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2023.06.07
INTERVIEW

梶村祐介キャプテン インタビュー

「チームがやりたいことを体現できた」

横浜キヤノンイーグルスはリーグワン2022-23シーズン、プレーオフ3位決定戦で強豪・東京サントリーサンゴリアスを相手に26-20で勝利し、チーム史上最高位となる3位でシーズンを終えた。リーグ戦で史上初の4位に入り、さらに順位を一つ上げた大躍進のシーズンを支えたCTB梶村祐介キャプテンは、その大きな功労者と言えよう。

沢木敬介監督は移籍2シーズン目の梶村を新キャプテンに指名した。それまでスキッパーの経験がなかった梶村はいかにしてチームをまとめ上げ、最高の結果を手にしたのか。戦いを終えて落ち着いた梶村キャプテンに快進撃を振り返ってもらった。
(取材日:2023年5月30日)


──あらためまして3位で締めくくったシーズン、大変お疲れ様でした。

「ありがとうございます」

──オフに入りましたが、少し落ち着いた日々を過ごしていますか。

「ラグビーから離れてリフレッシュしようとしていますが、気持ちの面ではまだ抜けきっていません。ただ、サポーター感謝祭(5月21日)以降はまだ一度もCSP(キヤノンスポーツパーク)には行っていないですし、このままトレーニングから一旦離れようと考えていますので、メンタル面も含めてこれから少しずつリフレッシュしていきたいです」

──メンタル面の休息はもちろん体を休める必要もあると思いますが、今シーズンの体の疲労度は例年に比べてどうでしたか?

「試合でいうと、3月の静岡ブルーレヴズ戦(第10節)や三菱重工相模原ダイナボアーズ戦(第11節)の頃はかなり疲労が蓄積していました。リーグ終盤戦(第14節のNECグリーンロケッツ東葛戦と第15節の東京サントリーサンゴリアス戦)は疲労から筋肉のケガをしたことでチームから離脱しましたが、それによって疲れが癒えてきて、3位決定戦はかなりリフレッシュした状態でプレーできたと感じています」

──それまでほぼフル出場に近い働きぶりでした。強度の高いシーズンでしたか?

「リザーブからの出場もありましたし、昨シーズンに比べたら連戦による疲労度は少なかったと思います。シーズンを通して、ある程度フレッシュな状態で戦えたと実感しています」

──それではあらためて3位決定戦を振り返っていただきます。試合後の記者会見で「他のチームとは少し違ったモチベーションがあった」とコメントされていましたが、やはり古巣に対していい意味で気持ちが入ったのでしょうか?

「はい。サンゴリアスさんという勝ち慣れているチームとノックアウトステージで戦えることは幸せですし、勝ちたい気持ちが強かったです。また、個人的には準決勝(埼玉パナソニックワイルドナイツ戦)に出場できなかったので、その悔しさが自分の3位決定戦のパフォーマンスにつながったと思っています」

──3位決定戦の前日練習で、ライザーズ(ノンメンバー)の選手たちが練習後に泣いていた、というエピソードが話題になりました。

「メンバーは基本的に平日の昼過ぎに最後の確認を行うのですが、ライザーズはその前の午前中に練習を行っていて、その練習後に涙を流していたそうです。僕たちメンバーはそれを直接見てはいないのですが、後からそういう話を聞きました。チームのために涙を流すことはなかなかできないことです。チームとしての成熟度が増し、チームに対する愛情がより芽生えてきたと感じた瞬間でした」

──ライザーズの存在がチームの一体感につながったわけですね。

「チームへの愛情以上に、練習の強度が上がったと感じました。練習ではライザーズの選手たちがかなりプレッシャーをかけてきますし、ライザーズの方がいい状態だった週もありました。僕たちメンバーが劣勢に回ることもあったので、かなりプレッシャーを感じていました。その循環がチームとしてのレベルアップにつながったと考えています。試合に出られない中でもチームに対して貢献しようとしてくれる姿勢をライザーズは見せてくれましたし、それを感じた僕らメンバーもしっかり戦わなければいけないと感じました」

──そして迎えた3位決定戦、前半は相手にリードされる展開になりました。

「正直、ディフェンスで崩されたという感覚はなかったです。特に最初の相手のトライ(前半4分)は自分たちのシステムミスによるもので、崩されたというイメージはありませんでした。ですから、ハーフタイムは『自分たちのシステムをしっかりやり切ろう。我慢強くボールを持ち続けよう』という話をみんなにしました」

──そして後半に入って早々の6分、SHファフ・デクラーク選手がさすがの個人技でトライを獲りました。あのプレーはデクラーク選手個人の判断だったのでしょうか?

「そうですね。彼の中でアグレッシブに攻めようとした結果がトライにつながったと思うので、あの判断は助かりました」

──その後もトライを重ねていきましたが、どのあたりで「勝てそうだ」という感触を掴みましたか?

「やはり(後半26分の)最後のトライですね。(SO田村)優さんのグラバーキックで相手を崩して(WTB松井)千士さんがトライしたプレーは今シーズンの自分たちの形を象徴するような、自分たちがやりたいラグビーをよく表しているトライでした。決まった瞬間に『いける!』と思いました」

──梶村選手と同じくサンゴリアス出身のWTB松井選手がプレイヤー・オブ・ザ・マッチに輝きました。

「千士さんが2トライを決めましたが、2トライ目はその前にFWがモールをドライブして我慢強くボールを前に運んでくれたおかげで最終的に千士さんにボールが渡ったと思っていますので、もちろん千士さんの勝負強さはさすがだなと思う一方で、やはりFWの頑張りが目立った試合だったと思います」

──後半17分のNo.8シオネ・ハラシリ選手のトライもモールからでしたが、その起点となったシチュエーションが第6節の埼玉パナソニックワイルドナイツ戦、後半34分のサインプレーからのトライの起点と似ていたことから、観客から歓声があがりました。

「はい、少し聞こえました。あの立ち方(陣形)にすることで相手に「トリックプレーをしてくるんじゃないか」と考えさせて、相手ディフェンスのバランスを分散させ、モールを組みやすくするという意図がありました。ワイルドナイツ戦のトリックプレーが伏線になって決めることができたトライだと思います」

──試合後はメンバーの選手たちだけでなく、ライザーズの選手たちもピッチで笑顔や涙を見せていました。彼らの喜んでいる姿を見て、やはりうれしかったですか?

「そうですね。かなりハードな試合を80分間戦い抜いたので気が抜けるような感覚でしたが、ライザーズの選手たちが泣いている姿を見て、チームがやりたいことを体現できた試合だったんだなと再認識することができました。そこで本当の意味で勝利をかみしめることができたと思います」

──梶村選手が移籍されてから2シーズン戦った中ではベストゲームでしたか?

「うーん......。正直なところ、内容についてはベストではなかったです。ただ、リーグ戦とは違うあの試合でしっかり勝ち切ることができたこの経験はすごく大きいと思っていますし、そういう意味ではイーグルスにとってのベストゲームだったと言えるかもしれません」

──ちなみにその翌日の決勝はご覧になりましたか?

「録画で見ました。あのようなプレッシャーがかかる試合で両チームともらしくないミスが続いていたのを見て、やはり決勝って難しいんだなと思いましたし、あのステージまで行かないと経験できないことが多いんだなと感じた試合でした。イーグルスとしてもできるだけ早く決勝に行ってそういう経験をしたいと思っています。そのためにも、今後もしっかりトップ4にコンスタントに入ることを目指していきたいと思います」

──今季はキャプテン1年目、それも人生初のキャプテンというシーズンでした。梶村選手にとって新たな挑戦でしたが、いかがでしたか?

「まず、楽しかったです。もちろんプレッシャーはありましたがいい経験をさせてもらいました。ただ、よくない試合が続いた時や引き分けに終わったブルーレヴズ戦の時などはチームとして少し迷いが出てきたり、不安にかられる選手もいました。そういった時にチームを一つにまとめるのはすごく難しかったのですが、どのシチュエーションでどういう言葉をかけるべきか、などといったことを学んだシーズンでもありました。しかも3位で終えたシーズンでキャプテンをやらせていただいて、本当に光栄でした。チャンスがあればもう一度やりたいと思っています」

──キャプテン経験者が多いチームということもあり、他の選手からのサポートも多かったのでしょうか?

「そうですね。昨季までキャプテンだった(SO田村)優さんのサポートは大きかったです。また、試合の中では(FL嶋田)直人さんに助けていただくことが多かったですね。直人さんと話をしながらチームをいい方向に持っていけるようになりましたので、今季は特に直人さんに助けていただいたと感じています」

──多くのチームメイトの支えがある中で、退団を発表されたHO朴成浩選手は明治大学で同期でした。梶村選手にとってどんな存在でしたか?

「成浩とは大学4年間、チームも学部も同じでした。一緒に過ごす時間が多かったので、こうしてリーグワンの舞台で一緒に戦えたのは本当にうれしかったです。彼はイーグルスへ、僕はサンゴリアスへ進んで、まさか再び一緒にプレーできるとは思っていなかったので、すごくいい経験をさせてもらいました。今後も彼の進む道を応援したいと思います」

──そのように各選手が支え合って戦った今シーズンは、昨シーズンと比べ大きな浮き沈みがないように見えました。

「今季は自分の中で悩むことがあまりないシーズンでした。ただ、チームが失速しそうだな、とか何かを感じ取った時は、自分がミーティングで発言するなど常に先手を打っていました。例えばその前の週の試合で勝ったから何も言わない、ということはせず、自分たちがやろうとしているラグビーをしっかり遂行できたか、というところに常にフォーカスして、それができなかった試合の次の週は勝っても負けても必ず発言して自分のメッセージを伝える、といったことを心掛けてきました」

──さらに上を目指すイーグルスが決勝の舞台に立つために、そして優勝を掴み取るために必要なのはどんなことでしょうか?

「沢木監督もおっしゃっていましたが、あらゆるスキルにおいて全員がレベルアップしないといけない、ということです。そこは自分自身も感じていました。今のラグビーは23人で戦うものなので、その23人がどれだけレベルの高いプレイヤーでいられるか、というところは非常に大事です。リーグ戦が16試合、プレーオフが2試合ある中で、選手はある程度ローテーションしていかないといけないので、よりチームの層を厚くしていかないと、また選手個人のレベルアップを図っていかないと、ファイナル(決勝)進出は実現できないと思っています」

──最後に、イーグルスを一言で言い表すとしたら、どんなチームだと言えるでしょうか。

「そうですね......。(しばらく考えてから)変化を求めているチームではないでしょうか。現状に満足している選手はひとりもいないですし、毎年自信を深めながらどんどん変わっていきたいという意識を選手もスタッフも全員が持っています。常にいい方向に変わっていきたいと考えている、そんなチームだと思っています」


3位に輝いた瞬間、全員が喜びを爆発させたイーグルス。ただ、梶村は、そして他の選手たちもすでに視線はその上を見据えている。さらなる高みを目指すために常に変化を求めているイーグルスは、来シーズンどんなチームへと変わるのか。進化は始まったばかりだ。

(インタビュー:齋藤 龍太郎)

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