決定戦のデクラークこそが本当のファフ・デクラークでした。彼の持ち味があのトライ(後半6分の自らのランとキックで取り切ったトライ)に表れていました。あれくらいのパフォーマンスをどんな試合でも出してくれればよかったです(笑)。ただ、いい選手はあのようなプレッシャーゲームでいいパフォーマンスを見せてくれるものです。試合中に闘争心をむき出しにする姿勢も含めて、今シーズン、大きなプラスになったと思います」
──ファンの応援もチームの躍進を後押ししました。

「選手とチームの力になりました。すごくやっぱりありがたい存在だと思います。今後も選手の活躍を、できればEOSで撮影してほしいですね」
──今後、イーグルスが決勝、優勝を目指すためにはどのようなことが必要になってくるでしょうか?
「常にチャレンジャーであり続けることです。毎シーズン、危機感を持って臨まなければなりません。そして現場や運営を含めたチーム全体がよりプロフェッショナルな組織になっていく必要があると考えています」

3位という結果を高く評価しつつも、それに満足することなくさらなる可能性を見据える沢木敬介監督の思いは、すでに選手たちにも伝わっているはずだ。イーグルスがそう遠くない未来に決勝の舞台へ進むこと、そしてトロフィーを高々と掲げることを期待しながら、来シーズンの開幕を待ちたい。
(インタビュー:齋藤 龍太郎)