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2023.11.29
INTERVIEW

SH ファフ・デクラーク選手インタビュー

SH ファフ・デクラーク選手インタビュー

「私はいつでも大丈夫。準備はできている」

圧巻だった。ラグビーワールドカップ2023フランス大会決勝で、南アフリカ代表はライバルのニュージーランド代表を12-11で撃破し、前回の日本大会に続き2連覇を達成、最多の4度目の優勝を成し遂げた。選手はもちろん見ているファンまで一瞬も気を緩めることのできない、まさに歴史的な決勝となった。

その中心にいたのは、横浜キヤノンイーグルスでも昨シーズンから9番を背負ってきたSHファフ・デクラーク選手だ。決勝の大舞台で先発して決着の瞬間までタフに戦い抜き、勝利を決めると人目をはばからず涙を流した。

連覇に大いに貢献したデクラーク選手が今回のワールドカップで得たものとは。イーグルスで昨シーズン得たものがどのように今回の優勝に活き、そして優勝の経験を今シーズンのイーグルスにどのように活かしていきたいと考えているのか。

再び世界の頂点に立った9番は、トレードマークの笑顔を見せながら今シーズンの展望を語った。


■本当にタフな経験。全部出し切って戦い抜いた

──来日直後のお疲れのところありがとうございます。ラグビーワールドカップ連覇、おめでとうございました。

「ありがとうございます。とても感謝しています。ただ、私は疲れてはいません(笑)」

──優勝の瞬間はどんなことを感じていましたか?

「すごく不思議な感情で、とてもエモーショナルになっていました。自身1回目(ラグビーワールドカップ2019日本大会)の優勝時は本当にうれしくて喜びが先にあったのですが、今回はどう表現するのが適切なのかわからない不思議な感覚に包まれていました。もしかしたら初めて勝利した時、初キャップを取った時に近い感情だったかもしれません」

──デクラーク選手は今回の優勝後、笑顔になる前に涙を流していましたね。

「はい。感情を抑えることができませんでした。非常にタフな試合を続けていて緊張状態が続いていました。少しほっとしたことでそのような感情になったのだと思います」

──沢木敬介監督は「ワールドカップの決勝まで戦い抜くのは魂を抜かれるようなもの」と言っていました。

「その通りです。厳しい練習、厳しい試合をずっと積み重ねてきて、すべての厳しい瞬間を乗り越えて勝利にたどり着いたので、本当にタフな経験でした。今は心身の疲れからは回復しているので大丈夫ですが、全部出し切って戦い抜いたのは確かです」

──南アフリカに帰国した後の国民からの祝福はいかがでしたか?

「もちろん2019年大会後の帰国時も歓迎ぶりがすごかったのですが、今回はその時以上に国民のみなさんが喜んでくださいました。みんな感情が爆発していて、泣いている人もたくさんいました。本当に喜んでくれているのだなと感じましたね。厳しい戦いを繰り広げた末に優勝を勝ち取ったというプロセスも少し関係しているのかもしれません」

──決勝トーナメントの3試合はすべて1点差での勝利で、まさに厳しい戦いでした。南アフリカ代表が接戦を制することができたのはなぜでしょうか?

「難しい質問ですが、いくつか理由を挙げるとすれば、経験値のある成熟したチームだったことが理由の一つだと思います。それまで多くの選手が接戦で勝ったり、あるいは負けたりといったタフな状況を経験してきたことが勝因と言えるでしょう。あとはチームメイト間の距離感が非常に近かったことも理由として挙げられます。しんどい時は助け合い、いいことがあれば喜び合う。そのように、みんなの距離感の近いチームだったことも大きな理由です。そしてもう一つ挙げるとすれば、やはり信じることですね。どんな展開であっても最後まで自分たちを信じ切っていたことが勝因になったと言えると思います」

──開催国フランスとの準々決勝はデクラーク選手が相手選手の持つボールに絡んでノックオンを誘い、試合を決めました。

「結果として相手のボールがこぼれて試合が終わりました。自分が試合を決めてやろうと狙ったプレーではありませんが、試合を終わらせる局面に自分がいるように、と常に意識してきたことが幸いそのプレーにつながったのかもしれません」

──沢木監督は「ファフはビッグゲームに強い」と言っていました。

「うれしいですね。私自身は特にそういう自覚はないのですが、大きな戦いになればなるほど、タフなバトルになればなるほど燃える性格ではあります。強い相手と戦うことで自分のベストが引き出されると経験上はっきりと言えますし、大きな舞台でこそ自分の気持ちの高まりややり甲斐を感じます」

■チームメイトを信じ切ることが大事

──いよいよイーグルスでの2シーズン目が始まります。今回のワールドカップで何を得たか、それをどうイーグルスに生かしていきたいか、今の考えを聞かせてください。

「やはりウィニングカルチャー(勝つための文化)に基づくマインドセット(心構え)が一番大事だと思います。そして自分のチームメイトを信じること、信じ切ることも非常に大切です。信じることで一人ひとりの距離がより縮まり、互いの信頼関係が深まります。

 そしてもちろん、ゲームプランを全員がしっかり理解することも大事です。沢木監督が決めたプラン、もしくはゲームリーダーが考えたアイデアを全員が納得し、信じて遂行する必要があります」

──イーグルスの新たなチームスローガンは「MASTER OUR BELIEF」です。今のデクラーク選手の「信じる」という話と合致するかと思います。

「そうですね。来日してから聞きましたが、考え方としては一致しています。ただ、言うことはできてもそれを実行するのは難しいものです。大事なことであるのは間違いないのですが簡単なことではないと考えていますし、でも達成しなければならないことだと理解しています」

──昨シーズンのリーグワンで得た、今回の南アフリカの優勝につながった要素があればお教えください。

「もちろん大きなものを得たと思っています。イーグルスでのそれまでとは全く違う考え方、異なるアイデアからは新たなことをたくさん学びましたし、フィットネスレベルも上がりました。毎節様々な相手と試合をすることで、異なるゲームスタイルや展開に順応することで得た学びもたくさんありました。そしてそれまでとは違った環境や文化の中でプレーすること自体、私自身にとって大きなプラスになったと思っています」

──今シーズン、イーグルスは初めての決勝の舞台、そして初優勝を目指すことになりますが、それに向けた意気込みをお願いします。

「昨シーズンは3位になり、また上位のチームと接戦だったこともあって、イーグルスへの期待値が非常に高まっていることはよく理解しています。ただ、そこからさらに上に行くためには過去の敗戦、失敗、ミスなどからしっかりと学ぶ必要があります。

 イーグルスはそこから学び、立て直していく選手やコーチ陣が揃っているチームです。ですからやるべきことを遂行して、チームとしていい経験を積み重ねていく必要があると考えています。

 また、ディフェンスが非常によくなってきています。テストマッチでは特にですが、やはり厳しい試合に勝つためにはディフェンスの強化は必須です。イーグルスも課題の一つとして取り組んでおり、とてもよくなっていると感じています。私もチームに帰って一緒に戦えることを心から楽しみにしています」

──今シーズンは南アフリカ代表のチームメイトだけでなく、ワールドカップの決勝で対戦したニュージーランド代表の選手とのマッチアップが多くなります。彼らとの対戦は楽しみですか?

「はい。もちろん南アフリカ代表の選手と対戦する時はいつもどこか不思議な気持ちにはなりますが、彼らがどういう選手でどういう特徴を持っているのかはよくわかっています。ニュージーランド代表の選手たちもみんな高い能力を持っていますのでもちろんマークする必要はあります。

 ですが、今やリーグワン自体が非常に競争力のあるリーグなので、そのようなことにとらわれることなく、どの相手に対しても自分のベストを尽くさないといけないと思っています。加えて、私はすでにリーグワンの経験があるので、それもしっかり生かして戦いたいと考えています」

──チームに合流したばかりですが、開幕から出場できそうですか?

「チームの中で1週間練習すれば大丈夫だと考えています。今日合流してみんなの顔を実際に見て、いろいろな話をすることができました。私はいつでも大丈夫です。準備はできています」


フランスでの激闘を終えてから約1か月。しかし冒頭の言葉のとおり疲れた様子は一切なく、開幕を待ち切れないわくわくした表情で終始語ってくれたデクラーク選手。2シーズン目に向けた準備は万全のようだ。

イーグルスでの経験をワールドカップに活かし、ワールドカップでの経験をイーグルスに還元する。世界王者が勝利のエッセンスを注入し、イーグルスは新たなステージへと向かうことになる。

(インタビュー:齋藤 龍太郎)

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