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2023.11.29
INTERVIEW

CTB ジェシー・クリエル選手インタビュー

CTB ジェシー・クリエル選手インタビュー

「代表の歴史もイーグルスの歴史も作りたい」

ラグビーワールドカップ連覇、そして最多4度目の優勝という偉業を成し遂げた南アフリカ代表で、一際存在感を放つ13番として活躍したCTBジェシー・クリエル選手が横浜キヤノンイーグルスに帰ってきた。

2015年大会で初出場し3位になると、2019年大会は優勝。だが、クリエル選手はケガにより途中離脱し、本当の意味での喜びを味わえないまま日本大会から去ることとなった。そしてイーグルスでの活躍と経験を経て、2023年、フランスの地で再びワールドカップの舞台に上がった。

やはり今回の優勝の味は格別だったのだろうか。あらためて世界の頂点になった実感とともに、イーグルスで得てワールドカップの舞台で活きたこと、ワールドカップで得てイーグルスに活かそうとしていることなど、今のクリエル選手の考えを聞いた。


■勝利というものに対して全員が最後まで信じ切れた

──ラグビーワールドカップの優勝、おめでとうございます。優勝の瞬間はどんなことを感じていましたか?

「ありがとうございます。2019年のワールドカップ以降の、リーグワンでのプレーも含む4年間のハードワークが実って、本当にハッピーでした。そしてほっとしたという思いもあります」

──極めてタフな試合を戦い抜いた今、コンディションはいかがでしょうか?

「テストマッチは非常にインテンシティ(強度)が高く、特に緊張感のある決勝トーナメントは厳しい戦いが続きました。ただ、こうして国を背負って戦うことはもちろんしんどい面もありますが、それ以上に意味があり、得られるものがあります。それが自分のモチベーションになっていました」

──ジェシーさんは「22mラインの後ろには南アフリカの国民がいる」という趣旨の発言をされたそうですが、それはまさに国を背負うことを表した言葉ですね。

「はい。南アフリカにはいろいろな国民がいて、代表の試合を見るために一生懸命働き、お金を貯めて試合を見に来てくれている人がたくさんいます。そういう人たちが応援してくれていますので、彼らのためにプレーしているという意味合いを込めてそのような発言をしました。彼らと一緒に戦うことが自分にとって大きなモチベーションになっています」

──そんな南アフリカ国民のみなさんからの帰国後の祝福は大変なものだったと聞きました。

「今まで経験したことがないほどの祝福でした。どこに行ってもみなさんが素晴らしい歓迎をしてくれて、心から喜んでくれていました。我々もサポートしてくれた国民のみなさんに感謝を伝えたかったですし、逆に彼らも感謝を伝えてくれました。

 南アフリカにおいてラグビーはスポーツの域を越えた一種のカルチャーであり、もはや国の一部でもあります。そういう意味でも本当に国民のみなさんに支えられてやってきたんだなと感じましたし、その場で感謝を伝えるいい機会だったと考えています」

──クリエル選手は2019年のワールドカップ日本大会にも出場し優勝に貢献しましたが、残念ながら負傷により途中離脱しました。今大会は決勝まで大活躍されましたが、同じ優勝でも感じ方に違いはありましたか?

「もちろん違いました。2019年大会はニュージーランド戦でのケガで非常に残念な思いをしました。離脱後もチームをサポートし続けましたが、今回は最後までフィールドで戦うことができ、決勝でニュージーランドと対戦して勝つことができたので、非常にうれしく思っています。

 もちろん今までの南アフリカ代表の歴史を作ってきた人たちもあってのことですが、今回は自分が歴史を作る側に回れたことを光栄に思っています。今後もその歴史も作っていきたいですし、もちろんイーグルスの歴史を作ることにも貢献していきたいです」

──決勝トーナメントの3試合はすべて1点差での勝利でした。南アフリカ代表が接戦を制することができたのはなぜでしょうか?

「メンタル面の充実が非常に大きかったと思います。そして準備をしっかりやって臨んだことも勝因です。また、ここまで話してきたようなこと、つまり南アフリカ代表としてプレーする意味を再認識することも含めて、すべての準備をしっかりやって臨んだ結果が勝利につながったと考えています。

 そして何より、信じることです。勝利というものに対して全員が最後まで信じ切れたことが勝利をもたらしたと感じています」

──沢木敬介監督は「ワールドカップの決勝まで戦い抜くのは魂を抜かれるようなもの」と言っていました。まさにそのような戦いでしたか?

「その通りだと思います。全員がいろいろなものを犠牲にして自身のフィジカル、メンタルをすべて捧げてやってきた結果だと思います。特に決勝は素晴らしいチャレンジだったので、最高の舞台で戦えたという喜びを感じていました」

──素晴らしいプレーがたくさんあった中で、白眉だったのが準々決勝のフランス戦でクリエル選手が見せた絶妙なグラバーキックでした。WTBチェスリン・コルビ選手(東京サントリーサンゴリアス)のトライを見事にアシストしましたが、あのプレーはイメージ通りでしたか?

「そうですね。実は昨シーズンの埼玉パナソニックワイルドナイツ戦の試合前にグラバーキックの練習をしていたのですが、その時に沢木さんが「キックにカーブをかけるにはこういうふうに蹴るといいんだよ」とアドバイスしてくれたのです。それからいろいろ試行錯誤しながら練習し、そのような積み重ねによってビッグゲームでトライにつながるキックを蹴ることができました。大きな喜びを感じた瞬間でした」

──CTB梶村祐介キャプテンもずっとワールドカップを見ていて、クリエル選手が今大会で最も優れたアウトサイドCTBだったと言っていました。

「自分にとって特別な選手にそう言ってもらえるのは本当にうれしいですね。彼も私から見て間違いなく日本でトップのインサイドCTBのひとりだと思いますし、そういう選手と一緒にプレーできたことが自分にとって大きな財産になっています。また一緒にプレーできるのが楽しみですし、チームとしていい結果を残して一緒に喜びを味わいたいです」

■一人ひとりがチームチームにとってよいモデルになる必要がある

──今回のワールドカップで得たものと、それをイーグルスでどのように活かしていきたいか、今のクリエル選手の考えを聞かせてください。

「得たものはたくさんあります。マインドセット(心構え)もそうですし、一日一日を大事にしながらしっかり準備をしていくこともそうです。そして一人ひとりの選手がチームのためにプレーすることが非常に重要ですし、それぞれがチームにとってよいモデルになる必要があります。そして言葉を発すること以上にしっかり行動して背中を見せることが大事だと考えています」

──先ほど「信じる」という言葉がありましたが、イーグルスの新たなチームスローガンは「MASTER OUR BELIEF」です。重なる部分があるのではないでしょうか。

「はい。ただ、単に信じるということだけではなく、自分たちを信じながらそれをしっかりとコントロールしていく、ということだと私は理解しています。必要なプロセスを踏みながら信じ切ること、そして繰り返しになりますが言葉だけではなく体で、行動でそれを実践していくことです。それができれば素晴らしい結果につながるだろうと考えています」

──昨シーズン初めて3位になったイーグルスは、その上を目指す新たなシーズンを迎えます。初の決勝進出、そして初優勝に向けての意気込みをお願いします。

「昨シーズン3位で終わって、今シーズン優勝を目指さない選手は『WINNERS MINDSET』を持っている人間とは言えません。当然目指すのはそこです。ただ我々が今見るべきなのは12月10日の開幕戦、埼玉ワイルドナイツ戦です。まず開幕で勝って、またそこから1試合1試合着実に勝利を重ねていくことが大事です。

 リーグワンは本当に競争の激しいリーグになっていますので、あまり先のことを考え過ぎず一つずつ確実に勝っていくこと、そしてその次へ、という形で考えていけば自分たちの目標に到達できるのではないかと私は考えています」

──その開幕戦、クリエル選手はまだ合流して間もないですが、出場はできそうでしょうか?

「もちろん! もちろんです。プレシーズンマッチ(11月25日のリコーブラックラムズ東京戦)にも出たいと思っていたくらいです。イーグルスの赤と黒のジャージを着て試合に出るのはとても栄誉あることですから、開幕戦で戦う準備はしっかりできています」

──今シーズンも南アフリカ代表のチームメイトたちと、そしてワールドカップの決勝で対戦したニュージーランド代表の選手たちと対戦する機会がたくさんあります。やはり楽しみですか?

「はい、本当に楽しみです。今は世界中からトップ選手がリーグワンに来ていて、世界的に見ても最も競争の激しいリーグの一つではないかと思っています。毎週毎週タフな相手と試合をするからこそ自分のベストのパフォーマンスが引き出せる、そんな戦いでもあります。再びその舞台に立てるのが楽しみですし、今から喜びを感じています」


南アフリカ国民を代表として戦うことがいかに特別なことであるか。そして、イーグルスで得た経験も活かしながら手にしたワールドカップの優勝の味がいかに格別なものであったか。クリエル選手の熱弁からひしひしと伝わってきた。

イーグルスの一員として戦うことにも栄誉を感じながら戦い、何物にも代え難い経験を存分に活かすシーズンが始まろうとしている。準備万端と断言するクリエル選手が再び横浜で、大分で、そして日本各地で躍動する。

(インタビュー:齋藤 龍太郎)

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