日本代表のいる環境で切磋琢磨し『追いつけ、追い越せ』で取り組む
一度はトライアウトの形で門を叩いたものの、実現しなかったイーグルス入り。しかしリーグワン ディビジョン2の豊田自動織機シャトルズ愛知でプロップ(PR)として腕を磨いてきた南友紀選手は、このほど満を持して横浜キヤノンイーグルスへの移籍を実現させた。
まもなく31歳を迎えるベテランだが、成長への意欲は人一倍強く、レベルの高いポジション争いに身を投じている。HO庭井祐輔選手、FL嶋田直人選手といった旧知の仲のプレイヤーとともに日々切磋琢磨し、イーグルスのラグビーへの順応を進めている最中だ。
イーグルス1年目にかける思い、そしてラグビーを始めるきっかけとなった兄・祐貴さん、女子日本代表のキャプテンを務めた妹・早紀さんの話も含め、南選手に話を聞いた。
■セットプレーとワークレートを高めることが使命
──9月に入ってから全体練習が始まりましたが、移籍した南選手はもう少し早くトレーニングを始めていたのでしょうか。
「そうですね。8月からスタートしていました。全体練習が始まってからまだ2週間ぐらいですが(取材日時点)、日々の練習が成長につながっていると感じています。沢木敬介監督からはセットプレーとワークレート(仕事量)を高めるように、という話をしていただきました。イーグルスのラグビーは頭を使うので、ナレッジやゲーム理解を高めていく必要がある、という話もありました」
──やはり試合形式の練習などでもナレッジの必要性を感じますか?
「そうですね。気の利いたプレーも必要ですし、もともとイーグルスに備わっているラグビーを理解して身につけていくことも求められています」
──6月に移籍が正式発表されましたが、移籍を決断した理由をお願いします。
「今年31歳になり、ラグビーではベテランの域に入っていきます。そこであらためてイチからやっていきたい、そしてさらにステップアップしてキャリアを築いていきたいと思い、自分を高めるためにはどのチームでラグビーを続けるか考えていた時に(今回の移籍の)話があり、成長できると考えてイーグルスにやって来ました。
最初はJR九州に就職して11ヶ月で辞めたのですが、その時に3ヶ月間ニュージーランドに留学して、帰ってきたタイミングで、キヤノンと近鉄と豊田自動織機のトライアウトを受けたんです。その結果キヤノンには受からず、近鉄と豊田自動織機には受かり、まだ当時はトップリーグに属していた豊田自動織機に入りました。そして今回、縁があってイーグルスに入ることになりました。
5年間プレーした豊田自動織機でもそのまま契約は続いたでしょうし(所属し続けていれば)気持ちとしても楽だったと思いますが、このままでは成長がないなと思いました。新しいチームで、それも沢木監督のもとでプレーし続ければ成長できるのではないか、そう考えての移籍です」
──イーグルスでもともと交流があった選手、知り合いだった選手はいますか?
「HO庭井祐輔選手とFL嶋田直人選手は立命館大学の先輩なので、なじみやすい環境でした。また、同時に移籍してきた>FL古川聖人選手は大学の後輩で、当時は4回生と1回生の関係です」
■スクラムの安定に必要なのは再現性を高くすること
──移籍前、イーグルスに対してはどんな印象を持っていましたか?
「チーム全体でハードワークする、そんなチームだと感じていました。スクラムについても昨シーズンから名嘉翔伍コーチが入り、さらにこだわって取り組んでいるので、自分のアピールポイントである『安定したスクラムを組む』という点をさらに高められると思っています。
同じPRには日本代表の岡部崇人選手もいますが、そのような環境の中で切磋琢磨して『追いつけ、追い越せ』の気持ちでやっていきたいです」
──持ち味である安定したスクラムを組むために意識していることはありますか?
「やはりルーティンを含め、再現性を高くすることです。練習でもセット一つをとっても、毎回同じ組み方をするよう意識しています。相手がいろいろな組み方をしてくることもありますが、それに左右されない自分の組み方を持つことが大事です。
もちろん味方のフロントローの選手が代わった時は(同じ組み方をするために)僕がイーグルスのスクラムにアジャストしていかないといけないので、今はそれに慣れていこうとしているフェーズです」
──相手がどんなスクラムを組んでくるかによって自分たちのスクラムも微調整していくものなのか、それともあくまで自分たちのスクラムを組むことが最優先なのか、南選手の考えはどちらに近いですか?
「基本的には後者ですね。もちろん相手への対応はしていきますし、試合中に変えていくことはありますが、あくまでそれは自分たちのベースがあった上でのことです」
──実際、イーグルスのスクラム練習についてはどのように感じていますか?
「スクラムに入るまでの間に名嘉コーチが一人ひとりの背中の使い方を、またその前後では首のトレーニングを指導してくれています。今日も朝のミーティング終了後、練習に入る前にしっかり首のトレーニングをして、全体練習が終わった後にも背中のトレーニングをしました」
■ターゲットは開幕戦出場
──ディビジョン1のチームでプレーするのは初めてということになりますが、練習やチームの雰囲気などこれまでと何か違いを感じるところがありますか?
「オフの日でもトレーニングしている選手がいますね。それも結構な数の選手が集まっています。自分もプロ選手としてこれまでとは変わらずオフからトレーニングを続けていますが、フロントローとして体を大きくすること以上に、走り込んでフィットネスを落とさないように取り組んでいるところです」
──イーグルスは2シーズン連続でプレーオフに進出しているチームですが、その中で南選手が23人のメンバーに入るためには何が必要だと考えていますか?
「まずは沢木監督からも話があったセットプレーとワークレートですね。そもそもPRを始めたのは豊田自動織機に入ってからです。大学時代にCTBやFL、HOを経験して、PRとしてはまだ6年目なので、まずは腰や首のケガがないようにすることを第一に、引き続き開幕戦出場をターゲットにしていきたいです」
──バックローやCTBの経験もあるということは、ボールキャリーにも自信はあるのでしょうか?
「大学までは自信を持ってボールキャリーしていましたが、社会人になってからはやはりスクラムがメインです。あとはワークレート(を活かしたプレー)やサポートに徹しています」
──これまでFWからBKまで幅広くプレーしてきた南選手はお兄様の影響でラグビーを始めたそうですね。
「2歳年上の兄の祐貴は関西学院大学のHO兼右PRで、ラグビーは大学までしかやっていませんが、当時は岡部選手と一緒にプレーしていました。僕が6歳でラグビーを始めたのはすでに兄がやっていたことがきっかけではありますが鮮明な記憶があるわけではなく、流れで始めたイメージです」
──今でも兄弟でラグビーのお話はするのでしょうか?
「全然しませんね。たぶん見てくれてもいないと思います(笑)。ただ、両親は見てくれていて、いろいろなことを言ってくれます」
──サクラフィフティーン(15人制女子日本代表)のキャプテンを務め、昨年現役を引退された妹のPR南早紀さんとは何か話をされましたか?
「妹ともラグビーの話は全くしません。ただ、1番(左PR)と3番(右PR)の両方を組んでいたので、そこはすごいなと思います。HO庭井さんが言うには、妹の『(スクラムの)姿勢がめっちゃよかった』そうです(笑)」
──ぜひご両親、ご兄妹にイーグルスで活躍する姿を見せていただきたいですが、最後に、今シーズンのチームスローガンである「PLUS ONE」と関連して、南選手が一つ積み上げたいものを教えてください。
「繰り返しになりますが、やはりセットプレーとワークレートですね。PRとしてそこに尽きると思います」
南選手が幾度も繰り返したのは、自身のアピールポイントであり、沢木監督からもさらなる上積みを命じられたセットプレーとワークレートだ。この成長なしには開幕戦で1番、または17番を背負うことはできない。
かつて関西大学リーグで相見えた岡部選手をはじめとするルースヘッドPRのライバルに「追いつき、追い越す」。それが南選手自身の、そしてイーグルスの成長につながっていくはずだ。
(取材・文/齋藤龍太郎)