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2024.10.13
INTERVIEW

パウリアシ・タウモエペアウ アシスタントコーチ インタビュー

ラインアウト成功率を1%上げるには一貫性が必要

2シーズン連続でプレーオフトーナメント進出を果たし、今度こそ初の決勝の舞台、そして悲願の初優勝を掴み取るべく新たなシーズンを迎えた横浜キヤノンイーグルスに、FWをさらに鍛え上げるべく新たなコーチがオーストラリアからやってきた。

パウリアシ・タウモエペアウ アシスタントコーチ。スーパーラグビーの名門、ワラターズで3シーズンにわたりアシスタントコーチを務めた実績を持つ指導者だ。イーグルスではラインアウトやモールの精度をさらに上げることがタウモエペアウ コーチに課せられた仕事となっている。

昨シーズンはリーグワンでラインアウト成功率が最も高かったイーグルスのFWをさらなる高みへ導こうとしている、新任コーチに話を聞いた。


■選手がエンジョイし全員がつながることが大事

──今シーズン、イーグルスのアシスタントコーチとして新たなスタートを切りました。

「8月13日に来日し、6日後の19日からコーチングを始めました。チームが私に求めているのはラインアウトの改善です。チームは昨シーズンの時点でラインアウト成功率1位(90.2%)をマークしていますので、ここからさらに上げるのはかなりタフな要求です。それでも成功率を1%上げる必要があり、そのためには一貫性が必要です。加えてモールの強化についても明確に要求されています」

──担当は主にラインアウトとモール、ということですね。

「はい。FWは他のコーチとお互いに助け合いながら進めていくことが大事だと思っています。例えばディフェンスはシージェイ・ファンデル・リンデコーチに、アタックはエドワード・ロビンソン コーチや沢木敬介監督に、それぞれ助言できることがあればしていきたいと考えています。自分も学んでいるところなので、学びながらできる限り手助けしていきたいですね。実際、名嘉翔伍コーチと共同で取り組んでいることもあるので、すごくやりがいを感じています」

──昨シーズンのイーグルスの映像を見て感じたことがあればお願いします。

「まず感じたのは強烈な戦力が揃っていることです。また、ラインアウトに関してはLOマシュー・フィリップ選手がうまくリードしていたのが印象的でした。また、モールについてはシーズン序盤こそ苦戦していましたが、中盤以降はモールでトライを獲り始め、そこからどんどん進化していきました。ですから、このチームはシーズンが始まってからもいくらでも成長できる、と考えています」

──コーチングするうえで大切にしているポリシーをお教えください。

「コーチングに関してはシンプルなことをしっかりやる、ということに尽きますが、まずは選手たちにエンジョイしてもらうこと、全員がつながることを大事にし、コーチングの前提に据えています。
そして、今回は私が日本にやってきたので、日本の文化をしっかりとリスペクトすること、そして自分も日本人のように日本で過ごし環境に適応していくことを大事にしています。周りを自分流に合わせるように仕向けるのではなく自分が日本に合わせていく、ということです。
そのためにもチームに対して『早く日本へ行きたい』『早くみんなとつながりを持ちたい』とリクエストしたことで、(全体練習開始の3週間ほど前にあたる)8月13日の来日が実現しました」

■日本人は相手へのリスペクトやマナー、礼儀正しさが際立っている

──実際、タウモエペアウコーチの日本の文化や食事への順応はいかがでしょうか?

「食べ物が美味しすぎるので食べ過ぎないように注意しないといけません(笑)。また、これは選手にも言おうと思っているのですが、日本の何がすごいか、日本の何に魅了されているかというと、日本人はその特性である相手へのリスペクトやマナー、礼儀正しさが際立っているということです。それが素晴らしいということを世界に伝え、感じてもらいたいと考えています。リスペクトやマナーがあれば世の中はうまく回る、ということを日本は身をもって示しています。
また、日本人は非常に勤勉で、練習で『ハードワークしろ』などと言わずともやってくれることにも感銘を受けています。私の家族、3人の子どもたちにも早く日本に来てもらって、早くそれを感じてほしいと思っています」

──日本へ行く決断は難しくはなかった、ということですね。

「そこまで難しくは感じませんでしたが、誰もいない家に帰るのはもちろん寂しいですし、家族が恋しいです。それでもこの環境、このチームで働ける機会をもらえたので、そこまで苦には感じていません。それに、私は学びに来ています。こうして沢木敬介監督のもとで働けることにありがたみを感じています」

──実際、沢木監督のコーチングを間近で見て、どのように感じていますか?

「ものすごく感銘を受けています。彼のコーチング、組織を動かす方法などを見ていると、彼のためにがんばりたい、いい仕事をしたい、という気持ちになります。そして彼の持っているスタンダード、具体的にはハードワークする、シンプルなことをしっかりやる、といったスタンダードは私の考え方にも通ずるところがあり、共感できるところです。
もちろん選手への要求は厳しいのですが、選手たちもしっかりそれに応えることでリスペクトを示しています。厳しくしながらもリスペクトを得られるコーチはそう多くはありません。私も沢木監督との仕事に大きなやりがいを感じています。彼に求められていることも、彼がどこを見ているかもわかっているので、いいコミュニケーションがとれていると感じています」

■すべてにおいて「PLUS ONE」が求められる

──ご出身はオーストラリアのどこでしょうか?

「オートリ―(シドニー近郊)という街で生まれました。 両親はトンガ人で、私はオーストラリア人ですが、トンガというルーツにも、そしてオーストラリアにも誇りを持っています。 でも今は日本人です(笑)」

──タウモエペアウ コーチがラグビーを始めたきっかけを聞かせてください。

「ラグビーがある環境で育ってきたので、必然的にラグビーの世界に入っていきました。特に家族の影響が大きく、父がラグビーを通して私に人生を教えてくれました。そしてラグビーを続ける中でもいいチーム、いいコーチに恵まれて、今回こうして日本に来るに至りました」

──プレイヤーとしてのキャリアについてもお願いします。

「ランとタックルが好きなNO.8でした。6歳の頃に『ワラビーズに入りたい』という思いを抱き、シンプルなことをしっかりやってミスを極力なくすよう父に言われて実行していました。フィットネスもチームで一番になることを目指していましたが、残念ながらケガに悩まされ続けました。もしケガがなくてもトップ選手にはなれなかったかもしれませんが、いずれにしてもそのような形で選手としてのキャリアを終えることになりました」

──今でもNO.8というポジションへの思い入れは強いのでしょうか?

「はい。どうしてわかったんですか?(笑)
NO.8は本当に特別なポジションだと思っています。守護神であり、リーダーであり、先頭に立って引っ張っていかないといけない選手です。ですから『8』は聖なる番号だと思っていますし、そのジャージーを着られるのは名誉あることです。コーチングしている時にはNO.8の選手にはそのような要素を実際に表に出して、チームに貢献するようにとプレッシャーをかけています」

──FWコーチとして、選手時代からラインアウトやモールなどへのこだわりはあったのでしょうか?

「現役当時はそこまで重要視されておらず、ディテールへのこだわりもあまりないプレーでした。しかし今はラグビーが発展し、勝つうえで精度高く遂行する必要があるプレーになりました。現在はそのスペシャリストのコーチが欠かせない時代です」

──コーチングを始めたのはどのチームでしょうか?

「2014年からシュートシールド(オーストラリア・ニューサウスウェールズ州の最高峰リーグ)のイースタンサバ―ブスでコーチングを始めました。そのU20やファーストグレードのチームを指導した後、ワラターズで3年間アシスタントコーチを務めました」

──これまでの経験をフルに活かすシーズンとなりますが、そのスローガンの「PLUS ONE」は、ラインアウト成功率を1%上げるという先ほどの話とリンクしている面があると思います。

「そのとおりです。ラインアウトはもちろん、モールにもモールディフェンスにも言えることです。ラインアウトディフェンスでも相手にクリーンボールを与えないようにする必要がありますし、すべてにおいて『PLUS ONE』が求められます。
沢木監督はチームに何が必要なのかよく見極めていたと思います。(プレーオフトーナメントに進出した)過去2シーズンからチーム状態をさらに上げるのは難しいことですが、まさしくイーグルスに必要なことです。私がこれまでハードワークして積み上げてきたものから『PLUS ONE』をさせてもらえることは光栄であり、名誉なことだと思っています」


選手としてのキャリアは決して華々しいものではなかったかもしれないが、コーチとしての道を歩み、過去の経験を活かしつつ学び続け、ついには海を渡ってイーグルスの指導者として日々邁進している。

ラグビーにおいてトライに直結し得るラインアウトやモールといった重要なプレーの精度を1%、あるいはそれ以上押し上げることがタウモエペアウ コーチにとっての「PLUS ONE」だ。マイボールラインアウトからクリーンなボールが出る瞬間に、そしてモールで押し切りトライを獲る瞬間に、是非注目していただきたい。

(取材・文/齋藤龍太郎)

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