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2025.10.01
INTERVIEW

レオン・マクドナルド ヘッドコーチ インタビュー

プライドを持って観戦できるチームに

世界を舞台に手腕を振るってきた知将が、横浜キヤノンイーグルスの歴史を変えるべくニュージーランドからやってきた。

レオン・マクドナルド。元ニュージーランド代表(56キャップ)の名選手で、スーパーラグビー(現スーパーラグビー・パシフィック)ではクルセイダーズの黄金時代を築いたほか、日本のトップリーグ(現リーグワン)でも2チームでプレー。指導者としてはスーパーラグビーのブルーズを率いて2021年のトランス・タスマン(ニュージーランドとオーストラリアの全10チームによる対戦)で優勝に導き、名門再建という大仕事を成し遂げた。

ニュージーランドで選手として、また指導者として積み重ねてきた知見を、いかにしてイーグルスに生かそうと考えているのか。日本をよく知るマクドナルド新ヘッドコーチに話を聞いた。


■イーグルスのスコッドを見て『強いチームだ』とわくわくした

──まずはイーグルスでコーチングをスタートした今、感じていることからお願いします。

「とても楽しんでいます。イーグルスに入ったときのスタッフや選手の温かい歓迎が特に心に残っていますね。日本でのコーチングは今回が初めてですが、以前に日本でプレーしたことがあるので、日本のラグビースタイルはよく知っています」

──コーチとして複数のオファーがあったかと思いますが、イーグルスに決めたのはなぜでしょうか?

「理由はいくつかあるのですが、イーグルスのスコッドを見たときに『強いチームだ』と思ったこと、わくわくしたことがまず挙げられます。そして今回のオファー自体がまたとない機会であり、まだ優勝を果たしていないチームということで、それに向けてチャレンジしたいと考えました。それが大きな理由です。また、リーグワンにはよく知る優秀なコーチがいますので、まさにチャレンジし甲斐のある環境だと考えています」

──リーグワン2連覇の東芝ブレイブルーパス東京のトッド・ブラックアダー ヘッドコーチとは元チームメイトという間柄ですね。

「彼は私がクルセイダーズでプレーしていたときの最初のキャプテンであり、友達です。日本に着いてからも何回か話しましたし、また会えるのを楽しみにしています。また、ロビー・ディーンズ(埼玉パナソニックワイルドナイツ前監督。現エグゼクティブアドバイザー。元クルセイダーズ ヘッドコーチ)とも長い付き合いで、私が19歳のときに出会いました。コーチングスタイルの面で強く影響を受けています」

──日本でのコーチングは初めてですが、日本でのプレー経験はマクドナルド ヘッドコーチにとって大きなアドバンテージになるではないでしょうか?

「そう思っています。日本でプレーしたことで日本のプレイングスタイルを理解しました。また、日本のラグビーのマインドセットが"アタッキングファースト"であることも楽しみで、わくわくしているところです」

──ブルーズでもアタックを重視したコーチングを心掛けていたのでしょうか?

「はい。その点は強いプライドを持っています。アタッキングマインドを常に持っていたい、という気持ちが強いですね。ただ、ディフェンスが重要であることも十分理解しており、優勝を目指すうえではディフェンスの強化も不可欠です」

──そのブルーズでは2021年のスーパーラグビー トランス・タスマンで優勝しました。最も成功したと言えるシーズンだったのではないでしょうか?

「そうですね。あのシーズンの成功と、チームのカルチャーをしっかり作ることができたことについては誇りに思っています。(2023年に)私がヘッドコーチを退任した翌年(2024年)、ブルーズはスーパーラグビー パシフィックで優勝しましたが、その(ベースとなった)カルチャーを作り上げたという思いは持っています。イーグルスについても、在任中はもちろん私がチームを出ることになった後も作り上げたカルチャーを残すことが大事だと考えています」

■いいプレーをしているときはリーグでも一番強いチーム

──来日前にイーグルスの映像をチェックしたと思いますが、どんなチームだと感じましたか?

「試合を見た限りでは『すごくいいチームだ』と思いましたが、やはり80分間(高いパフォーマンスを)続けられていなかったとも感じました。いいプレーをしているときはリーグでも一番強いチームと言えるほどでした。ただ、それを続けられなかったので今後はしっかりと続けられるように していきたいと思っています」

──チームミーティングもそのような話をして、選手たちと意識を共有したのでしょうか?

「『どういうラグビーをしたいかクリアにする』、『よくない習慣をなくさないといけない』といったメッセージを伝えています。そして80分間いいラグビーをしっかりとできるように、といったことを選手には伝えています」

──選手たちと個別に話してみて得たもの、感じたことはありましたか?

「皆それぞれ、素晴らしいリアクションをしてくれています。まだ言語の壁はあると思いますが、コミュニケーションをとることを意識していて、関係性を強くするために日本語のレッスンに取り組んでいます。(選手時代に学んだ)日本語も少しずつですが思い出しています(笑)」

──そんなイーグルスを取り巻く他チーム、またリーグワン全体の印象はいかがですか?

「私が選手だった時代と比べると相当レベルが上がっています。当時も世界のスーパースターが来日していましたが、そういう選手はキャリアの終わりに日本に来ていました。今は時代が変わり、ジェシー(・クリエル)やファフ(・デクラーク)のように今現在ピークを迎えているスーパースターが日本でプレーしていますので、その変化は大きいと思います」

──その南アフリカ代表のスコッドに入っているSHファフ・デクラーク選手とCTBジェシー・クリエル選手にはどんなことを期待していますか?

「その2人とはすでに電話でも話していて、開幕からの活躍を楽しみにしています。彼らに求めているのは他の選手たちと同じようにハードワークし、チームのために効果的にプレーできるようにしっかりとサポートし合って、フィードバックも上げながらやり抜いてほしいと思っています」

──WTB石田吉平選手、PR祝原涼介選手も日本代表の活動で合流は先になりますが、印象はいかがでしょうか?

「まず吉平ですが、すごくいい選手ですね。いつもハードワークしています。彼のフットワークは(相手にとって)非常に危険で、一緒に仕事できるのが楽しみです。我々の仕事は吉平がしっかりとボールを持ってプレーできるようにコーチングしていくことだと認識しています。結果を変えられる選手であるWTBチェスリン・コルビ(東京サントリーサンゴリアス/南アフリカ代表)と似たタイプの選手なので、そんなプレーをしてくれればとてもハッピーです。祝原についても他のコーチ陣とよく話をしており、高いターゲットを求めることになる選手だと考えています」

──今、練習に参加している選手たちについては、実際に指導してみてどのように感じていますか?

「どの選手もかなりのポテンシャルがあると思っています。全員がハードワークして、よく学び、いい態度で臨んでいるので、コーチとしてもうれしい限りです」

■目標達成のためにはプレシーズンが非常に重要

──こうして選手と過ごすなかで、すでにキャプテンは決めたのでしょうか?

「キャプテンは我々コーチ陣と一緒になって戦ってもらう必要がありますが、そんなキャプテンを選ぶにはもっと選手たちのことを人として知っておかなければなりません。そのための時間が必要です。イーグルスにはいいリーダーがたくさんいますので、実際に選ぶとなると少し頭が痛いですが、プレシーズンが進んでいく過程で、適切なタイミングで発表するつもりです。非常に重要な決断になるからこそ、少し時間をかけています」

──今季のターゲットについても聞かせてください。

「もちろん開幕からどのチームも優勝を目指すことになると思います。ただ、12チームあるのが現実なので、このプレシーズンが非常に重要で、しっかりと準備しなければならない期間となります。今、選手は新しいゲームプランを学んでおり、ストラクチャーも昨シーズンから大きく変わっています。そういう新しい要素を生かしていきたいです」

──メインのプレーメーカーとしては、長年その重責を担ってきたSO田村優選手が健在で、SO武藤ゆらぎ選手がその背中を追いかけている状況です。彼らのパフォーマンスをどう感じていますか?

「彼らは一緒にアタックゲームでハードワークしており、2人とも非常にいい態度をとっていると感じています」

──元ブルーズのLOリアキマタギ・モリ選手とは在籍期間が重なっていませんが、接点はあったのでしょうか?

「たしかにブルーズでは一緒に過ごしていませんが、彼とはイーグルスから私にオファーがあった後に電話で話しました。彼の経験はもちろん、イーグルスのことについても聞かせてもらうなどサポートしてもらったので、感謝しています」

──マクドナルド ヘッドコーチも含めコーチ陣が新しくなり、新任コーチも多い今シーズンですが、各コーチとはどのように連係しているのでしょうか?

「コーチングチームも新しいメンバーになりましたが、彼らとはこの3、4週間にわたってかなり関係性を深めています。ハードワークして、チームがどこをターゲットとするのか。それをクリアにしていけていますので、今はうまくいっていると感じています」

──最後に、サポーターに向けてはどんなラグビーを見せ、それを通じてどんなことを伝えていきたいか聞かせてください。

「サポーターのみなさんがプライドを持ってイーグルスのラグビーを観戦できることですね。それが一番です」


コーチングにプライドを持ち、築き上げたカルチャーにもプライドを持つ。それが選手たち自身のプライドにつながり、サポーターもプライドを持って観戦できるようになる。
イーグルスのラグビーが再び誇り高きものになるサイクルが、まさに今、動き始めたところだ。

(取材・文/齋藤龍太郎)

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