「イーグルスで優勝するまで日本を離れない」
イーグルスで7シーズン目を戦い終えた、チーム初の外国出身選手のキャプテン、CTBジェシー・クリエル。南アフリカ代表としても長年プレーし続ける世界のトッププレーヤーだが、リーグワンの選手カテゴリーを超越したイーグルスの象徴と言える存在だ。
決していいことばかりではなく、むしろ苦労の多かったシーズンだったはずだが、インタビューに応じてくれたクリエル キャプテンの表情は明るく、来シーズンに向けて目を輝かせていた。
シーズンを終えて感じたこと、これから先の展望など、じっくりと話を聞いた。
(取材日/5月12日)
心の中では常にイーグルスのことを思っている
── 長いシーズン、大変お疲れ様でした。重圧のかかるシーズンだったと思いますが、戦いを終えた今の心境はいかがでしょうか?
「本当にタフなシーズンでした。開幕時は(リーグ戦で6位以内に入り)プレーオフトーナメントに進出することを目標にしていましたが、達成できませんでした。それでも非常に多くのことを学び、シーズン終盤はいい締めくくり方ができたと思っています。特にラスト4試合での3勝はいいフィニッシュだったと言えますし(※第15節から浦安D-Rocks、東芝ブレイブルーパス東京、三菱重工相模原ダイナボアーズに3連勝)、トップチームを相手にしても誇らしいスタイルのラグビーができました。もちろんそれを18試合連続で遂行し、プレーオフでも継続しなければならないと理解していますので、来シーズンにそれを実行に移すことを今から楽しみにしています」
── よりよいチームになるための成長の途中段階とも言えそうです。
「私はイーグルスの一員としてリーグワン優勝を目指しています。最後に勝てるチームを今まさにつくり上げているという自信がありますし、全員がそういうマインドセット(心構え)を持っています」
── イーグルスで初めてキャプテンに就任し、戦い抜いたシーズンでもありました。
「これまでとは違う、新たな経験でした。責任の重さも変わりましたが、シーズンを通して他のリーダー陣からしっかりとサポートしてもらいました。CTB 梶村祐介、SO 田村優、FL ビリー・ハーモン、HO 庭井祐輔。 彼らは過去にキャプテンを経験している素晴らしいリーダー陣です(※FLハーモンはハイランダーズの元キャプテン)。 彼らからの言葉だけではない本当の意味でのサポートに心から感謝しています。 そして、自分自身もリーダーとして成長できたと感じていますし、自信を持てるようになりました。 同時に、私にはキャプテンとしての伸び代がまだまだあると思っています」
── グラウンド以外でも常に彼らのサポートを受けていたわけですね。
「その通りです。週始めのロッカールームでの会話、リーダーミーティングなど、プレッシャーがかかる状況下でも常に会話して一緒に課題の解決策を探してきました。開幕6連敗は極めて厳しい状況でしたが、そういう時期にこそリーダー陣の素晴らしい人格を感じ、誇りに思いました」
── クリエル キャプテンは毎シーズン、11月の南アフリカ代表のテストマッチを終えてからすぐにイーグルスに合流するというハードなスケジュールを繰り返してきました。テストマッチを終えたばかりの今シーズンの初めもタフだったのではないでしょうか?
「そうだとも言えますし、そうではないとも言えます。私はプロフェッショナルのラグビープレーヤーとしてそれを7シーズン続けてきましたので慣れていますし、テストマッチ期間を終えてから一旦リセットし、フレッシュな状態でイーグルスに帰ってくることを毎年意識し実行しています。1年のうち11カ月ラグビーをし続ける生活を続けていますが、それは私が選んだ生き方です。そんな生活を心から愛しながら楽しんでいますし、それ自体が私のモチベーションになっています」
── 昨秋、イングランドのウェンブリースタジアムで南アフリカ代表と日本代表の試合があり、PR 祝原涼介選手とWTB 石田吉平選手との対戦が実現しました。クリエル選手のうれしそうな表情を見て、代表期間中も常にイーグルスへの思いがあるのではないかと感じました。
「そうですね。私が長くプレーしたのは(母国・南アフリカの)ブルズとイーグルスの2チームだけで、特にイーグルスは私の人生において最も特別で大切なチームです。毎日生きることをより楽しくしてくれる存在であり、その一員であることに誇りを持っています。ですから、スプリングボクス(南アフリカ代表)として戦っている最中も心の中では常にイーグルスのことを思っています。今シーズン、イーグルスで発揮できたパフォーマンスをスプリングボクスに持ち帰り、生かしていきたいと考えています」
様々な国のラグビー文化が交差している日本のラグビーを心から愛している
── 今シーズンは6勝12敗、勝ち点30、10位という結果でした。イーグルスとしてよかった点、よくなかった点をそれぞれお願いします。
「どのチームに対しても勝てる能力があることを示しましたが、一貫性の部分が足りていませんでした。毎週、一貫性をもって高いパフォーマンスを出すことがチームの改善につながります。たとえば、ラグビーワールドカップで勝つためには強力なセットピースが必要不可欠です。もちろんラグビーは何もかもがすべてうまくいくとは限りませんが、スプリングボクスのように安定したセットピースが備わっていればそれがチームの強みになります。イーグルスもセットピースが機能するとどんな相手に対しても勝てる強いチームになります。一貫性をもって強い土台を築けばどんなチームにも勝てるようになるのです。それが楽しみで仕方ありません」
── 実際、第12節では首位だったコベルコ神戸スティーラーズから勝利を収めました(○38-29)。
「準備してきたイメージをそのまま反映できた試合でした。80分間を通して自分たちのプレーをし続けて、相手に強くプレッシャーをかけて簡単にチャンスを与えず、高いパフォーマンスを見せ続けることができました。あの試合のイメージを毎週持ち続けることが来シーズンの目標です」
── 第16節はリーグワン2連覇を果たしたチャンピオンチーム、東芝ブレイブルーパス東京に50-26で快勝しました。
「スクラムからトライを獲ることができた、誇らしい試合でした。スクラムが土台となって、それを起点に僕らの武器であるいいアタックにつなげることができました。アタックだけでなくディフェンスにおけるコネクション(つながり)も最高でしたね。この試合はもちろんですが、翌週の第17節の三菱重工相模原ダイナボアーズ戦(○31-22)も我々のシーズンの結果を左右する極めて大事な試合であり、かなりのプレッシャーがかかる状況でしたが、いいパフォーマンスをして勝てたことを誇りに思っています。 その週は決勝の準備のようなトレーニングをしていました。同時に『このプレッシャーを楽しもう』というメッセージを全員に送りました。我々はそのような緊張感のある大一番で戦うためにラグビーをやっているようなものです。試合中のみんなの表情を見ても楽しんでいる様子がうかがえましたし、全員が全員のために、そしてサポーターのためにプレーしているなと感じました」
── 他にも印象的だった試合を振り返っていただけますか?
「やはり今シーズン初勝利となった第7節のトヨタヴェルブリッツ戦(○20-14)です。 それまで(開幕6連敗という)厳しい結果が続いていて、自信やモチベーションを失いかねない状況でした。 しかし、第4節の浦安D-Rocks戦(●22-28)、第6節のスティーラーズ戦(●32-38)など勝利のチャンスはたくさんありましたし、ヴェルブリッツ戦には(今シーズン初勝利や連敗ストップと言った)いろいろなものが懸かっていました。そういう試合に勝ってはい上がることができたことを誇りに思っています」
── 第16節のブレイブルーパス戦(8トライ)を筆頭にチームとして多くのトライを獲れるようになっていった一方で、全体的に失点の多さが目立ちました。
「特にシーズン序盤はディフェンスにおけるコネクションが不十分でした。練習からコネクションとコミュニケーションを意識して、全員が同じページを見る(意思統一をする)ようになったことでディフェンスはよくなり、その改善したディフェンスを通じて選手たちのサポーターへの思いを見せることができたと思っています。特にシーズン後半の勝った試合で見せたディフェンスがその証です。チームの立て直しにはかなり時間を要しましたが、シーズン終盤にかけて順調に修正が進んでいったと思います」
── マクドナルド ヘッドコーチは就任1シーズン目でした。彼にとっては久しぶりの日本で、言葉や環境など慣れないことも多かったのかもしれません。
「私も初めて来日した当時は、日本のラグビーに適応するのが非常に難しかったです。言語はもちろん、ラグビーに対する考え方もスタイルも異なります。そんな状況でも、今のコーチングスタッフは本当に素晴らしい仕事をしてくれました。コーチと選手のコネクションもシーズンが進むにつれてどんどんよくなっていきました。だからこそ来シーズンはもっといいパフォーマンスを出せる自信を持っています。(マクドナルド ヘッドコーチが主導する)ニュージーランドのラグビーは(南アフリカや日本とは)違うラグビーですが、選手たちにとって違う視点からラグビーを学べるのは素晴らしい機会だと言えます。様々な国のラグビー文化が交差している日本のラグビーを私は心から愛していますし、本当に特別なリーグだと感じています」
── 日本のラグビーから学ぶことも多いのでしょうか?
「もちろんです。スキルレベルが高く、テンポも速い日本のラグビースタイルが好きですからね。日本人選手、特にベテランの選手たちは実に賢くプレーしており、ラグビーを深く理解しています。私はそういう選手たちから学び続けたいですし、ラグビーの知識を増やしていきたいと考えています」
── イーグルスの近隣の他チームにもインターナショナルプレーヤーが数多く在籍しています。そういう選手たちとの交流も日本ならではと言えるのではないでしょうか?
「それもまた日本の素晴らしいところです。とても不思議なのですが、日本にいると国と国の壁がなくなるのです。世界のいろいろな選手たちとコネクションを持てるという意味でも日本は特別な場所です。スーパーラグビーでプレーしていたときは、他のチームの選手との交流はあまりなかったのですが、日本はもちろんニュージーランド、オーストラリア、フィジーなど多くの国の友達ができました。先日はFLサム・ケイン(東京サントリーサンゴリアス。元ニュージーランド代表キャプテン)と食事を楽しみ、SOバーナード・フォーリー(クボタスピアーズ船橋・東京ベイ。元オーストラリア代表)にも会いました。高いレベルで対戦している世界的な選手たちとつながりを持てるのは本当に特別なことです。この関係性はラグビーのキャリアが終わってもずっと続いていくでしょう。それもまた(日本で)ラグビーを続ける理由の一つになっています」
最高の状態で戻ってくることを約束する
── よかったこともそうでなかったことも含め、様々な出来事があった今シーズンの経験によってクリエル選手のラグビー観やラグビースタイルの幅がさらに広がったのではないでしょうか?
「まさにそう感じています。学ぶのを止めることは(選手としての)終わりを意味しているといつも自分に言い聞かせています。様々なことに対してオープンに取り組むマインドセットを持って、常に学んでいく必要があるのです。世界最高を目指すにはそれを継続しなければなりません。私はできる限り学び続けたいと考えています。FB 武藤航生のような大学を出たばかりの選手からも、その何も恐れないマインドセットなどを学んでいますし、私が学んだことを彼に伝えることもできるわけです。本当に誇らしい、いい選手です」
── 他にも、特に印象に残った若い選手がいればお願いします。
「まず、SH 土永旭ですね。 みんな知ってのとおり非常にポテンシャルの高い選手です。 そしてFB 普久原琉も印象的でした。 彼もチャンスをもらえれば素晴らしいパフォーマンスを見せてくれると思います。能力の高い若手は他にもたくさんいます。出場機会をもらえていない選手が多いのですが、そんな彼らがトレーニングで見せているパフォーマンスは本当に素晴らしいです。その点も来シーズンの好材料となるでしょう」
── 若手に限らずですが、公式戦に出られない選手たちの分も責任を背負ってプレーされているわけですね。
「もちろんです。ライザーズ(メンバー外の選手)が誇りに思ってもらえるパフォーマンスを見せたいといつも考えています。私も彼らへの思いが大きなモチベーションになっています」
── 今シーズンでチームを去る選手たちへの思いを聞かせてください。
「このような別れはラグビーの悲しい一面です。『ありがとう』という言葉だけでは到底足りません。一人ひとりが大きく貢献してくれました。移籍する選手もいれば、現役を退く選手もいます。しかしラグビーのキャリアが終わったとしても、いつまでも残り続ける特別な思い出をつくってくれたことに対して、チーム全員が誇りを持っています。離ればなれになっても気持ちはどこかでつながっています。7年前に一緒にプレーし、退団した選手も一生のチームメイトです」
── イーグルスで4シーズンをともに戦った南アフリカ代表のチームメイト、SH ファフ・デクラーク選手とは、より特別な関係性で結ばれていたと思います。
「本当に特別な時間でした。ファフとは彼が日本に来る前からスプリングボクスの仲間であり友達でしたが、イーグルスで一緒に過ごしたことで大親友になりました。彼は日本から離れることをすごく悲しんでいます。彼はそこまで感情を表に出すタイプではないのですが、イーグルスでの経験を二人で振り返っていたときに、初めて感傷的な姿を見たような気がします。彼はイーグルスだけでなく、日本のラグビーにとって大きな影響を与えたと思います。みんなファフのプレースタイルが大好きですし。多大な影響力を残して南アフリカに帰るので、私もみんなもそれを誇りに思っています。それでも......やっぱり寂しいですね。彼にとってもイーグルスは特別な場所だったので、またいつかイーグルスに遊びに来てほしいです」
── そんなイーグルスを去った選手たちの思いも背負って、プレーオフトーナメントの決勝まで勝ち進んで優勝したい、という思いはやはり強いですか?
「そうですね。私が初めてイーグルスと契約を結んだときから『優勝するまで日本を離れない』と言い続けてきました。絶対に横浜キヤノンイーグルスで優勝します。そう言えるだけの自信を持っています」
── 長いシーズンを戦い終えたクリエル選手ですが、すぐに南アフリカ代表の一員としてテストマッチに臨みます。まさにフル稼働ですが、その前に少し休んでリフレッシュする時間はありそうですか?
「結果的にプレーオフまで進めなかったぶん、2週間は休むことができます。この2週間は私にとって2カ月に相当するほど貴重です(笑)。そこでしっかりリフレッシュし、フィジカルトレーニングもハードにこなして、スプリングボクスの合宿に合流するころには自分のベストが出せるような状態に持っていきたいです。ですからオフであってもトレーニングを止めることはありません。そのような選手生活を楽しんでいます。キャリアを終えたときに後悔したくないので常にベストを尽くし、私のポジションで一番の選手になりたいです」
── そんなクリエル選手の姿勢は、イーグルスの他の選手たちにとっても刺激になっているはずです。
「みんなのマインドセットを変えるような刺激を与えることも私の役割の一つだと思っています。そして逆に、CTB 梶村祐介のように私のマインドセットを成長させてくれた選手もいます。彼は本当にハードなトレーニングを続けていて、試合でも高いワークレート(運動量)を見せ続けています。若い選手たちがそれを見れば彼らにも同じような習慣が生まれ、やがてそれが日常になります。周りに刺激を与えることはチームにとって重要なのです」
── 他の選手からの刺激も受けたからか、今シーズンのクリエル選手のパフォーマンスは一段と上がったように感じます。トライも8本とチーム2位の多さでした(※チーム1位はWTB ヴィリアメ・タカヤワの12トライ)。
「私自身はトライよりもトライアシストの方がワクワクするのです。ただ、年齢を重ねるにつれて足が速くなっていますので、トライでフィニッシュすることも意識していこうかなと考えています。キッペイ(WTB 石田吉平)のような鮮やかなトライを決めたいですね(笑)」
── 約半年に及ぶタフなテストマッチ期間を経て、今年の終盤にまたイーグルスに戻ってきます。あらためて来シーズンに向けての思いをお願いします。
「すでにワクワクしています。今シーズンのレビューをしっかりやって、選手一人ひとりが何を改善しないといけないのか明確にします。コーチもさらに向上し、私たちが何をするべきなのかをはっきりと提示してくれるでしょう。それが合わされば最高のチーム状態になるはずです」
── テストマッチは非常にハードでタフですが、クリエル選手が最高の状態でイーグルスに戻ってくることをサポーターのみなさまも期待していると思います。
「はい。そう確信していますし、約束します。私は軽い約束はしません。これからもイーグルスでプレーを続けると決断し『このチームで優勝する』と断言しましたので、何があってもその目標を達成したいと思っています」
── 最後にイーグルスのサポーターのみなさまへのメッセージをお願いします。
「今シーズンのような厳しい状況のなかでもいつもトレーニングや試合を見に来てくださるサポーターのみなさまには感謝の気持ちでいっぱいです。素晴らしいみなさまの存在にどれだけ勇気づけられたことでしょう。我々が少しだけ元気を失ったときにも多くのエナジーをいただきました。ニュージーランドやイングランドとのテストマッチでもイーグルスのサポーターが声をかけてくださり、衝撃を受けました。スプリングボクスの他のリーグワンプレーヤーに『ほら、スタンドのあそこにイーグルスのサポーターがいるでしょ』と興奮しながら自慢しています(笑)。世界を見渡しても間違いなく一番のサポーターです。この場をお借りしてあらためて感謝の気持ちを伝えたいです」
世界に名を轟かせてきたCTBジェシー・クリエルがなぜキャプテンに指名されたのか、あらためて尋ねなくても十分その理由がわかるインタビューだった。常に誠実で、前向きに未来を見据えて、決してハードワークを怠ることはなくチーム全員がリスペクトするプロラグビープレーヤーの手本。それがジェシー・クリエルなのだ。
南アフリカ代表として想像を絶するハードな半年間を経て、彼は最高の状態で再び日本に戻ってくる。その約束を破ることは絶対にない。彼の言葉の重みをあらためて感じたインタビューだった。
(インタビュー・文/齋藤龍太郎)