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2024.10.14
INTERVIEW

エドワード・ロビンソン アシスタントコーチ インタビュー

根底には「心から試合が好きだ。コーチングが大好きだ」という心理がある

ラグビーファンを虜にするアグレッシブかつスピードのあるアタックこそが、横浜キヤノンイーグルスの真骨頂だ。今シーズン、そんなアタックにさらに磨きをかけるべく、イングランド代表でコーチを務めた経験を持つエドワード・ロビンソン氏が新たにアシスタントコーチに就任した。

現在は日本代表を率いているエディー・ジョーンズ ヘッドコーチがイングランドの指揮官だった時代に、そのアタック&スキルコーチとして母国イングランドの強化に注力したロビンソン コーチ。彼のコーチング哲学や根底にある思いを聞いた。


■試合に直結するようなシチュエーションを作る

──昨シーズンは静岡ブルーレヴズでコーチングされていました。

「はい。その時から敬介さん(沢木敬介監督)とは少しコネクションがあり、今シーズンはイーグルスとの契約に至りました。チームの設備、環境、選手のスタンダードが私の目には非常に魅力的に映り、ここでコーチングしたいと決断しました」

──肩書きとしてはアシスタントコーチですが、担当分野としてはBKコーチ、アタックコーチということになるのでしょうか?

「そうですね。まず、選手たちのスキルレベルの向上と、その一貫性を上げていきたいと考えています。そのためにもゲーム形式で選手たちにプレッシャーをかけて、スタンダードの押し上げを遂行しています。そうすることで彼らのスキルも自然と上がっていくはずですので、日々取り組んでいるところです。

具体的には、例えばゲームのスピードやバリエーション、また時間を与えたり与えなかったりと、すべて試合に直結するようなシチュエーションを作ってデシジョンメイキング(意思決定)させるようにしています」

──ブルーレヴズ時代、イーグルスに対してはどのような印象を持っていましたか?

「思い出すのは大分での試合です(3月9日の昨シーズン第9節。イーグルス34-17ブルーレヴズ)。イーグルスはホストゲームで、ファンにとっても特別な一戦だったと思いますし、私もそういう雰囲気を感じていました。そしてイーグルスのプレーは非常に速く、魅力的で、エキサイティングなものでした。チームとしてプレーを遂行していくことによってブルーレヴズのセットピースが止められた、そんな印象を受けた試合でした」

──ブルーレヴズがやりたかったことはできたのでしょうか?

「両チームの力が拮抗していた試合で、ハーフタイムの時点では接戦でした(イーグルス12-5ブルーレヴズ)。ブルーレヴズもある程度はボールキープできていたのですが、最後の20分ぐらいでイーグルスが攻めてきて、それによりブルーレヴズとしてやりたかったことが全然できなくなってしまいました」

──この試合も含め、リーグワンのレベルについてはどのように感じていますか?

「リーグワンのラグビーはテンポが速く、スキルもあり、どんどん展開していきます。それは今まさに変わろうとしているイングランドのラグビーと似ていて、ボール運びの面ではイングランドを上回ろうとしています。

ただし今のリーグワンには、ラグビーの理解度を上げていくことが必要です。それによってリーグワンから日本代表への底上げがなされていき、さらにワールドクラスのラグビーになっていくだろうと考えています。

イングランドのラグビーもかつてはディフェンス寄りだったセットプレーが今やアタック志向になっていますし、現在リーグワンで行われているラグビーと似ていると感じています」

──ロビンソン コーチはエディー・ジョーンズ ヘッドコーチ(現日本代表ヘッドコーチ)時代にイングランド代表のアシスタントコーチをしていました。

「エディーさんから学んだのは、コーチとしてどのようにコーチングに携わるか、という姿勢です。コーチングのエキスパートとしてその術を知っていましたので、当時はそういうところを学びました」

■コーチングのスキルをベストのところまで持っていく

──コーチングキャリアを始めた当時のことを聞かせてください。

「初めはセカンドディビジョンにあたるRFUチャンピオンシップのチームでコーチングを始めました。その後はジャージー・レッズでコーチを務め、イングランド代表のコーチへとキャリアがつながっていきました」

──今シーズン同時にイーグルスに加入したUBKブレンダン・オーウェン選手をジャージー・レッズで指導されたそうですね。

「そのとおりです。私がイーグルスのコーチになるとともにブレンダンも選手としてイーグルスに入ることになり、再び一緒になりました。

ブレンダンは1%でも向上していきたいという姿勢でラグビーに取り組んでおり、もっともっと向上したいという意欲の持ち主です。そういう選手を指導するのはコーチとして非常にやりがいがあります」

──ロビンソン コーチ自身もオーウェン選手と同じように常にコーチとして成長し続けてきたと感じていますか?

「私のビジョンは、エディーさんの言葉を借りればコーチとして『マスターになる』ことです。教師であれ、シェフであれ、どんな職業でもベストになることに価値がある、という考え方です。ですからコーチングのスキルをベストのところまで持っていくことを目指しています。

その根底には『心から試合が好きだ。コーチングが大好きだ』という私自身の心理があります。その揺るがない思いが自分の向上心につながっています」

──大好きなコーチングを始める前の、選手としてのキャリアを聞かせてください。

「9番(SH)と10番(SO)の両方でプレーしていました。試合を全体的に、かつ戦術的に見る能力が潜在的にありました。19歳でケガをしてしまい現役を引退したのですが、心の中には選手としてプレーし続けたいという思いがありました。それがコーチング(へのモチベーション)につながったと思います。もちろんその時から『ラグビーが大好きだ』という思いが常にありました。

ケガをした当時は『もうラグビーができない』と落胆していました。ラグビーがものすごく好きなのにそこから離れなければならないのは、本当に耐え難いものでした。現実的に考えて教師になるための勉強をしていたのですが、やはりラグビーの情熱が衰えることはありませんでした」

■向上したい選手と私自身も向上する必要がある

──イーグルスでコーチングをするにあたり、沢木敬介監督からは何か注文などはあるのでしょうか?

「まずはスキルレベルを上げること、そしてゲーム理解度も上げることです。さらにラグビー自体の強度をもっともっと上げるように、とも言われています」

──BKを代表してプレーメーカーの2選手、SO田村優選手SO武藤ゆらぎ選手についてうかがいます。司令塔の両選手をどのように見ていますか?

「田村優選手は、状況を見てどのように試合を構築していくかを考える『ラグビー脳』がある選手です。特にフラットにアタックするのが非常にうまく、試合をコントロールしていく決断力に長けているのが特徴です。

武藤ゆらぎ選手は田村選手と比べて『ここを向上させないといけない』というポイントがあるのが課題と言えるでしょう。ただしスキルはありますので、田村選手からゲームコントロールを学んでもっと成長してほしいですね」

──開幕直前には南アフリカ代表のSHファフ・デクラーク選手ジェシー・クリエル選手が合流する見通しです。日本代表のCTB梶村祐介キャプテンもそうなりそうですが、彼らが加わるとどのような変化が起きるとお考えでしょうか?

「彼らが帰ってきて起きるのは変化ではなく、チームのスタンダードの向上だと考えています。ジェシーはワールドクラスの選手として代表で出場し続けており、ファフも南アフリカの9番を長く経験しています。カジ(梶村祐介選手)も含め、彼らのスキルを活かしてチームのスキルレベルをどんどん上げていく必要がありますが、彼らが戻るからチームが上がるのではなく、彼ら自身が向上したいという思い、姿勢がチームに影響をもたらすのです。

コーチとしてそれを手助けするためにも、私自身も向上する必要があり、そうしていくことでチームが優勝に近づいていくと考えています」

──最後に、シーズンスローガンの「PLUS ONE」についてですが、ロビンソン コーチはどのように感じていますか?

「とてもパワフルなスローガンだと思っています。我々が改善していくためには常に上乗せが必要で、正しいことをやり続けないといけません。そのためにはチームとしても個人としても向上していくという意識が必要で、いかなる瞬間もその意識を欠かさずにいる必要があります」


ロビンソン コーチの指導者としての根底にあるのは「ラグビー愛」だ。選手だった時代も、ケガで引退を余儀なくされ打ちひしがれた時も、それが潰えることはなかった。そしてその後のコーチングキャリアにおいても強いラグビー愛が原動力であり続けている。

選手の成長を手助けしつつ、自らもコーチとして常に向上していく。悲願の初優勝のためには選手のみならず、コーチングスタッフの成長も欠かせない。それがロビンソン コーチの哲学だ。

(取材・文/齋藤龍太郎)

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